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【ハウス栽培】自動灌水装置はどう選ぶ? 種類別の特徴とかかる費用の目安

【ハウス栽培】自動灌水装置はどう選ぶ? 種類別の特徴とかかる費用の目安
出典 : Diyana Dimitrova / PIXTA(ピクスタ)

農作業の省力化のため、現在は作物に合わせたさまざまな自動灌水装置が提供されています。農業の規模拡大をめざすなら、自動灌水装置の導入も視野に入れる必要があるでしょう。この記事では自動灌水装置の導入方法や、導入した際のコストについて紹介します。

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農作業において、ほ場の規模がある程度大きくなると、すべてを人手でまかなうことは難しくなります。生育中の作物への灌水もその1つで、経営効率化のためには、自動灌水装置の導入を検討するという選択肢もあります。ここでは、自動灌水装置のしくみと選び方について解説します。

そもそもどんなシステム? 自動灌水装置のしくみと期待できる効果

ビニールハウスでの自動灌水

maricat / PIXTA(ピクスタ)

自動灌水装置を導入すると、潅水の作業負担が軽減されるだけでなく、ほかにもさまざまなメリットが生まれます。まずは自動灌水装置とはどのようなしくみなのか、そのメリットはどこにあるのか、具体的に見てみましょう。

ハウス栽培における自動灌水装置とは?

ほとんどの自動灌水装置は、大別して3つの部品で構成されています。以下、大まかにその役割を紹介します。

1)コントローラー

システム全体を制御するコントローラーは、タイマーにより電磁弁を開閉することで、自動で灌水作業を行う中枢部分です。通常の電源のほか、ソーラー電源のタイプもあり、雨水センサーを装備したものもあります。

2)配水ホース(配水管)

水源から給水して、スプリンクラーまで配水するホース(チューブ)と、直接灌水を行うホースがあります。内部の圧力を調整することで、常に一定量の灌水が可能です。

ハウス栽培 点滴ホースの設置

hiro nuku / PIXTA(ピクスタ)

3)スプリンクラー(散水装置)

栽培中の作物に直接散水する部分で、作物の種類によってスプリンクラーのタイプを使い分けることもあります。

イチゴのハウス栽培 スプリンクラー

nobmin / PIXTA(ピクスタ)

これらの部品を組み合わせて、ハウス全体の作物に対して均等に灌水するシステムが自動灌水装置です。大型のハウスでも、給配水ラインを複数設定してスプリンクラーの数を調整することで、ムラなく灌水することができます。

負担が減るだけじゃない! 自動灌水装置の導入で得られるメリット

自動灌水装置を導入すると、まずは灌水作業の負担が大幅に軽減されます。1度システムを設置すれば、コントローラーの指示どおりに灌水が行われるため、実質的に人の手による作業は必要ありません。

自動灌水装置のメリットはそれだけにとどまらず、作物の品質や収量を高めることにも貢献します。自動灌水装置を使うと、作物に最適な灌水量とタイミングがコントロールできるからです。さらに副次的な効果として、灌水量の制御により水道代も節約できるでしょう。

もう1つのメリットとしては、病害の発生抑制にも効果があることが挙げられます。自動灌水装置は、灌水のタイミングを制御でき、葉に直接水がかからないような調節も可能なので、過湿による病害を抑制することができます。

自動灌水装置にはどんな種類がある? 作物に合ったシステムの選び方

日射量は灌水量の目安となる

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

次に、自動灌水装置の種類と選び方を見てみましょう。作物に合わせたシステムのしくみと、各メーカーの具体的な製品を参考にしながら、導入するならどのタイプにするべきか検討してみてください。

灌水制御システムの種類とそれぞれのメリット・デメリット

自動灌水装置は灌水制御のしくみにより、主に「タイマー式」、「日射比例式」、「日射比例式×土壌水分制御」の3つに分けられます。以下にそれぞれの特徴とメリットをまとめました。

1)タイマー式

タイマー式の自動灌水装置は、タイマー一体型のコントローラーにより、散水時刻や散水の間隔などが細かく設定でき、必要なタイミングで必要な量の灌水を正確に行うことができます。ただし、日射量などの外的環境には自動では対応できません。

タイマー式はシステム構成がシンプルなので、設置と各種設定およびメンテナンスが容易なことも大きなメリットです。代表的な製品には、OATアグリオ株式会社の「養液土耕栽培システム」があります。

OATアグリオ株式会社のホームページはこちら
養液土耕栽培システム TTシリーズのページはこちら

2)日射比例式

蒸散量が減少したときに起きる溢液現象

shima-risu / PIXTA(ピクスタ)

日射量によって作物の蒸散量は変化します。蒸散が盛んになったときに灌水が行われないと乾燥状態になり、作物は気孔を閉じ蒸散量を減らそうとします。すると二酸化炭素が取り込めないため結果的に光合成のスピードが落ち生育や収量に影響がでてしまいます。

そこで考えられたのが、日射量に連動して灌水する「日射比例式」の自動灌水装置です。このシステムは日射量に応じて自動で灌水でき、日射量や灌水積算時間などのデータ収集も可能です。

株式会社ニッポーの「日射比例式潅水コントローラ 潅水NAVI」は、日射比例式の自動灌水にプラスして、タイマー式でのコントロールと、日の出・日の入り連動機能で灌水することもできます。

株式会社ニッポーのホームページはこちら
「日射比例式潅水コントローラ 潅水NAVI」の製品ページはこちら

3)日射比例式×土壌水分制御

日射比例式では、日射量と作物の蒸散量がほぼ比例することを前提に灌水量をコントロールしています。しかし、作物の実際の吸水量やこれによって変化する土壌の水分量から灌水量を加減するわけではありません。

そこで、日射量と土壌水分量の両方をみてシステム制御するのが、日射比例式×土壌水分制御タイプの自動灌水装置です。センサーなどのシステムが複雑になることから、コストは高めです。

株式会社ルートレック・ネットワークスの「AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ」は、センサーにより日射量と土壌水分量を検知、作物からの蒸散量を予測して自動灌水することができます。

株式会社ルートレック・ネットワークスのホームページはこちら
「AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ」のページはこちら

灌水方法による違いと、適した作物の例

自動灌水装置には3種類の灌水方法があります。

1つめは「地表灌水」で、作物が栽培される畝間にホースを設置して、地表面に均一に灌水する方法です。トマトやきゅうりなど、代表的なハウス栽培野菜に適しています。

ナスの地表灌水

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

2つめは「点滴灌水」で、やはり畝間にホースを設置して、そこから点滴のように少量ずつ灌水する方法です。イチゴや果樹の栽培で多く用いられています。

イチゴの点滴灌水

Gorlovkv / PIXTA(ピクスタ)

3つめは「頭上灌水」で、作物の上から全体的に灌水する方法です。ハウス内の湿度を上げたり、気温を下げたりする目的でも使用されます。葉菜類の栽培や育苗ハウスなどに適しています。

リーフレタスの頭上灌水

songdech kothmongkol / PIXTA(ピクスタ)

いくらかかる? 自動灌水装置の導入費用とランニングコストの目安

自動灌水装置の導入で、最も大きな課題はシステム全体での費用でしょう。果たしてどのくらいのコストがかかるのか、手作業による灌水とのコスト比較はどうなのか。ここでは費用全般について解説します。

自動灌水装置の導入にかかる費用の目安

タイマー式の標準的なシステムでは、50平方m程度の栽培面積で、初期投資費用は30万円前後です。面積が広くなれば、そのぶん初期投資も大きくなります。

その代わりにランニングコストは大幅にカットされ、灌水システムを提供している東邦レオ株式会社のシミュレーションによれば、1年程度で手作業による灌水作業のコストを下回るという結果が出ています。

出典:東邦レオ株式会社「自動灌水システム」

一方でAI潅水施肥ロボット「ゼロアグリ」のように、灌水システム以外に管理用のクラウドサービスが必要になる場合には、その構築費用に25万円、クラウド利用料も年間で12万円程度かかります。ただしリース契約という方法もあります。

出典:株式会社ルートレック・ネットワークス「ゼロアグリ料金プラン」

耐用年数とメンテナンスにかかる費用について

自動灌水装置の導入では、システムを維持するためのランニングコストも考慮しなければなりません。一般的な耐用年数は、ホースなどの消耗資材が5~10年といわれており、灌水システム全体の耐用年数は、税法上で7年間と決められています。

ただし、コントローラーやセンサーなどは故障する場合もあり、人為的ミスや災害による破損も考えられます。その反対に清掃や修繕を定期的に行うことで、税法上の耐用年数より長く使えることもあるでしょう。

導入コストを検討するときには、初期費用とランニングコストを正確に算出し、消耗資材や故障の場合の費用も考慮する必要があります。そのうえで手作業による灌水とのコスト比較を行い、費用面でのメリットが認められてから導入を決めたほうがよいでしょう。

自動灌水装置を設置した作付け前のビニールハウス

リュウ / PIXTA(ピクスタ)

灌水作業は、気候の変化やハウス内の環境に応じてきめ細かく行おうとすると負担が大きい仕事です。灌水が自動化できれば、大幅な省力化につながります。

さまざまなタイプの自動灌水装置が、新しい技術をもとに開発されているので、作物の特性や栽培環境との相性を考えあわせ、導入を検討されてはいかがでしょうか。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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