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販売戦略とブランディングで商品全体の価格を底上げする! ねぎびとカンパニーの利益が出るネギの売り方
出典 : ねぎびとカンパニーホームページ
  • 農業経営

販売戦略とブランディングで商品全体の価格を底上げする! ねぎびとカンパニーの利益が出るネギの売り方

日本一高い「モナリザ」というネギをご存知でしょうか? 1本1万円で販売されるこのネギを栽培しているのが「ねぎびとカンパニー」。販売単価を上げるためにどのようなことを実践してきたのか、お話を伺いました。

ねぎびとカンパニー株式会社 代表取締役 清水 寅(しみず つよし)さんプロフィール

ねぎびとカンパニー株式会社 代表取締役 清水寅さん

ねぎびとカンパニー株式会社 代表取締役 清水寅さん
出典:清水寅さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

全国展開していた消費者金融での営業や、系列企業での社長職を経たのち、妻の地元である山形で就農を決意。「元気がない山形の農業を自分が元気にする」と意気込み、ねぎびとカンパニーを立ち上げる。

1本1万円の贈答用ネギ『モナリザ』の販売や、全国への営業活動のほか、農業へのイメージを変えていくためのメディア露出も積極的に行っている。

ねぎびとカンパニー オフィシャルサイト
初代葱師 清水寅 オフィシャルサイト
Facebookページ 『清水寅(初代 葱師)』
清水寅さんの著書「なぜネギ1本が1万円で売れるのか?」(講談社+α新書)の案内はこちら(講談社BOOK倶楽部内)

儲からない構造をつきとめ、利益の出る農業を真剣に考える

栽培技術の進歩や農機の性能向上、流通システムの進化によって、消費者が鮮度のよい農産物を購入するためのハードルは年々低くなっています。鮮度がよくおいしい農産物をいつでも入手できるようになる裏には、農家や農業関連メーカー、流通業者の努力があります。

しかし、農家にとっては、栽培作物の種類にもよりますが、作物の収量や品質の向上が必ずしも利益に直結するとはいえないのが現状です。

独立行政法人農畜産業振興機構が発表した「野菜小売価格動向調査」によれば、令和2年3月末日の時点で白ネギの小売価格の全国平均は1kg当たり471円。平年比70%の価格となっています。

農家単体が大規模化しても、卸売単価が不安定では利益はでない

ねぎびとカンパニー株式会社代表取締役 清水 寅さん(以下役職・敬称略) 就農してまもない頃、JA職員に言われた「売り上げが400万上がれば生活ができるから十分」という言葉に大きなショックを受けました。

粗利ではなく、売り上げが400万で十分だというのです。そこから栽培にかかる費用や地代を引けば半分ほどしか残りません。

そこからさらに人件費を引けば、生活が立ち行かなくなってしまう。

そんな状況を回避するためには、栽培面積を増やして規模の効果によって利益を出すことが必然だろうと考えました。元々ブランディングにつなげるためにも、日本一の栽培面積を確保するつもりで動いていましたので。

しかし、栽培面積を広げて効率化しても、どれだけ品質のいいネギをたくさん栽培しても、必ず儲かるわけではない。

ネギが豊作になり供給量が増えれば、安い価格で競り落とされてしまうこともあるからです。

実際に卸売価格が暴落した年があり、儲けを出すためにはどうすればいいのかを、真剣に考える必要に迫られました。

新規就農者としては最短となる、就農2年目でのネギの作付面積日本一を達成

新規就農者としては最短となる、就農2年目でのネギの作付面積日本一を達成
出典:ねぎびとカンパニーオンラインショップ

地域として「まとまった量を安定出荷」できれば卸売単価は高くなる

農業で利益を出すため、清水さんは全国で販売されているネギの価格を調べました。すると、清水さんが農業を営む山形県天童市と、ネギの主要産地の一つとして数えられる青森県十和田市では1ケース当たりのネギの卸売価格に1.7倍の差があったのです。

清水 通常、まとめ買いをすると単価が安くなることのほうが多いでしょう。ではなぜ、1ケース当たりの金額にここまでの差があるのか。その秘密は地域全体での収量にあったのです。

天童市全体におけるネギの作付面積は平成27年の時点で15haなのに対し、青森県十和田市は92ha。規模は6倍以上です。

清水 地域として作付面積が広ければ、当然、地域全体での収量も増えます。収量が少ないほかの地域より欠品リスクが減り、仕向け先の希望通りに安定して納品できます。

ネギはスーパーなどの小売店はもちろん、飲食業界にも出荷されますが、いずれの業界でも「欠品」は最も避けたいリスクの1つです。そのため、流通業界や飲食業界では、多少値が張っても確実に納品してくれるところから買いたい。

だから、個人の農家よりも規模の大きいJAが選ばれ、さらに、その中でもより多くの収量を確保できる地域のものが好まれます。

「まとまった量の安定的な納品」という流通業界や飲食業界のニーズに対応できる地域は、卸売単価を高く設定できるのです。

つまり、地域全体の収量の差が埋まらないかぎり、いくら個人で収量を上げても卸売単価を上げることは難しいままなのです。

直接取引での卸売単価アップ施策を徹底追求

地域全体で収量を上げ安定出荷につなげなければ卸売単価は上がらない。この構造に気がついた清水さんは、直接取引で作物を販売しようと動き出します。

地域全体の収量などによって価格が変動する市場出荷とは違い、直接取引なら自分の設定した価格で卸すことが可能で売り上げも安定します。

すぐには地域全体の収量は増やせない。まずは直接取引に活路を見出す

清水 直接取引の顧客を獲得するために、山形県の蕎麦屋やスーパーなどに営業をかけて行きました。初めは相手にされないこともありましたが、JAを通して買うより少し安い価格でネギを仕入れることができるということで、徐々に取引先を増やすことができました。

これにより年間を通した売り上げを見通すことができ、事業計画を立てやすくなったそうです。

スーパーに並ぶ「寅ちゃんねぎ」

スーパーに並ぶ「寅ちゃんねぎ」
出典:清水さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

スーパーに売り方を提案して、大幅な卸売単価アップを実現

直接取引の顧客を獲得しても、すぐに販売単価を上げられるわけではありません。スーパーに出荷を始めた当時、スーパーの売場でのLサイズのネギの販売単価は「3本98円」だったそうですが、清水さんの熱心な提案の末、現在は「2本198円」で販売されています。

清水 まずは、3本198円まで値上げ交渉をしました。しかし、そこから2本売りにシフトするのは苦労しました。

当時ねぎびとカンパニーでは、Lサイズのネギを出荷する際、1ケース46本入りでスーパーに卸しており、スーパーが3本ずつに束ねて、1セット198円で店頭に並べていました。清水さんはこれを2本1セットにして販売すればいいのではないかと考えたのです。

清水 核家族化が進んでいく中で、ネギが3本売りである必要性はそこまで高くありません。2〜3人分の食事では使いきれず、捨ててしまう家庭も少なくないと考えました。

「2本売りにしても、きっと消費者は、同じ198円でネギを買ってくれるはず」と2本売りを提案しました。

スーパーの売り上げは、3本198円ならば、1ケース当たり15セットで、2,970円。2本売りにすれば、1ケース当たり23セット作れますから、4,554円になります。同じ量が売れれば、スーパー側にも大きなメリットになるはずです。

スーパー側にもメリットがあるからと懸命に説得しトライアルしてもらいました。結果として問題なくネギは売れ、2本売りにすることでスーパーの売り上げが伸びることがわかりました。

スーパーの売り上げが伸びた分、ねぎびとカンパニーの卸値も上げてもらい、卸売単価を大幅に上げることができたのです。


現在、ねぎびとカンパニーがスーパーに出荷しているネギのうち、Lサイズネギは約2割。出荷量の7割ほどが2Lサイズのネギだといいます。2Lサイズネギに関しても同様に値上げ交渉を積み重ね、現在では2Lサイズネギは2本298円で販売されているそうです。

独自のブランディングで商品価値を高める

さらに単価を上げるためにブランド化を目指す

取引のあるスーパーに掛け合って2本198円での販売提案を少しずつ受け入れてもらった清水さん。しかし、さらに価格を引き上げるのは困難だったといいます。

清水 どのスーパーでも「ネギは庶民的な価格でなければ無理だ」と、2本198円以上での販売提案は断られました。

しかし、どうにかして販売単価を上げたい。そのためには、消費者に「ねぎびとカンパニーが作るネギだから食べたい」と思わせるブランド化が必要だと思い至りました。

特別な価値のある「贈答用のネギ」を栽培する

1本1万円のネギ『モナリザ』

1本1万円のネギ『モナリザ』
出典:清水寅さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

そもそも清水さんが就農に当たり、ネギの栽培を選んだ背景にはいくつかの理由がありました。

「その地域でネギを栽培する同業者が少なく、機械化が大きく進んでいないためライバルが少ない」ことと「一般消費者からすれば、作り手が素人かどうかわかりにくい作物だと考えた」というのが主な理由だそうです。

しかし、ネギでブランド化を実現するためには、消費者に「ここのネギはほかとは違う」と思われなければなりません。

清水 ほかと差別化できるネギの栽培には、就農2年目から少しずつ始めていた有機肥料での栽培が役に立ちました。病害のリスクを下げることができればと始めたことでしたが、有機肥料の割合に比例して味もよくなっていることに気がつきました。

栽培を始めて4年目に、取引のあったバイヤーから「ネギがおいしいから、お歳暮に送ってほしい」と言われ、うちのネギは贈り物になるのだと気がついたのです。


こうして生まれたのが、1箱1万円の『真の葱』、そして1本1万円の『モナリザ』です。一目見てほかのネギと違うことがわかるよう、普通の市販のネギよりも大きなサイズに仕立てているといいます。

通常スーパーに並んでいるネギは大きくても2Lサイズまで。しかし、『真の葱』のサイズは3Lから4L、『モナリザ』に至っては最大5Lのものもあります。

これらのネギをスーパーに卸すのではなく贈答用としてネット販売で売り出すことで顧客を獲得したといいます。さらに、限定数量のみの販売にすることで、商品の特別感をさらに引き上げることができたそうです。

1箱1万円の『真の葱』

1箱1万円の『真の葱』
出典:ねぎびとカンパニーオンラインショップ

特別なネギが看板となって一般出荷のネギの価格も上がる

清水 『真の葱』発売後、贈答用の高級ネギの話を聞きつけて、首都圏の一部のスーパーでねぎびとカンパニーが出荷しているネギの販売価格を2本498円まで引き上げる店舗も現れました。

さらに、「日本一高いネギ」として話題が拡散されるにつれ、メディアから取材依頼が来るようになりました。話題になることで『真の葱』や『モナリザ』に興味を抱いてくださるお客様も増え、「ねぎびとカンパニー」のブランド力が向上します。そして、「ねぎびとカンパニー」の一般出荷のネギも高く買ってくださるということが起きたのです。


ブランド力のある特別なネギが看板となって、一般出荷しているほかの商品の価値の底上げを図ることができたのです。

作物の品質を保つための組織づくりと改善活動

高品質なネギの栽培を成功させた現在、清水さんは栽培を社員に任せ、営業活動に専念しているといいます。ゼロベースから学んできたネギ栽培のノウハウをもとに従業員に仕事を割り振り、生産性向上を目指しているそうです。

ねぎびとカンパニー 社員とともにほ場にて

社員とともにほ場にて
出典:清水寅さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

清水 利益を上げるには、卸売単価を上げる以外にも、生産性を向上させコストを削減することも重要です。ねぎびとカンパニーでは栽培にかかる作業を細かく分け、担当を決めて作業をしています。これにより責任の所在が明確になります。

また、社内には「業務改革課」という部署があり、生産性向上や業務改善のためにできることがないか追求してくれています。毎日5回、5分ほどのミーティングを実施し、何かトラブルはないか、改善できる箇所はないかを見つけていきます。

適材適所の人事と、作業効率を意識したルーチンを徹底することで、品質向上のみならず生産性向上にもつながります。

ブランドの価値を担保しながら新規営業するためのポイント

もともと営業マンとして長く働いてきた清水さん。就農を決意したときも、自分が全国に営業して回り、栽培は専門のスタッフに一任する形をイメージしていたそうです。

清水 日本一の栽培面積、そして1本1万円の高級ネギという無二のブランド価値を保持しながら新規開拓営業を行うに当たり、3つのポイントが重要になってきます。

ほかのネギ農家との契約がない

スーパーの一角で産地直送野菜を販売している店舗も珍しくありません。そういったスーパーには、産地の農家から直接送られてくる鮮度の高い野菜のニーズが間違いなくあります。

しかし、すでにほかのネギ農家と取引のあるスーパーに売り込んでも、新しく取引してもらえる確率は低いのです。そのため、「狙い目となるのは、産地直送コーナーを設けつつ、まだネギ農家と取引のないスーパー」だと清水さんは言います。

希少価値を保つため、納品する店舗数は増やし過ぎない

店舗数の多いチェーン店との契約が締結できれば注文量が大きくなり、多くの消費者に「ねぎびとカンパニー」を知ってもらうことができます。

清水 しかし、あちこちのスーパーで見かける分、商品の希少価値が下がってしまいます。なかなか手に入らないおいしいネギだからこそ、高単価で販売できる。この強みをなくさないために、大規模なチェーン店への出荷はしていません。

都市圏の店舗に絞る

ねぎびとカンパニーでは地元・山形での販売よりも、東京をはじめとした大都市圏での販売が多いといいます。

清水 都市圏のスーパーの方が高単価でネギを販売してくれるということもありますが、地方へ向かう流通量よりも、都市圏へ向かう流通量のほうが多いため、配送費が安くなり、利益率の向上につながります。

さらに利益率を上げるために

ネギを出荷できない期間にも売り上げを出す「苗販売」

ねぎびとカンパニーで販売しているネギの苗

ねぎびとカンパニーで販売しているネギの苗
出典:清水寅さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

冬期は積雪のためにネギの収穫が難しくなります。その間の収入源を確保するため、ねぎびとカンパニーでは過去にほかの作物の栽培に挑戦したこともありました。

しかし、作物の盗難に遭ったり、栽培がうまくいかなかったりとトラブルが続いたため、メインのネギ以外に栽培しているのはほうれん草のみ。

栽培したネギを用いた餃子も販売していますが、通販で購入可能な餃子はすでに大手メーカーの商品がシェアを獲得しており、その規模に一農家が追いつくことは困難です。

清水 ほかに何か勝負できるものはないかと考えたとき、やはり、作物を育てるノウハウこそが我々の一番の強みだと感じました。そこでネギの苗のポット販売に着手しました。

日本一高いネギを栽培する農家の販売する「枯れにくく、ポット入りで育てやすいネギの苗」は、農家だけではなく一般消費者のニーズを獲得することができました。

地力をあげて反収アップ、さらに利益率をあげる

清水 1本1万円の『モナリザ』として売り出せるネギは、毎年一定数の収穫が可能というわけではありません。だからこそ、希少価値がありブランド化が可能になるという面もありますが、収穫確率をあげたいところです。

『モナリザ』レベルのネギの場合、保有する数あるほ場の中でも、土壌の質が高いほ場ほど収穫確率が上がります。

そのため現在は、ほ場の土壌品質向上を目指して研究を重ねています。ほ場のレベルアップが実現すれば、『モナリザ』レベルのネギの収穫確率が上がるだけではなく、面積当たりの収量が上がり全体的な収量も増えます。

そうなれば、全体の収量と品質を確保しつつ、ほ場を縮小・削減することができ、その分、コストは減り生産効率が上がるという好循環が生まれるので、そこを目標にしています。

ねぎびとカンパニー ほ場のレベルアップが利益率の向上につながる

ほ場のレベルアップが利益率の向上につながる
出典:清水寅さんFacebookページ 『清水寅(初代 葱師) 』

現状を徹底して分析し、利益の出る農業の構造を追求する。常識を疑い、販売戦略とブランディングを考え抜く。考え抜いた戦略は自ら動くことで実現に近づける。

新規就農者ではなくてもこの視点を意識することで、利益の出る農業への道筋を見つけることができるのではないでしょうか。

ねぎびとカンパニーのホームページ、SNSも是非ご覧ください。
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福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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