生きた栽培データを活用して本当に儲かる農業のしくみを作る|後編|誰でも農業を始められる栽培マニュアル
株式会社Happy QualityのCEO宮地誠さんに、前編では、農業をマーケットイン型の産業にするための取り組みを伺いました。同社では、「誰でも実践可能であること」「利益を上げられること」という課題の解決のため、日々研究開発を推進しています。後編では、その研究開発の現場を紹介します。
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目次
株式会社Happy QualityのCEO 宮地誠(みやち まこと)さんプロフィール
株式会社Happy QualityのCEO 宮地誠さん(写真中央下)
出典:株式会社Happy Quality FaceBook
静岡県の浜松市中央卸売市場で、20年以上競り人を勤める。衰退していく農業界を活性化させるため、株式会社Happy Qualityを設立。再現性の高い農業の実現に向けて、精力的に研究開発を進めている。
品質の見える化の実現に向けて
ユーザーニーズに応える作物を生産する「マーケットイン農業」において、作物の品質の「見える化」(可視化)とその解像度を高めて、品質を明確に示すことはとても重要です。
Happy Qualityでは、消費者に向けた見える化として、機能性表示が可能なトマト「Hapitoma」を開発しました。
機能性表示が可能なトマト「Hapitoma」の開発
「機能性表示食品制度」とは、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、消費者庁長官に届けることで、機能性を表示することができる制度です。
2020年9月、「Hapitoma」は、生鮮トマトとしては業界初となる、GABAとリコピンのダブル成分での機能性表示、そして「ストレス緩和機能」の健康表示ができるようになりました。
株式会社Happy QualityのCEO 宮地誠さん(以下、役職・敬称略) 独自開発した近赤外線光センサー選果機では、大きさや形だけではなく、糖度やリコピン、GABAの含有量が正確に測定できます。
健康によい成分として注目されるリコピンやGABAがどれだけ含まれていて、どのような機能が期待できる商品なのか。データを蓄積し、分析を続けたことで、作物の機能に関する科学的裏付けをとることができました。
これによりさらに品質の見える化が進み、Hapitomaは、より一層自信を持ってお客様にお届けできる商品になりました。
高い品質を保証し、お客様からの信頼を獲得していくことは、リピーターだけではなく、新規ユーザーを獲得することにもつながります。
ダブル成分(GABA・リコピン)の機能性表示、「ストレス緩和」の健康表示がある「Hapitoma」のパッケージ
出典:株式会社Happy Quality ホームページ
品質の見える化は、流通サイドにも大きなメリットがある
宮地 正確な糖度を測定し、糖度別に出荷することが可能になったことは、バイヤー側にもメリットがあります。ユーザーがどんな作物を求めているかは、その地域や小売店ごとで必ず偏りがでます。
糖度を明確に測定し、糖度ごとの出荷を可能にすることで、バイヤーは小売店ごとに変わるユーザーの好みに合わせて作物を仕入れることができるのです。
検知されたトマトごとの品質のデータは栽培にも生かされる
現在は、この近赤外線光センサー選果機を小型化し、ハウス内やほ場でも使用可能なハンディ型の開発が進められています。
経験と勘を補い、作業時間を短縮する「データドリブン農業」
ユーザーの求める品質の作物を栽培できても、栽培できるのが一度限りでは「マーケットイン農業」は成り立ちません。同じ品質の作物を安定して供給できなければ、商品価値が下がってしまいます。
高品質なトマトを、同じクオリティでいつでも栽培するには、より再現性の高い栽培ノウハウが必要です。
Happy Qualityでは、アグリテック部門の研究に携わる子会社・アグリエア株式会社において、静岡大学や名古屋大学の教授と連携し、さまざまな研究開発を進めています。その技術を駆使することで「Hapitoma」を安定して栽培できるしくみを築き上げているのです。
匠の技を必要としないロックウールキューブを用いたトマト栽培
ロックウール栽培で、灌水と施肥を無駄なくきめ細かく管理
鉱石などから人工的に作られた繊維「ロックウール」を用いる栽培方法は、日本国内に限らず、世界的にも広く取り入れられています。
ロックウール製のキューブ型の培地は保水性、排水性に長けており、肥料や水量のコントロールがしやすいというメリットがあります。また、土壌由来の病害リスクが低く、病害発生時にも被害拡大を防ぐことができるようになります。
宮地 土壌栽培と比べて、肥料や水量のコントロールがしやすいロックウールキューブでの栽培は、栽培ノウハウのデータ化がしやすいため、再現性の高いトマト栽培を可能にします。
栽培管理をマニュアル化することで、長年の経験や勘といった玄人の技術がなくても、高品質なトマトの栽培が可能になるのです。
ロックウールキューブとAI灌水システムによって管理されるトマト
「しおれ検知AI」で灌水を自動化
糖度が高いトマトを栽培するためには、適度な水分ストレスを与える必要があります。とはいえ、水分を与えなければ当然トマトが枯れてしまうリスクも高くなります。
トマトの栽培管理においては、水分を与えすぎても、その逆でもいけない、とても繊細な作業が求められます。しかし、今どの程度水分を与えるべきかは、その時の温度や湿度、天候などに大きく左右されます。
そこで、必要なタイミングで、最適な量の水分を自動で灌水するためのシステムとして宮地さんが開発したのが「しおれ検知AI」です。
しおれ検知AIとは、ハウス内に設置されたカメラで定期的に撮影されたトマトの写真と、温度や湿度などの環境データを元に、トマトがしおれ始めたタイミングを検知するシステムです。
宮地 高糖度のトマトを栽培するために必要な水分ストレスコントロールは、素人が一朝一夕で身に付けられる技術ではありません。
ましてや、Hapitomaは糖度だけではなく、リコピン含有量やGABA含有量にも一定の基準を設けています。
その基準をクリアし、品質を保持するためには、最適な水分ストレスを与えられる灌水のタイミングや水分量を分析し、自動灌水ができるこのシステムがとても役に立つのです。
「しおれ検知AI」を用いて、最適な水分ストレスを与えることができる
出典:株式会社 PR TIMES
収量アップにむけた「気孔AI」の開発
農業で利益をあげるためには、品質はもちろん、収量も確保しなくてはなりません。求める品質基準に達するトマトを効率よく、より多くの収量を確保するためにHappy Qualityでは「気孔AI」を開発しました。
植物は、光合成を行う際に、気孔を開いてガス交換(水分の蒸散や酸素を排出し、二酸化炭素を取り入れること)を行います。気孔AIは、その働きを検知するシステムです。
宮地 光合成速度を測定できる装置はすでにありますが、ハウス内に常置するにはあまりにも大掛かりな装置であったり、費用が嵩んでしまうといった難点がありました。
もっと手軽に気孔開度を測定できるシステムはできないだろうかということで、名古屋大学農学部助教授である戸田陽介さんとともに開発したのが、画像解析によって気孔の開閉状態がわかるシステムです。
気孔開度を把握できれば、作物の生長状況や収量に関わる光合成速度だけではなく、品質に影響を与える環境要因の特定も可能となります。
現在、Happy Qualityでは、この技術をより手軽に活用できるよう、スマートフォンで気孔開度を簡単に測定できるアプリケーションの開発を進めています。
トマトの草姿を撮影するカメラ
「誰にでも挑戦可能で、必ず利益を出せる」農業のために
データを活用した栽培管理が就農のハードルを低くする
しおれ検知AIで検知されたデータと光センサー選果機で集められた糖度やリコピン含有量などのデータを活用することで、環境データと品質の相関性を発見でき、品質向上のための糸口を見つけることができます。
また、天候トラブルや病害発生時など不測の事態が起きた場合にも、蓄積されたデータのパターンから素早く対処法を見出すことが可能になります。
宮地 このようにデータを活用した栽培方法を確立することで、まったくの素人でも稼ぐことができる農業を実現することができます。誰でも気軽に始められて、稼ぐことができる農業のシステムができれば、農業界の活性化にもつながります。
「しおれ検知AI」や「気孔AI」以外にも、再現性の高い農業を実現するためのさまざまな研究が進められています。
栽培ノウハウのマニュアル化が「適正価格で売り切る農業」を実現する
環境データと品質や病害虫発生の相関性を分析することで、栽培中に起こりうるさまざまな状況別に、それぞれ適切な対処法を導きだせます。
宮地 現在は、まだ完全にはマニュアル化できていませんが、データの蓄積と分析を積み重ねていくことで、ゆくゆくはさまざまな状況を想定した栽培マニュアルを完成させることができます。
Happy Qualityが目指しているのは、誰にでも挑戦可能で必ず利益をあげることができる農業の実現です。
マーケットイン農業の実現のため、生産委託農家から作物を全量買い取るに当たり、生産委託農家には必ず求める品質基準をクリアする作物を栽培してもらわなければなりません。
品質基準をクリアするトマト栽培に必要な技術開発と、栽培ノウハウのマニュアル化をHappy Qualityが引き受け、生産委託農家はそのマニュアルを元にトマトを栽培する。
そして高い品質基準をクリアしたトマトをHappy Qualityが全量買い取り、仲卸業者、小売店などを通してユーザーの元に届く。
このシステムであれば、農家は相場の価格に左右されず、その品質に合った価格で作物を売り切ることが可能になるのです。
最終的には生産委託農家をフランチャイズ化することを目標としている
資料提供:株式会社Happy Quality
今後もデータの蓄積、分析、技術開発を進め、栽培ノウハウをブラッシュアップしていくことで、トマト以外の作物や、栽培環境が異なる中でも「再現性の高い農業」を実現することができます。
宮地さんの提唱するデータドリブン農業が世界のスタンダードとなれば、国内だけではなく世界各地の農業界が抱える課題を解決していくことも夢ではない。そう感じられました。
■株式会社Happy Qualityのホームページもご覧ください
「Happy Quality | 農業支援 | Happy式農業モデル | マーケットイン農業 / 静岡県浜松市」
■前編はこちら
「生きた栽培データを活用して本当に儲かる農業のシステムを作る|前編|必ず完売させるマーケットイン農業」
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福馬ネキ
株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。