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露地栽培&施設栽培のメリット・デメリット比較! 収益性が高いのはどっち?

露地栽培&施設栽培のメリット・デメリット比較! 収益性が高いのはどっち?
出典 : ほそやん / PIXTA(ピクスタ)

農業は広い土地を使って、自分のやりたい方法で経営できる点が大きな魅力です。就農時に「露地栽培」「施設栽培」のどちらを選ぶかによって、初期費用や準備が変わってきます。メリット・デメリットを把握したうえで、自分のやりたい農業を決め、準備を始めましょう。

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就農を希望している人にとって、「露地栽培」から始めるか、はじめから「施設栽培」にするのかは重要な問題です。そこで本記事では、露地栽培・施設栽培それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。ぜひ、就農に当たっての参考にしてください。

どんな特徴や違いがある? 露地栽培と施設栽培について

露地栽培・施設栽培の組み合わせた葉菜類の栽培

toshi / PIXTA(ピクスタ)

日本での主流は露地栽培ですが、スマート農業の推進により、スマート農業と組み合わせやすい施設栽培も注目されています。

露地栽培は、自然と向き合いながら、よくも悪くも天気や気候の影響を大きく受ける点が特徴です。その作物が本来生育する時期に栽培するため、旬の味を出荷できます。太陽の下で収穫をする際には、農業の喜びをひときわ感じられるでしょう。また、その土地の気候や土壌の特性に合った、その土地ならではの作物を栽培することも可能です。

一方、施設栽培は、その地域の天候や病害虫発生などの外部環境の影響を最小限に抑え、年間を通して安定的に作物を栽培できるのが特徴です。

施設栽培を考えるなら、国が推奨しているスマート農業を取り入れた、完全制御型の施設も視野に入れましょう。環境制御が自動化され、遠隔操作もできるので、栽培中でも遠出や小旅行なら問題なく行ける点が魅力です。

どちらにも作物による向き不向きやメリット・デメリットがあるので、両方の特徴をよく知ったうえで、長期的な事業計画を立てましょう。

日本農業の主流、露地栽培のメリット・デメリット

ここからは、露地栽培と施設栽培のメリット・デメリットについて紹介します。まずは現在、日本の農業で主流となっている露地栽培から見ていきましょう。

【メリット-1】初期費用や維持費用など、栽培にかかるコストが安い

マルチフィルムなどの資材や農機などの初期費用だけで大規模栽培が可能な露地栽培

tenjou / PIXTA(ピクスタ)

露地栽培にかかる初期費用は、栽培規模に応じた農機のほか、肥料や農薬、マルチフィルム、支柱といった資材などにかかるだけで、大きな設備や施設を整える必要はありません。作付けする農地があればすぐに始められます。

農機の準備においても、施設栽培と比べると大きさや形状の制約が少なく、機能を絞った廉価なタイプや中古品など選択肢が広がって節約につながります。

また、栽培期間中も、農薬や肥料、農機の燃料やメンテナンスの費用などがかかるくらいなので、全体的なコストを安く抑えられるでしょう。

【メリット-2】広い作付面積で、より大規模な栽培が可能

露地栽培では農地を広く使えるので、1つの作物の作付面積を増やすことができ、大型農機や出荷調整の機械化などによる作業の効率化やコストダウンが可能です。

また、農地全体を自由に使えることから、輪作による連作障害の抑制や農地を区切って複数の作物を作付けしたりするなど、ほ場の有効活用も容易です。

【デメリット】自然環境の影響を直接受けるため、栽培管理が難しい

台風被害を受けたとうもろこしのほ場

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

まず、デメリットとして挙げられるのは、天候の急変や病害虫の大発生、害獣による被害を受けやすいことです。

また、低温や猛暑、長雨などその年の気候によっても、大幅な収量減や生理障害などの被害を受けることがあります。

作物の生育時期に合わせた作付けが必要で、収穫時期を動かせないことや、雨が降るとできない作業があるなど、自然環境による栽培管理のしにくさもデメリットといえます。

装置導入で環境制御の自動化も?施設栽培のメリット・デメリット

続いて、施設栽培におけるメリット・デメリットを見ていきましょう。

【メリット-1】促成栽培・抑制栽培などで出荷時期をコントロールできる

ビニールハウスの梁を利用して仕立てるきゅうり

kaka / PIXTA(ピクスタ)

施設栽培のメリットとして、まず挙げられるのは出荷時期を調整できることです。

施設内の温湿度や日射量などを調節することで、促成栽培・抑制栽培など、さまざまな作型を選択でき、周年出荷も可能です。市場単価が高い時期に合わせて出荷できれば、収益アップが見込めます。

また、施設の梁などを利用してさまざまな仕立て方を工夫できます。技術を活かした栽培方法を導入できる自由さも、施設栽培の大きな魅力でしょう。

液肥装置を導入している場合は、施肥を省力化できるだけでなく、特定の養分を強化した機能野菜など付加価値をつけた作物の栽培も可能です。

しかし、従来の施設栽培では、環境を調節するためには、加温設備の温度設定や内張りカーテンの開閉管理、液肥の調整などを個別に行う必要があり、手がかかることが大きなデメリットでした。

現在では、環境制御装置の進化によって、温湿度管理だけでなく日射量や灌水、施肥などのコントロールを自動、かつ、遠隔で一元管理することが可能になりました。

【メリット-2】病害虫の被害を受けにくく、防除対策の負担が少なくなる

病害虫の多くは、ほ場の外から風や雨、害虫の飛来などによって侵入し発生します。

施設栽培の場合は、外の環境から遮断されているため、害虫や病原菌の侵入リスクが低くなります。そのため、病害虫の防除対策は、露地栽培ほど大掛かりでなくてよい場合が多いでしょう。

ただし、害虫や病原菌の侵入をゼロにはできませんし、購入した苗や培土から病害虫が発生することもあります。

一度発生してしまうと、かえって施設内が病害虫の温床となり、被害が一気に全体に広がるリスクがあります。施設内だからといって油断せず、病害虫には常に注意を怠らないことが大切です。

【デメリット】導入や維持にかかるコストが高く、ほ場面積も広げにくい

施設栽培の加温設備

やえざくら / PIXTA(ピクスタ)

施設栽培のデメリットは、コストが高いことです。しかも、メリットを大きく享受するためには設備の充実が不可欠なので、メリットを求めようとすればするほどコストも膨らみます。


初期の設備投資費用が必要であるだけはでなく、その減価償却、設備の維持費、燃料費などが継続してかかります。

燃料費は年間を通してかかり、さらに、原油価格の高騰によってコストが跳ね上がるリスクも抱えています。そのため、安定出荷していても、利益は燃料価格に左右されがちです。

また、設備への依存が大きいため、台風や地震などの災害により施設が損壊した場合、露地栽培よりも復旧に時間や費用がかかる点も不安材料です。

どちらが儲かる?露地栽培と施設栽培を選択するポイント

いろいろな作物が集まる大田市場

konai / PIXTA(ピクスタ)

露地栽培は、コストをそれほどかけずに栽培が可能なものの、天候や病害虫の影響を受けやすく、収入が不安定になりがちです。一方、施設栽培では安定した収量や付加価値による収入アップが狙えるものの、決して少なくないコストがかかります。

では、両者のうち、より儲かるのはどちらなのでしょうか。収入の観点だけでなく、どちらかを選択する際に重視すべきポイントについても併せて解説します。

作りたい作物の種類で選ぶ

作物によって露地向きのものと、施設向きのものがあります。例えば、露地栽培では大根やじゃがいもなどの根菜類、大量生産が望ましいキャベツ・白菜など、大規模なほ場を活かせる作物が選択されることが多いです。

一方、施設栽培では初期にかけた設備投資などの費用を回収するために、短期間で栽培しやすくある程度の高単価が望める作物や、収穫期間が長くより多い収量を望める作物が多く栽培されます。トマトやきゅうり、イチゴなどが代表的です。

特に果菜類は、「実がなる高さを揃えて管理しやすい」「付加価値を付けやすい」「長期間収穫できて、狭いほ場でも収益性が高くなりやすい」などの理由から施設栽培が好まれます。

費用対効果で見たときに、「かけたコスト(設備投資の減価償却や毎作かかる費用)以上の収入が見込める高単価作物」なら施設栽培、「多少の病虫害や天候被害があってもカバーできる、大規模栽培が可能な作物」なら露地栽培といった具合に、特性に応じて決めることが「儲かる」ために重視すべきポイントです。

「かけたコスト(設備投資の減価償却や毎作かかる費用)以上の収入が見込める高単価作物」(損益分岐点を超える作物)なら施設栽培

CORA / PIXTA(ピクスタ)

現状の資金力や労働力を考慮して選ぶ

初期の設備投資に回せる資金が少ないなら、露地栽培を選び、技術を磨きながら資金を貯めるのがおすすめでしょう。

十分な資金があり、めざす経営規模に対して割ける労働力や人材が不足している場合や、体力に自信がない場合は、環境制御装置を導入することを前提として施設栽培を選ぶとよいでしょう。

ただし、高単価・高品質をめざすためにより手のかかる作物(イチゴなど)は、露地栽培の作物に比べて労働時間が長くなりやすく、労働時間当たりの収益性が低くなるというデータもあります。

安易に決めず、実際に地域で施設栽培や露地栽培を行っている先輩農家を訪ねたり、地域のJAや自治体の農政部署に聞いてみるのもよい方法です。

なお、新規就農に当たっては、地域によって補助金が出る場合があります。スマート農業の導入についても、国や自治体が助成事業を行っている場合があるので、よく調べて募集時期に合わせて活用するとよいでしょう。

イチゴの摘み取り・出荷には多くの労働時間がかかる

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

【参考事例紹介】露地栽培から施設栽培への切り替えで経営を改善した事例

最後に、露地栽培から施設栽培に転向し、成功した事例をご紹介します。

千葉県旭市の小島農園では、シイタケを中心に露地栽培で野菜類を作っていました。しかし、長男の小島正之(こじままさゆき)さんは、先代から事業を継承し就農すると同時に、施設栽培のきゅうりを軸とする経営に転換しました。

それまで、露地栽培で期待するほどの収入が得られなかったことから、このままではいけないと思い、旭市の名産であるハウス栽培の「越冬きゅうり」を主力品目に据えることにしたのです。

そこから1年かけて施設栽培を学び、高額な設備費用を投じてハウスを建て、機材を揃えました。すべてがマイナスからのスタートでしたが、まずは経営を安定させることを課題に、懸命に取り組みました。

品質のよいきゅうりを栽培する努力をこつこつと積み上げ、少しずつ規模を拡大。それに伴い収量が上がる、という工程を繰り返した結果、15年後には就農時の10倍以上もの収入を上げ、12人のスタッフを抱えるまでに規模を拡大させました。今では地域の中心的存在にもなっています。

旭市が生産量千葉県第1位を誇り、国の指定産地にもなっている「越冬きゅうり」を主力に決めたことや、初期に思い切った投資をし、それを活かして安定生産に向けた努力を続けたことが、成功の理由に挙げられるでしょう。

また、一緒に農業を続ける先代のサポートや、同じ作物を栽培する近隣農家とのつながりがあったことも、成功を支えています。

小島農園のホームページはこちら
株式会社パソナ農援隊(パソナグループ)が運営する「新 農業人スタート」サイト掲載の小島正之インタビュー記事はこちら
「規模拡大・収穫量アップ・収益性の高い品目を栽培することで「儲かる農業」を実現」

施設栽培のきゅうり

リョウ / PIXTA(ピクスタ)

「儲かる農業」の実現には、地域特性も踏まえて「何が売れるか」を的確に見極め、その作物を高品質かつ安定的に栽培するために、最適な栽培方法を選ぶことが大切です。

露地栽培と施設栽培のメリット・デメリットを知り、自分のめざす農業を総合的に考えて、適した栽培方法を決めましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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