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ナスの収穫時期や労働負担が高いタイミングは? 品質・収量を上げる栽培のコツ

ナスの収穫時期や労働負担が高いタイミングは? 品質・収量を上げる栽培のコツ
出典 : dorry / PIXTA(ピクスタ)

ナスは人気の高い夏野菜の1つで、年間を通して需要があります。露地栽培でも夏から秋の長期にわたって収穫でき、効率的に栽培することで多収が見込めます。この記事では、暖地での露地栽培の栽培暦をもとに、収量を上げる管理のポイントを紹介します。

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ナスの露地栽培を始めるに当たって、あらかじめ栽培暦や労働負担の大きい収穫時期を把握しておくことで、適切な営農プランを立てることができます。露地栽培での注意点や栽培のコツを押さえ、効率的かつ安定的に収量アップをめざしましょう。

収穫時期や労働負担が高いタイミングは? ナスの栽培暦

ナスはほぼ全国で栽培され、施設栽培を活用した周年供給体制が確立されています。高知や熊本などの温暖地で施設栽培によって生産される「冬春ナス」と、全国の広い地域で露地栽培によって生産される「夏秋ナス」があります。

ここでは、夏秋ナスの栽培暦をもとに、いつからいつまで収穫できるのかを解説し、また、多収をめざす際の栽培管理のポイントについて説明します。

収穫期のナス

スミレ / PIXTA(ピクスタ)

温暖地における露地栽培ナスの栽培暦

夏秋ナスの露地栽培での栽培暦は、地域や気候、品種によって異なります。また、施設栽培による半促成・促成栽培や、露地栽培でもトンネル早熟栽培などの作型があります。ここでは関東~中国地方までの温暖地での栽培暦を紹介します。

神奈川県における栽培暦を例にすると、播種時期は2月上旬~中旬で、2ヵ月ほどの育苗期間を経て4月下旬~5月に定植します。6月中旬〜11月中旬に収穫でき、収穫期のピークは8月頃です。

露地栽培ナス収穫時期の栽培管理

長い収穫期の間、できる限り品質と収量を保持するため、忙しい収穫期の合間にも栽培管理を適切に行うことが大切です。

夏秋ナスの枝葉管理

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

●枝葉の管理

日照量がナスの開花や結実、肥大、着色に大きな影響を与え、品質を左右します。そのため、ふところ部に十分な日が当たるように、葉が重なり合ったところは葉かきを行いましょう。

また、一番果から下の本葉は色があせたり枯れてきたりしたら取り除き、株元の通気性をよくすることで、病害虫の発生を抑えます。

●間引き剪定と切り戻し剪定

生育の中~後期にかけて枝が繁茂してくるので、内側に伸びた枝や垂れ下がった枝はこまめに間引き剪定しましょう。側枝の剪定は、1次側枝の一番花のすぐ先の葉を1枚残して、その先を摘芯します。

その後、側枝の葉が十分に大きくなったら、付け側枝の根にある本葉を取り除きます。実を収穫する際に、主枝に近い第1脇芽を1つ残して切り戻し、この脇芽を2次側枝として、1次側枝と同様に摘芯や切り戻しを行います。収穫時期の間、これを繰り返します。

●草勢判断と追肥

基本的な追肥は一番果の収穫後、15~20日間隔を基本として、草勢判断しながら速効性肥料を施肥します。1回の施肥量目安は、10a当たり窒素2~3kgです。

生長点から一番花までの距離が15cm、展開葉数が4~5枚なら草勢良好な状態です。これより距離が短く葉数も少ないと草勢低下、長いと草勢が強いか日照不足が考えられます。

また、花を見て、柱頭が雄しべの葯(やく)よりも長ければ良好ですが、柱頭が短い場合は不良な状態です。早めに追肥をしましょう。

ナスの花  柱頭が雄しべの葯(やく)よりも長ければ良好

hiro / PIXTA(ピクスタ)

●灌水

ナスは水分要求量が多く、不足すると肥大不足やつやなし果などの原因となります。地表が乾いたら、こまめに十分な灌水をしましょう。

●収穫適期・作業時間

果実が熟すと肉質が劣り種も硬くなってしまうので、開花から20日前後の未熟果のうちに収穫します。気温の低い早朝に収穫を行い、収穫後の調整作業もなるべく低温を保ちながら、実を傷つけないように注意しましょう。

ナスの選果・調整

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

栽培管理が品質や収量に影響も。労働時間のピークは「夏の出荷時期」

露地栽培ナスの出荷がピークを迎える7月下旬~8月にかけて、労働負担が最も大きくなります。

収穫作業はもちろん、収穫後の選別や調整作業に人手が必要で、この作業時間がとれないために収穫適期を逃したり、収穫後に時間が経って品質が低下したりすることもあります。

この時期の作業時間の具体例として、群馬県「伊勢崎地区農業指導センター」の試算によれば、収穫の作業時間(平均)が最も多い7月下旬で28.0時間、誘引・整枝作業には26.7時間、選果・調整作業には26.7時間かかるとされています。

また、愛媛県の農林水産部農産園芸課の指標によれば、露地栽培で栽培面積10a、家族2人、共同選果という条件下で、ピークである8月の平均作業時間(10a当たり)は、整枝・誘引に11.7時間、収穫に40.5時間、選別に18時間、出荷に4.5時間とされています。

出典:
JA佐波伊勢崎「広報誌 飛翔 2019年3月号」
愛媛県農林水産部農産園芸課 品目別経営指標 なす(夏秋)

ナス農家は儲かる? 作付け前に知っておきたい、露地栽培ナスの収益性について

露地栽培の諸経費で最も高いのはV字支柱

ももぞう / PIXTA(ピクスタ)

露地栽培の夏秋ナスは長期にわたって収穫できますが、反面、多くの労働力を要します。総合的に見て、露地栽培ナスの収益性はどの程度なのでしょうか。

前項で参照したJA佐波伊勢崎広報誌と、愛媛県農林水産部農産園芸課の指標をもとに、収益性を参照してみましょう。

まず、JA佐波伊勢崎広報誌によれば、10a当たりの収量は7,000kg、1kg当たりの単価は314円です。所得は120万円、労働時間は870時間で、所得率は54%です。

一方、諸経費は種苗費、肥料費、農具、農薬、防風ネットやマルチのほか、ナスに必要なV字支柱に約18万円と最も経費がかかり、諸経費合計で44~47万円ほどです。

愛媛県農林水産部農産園芸課の指標では、前項で提示した条件下において、収量は10a当たり10,000kg、1kg当たりの単価は244.8円です。所得は100万3,000千円、労働時間は930.5時間で、所得率は41%です。諸経費は、38万円ほどです。(前述のJA佐波伊勢崎の例に項目をそろえて減価償却費などを除いた場合)

出典:
JA佐波伊勢崎「広報誌 飛翔 2019年3月号」
愛媛県農林水産部農産園芸課 品目別経営指標 なす(夏秋)

地域性や作型、品種などにもよりますが、一般的に露地栽培ナスは費用がかからず、収益性が高く安定した収入が期待できるといえるでしょう。

品質&収量を向上! 生育段階別・ナス栽培のポイント

ナスの露地栽培 通路の確保

スミレ / PIXTA(ピクスタ)

露地栽培ナスの品質や収量を上げ、より収益性を高めるための栽培のポイントについて解説します。

【土作り】ナス栽培に適したほ場と施肥設計

ナスはあまり土質を選びませんが、土壌pHは6.0~6.5の弱酸性、多肥で有機質に富み、保水力・排水性がある耕土の深いほ場を好みます。定植するほ場には前作終了後、堆肥を10a当たり2tほど施用し、深耕しておくとよいでしょう。

また、石灰の欠乏が起きやすいので、苦土石灰を10a当たり100kg目安に施用しましょう。ナスは生育期間が長く、また、生育初期に肥料が効きすぎると初期収量の低下につながるので、基肥には肥効の長持ちする緩効性肥料を使用すると効果が上がります。

生育初期から終盤までカルシウムを要し、不足すると芯止まりや落花、へた枯れなどの症状が出るので、カルシウムを強化した肥料の施肥も効果的です。

【畝立て・マルチ】株間・畝幅や誘引支柱の間隔目安

露地栽培ナスの一般的な畝立ての目安は株間約60cm、畝幅200cm、ベッド幅100cmで、誘引支柱の間隔目安は約3mです。収穫作業がしやすいように、通路は広めにとりましょう。

地温確保のため、畝立てと同時にマルチも行います。ほ場が広ければマルチャーを使用することで、手作業に比べて5分の1に労働力をカットできます。

また、畝立てと同時にソルゴーなどの障壁作物を畑の周囲へ植えておくと、強風からナスを守ったり害虫を食べてくれる天敵の住みかとなったり、収穫期後半の保温効果も期待できたりと、さまざまな効果が期待できます。

周囲にソルゴーを植栽したナスのほ場

周囲にソルゴーを植栽したナスのほ場
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

【定植】ほ場への活着や着果を成功させるポイント

ナスは育苗期間が長いので、近年は自家育苗ではなく市販苗を使うベテランの農家も増えてきました。市販苗を使う場合は、苗が到着後すぐに箱から出し、乾燥していたら灌水します。

定植は、晴天の午前中に行うことが活着を成功させるポイントです。天気のよい日を選び、その日に合わせて準備を始めましょう。

準備として、肥料切れがないよう定植直前に液肥を灌水すること、ほ場へ病害虫を持ち込まないために苗を薬剤処理することなどが大切です。

定植のタイミングは開花直前か一番花が開花した頃で、初期の草勢のバランスをとるためには、一番花を着果させることが重要です。

最初の花はホルモン処理を行い、確実に着果させましょう。できれば、6月中旬の第三果頃までホルモン処理を行い、その後自然着果とすると収穫が安定します。

ナスの露地栽培 定植直後

dorry / PIXTA(ピクスタ)

【収穫まで】定植後の栽培管理(整枝・追肥・剪定)のコツ

追肥は一番果を収穫してから、草勢判断をしながら必要に応じて適宜行いましょう。目安としては、15~20日間隔で月に2回程度です。詳しくは、「露地栽培ナス収穫時期の栽培管理」の項で触れた草勢判断を参考にしてください。

また、ピーク時の収穫が多いと、9月以降は成り疲れが生じたり肥料が不足したりして、収量が大幅に減ることもあります。8月中の収量が多い場合は、中旬頃に溶出日数の短い40日タイプの被覆複合肥料を1a当たり10kg追肥すると、収量の低下を防げます。

これから栽培するなら? 高品質化・省力化が叶うおすすめの品種

ナスは古くから日本で栽培されて各地で改良が進み、現在の品種は有名なものだけでも、170種以上あるといわれています。その中でも、高品質はもちろん作業の効率化も期待できる、注目の品種を紹介します。

「あのみのり」と「PC筑陽」はどちらも単為結果性品種で、特長として「ホルモン処理が省力化できる」点が挙げられます。作業量の多いホルモン処理をしなくても、確実な着果が期待できます。

さらに、あのみのりは色つやがよく果実品質も良好で、整枝作業の軽減が可能です。着果が安定しており、一部を放任整枝として整枝作業を6割軽減しても、慣行整枝で多収を見込める「千両二号」と同等の収量を見込めます。

「PC筑陽」も同様に、ホルモン処理が不要となるため大幅な省力化につながり、福岡などですでに多くの農家が導入しています。もちろん品質も良好で実が柔らかく、生食でもおいしいので漬物に向きます。

従来品種の「筑陽」に比べて、果実重が軽い点に注意が必要ですが、適切な温度管理と草勢管理を行うことで、秀品率を上げられると考えられます。

単為結果性品種はすべての花に実が付くので、成らしすぎて株が弱ったり、成り疲れを生じたりしやすい点に注意が必要です。

出典:
農研機構 農林水産省委託事業:平成22年度 「関東東海北陸農業」研究成果情報「単為結果性なすの栽培体系の確立」
タキイ最前線 産地ルポ「福岡県JAふくおか八女」

露地栽培のナスは収穫期間が長く、安定した収益も見込める作物です。しかし、収穫期間中は、途切れない収穫作業とともに、誘引や枝葉整理などの手入れが必要で、その負担は小さくはありません。

栽培管理のポイントを押さえることで、安定した収量・品質を確保していきましょう。また、ホルモン処理の負担減に単為結果性品種の導入も考えてみてもよいかもしれません。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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