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硝酸態窒素とは?窒素肥料が野菜類にもたらす効果と、知っておきたい注意点

硝酸態窒素とは?窒素肥料が野菜類にもたらす効果と、知っておきたい注意点
出典 : 花咲かずなり / PIXTA(ピクスタ)

野菜類をはじめとしたすべての作物の栽培には、窒素を含む肥料の施用が欠かせません。特に植物が根から吸収しやすい硝酸態窒素は、速効性のある頼もしい肥料です。その硝酸態窒素を使う際のポイントと注意点について詳しく解説します。

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窒素はカリウムやリン酸と並んで野菜類の生長に不可欠な要素で、一般的に肥料として施用されます。しかし、硝酸態窒素が過剰になると、環境や人体へ影響を及ぼすことを懸念する声もあります。硝酸態窒素の必要性と注意点を正しく理解し、適切な施肥を心がけましょう。

「硝酸態窒素」とは?成分の特徴と、農業における役割について

窒素循環の模式図

designua / PIXTA(ピクスタ)

作物は、窒素が不足すると生育不良を引き起こします。そのため、一般的に作物の栽培では、窒素が不足しないように、土壌に施肥し、根から吸収させます。肥料に含まれるのは、主に作物が吸収しやすい「硝酸態窒素」または「アンモニア態窒素」という窒素成分です。それぞれどのような特徴があるのでしょうか。

硝酸態窒素とは、植物が栄養素として取り込める形態に変化した窒素成分

窒素自体は空気中にも土中にも存在していますが、そのままでは植物が栄養分として直接吸収できません。土壌中に含まれる窒素は、微生物による分解や変化の過程を経て次第に酸化し、アンモニア態窒素や硝酸態窒素になります。この状態になった窒素を植物が根から吸収し蓄えます。

こうした自然界の過程を踏まずに、植物が吸収しやすい状態で施用するのが肥料としての硝酸態窒素で、硝安、硝酸石灰、硝酸加里、硝酸ソーダ(チリ硝石)などの肥料に含まれます。

硝酸態窒素は土壌に吸着しにくく、灌水や雨水で溶け出してしまう性質があります。そのため、作物の生育中に土壌中の窒素が不足する可能性もあり、その場合は追肥が必要です。ただし、過剰に与えると、作物が必要以上に吸収してしまい、残った硝酸態窒素は収穫後の作物の中に残留します。

アンモニア態窒素との主な違いは土壌への吸着性

同じく植物が栄養素として取り込める形態の窒素に「アンモニア態窒素」があります。アンモニア態窒素とは、アンモニウム塩となってアンモニアやアンモニウムイオンに含まれる窒素のことです。肥料としては、硫安、塩安、硝安、りん安に含まれます。

自然界では、土壌中に含まれる尿素や有機態窒素が微生物による分解などによって酸化していき、アンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素と変化します。硝酸態窒素と比較して土壌に吸着されやすく、雨水に流されにくいので、長期にわたり表面に施用すると、表土に集積してしまいます。

植物の根が窒素を吸収するしくみは硝酸態窒素とアンモニア態窒素で異なり、どちらが適しているかは作物によって異なります。一般的にアンモニア態窒素は水稲のような水田作物に適し、硝酸態窒素は野菜類や果樹など、ほとんどの畑作物に向いています。

なお、アンモニア態窒素を施用した場合、土壌温度 30℃の条件であれば1日で硝酸態窒素に転換され、作物が吸収できるようになります。

肥料としての硝酸態窒素が野菜類へもたらす効果

窒素肥料は、植物が自らの組織を構成するために必要な要素であり、適切に与えることで作物の茎葉の成長を促進し、収量も向上することが期待できます。特に、生長の著しい生育初期には窒素が多く必要です。

窒素肥料の中でも硝酸態窒素は水に溶けやすく野菜類が直接吸収できるため、かなり速効性が高く、施用後2日で効果がみられるといわれます。ただし、水に流れてしまうので長期の効果は期待できません。

前述のように、硝酸態窒素やアンモニア態窒素を含む肥料はさまざまなものがあります。アンモニア態窒素のみを含む「硫酸アンモニウム」は施用後、土壌中のpHを下げる効果があります。

硝酸態窒素とアンモニア態窒素を同量ずつ結合させた硝酸アンモニウム(硝安)は、施用後に土壌pHが変動しにくいので使いやすいでしょう。

硫安

yukiotoko / PIXTA(ピクスタ)

使いすぎはなぜよくない?硝酸態窒素の過剰施肥によって起こり得る問題と、上手に減肥する方法

窒素は作物の生育に欠かせない養分でありながら、農林水産省では窒素の施用の低減を推奨しています。農研機構が技術資料パンフレットの「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」をまとめ公開しています。(硝酸イオンは硝酸塩・硝酸態窒素と同義と考えてよい)

参考資料:農研機構 野菜茶業研究所(現・野菜花き研究部門、果樹茶業研究部門)「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」

硝酸態窒素の過剰施用はなぜ問題があり、それを防ぐためにはどのような対策が必要なのでしょうか。

土壌への吸着性が低い硝酸態窒素は、川や地下に溶け出しやすい

生食するサラダなどでは硝酸態窒素の残留への懸念も

taa / PIXTA(ピクスタ)

硝酸態窒素は、硝酸塩という食品添加物としても使用が認められており、使用基準を守ればそれ自体が人体に有害というわけではありません。

しかし、人の体内で還元されて亜硝酸態窒素に変わると、メトヘモグロビン血症を発症する原因となったり、ニトロソ化合物という発がん性物質に変化したりする可能性が一部で指摘されています。

2021年4月現在、日本では、野菜類の持つさまざまな機能性を重視し、野菜類に残留する硝酸態窒素を食品添加物としての硝酸塩(硝酸態窒素)の摂取基準と比較したり、それに準じた上限値を設けたりすることは適切でないとしています。

とはいえ、人体には硝酸態窒素は不要なので、野菜類に残留する硝酸態窒素含有量を低減化してより安心・安全を確保することを勧めています。

硝酸態窒素の過剰な施肥は、野菜類などに残留するだけでなく、ほ場から硝酸態窒素が溶け出して地下水や河川水への流入にもつながります。それにより近隣の池や沼などの硝酸窒素含有量が増え、生態系に影響を及ぼす可能性もあります。また、地下水や河川水が飲料水に利用される恐れも考えられるので、できる限り周辺に流出させないよう配慮したいものです。

かといって、施用を極端に抑える必要はありません。窒素は、野菜類に限らず作物にとって不可欠な成分であることは間違いなく、生育が悪くなったり収量が落ちたりすることのないように施肥は必要です。

畑と河川

papa88/ PIXTA(ピクスタ)

過剰施用を防ぐ上手な施肥のポイントは、窒素肥料の使い分け

窒素は、無機、有機を問わずあらゆる肥料に含まれ、どのような肥料でも最終的に硝酸態窒素となって作物に取り込まれます。

施肥の前に土壌診断を行い、過剰となっている肥料成分があれば地域が定める減肥基準に基づいて施肥設計を見直すのもおすすめです。

土壌診断ではpHだけでなくEC(電気伝導度)(注)も意識しましょう。EC値と土壌中の硝酸態窒素との相関が高いことがわかっており、これを硝酸態窒素含有量の目安として利用できます。

(注)EC(電気伝導度):土壌中の水溶性塩類の総量を示し、肥料の成分でいうと、硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどの含有量の目安となります。

出荷する野菜類の硝酸態窒素含有量をできるだけ下げることも重要

小松菜のハウス栽培 強い光と低い生育温度が硝酸イオンの還元速度を速める

Carbondale / PIXTA(ピクスタ)

「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」では、野菜類に含まれる硝酸イオン(硝酸態窒素)を減らす方法として、以下の3つを挙げています。こちらも参照しましょう。

1.硝酸イオンの還元速度を速める

実験結果から、強い光と低い生育温度によって還元速度が高まることがわかりました。作物の体内の硝酸イオンを速く還元させるには、被覆資材は透明なものを使い遮光はしない、収穫は曇天の次の日を避け、できるだけ晴天が続いた日の午後にする、施設内温度をできるだけ下げるなどの対策が有効です。

2.硝酸イオンの過剰吸収を抑える

野菜類の品質や収量を落とさないことを大前提に、窒素肥料の利用効率も考えて、最低限の必要量を割り出して施用しましょう。

緩効性肥料を使う、全層施肥でなく局所施肥をするなど、施用量を抑える工夫が大切です。液肥や水に溶かした肥料を灌水と同時に点滴施用する養液土耕は、肥料の利用効率が非常に高く、この目的に適しています。

3.硝酸イオンの蓄積が少ない品種を選択する

同一条件で栽培しても蓄積する量が多い品種と少ない品種とがあります。ほうれん草など葉菜類については、各自治体の農政部や各地の試験場などで試験結果を公表している場合があるので、品種選択の際に参考にするとよいでしょう。

出典:農研機構 野菜茶業研究所(現・野菜花き研究部門、果樹茶業研究部門)「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」

養液土耕栽培の液肥タンク

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

硝酸態窒素は植物には欠かせない養分で、作物の栽培には必要な肥料です。より安全で持続可能な農業を続けるために、過剰な施用を控え、適切・適量の施肥を心がけましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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