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北海道の農業が抱える課題とは? 地域の特徴と、問題解決へ向けた取り組み例

北海道の農業が抱える課題とは? 地域の特徴と、問題解決へ向けた取り組み例
出典 : GlobeDesign / PIXTA(ピクスタ)

北海道は言わずと知れた日本一の農業地帯であり、数々の作物で生産量1位を記録しています。しかし、北海道の農業にもほかの地域と同様に課題が存在します。そこで今回は、北海道の農業の特徴や課題、そして、その課題を解決する動きについて解説します。

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北海道地図 小麦ほ場

GlobeDesign / PIXTA(ピクスタ)

どんな特徴がある? データで読み解く、北海道の農業

まずは、日本の農業における北海道のポジションについて、北海道農政部と農林水産省北海道農政事務所がまとめている資料をもとに見ていきましょう。

北海道農政部農政課による
「北海道農業・農村の動向 令和2年度(2020年度)」

農林水産省北海道農政事務所による
「グラフでみる平成30年間の北海道農業」
「令和2年度 北海道農業をめぐる事情」

農業産出額は日本一! さまざまな作物でシェアNo.1を誇る北海道

北海道は国内耕地面積の4分の1を有する大規模な農業地帯であり、農業の産出額も全国1位の実績を誇ります。

都道府県別耕地面積ランキング 5位まで

出典:農林水産省「令和2年耕地及び作付面積統計」よりminorasu編集部作成

都道府県農業産出額ランキング 2019年

出典:農林水産省「令和元年生産農業所得統計」よりminorasu編集部作成

農業産出額上位の品目について生産量で見ても、主要な農産物である生乳や牛肉、小麦やジャガイモ(馬鈴薯)、玉ねぎ、てん菜はもちろん、かぼちゃやニンジンなど、多くの品目で全国1位となっています。

北海道の農業算出額上位品目の生産量・頭数シェア(畜産)

出典:農林水産省「令和元年生産農業所得統計」「牛乳乳製品統計」「畜産統計」「食肉流通統計」、公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル「サラブレッドの生産頭数等各種統計」よりminorasu編集部作成

北海道の農業産出額上位品目の収穫量とシェア(耕種農業)

出典:農林水産省「令和元年生産農業所得統計」「作物統計調査」よりminorasu編集部作成

さらに、食料自給率も、国内で5道県しかない「100%超え」であり、カロリーベースは196%で全国1位を記録し、2位以下に大きな差をつけています。また、生産額ベースで見ても214%で全国第4位です。

都道府県の食料自給率

出典:農林水産省「都道府県の食料自給率」よりminorasu編集部作成

「道央」「道東」「道南」で違う農業

地形的に大きな広がりを持つ北海道は、気象や立地条件などの変化によって地域別に農業の特色があります。地域は大きく「道央地帯」「道東(畑作)地帯」「道東(酪農)地帯」「道南地帯」に分かれており、以下のような違いがあります。

道央地帯

稲作を中心に、野菜の栽培や種馬、肉用牛の飼育

道央地帯 倶知安町の稲作

道央地帯 倶知安町の稲作
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

道東(畑作)地帯

麦類、豆類、てん菜、ジャガイモ(馬鈴薯)を機械化された大規模な土地で栽培

道東(畑作)地帯 十勝の麦秋

道東(畑作)地帯 十勝の麦秋
denkei / PIXTA(ピクスタ)

道東(酪農)地帯

冷涼な気候を活かした大規模な草地型の酪農

道東(酪農)地帯 別海町の牧草地

道東(酪農)地帯 別海町の牧草地
denkei / PIXTA(ピクスタ)

道南地帯

稲作や施設園芸、畑作、果樹など集約的な農業

道南地帯 函館市 夏だいこんの収穫

道南地帯 函館市 夏だいこんの収穫
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

大規模化・法人化が進む北海道の農業

北海道の1経営体当たりの経営耕地面積は、北海道を除く都府県の平均が2.2haであるのに対し、北海道では平均が30.2haと10倍以上の耕地を運用しています。このことから北海道の農業は、日本の中でも特に大規模な経営であることが読み取れます。

1経営体当たりの経営耕地面積 北海道と都府県

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成

農家数(農業経営体数)は、2005年には約5万5,000経営体だったのに対し、2020年の調査では3万5,000経営体と、13年間で約2万も減っていますが、全体の耕地面積は微減傾向に留まっています。そのかわり、1経営体当たりの経営耕地面積が増えています。

北海道の農業経営体数・経営耕地面積・1経営体当たり面積

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成

組織形態別にみると、減少しているのは法人化していない経営体(主に個人農家)で、法人化している経営体、特に会社法人は増えています。

北海道の農業 組織形態別経営体数

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成

また、農地所有適格法人数と法人当たり経営耕地面積はともに増えており、法人化による大規模化が進んでいることがわかります。

北海道の農地所有適格法人数の推移

出典:北海道 農政部 農業経営局 農業経営課「北海道の農地所有適格法人の概要(令和2年1月現在)」よりminorasu編集部作成

北海道も例外ではない!? 農業における「担い手不足」の大きな課題

北海道 農家の親子

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

農林業センサス・農業構造動態調査によると、2005年に11.5万人だった基幹的農業従事者数は、2019年には8.2万人まで減少しています。

北海度道の基幹的農業従事者数の推移

出典:農林水産省「農林業センサス」「農業構造動態調査」よりminorasu編集部作成

年齢別にみると、最も多いのは65歳以上で全体の約41%を占めています。2010年の65歳以上割合は32.6%だったため、9年間で10%弱増加しています。

北海道以外の都府県の65歳以上割合71.2%と比較すると低いものの、農業の担い手の高齢化が進行していることがわかります。

また、新規の就農者数の推移を見ても減少傾向にあり、Uターンや新規学卒以外の新規参入者は120人程度で推移しているのが現状です。2019年は、最近10年で最も少なく合計454人でした。

北海道の新規就農者数の推移

新規参入:自ら農地を取得するなどして、新たに就農した者
Uターン:農家出身者で他産業に従事した後、就農した者
新規参入:農家出身者で学校を卒業後直ちに、又は、卒業後に研修を経て就農した者

出典:北海道 農政部 生産振興局 技術普及課「新規就農者実態調査」よりminorsu編集部作成

ICTやロボット技術で担い手不足の課題を解決! 北海道における「スマート農業」導入事例

農業の担い手不足と農家の高齢化に関する問題に対して、ICT(情報通信技術)やロボット技術の導入によって解決を図る動きが、全国的に推進されつつあります。

1経営体当たりの農地が広くまとまっている北海道は、スマート農業との相性がよいといわれ、さまざまな実証実験が行われています。

1経営体当たりの規模が大きい北海道は、スマート農業の導入に適している

農薬散布ドローンや自動操舵コンバインなどロボット農機

hiro / PIXTA(ピクスタ)

ICTやロボット技術を農業に導入する最も大きなメリットは、作業の無人化や省力化などが実現することにあります。

例えば、ドローンによる農薬散布や自動操舵コンバインなどロボット農機の導入が実現すれば、少ない人数と時間で作業が終えられます。そこで生まれた時間を生産管理などのマネジメントなどにあてることができ、大規模化がよりしやすくなります。

農林水産省が中心になって自治体やメーカーと連携してスマート農業の推進を図っていますが、北海道以外の地域では、ほ場の分散や入り組んだ形状がロボット農機の導入ハードルになることがあります。

しかし、北海道は、1経営体当たりの規模がほかの都府県より大きく、ほ場もまとまっており、ロボット農機などスマート農業の導入ハードルは低いといえます。得られる省力化メリットもほかの地域より大きいといえるでしょう。

GPSガイダンスシステムの導入により、防除作業等の省力化を実現した事例

GPSガイダンスを導入したトラクター

Suwin / PIXTA(ピクスタ)

北海道恵庭市では北海道農政部生産振興局が主体となり、生産コスト削減や省力化の課題解決に向け、GPSガイダンスシステムを水稲・畑作複合経営農家に対して実験的に導入しました。

GPSガイダンスシステムとは、GPSによりトラクターの正確な位置を測位してリアルタイムに表示し、農作業を行う際の走行経路をガイドするシステムです。

いわば「農作業用カーナビシステム」であり、効率的な運行や夜間の運転に効果を発揮します。また、オプションを装着すれば、ハンドルの自動操舵や作業を行う範囲のマッピングなども可能です。

導入した農家が栽培を行っている主な作物は水稲・秋播き小麦・てん菜・大豆などで、そのほかの作物も併せて約2,400haの面積があります。

ほ場に傾斜はなく四角い形状がほとんどで、家族構成は経営主とその妻、そしてシステムの操作を行った本人の3人です。GPSガイダンスは、各作物の防除、土壌改良資材などの散布、秋播き小麦への追肥に活用し、システムの導入後は以下のような効果が得られました。

・作物の防除用マーカーを設置する作業が20haで7時間削減
・土壌を改良する資材の散布および防除作業の省力化(自分の場所が把握でき作業しやすい)
・夜間作業を安全かつ効率的に実施できる
・夜間作業が可能となったことで適期の作業時間を確保できる

また、作業時間や経済効果では表せないものの、システムの導入は気持ちの余裕にもつながったとのことでした。

出典:北海道農政部「スマート農業の推進」所収の「GPSガイダンスシステムなど先進農業機械活用事例集<平成26年度調査版>」

ドローン散布機の導入により、ミネラル資材の葉面散布や防除作業を省力化した事例

「飛助MG/DX」

「飛助MG/DX」
株式会社 PR TIMES(株式会社マゼックス ニュースリリース 2019年12月5日)

北海道網走郡ではJT農場が良食味米(うるち)生産を目的とし、ミネラル資材の葉面散布を動力噴霧器で行っていましたが、作業の省力化や時間短縮を図るため、2017年にドローン散布機を導入しました。

栽培作物は水稲で作付面積は10.9haであり、当時の従業員数は経営者の1名だけです。ドローンは株式会社マゼックスの「飛助Ⅱ」(注)を採用し、稲作の育成期間中における葉面散布に活用しました。

(注)「飛助Ⅱ」は既に終売し、現在は新しいモデル「飛助MG/DX」が販売されています。

導入以前は動力噴霧に1ha当たり約1.5時間かかっていましたが、導入後は1ha当たり約0.5時間と3分の1の時間まで短縮に成功したのです。病害虫や雑草の防除作業にもドローンを利用することで、葉面散布と同様に作業の省力化と時間短縮に成功しました。

出典:農林水産省「農業新技術活用事例(令和元年度調査)」所収の「ドローン散布機の導入による水稲管理作業の省力化」

A地点、B地点の上空でスイッチを押すだけで自動散布飛行が可能

A地点、B地点の上空でスイッチを押すだけで自動散布飛行が可能
株式会社 PR TIMES(株式会社マゼックス ニュースリリース 2019年12月5日)

大学と民間企業・地方自治体が連携してスマート農業を推進

今回紹介した事例のほか、北海道大学の農学研究院ビークルロボティクス研究室がロボット農機の研究開発を行っており、民間企業や地方自治体と連携して実用化に取り組んでいます。

北海道大学の農学研究院ビークルロボティクス研究室 ホームぺージ

北海道大学農学研究院ビークルロボティクス研究室の野口伸教授へのインタビュー記事では、ロボット農機の現状と将来性、取り組み内容について詳細にまとめているので是非ご覧ください。

今回は、北海道の農業が抱える課題とその課題を解決するための動きについて、事例を交えて解説しました。

担い手不足や農家の高齢化といった農業が抱える課題については、北海道も例外ではありません。しかし、大規模化・法人化が進んでいる北海道はスマート農業との相性がよく、スマート農業による課題解決の先陣を切っているといえるでしょう。

道をはじめ各自治体・大学・農機メーカーなどと生産者が連携して、スマート農業の実用化に取り組んでおり、その実証結果は都府県の農家にとっても参考になるのではないでしょうか。

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百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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