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IoTを活用し生産効率向上を実現。新規就農者がチャレンジした「続けられる農業」
出典 : 出典:食べチョク 細野ファームオンラインショップ

IoTを活用し生産効率向上を実現。新規就農者がチャレンジした「続けられる農業」

新規就農者の3割が離農しているというデータが出ている中、細野ファームは新規就農からわずか5年という期間で規模拡大を成功させています。今回は、新規就農者でも継続でき、規模拡大を目指せる農業の実態について、お話を伺いました。

株式会社細野ファーム 代表 細野晃大(ほその あきひろ)さんプロフィール

株式会社細野ファーム 代表 細野晃大さん

株式会社細野ファーム 代表 細野晃大さん
画像提供:株式会社細野ファーム

大学中退後、就農を決意。農業研修を経て、2016年に細野ファームを創業。トマトの多品種栽培だけでなく、商品に付加価値をつけリピーターを獲得するマーケティング戦略や、生産効率向上を狙いIoT技術活用も行っている。

2019年には「株式会社細野ファーム」として法人化。就農4年目の2020年には、ほ場拡大と直売所の新設を実現した。

大学をやめた若者が「農業」を選んだ理由

農家の高齢化や後継者不足が問題となっている中、新規就農を志す人もいます。農林水産省によると、2019年(令和元年)の新規就農者数は55,870人と2018年(平成30年)の新規就農者数よりもわずかながら増加傾向にあります。

しかし、新規就農者のおよそ3割がさまざまな理由から営農を継続することが困難で離農してしまっているのが現状です。今回お話を伺った細野さんは、現在就農から5年目。更なる規模拡大に向けて意欲的に取り組んでいるといいます。

出典:
農林水産省「令和元年新規就農者調査結果」
総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果報告書」

株式会社細野ファーム 代表 細野晃大さん(以下役職・敬称略) 就農前までは名古屋の大学に通う普通の学生でした。農業に触れ合った経験といえば、祖母の家庭菜園の手伝い程度。成人式の後、周囲に流されるまま大学に進学した自分を振り返ったんです。

正直なところ、学生時代の私は真面目に勉学に励んでいたとはいえません。2年間大学に通って取得できた単位は13単位のみ。このままでは留年間違いなしです。

しかし、それでも大学に通い続けたいとも思えず、大学中退を決意しました。ただ辞めるのではなく、中退後の自分にできることはなんだろうと考えるようになりました。

新規参入者へのサポートが手厚い「農業」に着目

細野 大学を2年で中退した時点で、専門的な技術を持っているわけでも、ましてやキャリアもない僕にできることはなんだろうと考えました。さまざまな可能性を考えて、僕が選んだのが農業です。

新しいことへの挑戦は、どんなものでも初期投資が必要です。例えば、起業しようと考えたとき、ビジネスの内容にもよりますが、開業資金が少なからず必要になります。

新規就農にももちろん初期投資は必要ですが、国や自治体で新規就農者を支援するさまざまな制度があるため、ただ起業するよりも新規就農するほうがリスクが小さくメリットが大きいと考えたのです。

日本政策金融公庫が発表した「2019年度新規開業実態調査」によると、開業資金の平均値は1,055万円。自己資金とは別に金融機関から融資を受けて開業するのが一般的です。

出典:日本政策金融公庫「2020年度新規開業実態調査」

新規就農の場合、認定新規就農者の認定を受けることで投資資金や所得確保支援などの支援策を優先して受けられる制度や、研修期間の所得を確保できる農業次世代人材投資資金(準備型)など、さまざまな支援策を利用することができます。

手厚い支援があるからこそ、その分、よい農業経営を

細野 新しくビジネスを始めようとするとき、公的機関によってここまで手厚く支援してくれる業界は、ほかにはないのではないでしょうか。

だからこそ、公的な支援を利用して農業に従事するのであれば、その分農業界に貢献できるような農業経営を実践すべきだと考えています。

なぜ「トマト」で就農したのか

さまざまな支援策を活用して農業の世界に足を踏み入れた細野さん。彼が栽培品目として選んだのはトマトでした。その理由として、トマトには3つの大きなメリットがある、と細野さんはいいます。

さまざまな特徴のトマト

細野ファームではさまざまな特徴のトマトを栽培している
出典:食べチョク 細野ファームオンラインショップ

1)差別化のしやすさ

農林水産省の品種登録データベース上に登録してあるトマトの品種数は333件(2021年7月現在)で、世界には8,000種以上もの品種があるといわれています。

品種ごとに色や大きさ、形、味わいに違いがあることに加え、栽培方法を工夫することで同品種であってもより高糖度のものを栽培することが可能です。

国内の需要を把握し栽培品種を厳選することで、容易に市場での差別化を図ることができます。また、多様な品種を栽培することができれば幅広い顧客ニーズに応えることができます。

2)マニュアル化のしやすさ

トマト栽培の歴史は古く、8~10世紀頃には栽培型のトマトが誕生したといわれています。長い時間をかけて確立された栽培方法は広く知られており、農家が栽培する作物としてだけではなく家庭菜園で育てる作物としても選ばれています。

品種改良や秀品率向上、スマート農業の実現を目的とした研究も進められており、多くの論文も発表されています。

広く知られた栽培方法に加えて、最新の研究情報を活用することで、独自の栽培マニュアルを確立することができます。栽培方法をマニュアル化することは作業効率向上、作物の品質維持につなげることができます。

3)鮮度保持力

トマトの貯蔵限界は完熟したもので1〜3週間、緑熟期のもので2〜5週間といわれています。最適な温度と湿度を保つことで、出荷後に店頭に並ぶまでの間にも鮮度を保つことができます。

鮮度保持力が高い作物を栽培することで、ほ場周辺だけではなく、広範囲に作物を流通させることができます。販売エリアを広げやすくなれば、収益アップにつなげることも可能です。

「ニーズ」と「クオリティ・収量」のバランス

味や見た目にこだわった多品種栽培で幅広いニーズに対応

細野ファームで一番人気の「スピカ」

細野ファームで一番人気の「スピカ」

細野ファームでは現在13品種のトマトを栽培しています。細野さんが実際に試食し、厳選したといいます。

細野 ほ場の栽培環境に適したもの、栽培しやすいもの、そして何より僕が実食しておいしいと思った品種に絞って栽培を行っています。

その多くは国内にはほとんど流通していない海外の品種で、味わいはもちろん見た目にもさまざまな違いがあります。多品種を栽培することで、幅広いニーズに応えることができます。

生産効率向上・品質保持・顧客ニーズへの対応のバランスを探る

幅広い顧客ニーズに応える多品種栽培を実践しつつ、高い品質保持を実践しようとすれば、おのずと作業時間は増えます。

細野 お客様に満足していただける品質を維持することは重要です。しかし、そのために作業効率が下がり長時間労働が避けられない状況になってしまっては、作業者の負担が大きくなり、長期的に見て農業経営の持続に悪影響が出てしまいます。

生産効率向上とお客様のニーズに応える品質維持の両立を実現させるため、今後は栽培品種を現在の半分以下にしようと厳選を進めています。

環境制御技術を活用することで生産効率を上げる

細野ファームのフェンロー式ガラスハウス

細野ファームのフェンロー式ガラスハウス
画像提供:株式会社細野ファーム

光合成を最適化できるフェンロー式ガラスハウスを導入

生産効率向上のため、細野ファームではIoT技術を活用しています。

細野 トマト栽培でさらに収益を上げるために、独学で植物生理学を学びました。その結果、トマトの品質維持・向上、収量アップには光合成を最適化することが重要だとわかりました。

そこで、それまで利用していた中古のハウスよりも高い採光性が期待できる、オランダ式の「フェンロー式ガラスハウス」を建設しました。

フェンロー式ガラスハウスの特徴として、骨材が細いことで影になる部分が少なくなり採光率が高くなること、軒高が高く換気効率を上げられること、ガラスを用いることで光線透過率が上がることなどが挙げられます。

ハウス内の環境制御を可能にする「ポケットファーム」の開発と導入

ハウスを新しくしても、ハウス内の環境が作物にとって最適なものでなければ意味がありません。加えて、環境制御は天候に左右される要素が多くあり、ハウス内を常に最適な状態に保つためには細やかな管理体制が必要となります。

ハウス内に設置されたポケットファームのメインユニット

ハウス内に設置されたポケットファームのメインユニット

細野 ハウス内の環境制御システムはさまざまなメーカーで開発されています。しかしそれらはどれもコストが高く、とても新参者が出せる金額ではありませんでした。

そこで、買えないのならば作るしかないと考えたんです。比較的低コストでシステムの開発を請け負ってくれるIT企業を探し、3年かけて開発したのが「ポケットファーム」です。

細野ファームが開発した「ポケットファーム」ではスマートフォンやPC上からハウス内の設備をクラウドで一元管理できます。

ハウス内の環境情報をモニタリングするのはもちろん、調整のために天窓や側窓、カーテンの開閉、暖房機やミストの設定調整を行うことができます。

スマートフォンでハウス内の状況を確認することができる

スマートフォンでハウス内の状況を確認することができる
画像提供:株式会社細野ファーム

細野 作物の品質向上・収量アップへの影響ももちろんですが、このような技術を活用することで、農作業の再現性がグッと高まります。

ほんの少し条件が変わっただけで、同じクオリティの作物を栽培できなくなる。そのために収入が減ってしまうこともある。それがこれまでの農業です。

工業製品を生産するような再現性の高さを実現することは、現時点では非常に困難です。しかし、さまざまな技術を駆使することで再現性を少しでも高めることは可能です。再現性の高い農業を実践することが、就農の継続にも繋がると考えています。

これまでの販売スタイルと今後の方向性

収量が限られているからこそ「付加価値」をつけて販売する

細野ファームでは販売されるさまざまな加工品

細野ファームでは作物だけではなくさまざまな加工品も販売されている
画像提供:株式会社細野ファーム

細野ファームのキャッチコピーは「トマトで少しの贅沢を」。このコピーの通り、細野ファームが直販で販売しているトマトや加工品は、相場価格よりも高い金額で販売されており、贈答用として購入される方もいます。

細野 多品種栽培を成功させ、ハウスの新設や直売所の開設もしましたが、まだまだ大規模農家というわけではありません。限られた収量と、国内の人口減少によって「お客様」の数が減っていく状況にあります。

その中で確実に利益を得るためには、商品に付加価値をつけ、細野ファームの商品を選んで購入してくださるリピーターを獲得するマーケティングを実践していく必要がありました。

これまでのトマトの消費イメージとしては料理に使う、料理に添えるというところが一般的なところでしょう。

そこにおやつとして食べる、ギフトとして贈るという付加価値を提案し、それに沿った見た目や味の商品を販売することで、相場価格以上での販売であってもリピーターを獲得することが可能になります。

消費拡大のために安価で提供できるようになりたい

市場にも出荷し、直販でも作物や加工品を販売している細野さんが今後目指しているのは、前述した「栽培品目の絞り込み」、そして「低価格での提供」です。

細野 世の中には、一般的にはあまり流通していないような、見た目も味もよいトマトがたくさんあります。しかし、そういったほかにはないトマトを栽培しても、収量に限りがあるのが細野ファームの現状です。

収量に限りがあるうちは高単価で販売しなければ利益を得ることは困難ですが、そうすると、「高単価でもトマトを買ってくださるお客様」以外には、細野ファームのトマトのおいしさを伝えることができなくなってしまうというジレンマが生まれます。

このジレンマを解消するためには農場規模の拡大が必須です。規模拡大が実現すれば、収量アップも見込めます。

持続可能な農業のために|無理のない働き方を

収量アップを目指す細野ファームでは、トマト以外の作物の栽培にも挑戦しています。同時に、栽培品目の厳選や、農作業の再現性を高める設備投資にも積極的です。

消費者に届ける作物の品質を担保しようとしても、実働の負担が大きければいずれ限界が訪れてしまいます。ましてや、規模を拡大すれば労働量も増えていくのは明らかです。

農業従事者の減少や、新規就農者の離農の原因として、利益をあげながら長期間農業を継続することの難しさや、5年後10年後といった長期スパンで農業を継続させる見通しの立てにくさなどが挙げられます。農業の持続可能性を高めるためには、この問題に向き合っていかなければなりません。

どんな状況でも農業を無理なく継続するために、どんな作物をどのように栽培するか、栽培した作物をどのように売っていくか、どのような方向性で農場経営を進めるか。

この意識を持って農業経営に取り組むことで、営農の持続性を高めることができるのではないでしょうか。

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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