ASIAGAPとは? JGAPとの違いや農家のメリット、認証手順を一挙解説
海外輸出を含めて販路開拓に取り組む農家にとって、GAP認証取得は取引先からの信用を得たり、競争力を高めたりするうえで重要だといえます。この記事では、複数あるGAP認証制度のうち、ASIAGAPについてその特徴やメリット、手続き方法などを解説します。
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目次
ASIAGAPは日本発のGAPの1つで、アジア共通のGAPプラットフォームをめざして2017年にスタートしました。JGAPやGLOBAL G.A.Pとの違いや、どのような農家に向いているかなど、ASIAGAP導入を検討する際に押さえておきたいポイントを説明します。
持続可能な農業経営の確立をめざす「ASIAGAP(アジアギャップ)」とは?
marucyan – Adobe.stock.com
ASIAGAP(アジアギャップ)は、JGAPと同様に社団法人日本GAP協会が開発および運営を行うGAP認証制度の1つです。
そもそもGAPとは?
そもそもGAPとは、Good Agricultural Practicesの頭文字で、直訳すると「よい農業の実践」となりますが、日本では「農業生産工程管理」といわれています。
Yaowalak Rahung/ Shutterstock.com
よい農業というと曖昧な表現ですが、GAPとは食品安全・環境保全・労働安全の3つを確保しつつ、人権福祉や農場運営を適切に行い、持続可能な農業をめざす取り組みを指します。
こうした取り組みを対外的にわかりやすくアピールするために、第三者が行う認証制度がASIAGAPやJGAP、GLOBAL G.A.Pです。
ASIAGAPとは?
ASIAGAPは、2018年10月31日に、GFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアティブ) (注)にベンチマーク規格の1つとして承認されました。
(注)GFSI:世界的な消費財流通業界の組織団体TCGF(The Consumer Goods Forum)傘下の組織で、食品安全の取り組みの一環として2000年に設立された。世界的な食品企業が集まり、協働して食品安全管理の承認などを行っている。
そのためASIAGAPは、GFSIの要求に沿って、国際的な衛生管理基準となっているHACCP(注)をベースとした考え方を持ち、食品防御(フードディフェンス)や食品偽装防止を含む基準作成や審査を行っています。
(注)HACCPとは、食品の生産工程において、原材料の受入れから最終製品までの各工程ごとに、微生物による汚染、金属の混入などの危害要因を分析(Hazard Analysis)したうえで、危害の防止につながる特に重要な工程(Critical Control Point)を継続的に監視・記録する工程管理システム
ASIAGAP認証を取得した農業法人や農家、企業は、安全な食品提供に対する消費者の高い信頼を、世界的なレベルで得られます。
dizanna / PIXTA(ピクスタ)
ASIAGAP認証の範囲
ASIAGAPが認証する範囲や対象品目も、GFSIの要求に沿って定められています。対象品目は青果物・穀物・茶の3つに分類され、分類ごとに標準品目名リストがあります。このリストに記載された作物のみが認証対象です。
認証の範囲は、3つの分類ごとにそれぞれ「栽培・収穫」「取扱」「加工」という3段階の行程に分けられます。「取扱」とは、青果物であれば選果など、茶の場合は荒茶、穀物では乾燥・調整などの工程が含まれます。
農産物としての認証であるため、「加工」は項目としてはあるものの、実質、加工済みの農産物は認証の対象外です。
4U5/PIXTA(ピクスタ)
例えば茶の「仕上げ茶」、穀物の「精米」などがそれに該当し、仕上げ茶や精米後の米は、ASIAGAPの認証は受けられません。
「JGAP」や「GLOBALG.A.P(グローバルGAP)」との違い
ASIAGAP認証を検討する際に、比較の対象となるのがJGAPやGLOBALG.A.P(以下、グローバルGAPと表記します)でしょう。この2つの認証制度にはどのような違いがあるのでしょうか。
JGAPは、日本国内における標準的なGAP認証制度
GAP認証取得で、大手流通の特産物フェアなどの販路が広がる
出典:株式会社 PR TIMES(イオン株式会社 ニュースリリース 2021年3月26日)
JGAPは日本の標準的なGAP認証制度です。
GFSIの承認は得ていないのでその影響は受けていませんが、それ以外の理念は同じで、高い水準の安全性や環境保全、労働環境などを持つ経営体を認証します。
国内での信頼性は高く、2021年3月末時点の全国の認証農場数は、ASIAGAPの2,427に対し、JGAPは5,020です。
ASIAGAPは、このJGAPの内容に加えてGFSIの要求事項を満たした「GFSI承認の国際規格」という位置づけであり、日本だけでなくアジアにおけるGAP認証の主流となることが期待されています。
JGAPについてはこちらの記事もご覧ください。
グローバルGAPとは、欧州を中心に世界120ヵ国以上で活用されている国際規格
出典:株式会社PR TIMES(テュフズードジャパン株式会社 ニュースリリース 2020年12月4日)
グローバルGAPは、ヨーロッパを中心に世界120ヵ国以上で実践され、実質的な国際標準規格となっている認証制度で、運営組織はドイツに本部を置く非営利組織「Food PLUS GmbH」です。
グローバルGAPの認証取得を農産物の受入条件に挙げている国や世界規模の大手小売りも多く、欧米への農産物の輸出をめざすのであれば認証の取得は必須です。
ただし、信頼性が高い分、承認のための水準も高く、また、審査費用も高額です。審査費用25~55万円程度に加え、審査員の旅費が必要になります。
高い信頼を得て欧州市場の基準となったグローバルGAPのように、アジア市場での実質的な標準規格となることを、ASIAGAPはめざしています。
イオン株式会社では、グローバルGAP認証を取得した自社運営農場で生産された農産物などをGLOBALG.A.P.Numberラベル付きで展開している
出典:株式会社PR TIMES(イオン株式会社 ニュースリリース 2018年9月25日)
ASIAGAP認証は取得するべき? メリットが大きい営農形態の例
それぞれの認証制度の特性を踏まえたうえで、ASIAGAPの認証を取得すべき営農形態の例を見てみましょう。
ASIAGAPに取り組むことで得られる農家のメリット
取り組むことで得られるメリットは、適切な農場管理・運営方法の導入による作業効率向上と労働環境の改善です。
適切な農具の管理や作業工程の見直しなどを導入することで、労働事故のリスクが減り、従業員にとっての労働環境もよくなります。
さらに、JGAPやASIAGAPの認証を得ることで、農場の信頼性や農産物の安全性を取引先の企業や店舗に対して客観性を持ってアピールできます。
人材採用の際にも、JGAPやASIAGAPの認証は職場環境の整った優良企業であるとの強みとして押し出せます。
例えば「有限会社深緑茶房」では、JGAPとASIAGAPを取得していますが、「GAP認証取得は自分たちの『働きやすさ』にもつながった」そうです。
海外展開を視野に入れるなら、ASIAGAPへの取り組みが追い風に
Komaer / PIXTA(ピクスタ)
国際規格であるASIAGAPならではのメリットとして、農作物の輸出力が強化されることが挙げられます。
海外企業とのやり取りにおいては、GFSIの要求基準も満たすASIAGAPの認証は国際的評価を高める重要な要素になるでしょう。GFSIの承認により、ASIAGAPの国際的な評価は格段に上がったといわれています。
特にアジア地域に向けて農作物の輸出を行っていたり、販路の拡大を検討したりしている農家にとっては、ASIAGAP認証の取得は競争力を高める大きな要素になります。
日本の団体が管理・運営しているので、申請にあたってのハードルが低いこともメリットといえるでしょう。
認証農場になろう! ASIAGAPの導入方法と適合基準
東京オリンピック・パラリンピックへの食材提供をめざし、ASIAGAP認証を取得した「ひょうご酒米処合同会社」
出典:株式会社PR TIMES(ひょうご酒米処合同会社 ニュースリリース 2018年10月29日)
ASIAGAPの認証を得るためにはどのような準備や手順が必要かについて解説します。なお、ASIAGAPとJGAPには「個別認証」と「団体認証」がありますが、この記事では団体認証については割愛し、個別認証について説明します。
農家がASIAGAPに取り組む方法(個別認証)
ASIAGAP認証の取得をめざすには、まずASIAGAPについて学ぶ必要があります。ASIAGAPの求めるものを正確に把握するために、日本GAP協会の認定を受けた研修や、ASIAGAP/JGAP指導員からの指導のプログラムが用意されています。
研修や指導を受けたら、日本GAP協会の公式サイトから「ASIAGAP 農場用 管理点と適合基準」のファイルを入手し、記載されている適合基準をチェックして、何ができていて何ができていないのかを具体的に把握しましょう。それに基づいて「農場管理マニュアル」を作成し、運営・管理手順を見直し、改善を図っていきます。
改善とチェックを繰り返し、適合基準を満たすと判断できれば、各認証機関へ審査の申し込みを行います。
審査の結果、合格基準を満たした農場には、ASIAGAP認証書が与えられます。不適合だった場合は、不適合とされた部分を見直し、再チャレンジしましょう。
一般財団法人日本GAP協会ホームページはこちら
どんな管理が求められる? ASIAGAP適合基準の例
例えば経営面では、「農場管理システムを構築し、農場管理マニュアルとして文書化している」「農産物の安全性リスクに基づいて、食品安全マネジメントシステムが策定され、実施され、維持・継続的に改善されている」「経営者をはじめ、農場・食品管理・農産物取扱い施設の管理・肥料や農薬の管理・労働安全・労務管理の各責任者を確認できる組織図がある」などが評価に含まれます。
生産面では、「ほ場及び農産物取扱い施設での作業が記録されている」「食品の安全性を確保するのに適した状態へほ場・施設や機械設備を維持・確認・検査している」など、作業記録の有無や食品安全にかかわるリスク管理を行えているかなどが必須項目として定められています。
これらの項目が非常に細かく網羅され、「必須」「重要」「努力」のレベルに分けられ表記されています。少なくとも自己チェックで「必須」の項目をすべて満たせるように経営管理を整える必要があります。
最新の基準文書はこちらからご確認ください。
一般財団法人日本GAP協会 ドキュメント
まちゃー/PIXTA(ピクスタ)
ASIAGAPは、アジア圏でのGAPプラットフォームをめざして活動を続け、2018年にGFSIの承認を得たことにより国際的な評価が高まりました。
今後、特にアジアの企業との契約など、アジア方面への進出をめざす農家にとっては非常に重要な認証になるでしょう。スムーズな認証取得のため、早期に準備を整えマニュアルに沿った経営改善に取り組みましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。