農業次世代人材投資資金とは? 交付の条件や注意点、活用事例を一挙解説!
農業次世代人材投資資金とは、新規就農者を資金面と生活面で支える助成金制度です。2つの交付金を活用すると、最長で7年間受給できますが、詳細な要件が設けられているので注意が必要です。そこで、この制度の活用方法と、活用するうえでのポイントを解説します。
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目次
新たに農業を始めようとする新規就農者をサポートする制度が農業次世代人材投資資金です。この制度には2つの交付金があり、それぞれ対象者が違います。この記事では制度の特徴と交付要件、メリットとデメリットについて紹介します。
農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)とは?
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
農業次世代人材投資資金は、新規就農者の準備費用と就農後の経営を支援する公的制度です。それぞれ「準備型」と「経営開始型」と呼ばれています。
対象者は、原則として就農時に49歳以下であることが条件で、農業を続けていく強い意志が求められます。まずは準備型と経営開始型の詳細を解説します。
これから新規就農をめざす人のための「準備型」
新規就農をめざす人をサポートする準備型の交付金です。こうした制度を賢く利用して、円滑に農業へ参入できるように準備をしていきましょう。
準備型の概要
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準備型の交付金は就農前の研修をサポートするのが目的で、主体は都道府県です。研修計画などの書類を添えて都道府県に申請します。交付の対象になると、年間最大150万円が最長2年間交付されます。
準備型には特例があります。将来の営農計画との関連が認められると、国内で2年間研修を行ってから海外研修を受ける場合に限り、追加で1年間の交付を受けられます。また、新規就農の夫婦が申請をすれば、それぞれが対象になります。
交付金を受け取るためには、必ず決められた要件を満たさなければなりません。詳しくは農林水産省のホームページで確認できますが、次項でよりわかりやすく解説します。
出典:農林水産省「農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)」所収の「農業次世代人材投資資金の交付要件や実施体制について(令和3年3月31日)」
交付を受けるための条件
まず、準備型の対象者は就農時に49歳以下で、次世代を担う農業者になるという強い意欲が必要であると明記されています。大前提として、将来にわたって農業を続けることが求められています。
就農形態は独立自営農でも雇用就農でも問題ありません。家業を継ぐ場合は研修が終わってから5年以内に親から農業を継承するか、共同経営者として農業法人を運営する必要があります。]
独立、自営で就農する場合には、同期間内に認定新規就農者もしくは認定農業者になることが必要です。
※認定農業者についてはこちらの記事をご覧ください。
研修内容にも条件があり、都道府県が認定した農業大学校などの研修機関で、1年間で1,200時間以上の農業研修を受けなければなりません。
ほかにも、常勤で別の仕事に就いていないこと、生活保護や求職者支援制度の対象になっていないことも条件です。また、青年新規就農者ネットワーク(一農ネット)への加入も求められます。
農林水産省「青年新規就農者ネットワーク『一農ネット』でつながろう!」
申請する時点で、上記の要件をすべて満たしている必要があります。要件を満たしていないと判断されれば、申請が却下される可能性があります。場合によっては交付金の返還を求められる場合もあるので注意しましょう。
新規就農から経営が安定するまでを支える「経営開始型」
準備型とは異なり、就農後の経営をサポートしてくれる制度です。新規就農後はさまざまな助成金を活用して経営を採算ラインに乗せていきましょう。
経営開始型の概要
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経営開始型の交付金は就農後の経営を安定させるための資金で、青年等就農計画書などの書類を添えて市町村に申請します。最長で5年間、年間最大150万円(4~5年目は最大120万円)が交付されます。ただし、前年の所得をもとに、交付金額が減額される可能性があります。
経営開始型にも特例があり、夫婦が同じ経営体で新規就農する場合、2人合わせて1.5人分の交付を受けられます。ほかにも複数の新規就農者が共同で法人を設立した場合、それぞれに年間最大150万円が交付されます。
出典:農林水産省「農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)」所収の「農業次世代人材投資資金の交付要件や実施体制について(令和3年3月31日)」
交付を受けるための条件
経営開始型の要件は非常に複雑なので、概要をわかりやすく解説します。
まず、対象者は49歳以下で就農した人で、次世代を担う農業者になるという強い意欲が必要な点は準備型と同じです。
就農形態は独立自営農かつ認定新規就農者であり、青年等就農計画などに基づいて農業経営を行う必要があります。農地や機械・施設と、取引先など細かい条件が決められているので、詳細を必ず確認してください。
青年等就農計画には、就農後5年程度で農業による自立が現実的な内容であることが求められます。家業を継承する場合は、経営発展に対する取り組み計画も盛り込まなければなりません。
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また、市町村が策定する「人・農地プラン」に位置付けられており、同時に青年新規就農者ネットワーク「一農ネット」に加入する義務もあります。生活保護や求職者支援制度の対象になっていないことと、「農の雇用事業」の助成実績がないことも条件です。
農林水産省「青年新規就農者ネットワーク『一農ネット』でつながろう!」
経営開始型の申請も上記すべての要件を満たしていなければなりません。要件を満たさないと判断されれば、交付金の返還を求められる場合があります。
農業次世代人材投資資金を活用するメリット・デメリット
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農業次世代人材投資資金を有効に活用すれば、就農前の準備から就農後の経営安定化までの資金サポートを受けられます。ここからは準備型と経営開始型のそれぞれのメリットとデメリットを解説します。
「準備型」のメリット・デメリット
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実践経験がない新規就農者が農業を展開するためには、研修で知識や技術を蓄積しながら実際の農業を体験しなければなりません。この期間に資金面のサポートが受けられると、生活費に悩むことなく研修に集中できます。
メリット
準備型は最長で2年間の交付が受けられるので、研修で農業技術を磨きながら、常勤でなければアルバイトなどで収入を得ることも可能です。研修と同時に就農後に必要な資金を蓄えることもできる点はメリットでしょう。
デメリット
ただし、一定の条件から外れてしまうと交付金の返還対象になる場合があります。例えば、適切に研修を受けていないと判断された場合が該当します。
ほかにも、研修終了後1年以内に農業に就業しないときや、交付期間の1.5倍(最低2年間)以上農業を続けない場合には交付された資金を返還しなければなりません。この点はデメリットといえるでしょう。
「経営開始型」のメリット・デメリット
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就農後には設備や機械などを揃える資金が必要で、作物の栽培を始めても、すぐに品質のよい野菜や果物が収穫できるとは限りません。また、販路の開拓もしなければならず、新規就農時は農家にとって最も経営が困難で不安な時期です。
メリット
最長5年間受け取れる経営開始型の交付金は、農業を続けるうえで大きな支えになるでしょう。農業による収入が増えてきたら、交付金を設備投資に回すなど、有効な使い方で経営強化を図ることも可能です。
デメリット
経営開始型も準備型と同様、交付金の返還対象になるケースがあります。
例えば、交付期間が終わったあとで、交付期間と同じ期間農業を続けなかった場合です。最長5年間の交付を受けたら、交付期間終了後から少なくとも5年間以上は農業を継続する義務があります。
また、経営開始型には交付が停止されるケースもあります。交付金を除いて前年の所得が350万円を超えた場合や、管轄する市町村によって青年等就農計画などを実行していないと判断された場合が該当します。
「準備型」と「経営開始型」を合わせて最長7年交付を受けることも可能
農業次世代人材投資資金を最大限に活用すると、準備型と経営開始型を合わせて、最長で7年間の資金サポートを受けられます。総額は最大で990万円にもなるため、新規就農を真剣に考えている場合は積極的に利用を検討するべき制度といえるでしょう。
ただし、準備型を申請すれば、自動的に経営開始型へと移行するわけではありません。それぞれ交付する主体が異なるため、申請先や申請方法が違います。両方を利用するときは、計画を立てて適切な申請を行ってください。
利用するか否かは「農業を続けていく意志の強さ」がポイント
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準備型では研修計画の提出義務がありますし、経営開始型では青年等就農計画書などを提出して、その計画に基づいて研修と農業経営を行わなければなりません。計画の実効性と、農業に対する姿勢が試されます。
交付の要件として「次世代を担う農業者になるという強い意欲があること」と明記されていることからも、農業次世代人材投資資金を利用する方には、本気で農業に取り組む強い意志が求められます。
利用を検討する際は、長期にわたって農業を継続する意思と、安定した収益を上げられるプランが手元にあるかどうかを考慮しましょう。
【参考】資金の交付を受けた場合、確定申告での扱いはどうなる?
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農業次世代人材投資資金の交付を受けると、必ず確定申告を行わなければなりません。基本的に準備型の場合は雑所得に計上し、経営開始型の場合は事業所得として申告します。
ほかにも交付対象者によっては、異なった科目で申告が必要な場合もあるので、詳細は所轄の税務署に問い合わせることをおすすめします。
どうやって使われている? 農業次世代人材投資資金の活用事例
最後に、農家がこの制度をどのように活用しているのか、具体的な事例を紹介します。活用事例も参考にしながら用途を決定しましょう。
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準備型資金を活用し、茶農家へ雇用就農した事例
三重県で準備型を活用した事例では、茶農家をめざす新規就農者が、三重県農業大学で2年間の研修を受けました。
研修中は実習先の農家で積極的に実践的な技術を学びつつ、就職準備活動も行っていたそうです。また、大型特殊免許を取得するなど就農後の準備も始めていました。
準備型の資金サポートがあったおかげで、研修に集中できたと回答しています。研修終了後は、実習先の農家の紹介で、複数の茶農家が設立した合同会社に雇用の形で就農しました。
就農5年目には、5haの茶畑で栽培管理や病害虫防除、製茶工程まで担当するようになっています。
出典:農林水産省「新規就農者の事例(就農を目指して研修中の事例)」
経営開始型資金やその他の補助金をフルに活用し、ハウス栽培の基盤を整えた事例
岐阜県で経営開始型を活用した事例では、高山市が主催する就農体感ツアーに参加したことがきっかけで、新たに就農したケースがあります。
参考:高山市「農業を始めたい方へ(就農支援)」
就農後は約30aの規模でトマト栽培を始めたものの、1年目は充分な栽培管理体制が構築できなかったそうです。
そこで、JAの営農指導員の助言や優良農家の情報から、ロボットスプレーカ(無人防除機)、防虫ネットや防草シートなどの導入などが栽培管理の効率化に有効なことを学び、その導入資金に複数の支援制度を活用しました。
具体的には、経営開始型の交付金を消耗品や資材購入に利用し、青年等就農資金で中古トラクター、ロボットスプレーカ、管理機などの農業機械を導入しました。
現在も継続してトマト栽培に取り組み、交付金などを効率的に活用しながら、就農5年目までに50aへの規模拡大と農業所得500万円をめざしています。
出典:農林水産省「新規就農者の事例(新規就農した先輩農業者の事例)」
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
農業次世代人材投資資金は、新規就農者を資金面でバックアップする、農家にとって非常に頼りになる制度です。交付要件では厳しい面があるものの、最大限に活用すれば、最長で7年間の資金サポートが受けられます。農業経営を志す人は、ぜひ利用を検討してください。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。