農業後継者になろう! 農家を継ぐ方法と、補助金・支援制度

新規就農者が農家を継ぐことは、農業後継者不足の対策として有効であり、就農者側にも補助金などを活用できるというメリットがあります。本記事では、希望者をマッチングするサービスや各種優遇制度、農業継承手続きをスムーズに進めるポイントを解説します。
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目次
全国で深刻化する、農業後継者不足の現状
国や自治体が農業後継者を支援する背景には、深刻な農業者不足が挙げられます。
2020年農業センサスによると、2020年の農業従事者は約136万人で、20年前の2000年と比較して約104万人減少しています。また、農業従事者の平均年齢は2020年で67.8歳となり、2000年から5.6歳上昇しています。

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成
従来の農業従事者が高齢になっても後継者が確保できていないと、廃業を余儀なくされてしまいます。日本の農業を守るためには、新規就農者だけでなく農業後継者の確保も重要な課題となっています。
しかし、全国の農業経営体に「5年以内に農業経営を引き継ぐ後継者を確保しているか」について調査した結果、確保できているのは24%にとどまっているのが現状です。
調査対象を団体経営体(組織経営体に法人化した家族経営を加えたもの)に限定すると、確保できている割合が43%に上昇していることから、特に個人農家で後継者不足が深刻であることが伺えます。

出典:農林水産政策研究所「2022年度研究ピックアップ」内「全国各地で農業経営継承の危機が深刻化―7割の経営体が後継者なし―」よりminorasu編集部作成
従来は、農業の後継者は親族から確保するのが一般的でしたが、さまざまな理由で親族に継承できない農業従事者は多数います。そのため、現在は親族関係なく農業後継者を確保することが重視されています。
農家を継いで新規就農する3つのメリット

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
これから新規就農を考えているなら、ゼロから自力で準備を整え独立するのではなく、既存の農家の跡取り(農業後継者)になる選択肢もあります。自力で新規就農するには、農地取得や農業機械への投資など、実際に農業を開始する前に解決すべき課題が山積みです。
一方、農業後継者として新規就農した場合には、主に次の3つのメリットがあります。
- 初期投資の費用を抑えられる
- 受け継ぐ農家から知識と経験を得られる
- 就農直後から売上を確保しやすい
新規就農する場合、1年目に必要な平均費用は755万円です。農業継承であれば、新規就農に必要な初期投資の費用を大幅に削減できます。
出典:全国農業会議所(農業をはじめる.JP)「調査結果等」所収「令和3年度(2021年)新規就農者の就農実態に関する調査結果」
また、農業継承であれば農地だけでなく、先代農家の知識や経験も引き継げるため、自ら試行錯誤することなく就農から一定の収量を確保できる可能性があります。
さらに、経営基盤や販路もそのまま活かせる場合もあり、就農直後から売上を確保でき、就農1年目から自身の農業経営を軌道に乗せることも可能です、
これらのメリットは新規就農者にとって、就農のハードルを下げると同時に農業経営を円滑に進めることに大いに寄与するでしょう。
何から始める? 農家の後継ぎをめざす方法

支援制度を活用してスムーズに農業継承するのがおすすめ
cba / PIXTA(ピクスタ)
一から農家の後継ぎをめざすには、まず後継者を募集している農家を探す必要があります。ここでは、後継者を探す代表的な方法である「事業継承マッチングサービスの活用」と「農業関係の求人情報の探索」を紹介します。
1. 事業継承マッチングサービスを活用する
農業継承したい農家を探す方法として最初に挙げられるのは、事業継承マッチングサービスです。
事業継承マッチングサービスは、農業継承したい農家の情報が集まったWEBサイトです。後継者を探している農家に関する情報がまとまっているため、どの農家から受け継ぎたいか農家を効率よく探すことが可能です。
事業継承マッチングサービスには、以下のように第三者機関が運営しているものと各地方自治体が運営するものがあります。
第三者機関
農業をはじめる.JP(全国新規就農相談センター)
https://www.be-farmer.jp/recruitment/devolution/
あぐりナビ
https://www.agri-navi.com/
農mers
https://noumers.jp/
地方自治体
北海道DE農業をはじめるサイト
https://www.adhokkaido.or.jp/ninaite/transfer/
とちぎ就農支援サイトtochino(トチノ)
https://tochi-no.jp/article/detail/584
くまもと農業経営継承支援センター
https://hinokuninet.com/services/newfarmers/succession-support/
第三者機関が運営している事業継承マッチングサービスは、全国から後継者を探している農家の情報が集まっているため、都道府県関係なく自身の希望に沿った農業継承を探すことが可能です。
各自治体では、その地方の農家情報しか集まっていませんが、農地取得・資金面のサポート、就農研修、体験実習の受け入れ先紹介など、新規就農に向けてさまざまなサポートを受けられる場合があります。
2. 農業関係の求人情報を探す
農業継承したい農家の求人に応募するのも、農業継承する方法として挙げられます。
求人を出している農家の中には、将来的な事業継承も視野に入れて従業員を募集している場合があります。
こうした求人に採用されれば、将来的に農業後継者となることを視野に入れつつ、従業員として働きながら農業継承に必要なことを学ぶことが可能です。
時間をかけて農業継承していけるため、就農したいけどいきなり農業継承するのは抵抗がある方におすすめの方法です。
農業後継者が使える補助金・支援制度の例

プラナ / PIXTA(ピクスタ)
ここでは、農業後継者として新規就農する際に活用できる補助金や支援制度として、「経営継承・発展支援事業」「就農準備資金」「経営開始資金」を紹介します。
経営継承・発展支援事業
経営継承・発展支援事業は、国と市町村が一体となって地域農業経営の後継者を支援する制度です。先代事業者との血縁関係に関わらず補助を受けられます。
本事業では、下記のような事業継承や経営発展に必要な経費に対して、上限100万円で国と市町村から2分の1ずつ助成されます。
- 法人化
- 新たな品種・部門等の導入
- 認証取得
- データ活用経営
- 就業規則の策定
- 経営管理の高度化
- 就業環境の改善
- 外部研修の受講
- 販路開拓
- 新商品開発
- 省力化・業務の効率化、品質の向上
- 農畜産物等の規格・出荷方法の改善
- 防災・減災の導入
助成金を受け取るには、経営発展計画の策定など一定の要件を満たしたうえで、下記のような地域農業の担い手(中心経営体等)である先代事業者から農業継承されることが条件です。
- 地域計画のうち目標地図に位置付けられた者
- 基本構想の目標所得水準を達成している者
- 実質化された人・農地プランに中心となる経営体と位置づけられた者
- 市町村長が地域農業の維持・発展に重要な発展を果たすと認めた認定農業者等
出典:農林水産省「経営継承・発展等支援事業(経営継承関係)」
就農準備資金・経営開始資金
就農準備資金と経営開始資金は、次世代を担う農業者(49歳以下)となることを志向する者を支援する制度です。
就農準備資金は、都道府県、市町村、青年農業者等育成センター、全国農業委員会ネットワーク機構が主体となって、将来的に就農することをめざしている人を対象に就農前の研修を支援します。
道府県農業大学校や先進農家などでの研修期間中に、1ヵ月当たり12万5千円(年間最大150万円)が最長2年間交付されます。
経営開始資金は、市町村が主体となって新規就農者の経営確立を支援します。新規就農してから経営が安定するまでの期間を対象として、1ヵ月当たり12万5千円(年間150万円)が最長3年間交付されます。
助成金を受け取るには、49歳以下かつ前年の世帯所得が600万円以下であることに加えて、それぞれ下記の要件を満たす必要があります。
就農準備資金
- 独立・自営就農、雇用就農、親元就農をめざすこと
- 都道府県等が認めた研修機関等で約1年以上かつ年間約1,200時間以上研修を受けること
- 常勤の雇用契約を締結していないこと
- 生活保護、求職者支援制度など、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でないこと
- 研修中の怪我等に備えて傷害保険に加入すること
経営開始資金
- 独立・自営就農する認定新規就農者であること
- 経営開始5年後までに農業で生計が成り立つ実現可能な計画であること
- 経営を継承する場合、新規参入者と同等の経営リスク(新規作目の導入など)を負っていると市町村に認められること
- 目標地図又は人・農地プランに位置付けられている、もしくは農地中間管理機構から農地を借り受けていること
- 生活保護、求職者支援制度など、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でないこと
納税猶予の特例
農業後継者が農地を贈与された場合、その農地で農業を営んでいる間は贈与税の納税が猶予される特例が適用されます。
贈与者か後継者のどちらかが亡くなった場合には、猶予されていた贈与税は納税免除の対象になります。
ただし、贈与者の死亡により贈与税納税が免除された場合、特例の適用を受けて納税猶予の対象になっていた農地などは、贈与者から相続したものとみなされて相続税の課税対象になる点に注意が必要です。
出典:国税庁「農業後継者が農地等の贈与を受けた場合の納税猶予の特例」
農業後継者になろう! 失敗しない経営継承のコツ

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ここでは、農業後継者として円滑に新規就農するために、事前に行っておきたいポイントを解説していきます。
継承後の経営計画を具体的に検討する
これから経営を担う新規就農者にとって、継承する農業で収益が出せるかどうか気になる方もいるでしょう。
そこで、事前に中長期的な経営計画を立てておくことで、新規就農後から収益を確保するめどを立てることが重要になります。
経営計画を作成する際は、移譲する側の農家からそれまでの農作業の概要や土地の状態、主に栽培している作物の種類、販路についてなど、可能な限り多くの情報を提供してもらうのが肝心です。
詳細な情報を把握できれば、これまでの実績から具体的な数字を予測でき、より具体的な経営計画が作成できます。
継承の取り決めには第三者機関も活用する
土地の所有権が関係してくる農業の事業継承では、予想外のトラブルに発展する可能性があり、先代農家と後継者だけでは解決できない問題が出てくるかもしれません。
こうした問題を未然に防ぐために、継承の取り決めには第三者機関を活用するのも1つの選択肢です。
お互いの言い分が食い違った場合も間を取り持ってもらえるのが、第三者機関を活用するメリットです。第三者機関には、移譲者や後継者とは利害関係にない、完全に中立的な立場の組織や法律家が適しています。
農業後継者として新規就農することは、全国的な課題である農業後継者不足を解決する有効な方法です。新規就農者としても、費用面・農業経営面などさまざまなメリットがあります。
さらに、新規就農者を対象とした補助金を受給できたり継承後に納税面での優遇を受けられたりと、農業後継者にはさまざまな金銭的な支援制度が整えられている点も魅力です。
ゼロから就農する必要がなく、農業継承することで先代農家から引き継いだ農地や経験、ノウハウを活し、就農1年目から農業経営を軌道に乗せていきましょう。
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沢城アツシ
フリーランスのWebメディア編集者・ライターとして活動中。大学では農学を専攻し、大手・ベンチャー企業で研究職として15年勤務した経験を生かした、農業を中心とする科学系全般の記事執筆が得意です。その他にも、飲食店経営・不動産投資・金融サービスなどのWebメディアから企業のプレスリリースまで幅広い分野の執筆を手掛けています。