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新規就農の資金はいくら必要? 内訳や平均、調達方法を解説

新規就農の資金はいくら必要? 内訳や平均、調達方法を解説
出典 : cba / PIXTA(ピクスタ)

農業に魅力を感じ、生業にしようとしている人にとって、資金の準備が大きな課題となることがあります。これから就農するにあたり、どれぐらいの資金があれば大丈夫なのか気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、新規就農にかかる平均的な資金とその内訳、資金調達に役立つ制度を紹介します。

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農業を始めるには農地の確保だけでなく、トラクターなどの農業機械や肥料、種苗などを用意するためにまとまったお金が必要になります。

これから農業を始めようとする人の中には、総額でどれぐらいのお金がかかるかわからず、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、全国新規就農相談センターが調査した資料をもとに、新規就農にかかる資金の平均的な金額やその内訳を解説します。

また、自己資金が足りない方に向けて、資金調達手段として活用できる制度も紹介しますので、参考にしてください。

※この記事で用いているデータは、一般社団法人全国農業会議所が運営する「全国新規就農相談センター」(農業をはじめる.JP)サイト「調査結果等」のページ所収の以下資料によります。
「令和3年度新規就農者の就農実態調査」
「新規参入者の経営資源の確保に関する 調査結果(平成30年度) 」

新規就農に必要な資金の平均額

農家 悩み

cba / PIXTA(ピクスタ)

全国新規就農相談センターの「令和3年度新規就農者の就農実態調査」によれば、就農1・2年目にかかる営農費用の平均は830万円という結果でした。

一方、新規就農者が用意した自己資金の平均は営農費用291万円、生活費用180万円を合わせて471万円となっています。この結果を見ると営農費用は平均で540万円ほど不足しており、新規就農者のうち不足分を借り入れで賄った人も51.1%いました。

営農費用は品目によって差が大きい

「就農1・2年目にかかる営農費用の平均は830万円」という調査結果を紹介しましたが、営農費用は品目によって差が大きいことは理解しておきましょう。

営農費用の部門内訳を見ると、最も高いのは牛舎の整備や作業用車両にお金がかかる酪農(平均営農費用3,903万円)とその他畜産(同1,314万円)で、平均を大きく引き上げています。

それに対して、露地野菜(同431万円)や果樹(同419万円)、水稲(同489万円)などはそれほど高くありません。ただし、ビニールハウスなどの設備にお金がかかる施設野菜では、露地野菜のおよそ2.6倍(1,136万円)かかっています。

農家として何を栽培・飼養するかで必要な自己資金が変わってくることは頭に入れておいてください。

新規就農に必要な資金の内訳

計算 資金 費用

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

新規就農者が営農面や生活面で用意している平均的な資金についてイメージできたでしょうか。

ただし、一口に新規就農資金とはいっても、人それぞれ置かれている状況によって必要な金額はまったく異なります。そこで、ここからは新規就農に必要な資金の内訳を詳しく紹介します。

農地取得費用

「新規参入者の経営資源の確保に関する調査結果(平成30年(2018年)度)」によると、農地購入代金の総額の平均は171.5万円(中央値81万円)でした。

内訳を見ると「50万円未満」と答えた人の割合(28.6%)が最も多い一方で、「500万円以上」と答えた人も10.5%いたことから、一部の新規就農者が平均額を押し上げているようです。

また、農地を借りた場合における賃借料の支払い最高額の平均は22,372 円/10aでした。支払い最高額を回答した農地と同地域・同条件の農地相場は平均で14,951円/10aとなっており、相場よりも高い費用を払って農地を借りている農家も一定数いることがわかります。

新規就農において農地の確保は資金調達と並んで難しい課題ですが、農地購入代金総額の中央値が100万円未満であることからもわかるように、金額面における負担はそれほどでもないケースが多いでしょう。

それよりも、同調査で多く回答があったように「傾斜地や不整形地で土地条件が悪い」、「農地が分散していて集めることができなかった」など、立地や条件面でよい場所が見つからず、苦労するケースが多いようです。

機械設備費用

就農1・2年目の農家が機械設備にかかる費用の平均額は628万円(令和3年度新規就農者の就農実態調査、以下平均額について特段の記載がない場合は同調査結果による)で、営農費用の平均額(830万円)の75%以上を占めています。

離農する農家のトラクターやハウスなどをもらい受けて農業を始めるケースもありますが、全体の1割程度にとどまっており、多くの人にとって機械設備費用の負担は大きいと考えられます。

「新規参入者の経営資源の確保に関する調査結果(平成30年度)」では、現在最も必要としている資金として設備投資資金を挙げている人が46.4%となっています。

露地栽培と施設栽培などの営農形態や栽培・飼養する品目によって営農費用に差があるのは、費用の大部分を占める機械設備費用の影響が大きいといえます。

酪農などの家畜経営や花きまたは野菜といった作物で施設栽培をする場合は、機械設備費用がかさみがちだからです。

種苗・肥料・燃料などの費用

就農して1・2年目の農家が種苗や肥料、燃料などに費やす必要経費の平均は202万円となっています。

機械設備費用のおよそ3分の1ですが、これらは営農を続けるかぎり継続的にかかる費用で、気候や栽培する品目や地域によって差が出るのが特徴です。

都道府県が公開している農業経営指標には、単位面積当たりの栽培にかかる経費や売り上げの目安などが記載されています。就農前に具体的なシミュレーションをしておきたい方は、あらかじめチェックしておくことをおすすめします。

生活資金

農業で生計を立てる上では、当面の生活資金も考えておかなければいけません。就農1・2年目の農家における生活面での自己資金平均額は180万円でした。農産物の売上高の平均は280万円ありますが、経費を考えると決して十分だとはいえないでしょう。

「令和3年度新規就農者の就農実態調査」では、経営面の課題についてのアンケートも行っており、最も多い回答が「所得が少ない」となっています。

また、同調査の住居についてのアンケートでは約半数が賃貸に住み、家賃は「1万円以上3万円未満」および「3万円以上5万円未満」がそれぞれ30%程度など、最初から余裕のある暮らしを送れるのは一部の農家にとどまっていることがうかがえます。

新規就農後、経営が軌道に乗るまでの間は生活資金に苦労することが考えられるので、ある程度余裕を持った資金を準備しておくことが大切です。

経営ノウハウ・技術

経営を軌道に乗せるために必要なリソースという意味では、経営ノウハウや営農技術も資金と同じように重要です。

「令和3年度新規就農者の就農実態調査」によると、就農時に苦労したことのなかで「営農技術の習得」を選択した農家は57.7%おり、農地の確保と資金の確保に次いで高い数値となっています。

「新規参入者の経営資源の確保に関する調査結果(平成30年度)」では、経営ノウハウや技術習得について「非常に苦労した」と「少し苦労した」を合わせると70.1%という結果でした。

経営を安定させるためには、なるべく早期に十分な品質・収量を確保し販路を開拓することが重要ですが、実際には先輩農家などから思うようにノウハウを継承できず、苦労したという意見が多くなっています。

苦労した具体的な内容については、基礎的な栽培・飼養技術といった技術面の課題が多く挙げられている一方、中には「販路拡大やマーケティング」「会計・経理」といった経営面の課題もありました。

就農前に自らの課題を洗いだし、可能な限り解決に向けた努力をしておくことが農業経営成功の近道になるでしょう。

新規就農に必要な資金を調達する方法

農業 支援 制度

カッペリーニ / PIXTA(ピクスタ)

新規就農には主に営農面と生活面で資金が必要になりますが、自己資金だけで用意するのは難しい場合もあるでしょう。そんなときは、都道府県やJAなどが実施している制度を利用するのも1つの方法です。ここからは、新規就農者でも利用しやすい資金調達方法を紹介します。

農業次世代人材投資資金

農業次世代人材投資資金は国が新規就農者を資金面で支援する制度で、準備型と経営開始型の2種類があります。

準備型は就農前の研修に対する支援制度となっており、申請の窓口は都道府県または青年農業者育成センター、全国農業会議所です。都道府県などが認める農業大学校や先進農家といった研修機関で農業を学ぶ場合に、年間最大150万円(最長2年)が交付されます。

経営開始型は新規就農後、最長3年間にわたって資金面を援助してくれる制度で、申請窓口は各市町村です。経営開始~3年目まで年間150万円を定額で受け取れます。

いずれも融資ではなく交付金であるため、返済義務を負わない点が最大のメリットです。ただし、「年齢が49歳以下」などの要件が決められている点には注意してください。

出典:農林水産省「就農準備資金・経営開始資金」

青年等就農資金

青年等就農資金は、市町村から青年等就農計画の認定を受けた個人および法人が利用できる制度です。

農業次世代人材投資資金と異なり返済義務を負う融資という形ではありますが、無利子かつ実質無担保・無保証人と農家の負担が軽くなるよう配慮されています。

借入限度額は3,700万円(特任限度額1億円)とそれなりに大きく、資金用途も長期運転資金から機械の整備、家畜の購入費など幅広いのが特徴です。

償還期限17年のうち据置期間が5年以内と設定されている点も、収入が安定するまでに時間がかかる新規就農者にとって大きな魅力でしょう。

出典:日本政策金融公庫「青年等就農資金」

JAの農業融資

新規就農者への資金面での支援は、JAでも行っています。例えば、認定新規就農者の場合は借入限度額が個人1,800万円(知事特認2億円)、法人(任意団体含む)2億円の農業近代化資金が利用可能です。

認定青年等就農計画に従って就農する場合は、青年等就農資金と同様に償還期限17年のうち、据置期間が5年以内に設定されます。

また、仮に認定新規就農者でない場合でも、JAの組合員であればアグリマイティー資金やJA農機ハウスローンといった利用シーンに応じた融資を受けられる場合があるので、資金面で悩みのある方はお近くのJAに相談してみてください。

出典:JAバンク「JAの農業融資」

JA三井リース株式会社

大型コンバインのリースなど、農業に関するさまざまなサービスを行っているJA三井リース株式会社では、新規就農者の初期投資の負担を軽減するスタートアップサポートを実施しています。

生産に必要な設備をリースや割賦で提供して返済負担を軽減する「トライ」では、第三者の連帯保証が原則不要で利用しやすくなっています。

また、同社と業務協力を結ぶ関係団体が新規就農者の経営面を支援してくれる「スクラム」というプログラムも用意されています。

出典:JA三井リース株式会社「スタートアップサポート」


全国新規就農相談センターが調査した資料によると、新規就農者が初期の資金問題で苦労するケースは少なくないようです。何を栽培・飼養するかによって必要な資金に差はありますが、多くの農家で就農当初は制度や融資を上手く活用して資金調達をしているのが実態です。

自己資金だけでは資金面のやりくりが難しそうな方は、今回紹介した資金調達方法も検討しつつ、無理のない経営計画を立てましょう。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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