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慣行栽培とは? 有機農業・特別栽培と比較した、農家にとってのメリット

慣行栽培とは? 有機農業・特別栽培と比較した、農家にとってのメリット
出典 : Mt223N / PIXTA(ピクスタ)

慣行栽培について知ることは、日頃、当たり前に行っている農作業の意義やメリット、また課題について知ることにつながります。慣行栽培、有機農業、特別栽培それぞれの特徴を解説し、今後の農業全体がめざすべき方向について考えます。

農業におけるカテゴリの1つに、「慣行栽培」「有機農業」「特別栽培」というものがあります。多くの農家は慣行栽培に該当しますが、普段、その意味をあまり意識することはないでしょう。この記事では、慣行栽培とは何か、有機農業や特別栽培と比較しながら説明します。

慣行栽培(かんこうさいばい)とは?

乗用管理機での農薬散布

topic_g4/PIXTA(ピクスタ)

実は、慣行栽培の意味とは何かを明確にする基準や規定はありません。「慣行」という言葉は、「以前からの慣わし(ならわし)として行っていること」や「普段から習慣として行っていること」を表します。

つまり、国や自治体、JAの指導に沿って、法律に則って農薬や肥料を正しく使用し、多くの農家が当たり前に行っている農業そのものが慣行栽培であるといえます。

一方、有機農業は「有機農業の推進に関する法律」(以下、有機農業推進法)で定義されています。特別栽培はその言葉自体の定義はないものの「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(以下、特栽ガイドライン)で定められた農産物を生産する栽培方法と定義づけできます。

慣行栽培とは、これらの「これまでのやり方とは違う」特別な農業と対比するため、便宜的に生まれた言葉です。

具体的にいうと、特別栽培農産物の表示をするためには、その農産物の栽培過程で使った節減対象農薬の使用回数や化学肥料の窒素成分量を、その地域の「慣行レベル」の50%以下とする必要があります。

この慣行レベル(地域慣行栽培基準)は、農林水産省の「特別栽培農作物に係る表示ガイドライン」により、都道府県ごとに地域の気候や特性を考慮して地方自治体が定めます。

山梨県 シャインマスカットの園地

Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)

例えば、山梨県では特産の露地ブドウの慣行レベルは品種によって5種類に分けられます。巨峰系品種群やシャインマスカットほかの種なし栽培は「化学合成農薬ののべ成分回数」が28回、「化学肥料由来の10a当たり窒素成分量」は8kgなどと定められています。

どの都道府県も、それぞれの地域特性に合わせ、作物によってはより細かく地域に分けて実態に沿った慣行レベルを定めています。

出典:山梨県主要農作物慣行レベル一覧

とはいえ、これらは特別栽培農産物の表示を判断する際の基準であって、このレベルに近い栽培方法であれば慣行栽培だということはできますが、これを満たしていなければ慣行栽培ではない、というわけではありません。

慣行栽培と、有機農業・特別栽培の違い

馬糞堆肥 散布

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

それでは、慣行栽培と有機農業や特別栽培の違いをより詳しく見てみましょう。

有機農業とは

有機農業は「有機栽培」とも呼ばれ、有機農業推進法によって定義されています。要約すると、化学合成肥料や農薬、遺伝子組換え技術を利用せず、環境への負荷をできるかぎり低減した方法で行われる農業のことです。

出典:農林水産省ホームぺージ「【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~」

この定義とは別に、有機農産物の日本農林規格(有機JAS)があります。農産物に「有機農産物」や「有機○○」と表示するには、有機JASの基準に従って生産された農産物であることが必要です。

合同会社オーガニックファームZERO(宮崎県児湯郡新富町)は2008年に有機JAS認証を取得

合同会社オーガニックファームZERO(宮崎県児湯郡新富町)は2008年に有機JAS認証を取得
出典:株式会社 PR TIMES(こゆ財団 ニュースリリース 2021年9月17日)

この基準に沿って第三者機関によって検査され、認証された事業者のみが「有機JASマーク」とともに「有機」などと表示できます。有機農業を始めて6ヵ月以上3年以内の場合は「転換期間中有機農産物」として認証を受けることも可能です。

有機JASの規格には、有機農業を実践していることに加えて、ほ場の条件として「周辺から使用禁止資材が飛来・流入しないように必要な措置を講じていること」「播種または植付け前2年以上(多年生作物の場合は収穫前3年以上)化学肥料や化学合成農薬を使用しないこと」「組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わないこと」などが記載され、より厳しい条件を満たすことが必要です。

有機JASは法に基づいており、コーデックス委員会のガイドラインに準拠しているため、国際的な信頼も得られるでしょう。実践できれば環境への負荷が低減し、付加価値の高い農産物を生産していけるというメリットがあります。

その反面、周辺農家の理解を得る必要があり、効率性が低く多収が難しいことや、病害虫や天候の影響を受けやすく収量が安定しにくいといったデメリットもあります。

特別栽培とは

登米市の環境保全米特別栽培農産物生産ほ場

masy / PIXTA(ピクスタ)

先述した通り、特栽ガイドラインに従って、慣行レベルの50%以下となる農薬使用回数や化学肥料の窒素成分量で栽培された農産物を「特別栽培農産物」といいます。また、そのような農産物を栽培することを特別栽培と呼びます。

ガイドラインなので、有機農業と違って法的な効力はなく、その点で有機農産物ほどの高い信用はありません。とはいえ、特別栽培農産物と表示することで、ほかの農産物と差別化でき、収益の向上につなげることが可能です。

農薬や化成肥料を原則使わない有機農業に比べて、低減する工夫をしながら必要に応じてそれらを使用することもできるので、比較的、無理をせずに取り組んでいけるでしょう。

慣行栽培と比較して、取り組んでいる農家数はまだまだ少ない有機農業

農林水産省の資料によれば、日本で有機農業推進法による有機農業が行われている面積は、2009年の約16,000haから2017年には約23,000haに増加し、国内の耕地面積に対する割合としては0.4~0.5%に微増しています。これを増加率でみると、2009年から2017年までに43%の増加になります。

このうち、有機JAS認定を取得している農家は2017年で約10,000haと全体の半分以下で、2009年からの増加率も19%にとどまります。

農家戸数でみると、2010年時点で有機JASを取得せずに有機農業に取り組む農家は約8,000戸と推定され、有機JAS認証を取得している農家約4,000戸と合わせておよそ12,000戸が有機農業を実践しているとみられています。

また、新規参入のうち全作物で有機農業に取り組む農業者の割合は、2006~2016年に約20~24%の間で増減し、ほぼ横ばいです。

このことから、日本においては有機農業に取り組む農家はまだかなり少数派であるといえます。

出典:農林水産省 生産局農業環境対策課「有機農業をめぐる事情(令和2年2月)」

慣行? 有機? 農家が栽培方法を選ぶときに考えるべきポイント

農業 未来 子ども

YUMIK/PIXTA(ピクスタ)

新規で農業に取り組む場合、または新たな農地を得て栽培方法を考えるときに、慣行栽培を行うのか、有機農業を行うのかは大きな選択です。そこで、選択に当たって考慮すべきポイントをまとめてみました。

慣行栽培最大のメリットは、効率的かつ安定的な大量生産が可能な点

慣行栽培を行う最大のメリットは、単一作物を効率的に安定して大量生産できる点にあります。また、自治体やJAなどの指導も手厚く、地域でも同様の栽培をする人が多いので、困ったときに相談可能な点も、取り組みやすいポイントです。

有機農業や特別栽培は、地域全体で盛んに取り組まれていれば技術もある程度確立されています。しかし自分たちだけで新たに始める場合は試行錯誤を重ねることになり、収入の安定までに時間がかかるでしょう。

特に、大規模栽培の場合は、さらに手のかかる有機農業や特別栽培では膨大な人手や時間が必要です。やはり効率性や収益性を重視するなら、慣行栽培が最適と言えます。

2018年に農林水産省が行った全国調査でも、「過去3年間の農業、特別栽培、エコファーマーと比較して最も売り上げが大きい栽培方法は慣行農業である」というアンケート結果が出ています。

栽培方法の違いは品質に大きく影響しない?

慣行栽培か有機農業かという栽培条件の違いは、どの程度作物の品質に影響するのでしょうか。実は、それを調査した論文があります。

その論文では、レタス、小松菜、ほうれん草を対象に栄養成分分析と、外観・食感・味・総合評価を主項目とした官能評価試験を行いました。その結果、一部「有機の甘味が強く、味の総合評価が高かった」などの結果が出ているものの、栄養成分やその他品質については栽培法の違いによる差異はほとんど認められませんでした。

それ以上に、「作物の品種や農業者の経験的な栽培技術の差が評価に影響する」と結論づけています。

出典:日笠志津(女子栄養大学)「栽培条件(有機栽培と慣行栽培)の違いによる葉物野菜の栄養成分と官能特性」

めざすべきは、環境にも配慮した「持続可能な農業」

収益面などでメリットのある慣行栽培ですが、一方で、化学肥料や化学農薬に過度に頼ると環境負荷が大きくなったり、地力が低下したりする問題点が指摘されています。

そもそも有機農業は、そうした慣行栽培の問題点を懸念し、「堆肥や有機質肥料を活用して地力を高めることで、病害虫に負けない環境を作り、化学肥料や農薬の使用を不要としよう」ということを目的としたものです。

近年、有機農業ほど厳格ではなく、その思想を慣行栽培に取り入れた栽培方法を実践するエコファーマーというあり方を選ぶ農家も増えています。

また、天敵を利用するなどして農薬による環境への負荷を減らしたり、残留農薬を可能なかぎり削減したりする努力や、地力を保つための上手な施肥の指導なども進んでいます。

持続可能な農業の確立と、人手不足の中で効率的に十分な生産量を確保することは、農家だけでなく、慣行栽培を支えるすべての農業関係者の願うところでしょう。

それぞれの栽培方法の利点をバランスよく保つことで、これらを両立する農業を実現する道が開けるかもしれません。

農業の未来を担う若手農家

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

慣行栽培と有機農業、特別栽培にはそれぞれメリットとデメリットがあり、どの栽培方法を選ぶのか、慎重な検討が必要です。検討する際には、満たすべき基準を事前に把握しておきましょう。

また、慣行栽培を基本に、自分なりに新たな栽培方法を模索してみるのもいいでしょう。

どの方法を選んだとしても、地域の人々と協力し、持続可能な農業の実現をめざすことが何よりも大切です。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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