【2022年版】農業所得の確定申告ガイド! 赤字でも申告? 持続化給付金は?
個人経営農家にとって欠かせない確定申告は、書類や帳簿の準備に骨が折れる作業ですが、流れを知ってコツをつかめば難しいことではありません。正しく申告することで税負担が軽減される場合があるほか、経営状況を明確に把握することで経営上のメリットにもつながります。
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目次
農家は個人事業主として、毎年の確定申告が必要です。農業に新規参入し、初めての確定申告を前に頭を抱えている人もいるでしょう。本記事では、農業所得がある人の確定申告の入門として、申告のメリットや具体的な申告方法など、基本事項について解説します。
※本記事は2022年2月10日現在、国税庁「令和3年分の確定申告に関する手引き等」および「令和3年度 所得税の改正のあらまし」を基本に、一般社団法人全国農業経営専門会計人協会など農業財務の専門サイトへ掲載された情報を参照し執筆しております。詳細はお近くの税務署や公認会計士、税理士にご確認ください。
そもそも確定申告は必要? 要否の判断ポイント
makaron* / PIXTA(ピクスタ)
「確定申告」とは、事業所得者などの納税者が、1月1日~12月31日までの1年間で得た所得金額と、それに対する所得税額を税法に沿って自ら計算し、その額を確定するために税務署に申告することです。個人経営で少しでも農業所得がある場合は、申告の必要があるかどうかを確認しましょう。
農業所得があるといっても、人によって状況は異なります。農業所得のみの人、兼業農家で給与所得や年金受給がある人、黒字経営の人、赤字経営の人、補助金を受けている人など、状況によって申告方法やメリットにどのような違いがあるのか、以下で詳しく説明します。
農業所得が赤字でも、確定申告はしたほうがよい!
個人経営農家が自ら生産した農作物を販売して得た所得は、「農業所得」として事業所得に分類されます。ほかに給与所得や年金の受給などがある場合は、農業所得と分けて計上しましょう。
なお、給与所得が別にあって、かつ農業所得が20万円を超えない場合や、年金による収入が400万円以下かつ年金以外の所得金額が20万円以下の場合は、確定申告をする必要はありません。
ただし、農業所得が赤字になる場合は、確定申告すれば損益通算の対象となって、その赤字分が給与所得などほかの所得から控除してもらえるため、確定申告したほうが税負担が軽くなるというメリットがあります。
また、確定申告のために帳簿を作成することで、1年間の経営状況をまとめて把握できるうえ、前年と比較しながら次の年の経営計画にも活かせます。帳簿作成などの確定申告手続きをただの作業として終わらせず、経営改善に積極的に役立てましょう。
cassis / PIXTA(ピクスタ)
持続化給付金を受給していた場合、収入に計上して申告が必要
農業所得は、農業による「総収⼊⾦額」から「必要経費」を差し引くことで求められます。農業による収入には、農作物の販売金額のほか家事消費金額や、米精算金や補助金などの雑収入が含まれます。
2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大により大きな影響を受けた事業者に対し、事業所得者への持続化給付金や、農林漁業者への経営継続補助金などの支給もありました。受給した人は申告漏れのないよう、収入として計上しましょう。
ただし、個人経営の農家が経営継続補助金の交付を受けて、農業用の固定資産を取得したり改良したりした場合は、総収入金額不算入の特例が適用されるので収入に計上しません。この場合、固定資産の取得価格は補助金を引いた額を記帳します。
※詳細は、一般社団法人全国農業会議所 経営継続補助金事務局「農林漁業者のみなさまへ 経営継続補助金」をご確認ください。
一方で、農業に関係する拠出金などは経費に含められます。各種給付⾦の申請⼿続きにあたって生じた、⾏政書⼠への報酬などの費用は必要経費に該当するため、これも忘れずに計上しましょう。
収入・経費の考え方は? 農業所得の計算方法
artswai /PIXTA(ピクスタ)
前項でも少し触れましたが、ここで改めて、確定申告の要不要を判断するポイントとなる、農業所得の計算方法をまとめましょう。農業所得の求め方を式で表すと、以下のようになります。
【農業所得=年間の農業における総収入金額-年間の農業における必要経費】
農業による収入には、その年に農作物を出荷・販売した金額である「販売金額」、自宅で消費する農作物や、事業に活用するために保有する農作物の金額である「家事消費・事業消費」、そのほかの農業経営に付随して生じる収入である「雑収入」などがあります。
雑収入には、小作料受取金や農作業受託料受取金など農産物販売以外の収入や、共済受取金、出荷奨励金、各種補助金・助成金、営農組合収入などが含まれます。
家事消費は所得に含まれるので、販売せずに家族が食べる分しか作付けしない自家消費のみの場合でも、収穫時点で所得が発生することになります。この場合は農業収入のみを計上し、農業所得を0円として申告します。
ここから経費を差し引けば赤字となるため、ほかに給与所得などがある場合は、この赤字分が控除されます。家事消費分の農産物の金額は、JAの仮渡金などを参考に、合理的な基準を用いて決めるとよいでしょう。
必要経費には、農業収入を得るために必要な栽培や販売にかかる費用が含まれます。給与・賃金などの雇人費、地代や家賃、減価償却費、租税公課、農業共済掛金や管理費などが経費に当たります。生活費は経費にならないので、生活費と事業費を普段から明確に分けておくことが必要です。
経費として計上できる出費の具体例について知りたい方は、下記記事もご覧ください。
青色? 白色? 申告方法の違いとそれぞれのメリット・デメリット
さんいんち / PIXTA(ピクスタ)
確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。白色申告とは、青色申告ではない原則的な申告方法のことをいいます。事前の手続きは不要で、帳簿も簡易的な単式簿記によるものでよく、必要書類も青色申告に比べて少ないため、作業負担が小さく済むというメリットがあります。ただし、税制上の特典はありません。
一方、青色申告とは不動産所得・事業所得・山林所得の申告をする場合に選択できる制度です。複式簿記という正規の簿記による帳簿や、多くの提出書類を作成して申告することで、税制上の特典などさまざまなメリットが受けられます。主なメリットとしては、以下のものが挙げられます。
1.決められた方法で申告することで、最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
2.配偶者や家族に給与を支払っている場合、必要経費に算入できる
3.赤字(損失)がある場合、最大3年にわたって繰り越しでき、所得金額から控除できる
4.農業経営収入保険に加入できる
5.取得価格の合計額が300万円までの少額減価償却資産を一括で償却できる
6.貸倒引当金を必要経費として算入できる
上記のような税制上の特典があるほか、詳細な帳簿を付けることで農業経営状況を正確に把握でき、経営の健全化に役立ったり、社会的な信用が上がるため融資が受けやすくなったりするなどの経営上のメリットも期待できます。
青色申告には煩雑な帳簿や添付書類の作成が必要ですが、一度覚えてしまえば難しいことではありません。同じ確定申告であれば、税負担の軽減のほかにも多くのメリットがある青色申告がおすすめです。
くま社長 / PIXTA(ピクスタ)
必要書類は? 青色申告における農業所得者の確定申告手順
では、青色申告を行う場合、どのような手続きが必要なのでしょうか。以下では農業所得者を想定して、申告の具体的な手順や必要書類をご紹介します。
1. 「青色申告承認申請書」と「開業届」を提出する
umaruchan4678 / PIXTA(ピクスタ)
青色申告を新たに始める場合、申告しようとする年の3月15日までに、所轄税務署に青色申告承認申請書を提出する必要があります。申請をした年分の所得から、青色申告を行えます。
なお、その年の1月16日以後、新規に事業を開始したり、不動産の貸付けを行ったりした場合は、その事業開始などの日から1ヵ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出し、同じく2ヵ月以内に青色申告承認申請書を提出します。
青色申告承認申請書や開業届などの様式は、国税庁のホームページからダウンロードするか、税務署で受け取ることが可能です。
国税庁ホームページ:申告・申請・届出等、用紙(手続の案内・様式)>税務手続の案内(税目別一覧)>申告所得税関係
2. 帳簿を作成し、該当年の取引を記帳する
青色申告では、1年間分の所得を正確に計算し申告するために、複式簿記による帳簿を作り、日常的に収入や必要経費にかかる取引を記帳したり、取引に関する書類を保存したりします。
保存期間は、帳簿や損益計算書、貸借対照表などの決算関係書類、領収証や預金通帳などの現金預金取引等関係書類が7年間、その他の書類は5年間です。
なお、パソコンを使って電子的に帳簿を作成し、申請時に電子データのまま保存できる「電子帳簿保存」という制度があります。これを行う場合は、要件を満たしたうえで、帳簿の備え付けを開始する日の3ヵ月前までに「電子帳簿保存の承認申請書」を税務署に提出し、この制度の適用を受ける必要があります。
ちなみに電子帳簿は、農業簿記に対応した会計ソフトを使うと効率的に作成できます。対応可能な会計ソフトが複数開発されているので、扱いやすいものを探してみましょう。
農業所得の確定申告に使える会計ソフトについて知りたい方は、下記記事もご覧ください。
3. 「確定申告書B」および「青色申告決算書」をe-Taxで作成・提出する
帳簿や書類を整え、所得や税額の計算ができたら、いよいよ実際の確定申告です。確定申告書Bと、賃借対照表および損益計算書など「青色申告決算書」の書類を提出します。これらの書類は国税庁の公式サイトからダウンロードできます。
申告にあたっては、複式簿記による記帳を行い、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告するという要件を満たした場合、事業所得などの金額から青色申告特別控除として最高55万円が差し引かれることがあります。
さらに、手書きの書類ではなく「e-Tax」による申告を行う場合、または会計ソフトを利用して電子帳簿保存を行う場合は、最高65万円の控除を受けられます。一方、簡易な記帳による青色申告も可能ですが、その場合、控除は10万円までしか受けられません。なお、e-Taxによる申告をするためにはマイナンバーカードが必要です。
asaya /PIXTA(ピクスタ)
【合わせて読みたい】 農家の確定申告を学ぶ関連コンテンツ
ここまでご説明した基本事項以外の、農家の確定申告に関するより詳細な情報や注意点、よくある疑問について知りたい方は、最新の情報をまとめたこちらの記事もご覧ください。
農業所得の確定申告は、簡易な白色申告よりも、煩雑な手続きこそ必要なものの、税制上のメリットの大きい青色申告がおすすめです。日頃から収入・支出の管理や記帳を行い、ポイントを押さえたうえで、正確かつ速やかな申告を心がけましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。