【ほうれん草のアザミウマ対策】発生原因や効果的な防除方法と農薬を解説
さまざまな野菜や花きに発生するアザミウマ類は、ほうれん草にも被害をもたらします。繁殖力が非常に強いため、被害を抑えるにはアザミウマ類の種類に応じて適切な防除方法を選ぶことが大切です。今回は、アザミウマ類の特徴や効果的な防除方法・使用可能な農薬について解説します。
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アザミウマ類は、ほうれん草やナス・きゅうり・ネギ・キクなど、さまざまな野菜類や花きに寄生する害虫です。
繁殖力が強く多発しやすい害虫ですが、適切な防除対策を実践することで被害を抑えられます。アザミウマ類の特徴や発生原因について理解しておきましょう。
Tomasz - stock.adobe.com
アザミウマ類とは?
アザミウマ類とはアザミウマ目 (Thysanoptera) に属する昆虫の総称で、作物に寄生して食害するだけでなく、他の作物にも病原菌を媒介することもあります。
ほうれん草の場合は、寄生されると食害により葉が萎縮するなど、商品価値の低下につながります。
アザミウマ類の生態
アザミウマ類はスリップスとも呼ばれ、国内だけでも40種類以上が確認されています。ほうれん草をはじめピーマン・レタスなどの野菜類や、みかん・ブドウといった果樹、キク・カーネーションなどの花き類など、寄主植物が多いのが特徴です。ネギ類やナスなどの、おとり植物にも寄生します。
アザミウマ2齢幼虫(体長0.7mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アザミウマ類の幼虫は黄色く透き通っており、体長は0.5~1mmほどでウジ虫のように見えます。成虫になると体長0.8~1.7mに成長し、体色も黄色や灰褐色・黒色など種類によってさまざまです。
体型は細長く、前翅(ぜんし)に濃い褐色の縁毛が生えているため、翅(はね)をたたんだ状態だと黒い筋のように見えます。
アザミウマ類は植物の組織内に1個ずつ産卵しますが、単為生殖を行うため未受精卵からも雄・雌両方が生まれます。
未受精卵から生まれた雄は体長7~8mmで、体色は褐色系です。
また、受精卵からは必ず雌が生まれます。産卵数は雌1匹あたり70~100個、多い場合だと300個で産卵のタイミングは不規則です。
幼虫は作物を加害しながら生長し、土壌に落下した後に蛹となり羽化します。羽化後3日ほど経つと産卵を開始するため、作物への被害を抑えるためには早期に発見して防除対策を講じることが重要です。
アザミウマ類がほうれん草にもたらす被害
アザミウマ類は、ほうれん草の成長点や葉の表裏に寄生します。一方、茎に寄生することはほとんどありません。
成虫・幼虫ともに口針を使って唾液を注入し、内部の組織を破壊しながら吸汁して作物を加害します。
成長点や未展開葉にアザミウマ類が寄生すると、葉の展開が妨げられて萎縮葉・奇形葉が発生します。
展開葉に寄生した場合は吸汁により細胞が空洞となり、葉の色が抜けて銀白色に見えるシルバリングが発生します。
アザミウマ類の被害葉(ミブナの場合)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アザミウマ類の加害時期はアブラムシ類と同時期ですが、アブラムシ類による被害では未展開葉が裏側に巻くように縮れるため、被害原因の判別は容易です。
ただし、シルバリングは他の害虫が原因で発生する場合があるため、ルーペなどで観察し、害虫を特定してから防除方法を検討しましょう。
ほうれん草に被害を与えるアザミウマ類は?
アザミウマ類の種類は多く、種類ごとに効果的な防除方法が異なります。そのため、ほうれん草の防除を検討する前にアザミウマ類の種類を特定することが大切です。
ほうれん草に被害を与えるアザミウマ類の中でも、代表的な4種類の特徴や生息地域などを紹介します。
ミカンキイロアザミウマ
ミカンキイロアザミウマ成虫(体長1.4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ミカンキイロアザミウマは、北アメリカ西部を起源とする外来種で、日本でも沖縄県以外の全国で分布が確認されています。
ほうれん草など多くの野菜類や果樹・花き類に寄生し、食害だけでなくトマト黄化えそウイルスを媒介するため、多方面に被害を及ぼすのが特徴です。
雌の成虫は体長1.4~1.7mm、体色は赤みを帯びた黄色ですが低温期には褐色の個体が多くなります。
雄の成虫は明黄色の個体のみで、体長は1.0~1.2mmです。複眼後方にある刺毛と胸部後方にある鐘状感覚器の有無で、他のアザミウマ類との区別ができます。雌の成虫の寿命は30~70日で、1匹で150~500個の卵を産みます。
ネギアザミウマ
ネギアザミウマ成虫(体長1.2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネギアザミウマは在来種で、国内だけでなく全世界に分布しています。主にネギや玉ねぎなどのユリ科植物に寄生しますが、ほうれん草や柿・アスパラガスなどへの寄生が確認されており、近年では宿主植物が増加傾向です。
成虫は活発に飛翔するため、多発を避けるためには早期の防除が欠かせません。
雌・雄とも体長は1.1~1.6mm、体色は淡黄色または淡褐色です。幼虫は体長1.0mmほどですが、羽の有無で成虫と区別できます。成虫の寿命は2~3週間ですが雌1匹で100~200個の卵を産み、世代交代も年10回以上で増殖力が高いのが特徴です。
ミナミキイロアザミウマ
ミナミキイロアザミウマ成虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ミナミキイロアザミウマは、東南アジアを起源とする食葉性の外来種で、国内では福島県より南の各地に分布しています。
ナス科・ウリ科など多くの作物に寄生していますが、ほうれん草に寄生すると被害が大きくなりがちです。成長点に寄生するため、寄生密度が低い場合でも展開葉にシルバリングや奇形などの被害が現れます。
雌の成虫は体長1.0~1.1mm、体色は橙黄色で、羽をたたんだ時の合わせ目が黒い筋のように見えます。雄は雌より小型で、体色も薄めです。雌の成虫の寿命は2~3週間ほどで、1匹あたり60~100個を産卵します。
ヒラズハナアザミウマ
ヒラズハナアザミウマは在来種で、全国に分布しています。ほうれん草や小松菜といった葉物類や、ナス科の野菜類・キク科の花き類が主な寄生植物です。ミカンキイロアザミウマと同様に、トマト黄化えそウイルスなどの病原菌を媒介します。
雌の成虫は体長1.3~1.7mm、体色は黒色または淡褐色・暗褐色です。体色の違いや複眼後方にある第4刺毛の長さ、前胸背板前縁の長刺毛の有無で他のアザミウマ類と区別できます。
雄の成虫は淡黄色で、体長は1.0~1.2mmです。雌の成虫の寿命は50日前後ですが1匹当たりの産卵数は約500個で、高い繁殖力を持っています。
アザミウマ類の発生時期・発生原因
アザミウマ類は、気温が高くなると生存期間が短くなる一方、加害活動が活発化します。移動距離も短めですが、作物・土壌の移動や風の影響により遠く離れたほ場でもアザミウマ類が発生する恐れがあります。
アザミウマ類の発生原因と多発時期についても確認しておきましょう。
otamoto17 / PIXTA(ピクスタ)
多発時期
露地栽培の場合は5月~9月にかけてアザミウマ類が多発しますが、アザミウマ類の種類によって多発時期は異なります。
例えばミカンキイロアザミウマの場合は5~6月、ミナミキイロアザミウマだと7~9月が多発時期です。気温が上昇するにつれて産卵から羽化までの期間が短くなる傾向もみられます。
一方、9月以降に気温が下がるとほうれん草での被害は減少します。ただし、施設栽培の場合は通年でアザミウマ類が発生する恐れがあるので、温度管理には注意が必要です。
発生原因
アザミウマ類が発生する原因は、ほ場外からの成虫・蛹の侵入が多いとされています。
アザミウマ類の成虫には羽があるものの、自ら飛んで移動する距離は数十メートルです。しかし、風で遠く離れたほ場に成虫が飛ばされて作物に付着すると、寄生による被害が拡大する可能性があります。
アザミウマ類の幼虫は土中や落葉中に移動して蛹化するため、人や土壌の移動によって別のほ場で蛹が成虫となり、多発を招く事例もみられます。
ほうれん草に発生するアザミウマ類の効果的な防除対策
アザミウマ類は繁殖力が強く、一部の種類では薬剤抵抗性も発達しています。使用できる農薬を事前に確認しておき、ほ場でアザミウマ類が発生したら早急に薬剤防除を実施できるよう準備しておきましょう。ほ場外からのアザミウマ類の侵入を防ぐために、耕種的防除の実践も重要です。
耕種的防除
サクラコ。 / PIXTA(ピクスタ)
アザミウマ類は、ほうれん草だけでなく多くの雑草にも寄生します。そのため、ほ場内外の除草を徹底することがアザミウマ類の増殖を防ぐための第一歩です。
除草の徹底により、アザミウマ類以外の害虫や病害を抑える効果も発揮します。除草後は高温発酵による堆肥化を行えばアザミウマ類は死滅しますが、やむを得ず焼却処分する場合は、自治体のルールに従って実施するようにします。
反射マルチを利用したり、ほ場周辺に紫外線カットフィルムを設置することも、光や紫外線によるアザミウマ類の誘引防止に有効です。
アザミウマ類は白色・青色などの光に誘引される性質があるため、ほ場内に光誘引トラップを設置するとアザミウマ類の密度を抑制できます。
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
施設栽培の場合は成虫の侵入を防ぐために、開口部に目合い0.4mmの防虫ネットを張るようにします。土壌に付着したアザミウマ類の蛹を持ち込まないために、施設内に入る際に靴を履き替える習慣づけも防除に効果的です。
栽培終了後はアザミウマ類を死滅させるため、2週間程度ハウスを密閉して土壌の蒸し込み処理を実施します。
※アサミウマ類の生物的防除・物理的防除についてはこちらの記事もご覧ください
使用可能な農薬
ほうれん草栽培でアザミウマ類の防除に使用できる農薬を紹介します。農薬によっては、防除効果を発揮するアザミウマ類の種類が限られている場合があります。農薬を使用する場合は、あらかじめラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。アザミウマ類の防除に有効でもほうれん草に使用できない農薬もあるので、ご注意ください。
【発生初期に使用】
ボタニガードES
微生物製剤で総使用回数にカウントされず、アブラムシ類の防除にも効果があります。薬剤抵抗性が高い害虫にも効果を発揮し、施設栽培・露地栽培どちらでも使用可能です。発生初期から7日程度の間隔で3~4回、葉裏に薬剤が行き渡るように散布します。
【収穫7日前まで使用可能】
リーフガード顆粒水和剤
アザミウマ類の防除に速効性があり、有機リン剤・ピレスロイド剤に抵抗性があるアザミウマ類にも有効です。カルタップ・ベンスルタップを含む農薬との併用はできないので、散布する際はご注意ください。
【収穫前日まで使用可能】
アドマイヤーフロアブル
アザミウマ類やアブラムシに速効性があり、散布後の残効性にも優れています。浸透移行性もあり、葉裏や葉の中に潜んでいる害虫にも防除効果が期待できます。
その他にも、以下の農薬が使用できます。
(※)はミナミキイロアザミウマのみ適用
ほうれん草にアザミウマ類が寄生すると、葉の萎縮・変形が起こり商品価値が下がってしまいます。アザミウマ類の寄生を早期に発見できるよう、ほ場の状態をこまめに確認し、速やかに農薬で防除します。
アザミウマ類の多発を防ぐためには、除草や反射マルチ・紫外線カットフィルムを使うなどの耕種的防除を徹底しましょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。