JGAPが農家にもたらすものとは? 取り組むメリット&団体認証の成功事例
JGAP認証は持続可能な経営や信頼度向上といったメリットが享受できますが、個人農家にとって取得や維持のコストや労力は軽くありません。一方、団体認証は費用や作業が分担できる利点があります。本記事ではJGAP認証の概要や事例を詳しく解説します。
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日本の農業経営にGAP認証の導入を検討する場合、最も身近な制度がJGAPといえるでしょう。導入にあたっては、自らの経営展望にどう活かすかを十分に検討することが大切です。本記事ではJGAPの概要や取得手順について、実践事例の紹介を交えて詳しく解説します。
そもそもJGAPとは?
Tony/PIXTA(ピクスタ)
今後の農業には、安全な農作物の生産はもちろんのこと、環境保全や経営の健全性も求められています。JGAP(ジェイギャップ)を導入することで、農業経営が社会的ニーズを満たしていることを客観的に示し、信用を高めて経営を有利に導くことが期待できます。
JGAPの強みをより理解するために、まずはJGAPの目的や意義、他のGAP認証との違いについて説明します。
JGAPは、持続可能な農業経営をめざす取り組み
JGAPとは「Japan Good Agricultural Practice」の略で、直訳すると「日本のよい農業の実践」です。世界的な取り組みであるGAPの基準をもとに、日本の生産・社会環境に合わせた、より実践的な農業生産工程管理への取り組みを指します。
そしてJGAP認証とは、日本で農業を営む農家・団体がJGAPの規範に沿って運営し一定の要件を満たしていることを申請し、証明されると認証が受けられる制度です。
JGAPは最終目標として「農産物の安全を確保して消費者を守り、地球環境を保全し、同時に持続的な農業経営を確立すること」を掲げています。その実現のため、農家が取り組むべき経営手法を「農場運営」「食品安全」「環境保全」「労働安全」「人権・福祉」の項目に関して適正農業規範をまとめ、広く公開しています。
・JGAP基準書(農産物)
一般財団法人日本GAP協会「JGAP基準書(農産物)」
こうした規範を農家や団体の経営者に示して適切な経営管理の実現を推進することと、その実践に取り組む農場や団体を評価・認証して消費者や社会にわかりやすく示すことが、主なJGAPの取り組みです。
なお、2021年3月末時点で認証農場数は5,020、認証数1,630です。認証農場とは認証を受けた農場のことで、認証は農場ごとに行われます。
出典:一般財団法人日本GAP協会「ASIAGAP/JGAP認証農場検索」ページ「認証農場数の推移」所収「ASIAGAP/JGAP別 認証数および認証農場数の推移」よりminorasu編集部作成
ASIAGAPやGLOBALG.A.P.との違い
ASIAGAP(アジアギャップ)は、JGAP同様に「一般財団法人日本GAP協会」が認証を行うGAP認証の1つです。もともと同協会で「JGAP Advance(ジェイギャップアドバンス)」と「JGAP Basic(ジェイギャップベーシック)」とされていたものが、2017年にそれぞれ「ASIAGAP」「JGAP」に改称されました。
JGAPと同じ理念や要素を含みながら、GFSI(Global Food Safety Initiative)の承認を受けたことで国際的に要求される基準を満たし、今後、アジア地域におけるGAP認証のプラットフォームとなることをめざしています。
2021年3月末時点で認証農場数2,427、認証数491です。ASIAGAPの認証があればアジアをはじめとして国際的な信用度は上がりますが、認証を受けるには、JGAPよりも厳しい国際基準を満たす必要があり、費用も高額になります。
出典:一般財団法人日本GAP協会「ASIAGAP/JGAP認証農場検索」ページ「認証農場数の推移」所収「ASIAGAP/JGAP別 認証数および認証農場数の推移」よりminorasu編集部作成
※ASIAGAPについてはこちらの記事もご覧ください。
GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)は国際的に最も知名度の高いGAP承認で、ドイツにある「Food PLUS GmbH」が認証を行っています。
高い信頼性があるので、農産物の海外輸出をめざす場合は取得すべきですが、認証の基準もかなり厳しく、海外から審査員を招くため費用もかかります。それでも、日本では2019年度で702の経営体が認証を得ています。
出典:農林水産省「農産物の輸出に求められるGAPの概要(令和元年7月5日)」
農家がJGAPに取り組むメリット
mits/PIXTA(ピクスタ)
農家がJGAPに取り組むということは、JGAPの理念や実践の規範を農業経営に導入することを意味します。具体的には、先述の基準書をチェックし、基準に沿って自分の農業経営を改善していきます。
基準書に適合した農業経営を行えば、持続可能な農業の実現や経営効率の向上、職場環境の改善などが期待できます。コストカットや収量増にもつながるでしょう。
さらに認証を取得すれば、信頼できる農場であることを消費者や実需者へ視覚的に示せます。市場での競争力を上げたり、農産物に付加価値を付けたりするなど、認証は工夫次第で経営戦略に活用できるのです。
また、JGAP認証農場として基準を満たす職場環境が実現できれば、人材募集の際にも働きやすい環境だというアピールが行えます。
JGAP認証を受ける方法は?
metamorworks /PIXTA(ピクスタ)
ここではJGAP認証を受けるために必要な手順について解説します。
まずは研修やJGAP指導員の指導を受けよう
JGAPの認証要件の1つとして「取組むGAPを十分に理解したものによる自己点検/内部監査の実施」があります。そのため個別認証の申請をする場合、まずは自ら日本GAP協会が実施している研修を受けるか、またはJGAP指導員から直接指導を受けるなどして、JGAPについての理解を深めることが必要です。
研修を受講する場合はホームページから申し込みます。基礎研修や団体認証研修があり、現在はほとんどの研修をweb(オンライン)で受けられます。
JGAP指導員の指導を受けるには、全国各地にいる指導員をJGAPのホームページで検索して指導可能エリアの指導員を探しましょう。もしくは、指導を行っている日本GAP協会の会員に直接依頼します。
・JGAP指導員検索
一般財団法人日本GAP協会「JGAP指導員検索」
研修や指導を受けたら「JGAP農場用 管理点と適合基準」に基づいて自身の農場経営をチェックし、基準を満たしていない点があれば改善していきます。最終的に、該当する必須項目には100%適合し、重要項目には95%以上適合している状態になるまで、適合基準のチェックと経営改善を繰り返します。
審査を受けようとする日から3ヵ月以上前には、「JGAP農場用 管理点と適合基準」に適合する農場運営を構築し、帳票類もそろえて運営の記録を残します。それから審査を受けますが、一度だけで合否が決まるわけではありません。
審査の結果は「適合」「不適合」「該当外」で示されます。不適合の項目は審査後4週間以内に直し、是正報告書を認証機関に送ります。
審査の判定は、是正報告書も含めて認証機関が判定を行います。合格基準を満たした農場には認証書が送られますが、認定後は、毎年更新審査を受けなければなりません。
今後の主流? 費用面などメリットの大きい「団体認証」
JGAPには、個人農家や農業生産法人など1つの経営体の農場を認証する「個別認証」と、複数の農業経営体が集まった団体や企業の農場を認証する「団体認証」があります。
団体の認証手順は個別経営とは異なり、まず団体で共有しているルールについて確認します。そのうえで「JGAP農場用 管理点と適合基準」に沿ってどの農場がどの管理点を担うかを決め、管理点を分担しましょう。
さらに、「団体事務局用 管理点と適合基準」にも適合するよう団体用の農場管理マニュアルを作り、現状のルールを改善していく必要があります。
審査をする日の3ヵ月以上前にこれらの準備を整え、団体のルールを構築して運営し、帳票類もそろえて運営の記録を残します。また、内部監査を準備し、実施します。
審査当日から判定までの手順は個別認証と同じですが、団体の場合、構成農家の審査はサンプリングとなります。
団体認証の場合は、管理点や費用を構成農家で分担するため、経営体当たりの負担が少なくなります。運営も効率化でき、役割分担によって認証基準を満たすことが容易になるなど、さまざまなメリットがあるのも魅力です。
また、取得した認証を活かす場合にも、個別の農家よりもスケールメリットがあるため、商品展開や販路開拓の可能性が広がります。このようなことから、今後は団体認証がJGAP認証の主流になっていくと考えられています。
JGAPの団体認証を取得し、農業経営に活かした好事例
sei.n/PIXTA(ピクスタ)
2012年、「穀物」で団体認証を取得した、JA北魚沼の事例を紹介します。取得当時は17農場で耕地面積172haの規模でした。
県の普及指導員から薦められたことが発端となり、JGAP認証取得に向けて動き出すことになりました。JAが主体となって、参加農場と事務局の役割分担を決めるなどの準備を進めていきます。規模の小さな農場にとって、認証取得への取り組みは費用・労力の負担が大きいため、事務局をJAに置くことで農家の負担をできる限り軽減したのです。
具体的には、農場用マニュアルやオリジナル看板を作成して配布したり、全体研修・現地視察・内部監査などを必要に応じて段階的に整備したりしました。団体を構成する農家とともに、初年度は認証検査までに20回に及ぶ研修を行ったそうです。
JGAPによって作業の記録を残すようになったことで、作業が「見える化」し、構成農家からはコストカットや効率化、販路拡大、職場環境の改善など、さまざまなメリットがあったとの声が多く挙がるようになりました。
また、農家同士で栽培計画を共有していることで互いに相談できるようになるなど、農家とJAの間の信頼関係強化にもつながったのです。
その結果、2018年には16農場が団体認証を取得し、これまでに認証取得した農場は計30にもなります。JGAPの取り組みは、少しずつ農家の意識を変えているとのことです。
ただ、記録を残す作業が負担となって更新審査をやめる農家もあります。2018年時点で、JA北魚沼の管内の認証取得農場は面積比で6.7%、人数比では1%未満にすぎません。
JGAPは一部の農家だけが行うものではなく、すべての農家が当たり前に取り組むべきことだという認識を管内全体に広めるために、JAと農家が手を取り合って取り組みを進めています。
※JGAP認証については、こちらの記事もご覧ください。
JGAP認証は農業経営に多くのメリットをもたらしますが、費用や作業負担が大きく、小規模の個人農家が単体で取り組むのは困難でしょう。しかし地域の農家が一体となり基準を満たすために推し進めていくことで、認証取得が可能になります。JGAPの取り組みは持続可能な農業の実現に不可欠です。地域全体を巻き込んで積極的に取得をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。