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荒廃農地で太陽光発電?! 農家にできる荒廃農地対策と、活用したい支援制度

荒廃農地で太陽光発電?! 農家にできる荒廃農地対策と、活用したい支援制度
出典 : inajin/ PIXTA(ピクスタ)

日本では再生利用が難しい荒廃農地が増加傾向にあります。しかし、荒廃農地は、活用次第で収益増加につなげることも可能です。そこで今回は、国が行っている荒廃農地への支援制度やその成功例などを詳しく紹介します。

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荒廃農地は一見すると扱いに困るものですが、活用次第で収益につなげることも可能です。そこで今回は、荒廃農地の再生に対する支援制度やその具体例を紹介します。

なぜ対策が必要? 日本における荒廃農地の現状

荒廃農地

EFA36/ PIXTA(ピクスタ)

そもそも、なぜ荒廃農地の対策を行う必要があるのでしょうか?そこで、まずは日本における荒廃農地の現状や問題点、遊休農地などとの違いについて紹介します。

そもそも荒廃農地とは?

荒廃農地とは現在耕作に使用されておらず、放棄されたことで荒廃し、通常の農作業を行うだけでは客観的に見て作物の栽培が不可能となっている農地のことです。

現在この荒廃農地は増加傾向にあり、発生防止や解消のため、国を中心にさまざまな取り組みが行われています。

この荒廃農地は、A分類とB分類に区分されています。

A分類

A分類はさらにaとbに分かれ、aは多少荒れてはいるものの、トラクターなどで耕起すればすぐに利用できるような状態の農地を指します。

bは低木がまばらに生えているなど、トラクターだけではすぐに耕起できないものの、重機などを併用して木の抜根などを行えば農業利用ができる土地を指します。

B分類

一方、B分類とは、重機がなければ到底復旧できないような荒廃の程度が重度な農地です。林野化などによって復元困難な農地や、農地としての価値がない土地を指します。

農地の分類 遊休農地・荒廃農地・耕作放棄地

農地法による分類
(注1)2号遊休農地:利用の程度が周辺の地域の農地に比べ著しく劣っている農地
(注2)1号遊休農地:現に耕作されておらず、かつ、引き続き耕作されないと見込まれる農地
農林業センサスによる分類
(注3)何も作らなかった田・畑: 災害や労働力不足、転作などの理由で、過去1年間全く作付けしなかったが、ここ数年の間に再び耕作する意思のある田・畑
(注4)耕作放棄地:以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地

出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策について(令和2年4月)」「農地法に基づく遊休農地に関する措置の概要」「農林業センサス等に用いる用語の解説」「令和元年 耕地及び作付面積統計」「平成30年農地の利用状況調査」「令和元年の全国の荒廃農地面積」「2015年農林業センサス」よりminorasu編集部作成

遊休農地・耕作放棄地との違い

遊休農地とは、以前は農地だったものの現在は利用されておらず、今後も農地として使われる可能性が低い土地、または農地ではあるものの周辺の農地と比べた場合、利用頻度が非常に低い土地を指します。

遊休農地は農地法で定められている言葉で、荒廃農地は「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」で定められた言葉です。意味合いに大きな違いはありません。いずれも客観的な知見から判断がなされます。また遊休農地には2種類があり、1号遊休農地はA分類の荒廃農地と同義です。

参考:農林水産省「遊休農地・荒廃農地の判定事例(令和3年6月24日)」

耕作放棄地は、1年以上作付されておらず、今後の数年間も作付する考えのない農地のことで、遊休農地とほぼ同じように使われています。

遊休農地と荒廃農地は客観的な事実に基づいて定義されますが、耕作放棄地は農林業センサスで農家自身が答えた結果であるため、主観に基づいた判断となっています。

荒廃農地面積の推移と、増加することで起きる問題

農林水産省の調査によれば、2020年(令和2年)の荒廃農地の面積は約28.2万haで、そのうち「再生利用が可能な荒廃農地(A分類)」は約9.0万ha(荒廃農地全体の32%)、「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地(B分類)」は約19.2万ha(同68%)となっています。

出典:農林水産省「令和2年の荒廃農地面積について(令和3年11月11日 プレスリリース)」

荒廃農地の面積全体で見ればここ10年間はほぼ横ばいですが、耕地面積自体が減少しており、荒廃農地の割合が増加している状況です。

耕地面積と荒廃農地割合の推移

出典:農林水産省「耕地及び作付面積統計」及び「荒廃農地の発生防止・解消等」所収の「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査結果等」各年調査結果よりminorasu編集部作成

荒廃農地の面積推移をA分類・B分類別にみると、2010年(平成22年)は約49%だったことから、10年間で再生利用の困難なB分類の割合が大きく増加していることがわかります。

荒廃農地の面積推移

出典:農林水産省「荒廃農地の発生防止・解消等」所収の「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査結果等」各年調査結果よりminorasu編集部作成

農家が使える補助金も! 行政の荒廃農地対策&支援制度

相談 男性

nonpii/ PIXTA(ピクスタ)

荒廃農地の増加は、鳥獣被害を増加させるなどの周辺農地にも悪影響を及ぼすデメリットがあるため、発生防止や解消のための対策を行うことが重要です。

政府では2020年(令和2年)に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」に基づき、荒廃農地の再生利用に向けた施策を推進しています。そこで次に、行政が行っている対策や支援制度を詳しく紹介します。

「営農型太陽光発電」のために農地転用規制等を緩和

2013年(平成25年)より、耕地に太陽光パネルを設置し、発電を行いながらその下でも作物を栽培する「営農型太陽光発電」が推奨されきました。

参考サイト:[(link) "農林水産省「営農型太陽光発電について」","url": "https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/einou.html", "target": "_blank"]

しかし、設置を行うには農地の一時転用の許可が必要で収量を地域平均の8割に維持しなければならないなどの制約があり、2018年度までの6年間で太陽光パネルが設置された農地は約1万haに留まりました。

「農地に対する過剰な規制が原因ではないか」と有識者会議から指摘があったことを契機に制度運用が見直され、農地として適切に維持管理することを条件に収量の要件を除外するなど規制が緩和されました。

また、再生利用が困難な農地に作物を栽培せずに太陽光パネルを設置する場合についても要件が緩和される予定です。

荒廃農地再生に活用できる補助事業の実施

これまで個別の農家が荒廃農地を再生利用するために活用できた「荒廃農地等利用促進交付金」は、平成30年度をもって終了となりました。

かわって、地域で活用できる「農山漁村振興交付金(最適土地利用対策)」や「中山間地域等直接支払交付金」、「多面的機能支払交付金」などの事業が実施されています。

今後は個別の農家の取り組みから地域の取り組みへと変わっていくため、地域での合意形成が必要です。

一方、都道府県などの自治体レベルでは、千葉県の「耕作放棄地再生推進事業」などを筆頭に、農家単位で活用できる補助金や交付金が現在でも存在するため、自身の住む地域の補助金制度をぜひチェックしてみてください。

農地中間管理機構(農地バンク)による農地の集積

農地中間管理機構(農地バンク)とは、地域内に分散している農地を集積・集約化することで、コスト削減や荒廃農地などの再生を図るための機関です。

荒廃農地などをまとめて借り受け、法人経営や大規模家族経営、企業などに貸し付けることで、まとまった農地利用を可能にしています。

また、地域行政と農家が地域の他産業と連携することでより効果的に地域農業を活性化することを期待し、業務の一部は市町村に委託されています。

※農地の集積についてはこちらの記事もご覧ください。

具体的な対策アイデアは? 荒廃農地の再生を叶えた3つの事例

太陽光パネル 茶栽培

Yoshitaka/ PIXTA(ピクスタ)

これら支援制度の後押しを受けながら、荒廃農地の再生を叶えた事例を紹介します。

NPO法人を設立。営農型太陽光発電で地域の荒廃農地拡大を防止した事例

約30年茶栽培を行ってきた静岡県浜松市の池田亮氏は、荒廃農地の拡大を防止するため、「NPO法人 OIKOS天竜」を設立しました。営農型太陽光発電に着目し、従来から茶栽培が行われていた農地に発電設備を設置したのです。

パネル下で池田氏が引き続き茶栽培を行った結果、遮光された条件下でもよく生長し、高品質の茶を収穫することに成功しました。また抹茶向けの茶栽培に使用する遮光幕に発電設備の支柱を利用することで、コスト削減も実現したのです。

OIKOS天竜は売電収入を得る代わりに池田氏に管理費を支払いつつ、パネル下の茶を使った商品開発も行っています。

国の「多面的機能支払交付金」を活用!地域ぐるみで荒廃農地を再生した事例

福岡県福津市は、キャベツやカリフラワーなど露地野菜の栽培が盛んな一方で、荒廃農地が増加傾向にあります。そこで、2015年(平成27年)から、多面的機能支払交付金の活用組織として上西郷地区に「上西郷の環境を守る会」を設立し、荒廃農地の再生に取り組んでいます。

多面的機能支払交付金は、水路や農道の軽微な補修、草刈りなど農地を維持するための共同活動を支援するものです。守る会の取り組みにより、再生後の農地を借り受けてのブロッコリーの作付けが行われているほか、農家の自主的な管理を意識させるなどの効果が出ています。

農地バンクの活用で、荒廃農地をみかん園地の規模拡大に有効利用した事例

長崎県佐世保市はみかん栽培が盛んですが、区画が狭小で道路や水路も未整備であるため規模拡大がしにくく、経営の安定化が図れない状況にありました。そこで、市宮長地区の若手みかん農家が地域に働きかけ、廃園を中心に農地バンクを活用した園地集積に取り組みました。

その結果、荒廃農地を5ha解消し、そこに6名の新規就農者を受け入れることに成功しました。基盤整備事業は2023年(令和5年)に完了する予定となっており、完了後はその6名に農地の転貸することを予定しています。

荒廃農地

くろうさぎ/ PIXTA(ピクスタ)

今回は、日本における荒廃農地の現状を解説し、それを打開するための国や行政の支援策を紹介しました。

国や行政による支援策や補助金制度を活用して農地集積や地域農業の活性化につなげた好例もありますので、自身の地域の将来を考える上での参考にしてください。

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百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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