収入保険とは? 「農業経営のリスクに備える」制度のメリット・デメリット
収入保険は正式名称を「農業経営収入保険制度」といい、始まったばかりの新しい制度です。従来の農業共済など、ほかの補償制度に比べて幅広いサポートが受けられます。この記事では、収入保険のしくみやメリット・デメリット、ほかの補償制度との違いについて解説します。
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目次
農業を続けていると、自然災害や市場価格の下落などにより、収入が大きく減少するリスクがあります。それを補償する制度が、個人でも法人でも加入できる「農業経営収入保険制度」です。まずは、「農業経営収入保険制度」のしくみについて解説します。
農業経営のリスクに備える「農業経営収入保険制度」とは?
HIRO / PIXTA(ピクスタ)
農業経営収入保険制度とは、農業を経営するうえで予測できないさまざまなリスクから、農家の収入を守ってくれる制度です。対象になるのはすべての農産物で、一部の加工品も含まれます。ただし、肉用牛と豚、鶏卵は対象になりません。
2019年1月から始まった新しい保険制度なので、従来からある農業共済との違いがわからない方がいるかもしれません。まずは、収入保険のしくみを詳しく解説します。
制度のしくみと主な補償内容
出典:農林水産省「収入保険」のページ所収の資料、各地域のNOSAI資料よりminorasu編集部作成
収入保険はすべての農産物を対象に、収入が落ち込んだ部分を補償してくれる制度です。経費などを差し引いた所得ではなく、農家の総収入が保険の対象です。
収入保険では、過去5年間の平均収入をもとに基準収入を設定します。基準収入には、今後の営農計画も反映されます。
収入が減少した場合、保険加入後の収入が、基準収入を下回ると保険が適用されます。保険の適用対象として認められるのは、農家の経営努力では解決できないリスクです。主な対象としては以下が挙げられます。
●自然災害
●市場価格の下落
●病気やケガにより作業ができないケース
●取引先の倒産
●作物の盗難 など
このように、幅広い要因による収入減をカバーしてくれる保険です。ただし、捨て作りや意図的な安売りによる収入減は補償されません。
加入の条件
保険に加入できる農家は、青色申告を行っている個人や法人が対象です。今や青色申告する個人農家や農業法人の数も年々増加し、2015年には44万人だったのが、2018年には46万人となっています。つまり、多くの農家が対象となる制度だといえます。
収入保険の申し込みは、申請時に青色申告の実績が1年分あることが条件です。また、簡易な方式による青色申告でも認められます。青色申告をする個人農家・農業法人が増える中、今後は収入保険への加入率も高くなることが予想されます。
出典:農林水産省「収入保険について(令和2年4月)」
反対に加入の対象から除外されるのは、農業共済やナラシ対策(収入減少影響緩和対策)の適用を受けている場合です。つまり収入保険と農業共済には、同時に加入することができません。
保険の対象期間は、個人と法人で以下のように異なります。
個人の場合
1月~12月で、11月末までに翌年の加入申請を行い、12月中には保険料を納付する必要があります。
法人の場合
事業年度の1年間が対象で、事業年度の1ヵ月前までに翌年度の申請を行い、現在の事業年度中に保険料を納付します。
収入保険の掛け金(保険料)と補償金額の目安
収入保険が適用になった場合の掛け金と補償金額について解説します。収入保険には基本のタイプと保険料の安いタイプとの2種類があります。具体的な金額については、農業共済組合に相談するとシミュレーションをしてくれます。
muu / PIXTA(ピクスタ)
収入保険は、掛け捨てタイプの保険方式と、掛け捨てではない積立方式との組み合わせが可能です。もちろん保険方式だけを選択することもできます。
1.基本のタイプ
収入保険は、掛け捨てタイプの保険方式と、掛け捨てではない積立方式との組み合わせが可能です。もちろん保険方式だけを選択することもできます。
補償のしくみ
所得が基準収入の9割を下回った場合に保険が適用され、下回った額の9割までが補償されます。
掛け金の一例:基準収入が1,000万円の場合
保険料が78,000円と積立金が225,000円、付加保険料(事務費)22,000円を合わせて、年間で325,000円がかかります。
補償の計算例:収入ゼロの場合
基準収入1,000万円の9割に当たる900万円に対して、下回った収入が900万円となります。その9割に当たる810万円が補償されます。
補償の計算例:収入500万円の場合
基準収入1,000万円の9割に当たる900万円と、収入500万円との差額である400万円に対して、その9割に当たる360万円が補償されます。
出典:
農林水産省「農業経営の収入保険」のページ 所収の資料「収入保険の掛金の安いタイプ パンフレット( 1ページ目 基本のタイプ)」
農林水産省「農業経営の収入保険(詳細)」
2.保険料の安いタイプ
保険料の安いタイプでは、基準収入に対する補償額の下限を設定することで、掛け金を最大4割まで安く抑えられます。設定できる下限は、基準収入の70%・60%・50%の3種類です。
掛け金の一例:補償額の下限が70%の場合
基準収入が1,000万円の場合は、保険料が49,000円と積立金が225,000円、付加保険料が19,000円となり、合計では年間293,000円となります。
補償の計算例:補償額の下限が70%で、収入が700万円だった場合
基準収入1,000万円の9割に当たる900万円と、収入700万円との差額が200万円となります。その9割に当たる180万円が補償されます。もしも収入が下限の70%未満(この場合は700万円未満)だった場合は補償されません。
基本のタイプも保険料の安いタイプも、積立金は翌年に持ち越されます。また保険の利用が少なければ保険料率が段階的に下がり、利用が多いと段階的に上がります。
出典:
農林水産省「農業経営の収入保険」のページ 所収の「収入保険の掛金の安いタイプ パンフレット( 2ページ目 補償の下限を選択することで、保険料を安くできるタイプ)」
農林水産省「農業経営の収入保険(詳細)」
収入保険制度のメリット・デメリット
収入保険はすべての農産物と一部加工品が対象になるため、幅広い形態の農家が利用できます。補償の対象になる収入減少の要因も、既存の制度に比べて範囲が広いというメリットがあります。
また、補償金の支払いは保険期間の終了後ですが、それまでの間に無利子のつなぎ融資を、NOSAI全国連から受けることができます。しかし、補償金の支払いは、個人農家は青色申告後で、農業法人は決算後となります。保証されるまでに時間差がある点は、1つのデメリットともいえるでしょう。
そのほかのデメリットとしては以下が挙げられます。
・収入源の原因が、生産コスト上昇の場合(燃料や資材の高騰など)は対象外となる
・農作業日誌の記入や保存が必要なので、その分の負担がかかる
補償内容に差はある?「農業共済」との違い
農家の収入減をカバーする制度としては、すでに農業共済制度があります。最後に収入保険と農業共済を比較して、どちらを選んだ方がよいかを考えてみましょう。
自然災害による損害を補償する「農業共済」
ニヤデザイン / PIXTA(ピクスタ)・cozy / PIXTA(ピクスタ)・ dr30 / PIXTA(ピクスタ)
taka / PIXTA(ピクスタ)
農業共済は、自然災害による農家の収入減を補償する制度で、農作物共済や畑作物共済など7つの種類があります。運営主体は農業共済組合または市町村で、掛け金の50%は国が負担しています。
共済の種類により補償期間に違いがあり、共済掛け金も異なります。基本的に作物の収量や資産価値をもとにして共済金が支払われます。
出典:農林水産省「農業共済」のページ所収の資料、各地域のNOSAI資料よりminorasu編集部作成
「収入保険」と「農業共済」はどちらに加入すべき?
収入保険と農業共済を比較すると、収入保険はすべての農産物が対象になるのに対して、農業共済では対象になる農産物が限定されています。
米や麦が対象の農業共済は、以前であれば加入が義務付けられていました。現在は、農業共済を含め、すべての共済が任意加入です。加入条件は、農業共済組合が定める面積以上の耕作地を有していることとなっています。一方の収入保険は、青色申告を行っていることが加入条件です。
最も大きな違いは、農業共済では自然災害だけが対象で、収入保険は市場価格の下落など、幅広い収入減の要因が対象になることです。適用範囲が広いサポートが必要な農家は、収入保険を選んだほうがよいといえるでしょう。
栽培品目によって、そのほかの既存制度への加入も検討を
収入保険と農業共済以外にも、農業経営のリスクをカバーする制度がありますので紹介します。
ナラシ対策(収入減少影響緩和交付金)
米や麦などの価格が下落したときに、収入の一部を補償する制度です。この制度は収入保険と同時加入できません。
※詳細は農林水産省「経営所得安定対策」のページをご確認ください。
ナラシ対策についてはこちらの記事もご覧ください。
野菜価格安定制度
野菜類を生産する農家に対して、指定野菜の価格下落時に給付金を交付します。
詳細は独立行政法人 農畜産業振興機構「指定野菜価格安定対策事業の概要」をご確認ください。
指定野菜についてはこちらの記事もご覧ください。
収入保険は幅広い補償制度がメリットで、設定によっては安い保険料で手厚いサポートが受けられます。農業経営のリスクを減らすためにも、新しく始まったこの制度を上手に活用してみてください。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。