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国産小麦の需要拡大に注目! 栽培条件や消費・生産動向、参入の成功事例を解説

国産小麦の需要拡大に注目! 栽培条件や消費・生産動向、参入の成功事例を解説
出典 : yamoto kaoru / PIXTA(ピクスタ)

主食用米の需要が減少する一方で、国産小麦の需要は拡大しており、小麦栽培に参入する農家が増えています。食糧自給率の向上をめざす国の施策もあり、水稲から小麦への転作も進む傾向です。この記事では小麦の生産動向や栽培条件、小麦栽培の参入に成功した農家の事例を解説します。

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国産小麦の栽培メリット

小麦栽培には、水稲に比べて面積あたりの労働時間が少ないというメリットがあります。また、食料の自給率向上をめざす国の政策によって、水稲から小麦などへ転作する農家には交付金が支給されています。

国内の小麦の消費量は安定している一方で、小麦の自給率は17%と低く、大部分を輸入に依存しているのが現状です。近年は、小麦の品種改良や消費者の国産志向の高まりといった背景から、国産小麦に切り替える食品メーカーも見られ、国産小麦の需要は高まると予測されます。

面積あたりの労働時間が水稲よりも少ない

2023年産の米10aあたりの労働時間が21.86時間(個別経営体全国平均)であるのに対して、小麦10aあたりの労働時間は3.25時間(個別経営体全国平均)です。水稲栽培に比べて、小麦栽培は面積あたりの労働時間が大幅に少ない点がメリットです。

また、水稲と小麦の作期は異なるため、水稲との複合作が効率的にできる点もメリットといえます。

出典:農林水産省「農産物生産費統計」所収「令和5年(2023年)産米生産費(個別経営体)」
「令和5年(2023年)産麦類生産費(個別経営体)」

国の政策として支援を受けることができる

水田と小麦の二毛作(滋賀県)

めがねトンボ / PIXTA(ピクスタ)

米の需要が年々減り続ける中、水稲農家の課題は、持続的な農業経営を実現するために、収益を高めることです。国でも食料の自給率向上に取り組み、輸入食料の減少リスクに備えようとしています。

水稲農家と国が抱える課題を解決するために、国では「水田活用の直接支払交付金」という制度を設けて、水稲から小麦などへの転作を支援しています。転作だけでなく、ブロックローテーションによる輪作も支援対象です。

・戦略作物助成
水田を活用して小麦や大豆などを生産する農家に、10a当たり3万5,000円が助成されます。水稲以外の作物を主に栽培する基幹作のみが対象です。

・産地交付金
都道府県や地域農業再生協議会ごとに定められた「水田収益力強化ビジョン」に基づき、予算の範囲内で交付金を支払うしくみです。対象となる作物や交付金の金額は地域ごとに異なりますが、水稲と小麦の二毛作を支援する地域も見られます。

・都道府県連携型助成
転作に取り組む農家を都道府県が独自に支援する場合に、国が上乗せして支援金を支払うしくみです。

・畑地化促進助成
水田を畑地化し、高収益作物やその他の畑作物の定着等を図る取組等に対して支援されます。

また、「畑作物の直接支払交付金」は、小麦などの生産・販売を行う農業者に対して、「標準的な生産費」と「標準的な販売価格」の差額分に相当する交付金を直接交付する制度です。

そのほかに、麦・大豆生産技術向上事業として、新たな営農技術の導入や機械・施設の導⼊に対する助成が受けられます。

輸入小麦の価格の値上がりによる国産小麦志向

世界的な小麦の需要拡大に伴い、一時は値下がり傾向にあった輸入小麦の価格が再び上昇しています。

世界情勢の影響だけでなく、輸送コストの増大・円安傾向の継続も価格上昇の原因です。そのため、一部の食品メーカーや飲食店では国産小麦に切り替えて、商品の価格を抑える動きも見られます。

また、消費者の国産小麦志向や、各地域における特産小麦のブランド化、国産の新品種の品質向上などにより、国産小麦の人気は高まってきています。

国産小麦の使用状況・自給率

農林水産省によると、小麦の重量ベースの自給率は2021年は17%、2022年は15%、2023年は17%と、諸外国と比べると最低水準です。

小麦の自給率の国際比較 2021年試算

出典:農林水産省「令和5年(2023年)度食料自給率・食料自給力指標について」所収(参考2)令和5年(2023年)度食料需給表 p14「③諸外国の品目別自給率(重量ベース)(2021年)(試算)」より minorasu編集部作成

2023年の国民1人当たりの小麦の年間消費量は31.0kgで、1967年以降は大きな変動は見られません。

一方、国民1人当たりの米の年間消費量は1962年度をピークに減少を続けており、2023年は51.1kgでした。食生活の多様化もあり、パンや麺類といった小麦製品を主食に取り入れる人が増加している傾向です。

米と麦の1人当たり年間消費量の推移

出典:農林水産省「令和5(2023年)年度食料自給率・食料自給力指標について」所収(参考2)令和5年(2023年)度食料需給表 p14「③諸外国の品目別自給率(重量ベース)(2021年)(試算)」より minorasu編集部作成

小麦の使用状況を見るとパン用が全体の約27%、麺用が約32%を占めていますが、自給率の低さから国産小麦を使用している割合が低いのが現状です。食感などの違いもあり、国産小麦と外国産小麦をブレンドして使うことも少なくありません。

しかし、近年では消費者の国産志向や後述する輸入小麦の値上がりもあり、国産小麦だけを使用する加工品も増えています。

国内産小麦の生産動向

小麦の収穫量・作付面積の推移

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」所収「令和6年(2024年)産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量」よりminorasu編集部作成

2024年の国内での小麦の作付面積は23万1600ha、2010年度と比べると約2万4,000haも作付面積が増加しています。収穫量は2010年度の57.1万tに対し2024年は102.3万tで、約79%増加しました。

地域ブロック別の小麦の収穫量・作付面積(2024年産)

地域ブロック収穫量(構成比)作付面積(構成比)
北海道70万7,800t69.2%13万1,800ha56.9%
九州10万9,700t10.7%3万7,500ha16.2%
関東・東山7万9,800t7.8%2万1,400ha9.2%
東海6万0,200t5.9%1万8,000ha7.8%
そのほか6万5,500t6.4%2万2,900ha9.9%
全国計102万3,000t100.0%23万1,600ha100.0%

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(水陸稲、麦類、大豆、そば、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」所収「令和6年(2024年)産麦類(子実用)の作付面積及び収穫量」 よりminorasu編集部作成

北海道だけで収穫量の69.2%、作付面積の56.9%を占めていますが、九州や関東・東山(注)、東海も小麦の主な産地です。需要に合わせた品種改良も進んでおり、外国産小麦よりも質の高い品種も登場しています。

(注)東山:農林水産省の統計では、山梨県・長野県

「Pasco]ブランドの敷島製パン株式会社は、国産小麦の小麦粉使用比率を高める取り組みを行っており、「ゆめちから」「春よ恋」「きたほなみ」などをブレンドした「北海道超熟食パン」を北海道の直営店とオンラインで販売している。

「Pasco」ブランドの敷島製パン株式会社は、国産小麦の小麦粉使用比率を高める取り組みを行っており、「ゆめちから」「春よ恋」など北海道産小麦を使用した「北海道超熟食パン」を北海道の直営店とオンラインで販売している。
出典:株式会社PR TIMES(敷島製パン株式会社 ニュースリリース 2020年7月1日 )

北海道では中力系小麦の「きたほなみ」が主流ですが、2011年度以降は強力系小麦の「ゆめちから」「春よ恋」の作付面積も伸びています。九州北部では中力系小麦「チクゴイズミ」と強力系小麦「ミナミノカオリ」の生産が堅調です。

北関東では2010年に中力系小麦の「農林61号」から「さとのそら」への品種転換が進み、収益性の高さもあり生産量の減少に歯止めがかかりました。2018年には強力系小麦の「ゆめかおり」が登場、東山地域(山梨県・長野県)での生産も始まっています。

出典:農林水産政策研究所「日本の麦-拡大し続ける市場の徹底分析-」(国内産小麦に関するセミナー 2019年10月23日)

小麦の栽培に適した気候の条件とは

小麦の栽培には、出穂時期に当たる5~6月に雨が少ない気候が適しています。小麦は湿害に弱く、土壌が湿りすぎると穂数不足や粒の充実不足の原因になるからです。

湿害により穂が褐変した小麦

湿害により穂が褐変した小麦
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

また、生育期から収穫期にかけて降雨が続くと粒から発芽し、デンプン・タンパク質が分解されて品質低下の原因になります。そのため、地中海性気候に属するヨーロッパでの生産が盛んです。

アメリカ・カナダやオーストラリアでも降水量の少ない地域では小麦栽培が行われており、有力な小麦輸出国として位置づけられています。

日本での小麦栽培は9月中旬から11月下旬にかけて播種し、6月から8月にかけて収穫する秋播き栽培が主流です。

出穂時期に当たる5月~7月が梅雨期となるため、北海道以外では小麦を十分に熟成できず、タンパク質を多く含む強力系小麦の栽培が難しいといわれていました。

しかし、国内の気候に合わせた品種改良や栽培技術の向上が進んだ結果、北海道外でもパンやラーメンに適した強力系小麦の栽培が増加しました。

中力系小麦「きたほなみ」の干しうどん

中力系小麦「きたほなみ」の干しうどん
bj_sozai / PIXTA(ピクスタ)

中力系小麦でも品種改良が進み、2016年の製麺試験結果では「きたほなみ(北海道)」「きぬあかり(愛知県)」「あやひかり(三重県)」の3品種がオーストラリア産「ASW」を上回っています。

ただし、近年では北海道でも収穫期に雨が続く(えぞ梅雨)場合があるほか、収穫期にゲリラ豪雨に見舞われる場合もあるため、天候の推移を確認しながら収穫期を見極めることが大切です。

出典:農林水産政策研究所「日本の麦-拡大し続ける市場の徹底分析-」(国内産小麦に関するセミナー 2019年10月23日)

愛知県弥富市 中力系小麦「きぬあかり」ほ場

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

国産小麦の栽培における取り組み・成功事例

国産小麦の栽培で、農家の高収益化や6次産業化に成功した事例を紹介します。水稲栽培から小麦栽培へ転換した事例や小麦農家との交流を促進している事例もあるので、小麦栽培に参入する際には参考にしてください。

地元産小麦の普及やブランド化を推進「十勝小麦キャンプ」

十勝小麦キャンプは、北海道産小麦のブランド化推進や販路拡大を目的として、2009年に帯広市と帯広市食産業振興協議会(現在のフードバレーとかち推進協議会)が事務局となってスタートした組織です。

毎年1回イベントを開催し、十勝地方の小麦農家や加工場をめぐるバスツアーや、十勝産小麦を使ったパン作りの講習会を実施しています。

十勝産小麦のブランド力を高めて地産地消を促進するため、菓子・うどん作りの講習会やパンの即売会、農家や研究者などとの交流会も開催しています。

2015年からは「北海道小麦キャンプ」に名称を変更、オホーツク地方や美瑛など北海道内の小麦産地でのイベントやオンラインでの小麦ツアーを開催するなど、活動の幅を広げています。

北海道内にとどまらず、全国の農家・製粉事業者や消費者をターゲットに活動に取り組んでいるのが特徴です。

北海道小麦キャンプ ホームぺージ
北海道小麦キャンプ Facebook

北海道小麦キャンプに参画している「満寿屋商店」は東京都内にベーカリー「麦音」を出店。十勝産小麦の魅力を伝えている。

北海道小麦キャンプに参画している「満寿屋商店」は東京都内にベーカリー「麦音」を出店。十勝産小麦の魅力を伝えている。
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社満寿屋商店 ニュースリリース 2018年12月18日)

稲作から小麦への移行で収益が拡大「イカリファーム」

滋賀県の株式会社イカリファームは2008年の農業生産法人(現在の農地所有適格法人)設立を機に、稲作主体の経営形態から小麦・大豆・キャベツなどの野菜類へ転作して農業経営を多角化しました。

地元の製パン業者からの依頼をきっかけに強力系小麦「ゆめちから」の栽培にも参入、生産技術の向上を重ねて滋賀県内のほかの農家でも「ゆめちから」を栽培できる基盤を構築しました。

イカリファームでは小麦の乾燥調製施設を運営しており、生産から販売まで自社で完結できる体制を構築しています。国の水田活用の直接支払交付金も活用した結果、単位面積当たりの所得を水稲の3倍まで拡大したのです。

県内の農家から小麦を買い取り、小麦粉やクラフトビール・菓子などに加工して直売所やオンラインショップで販売する6次産業化にも乗り出しています。

株式会社イカリファーム 公式サイト
Instagram

近江八幡市の小麦畑

近江八幡市の小麦畑
めがねトンボ / PIXTA(ピクスタ)

もち性小麦の特徴的な食感・食味を活かして6次産業にも着手「農事組合法人赤沼営農組合」

青森県十和田市の農事組合法人赤沼営農組合では、餅と比べて粘着性が低く飲み込みやすいという小麦の特性に着目して、あらゆる年代でも食べやすい加工品の開発に乗り出しました。

ブランド力の向上をめざし、産学官連携制度により菓子・水餃子や郷土食であるかっけ・かます餅などを開発し、直売所や県内の企業で販売する6次産業化にも着手しました。

販売先や収益の確保が課題として浮上しましたが、関係者と協議のうえで相互理解を図り加工品の販売にこぎつけています。

一方、事業環境の変化で収益化につながらず、スタッフの確保も難しくなったため令和3年3月をもって6次産業部門は終了しました。6次産業化によって高収益化をめざすには、担い手の確保も課題となることがわかる事例です。

農事組合法人赤沼営農組合

十和田市、おいらせ町などで栽培されている小麦「もち姫」

十和田市、おいらせ町などで栽培されている小麦「もち姫」
otamoto17 / PIXTA(ピクスタ)

消費者の食生活が多様化しているほか、食材への安全意識も高まっていることから国産小麦への注目度は高まっています。輸入小麦の値上がりや世界情勢の不安定さも相まって、国でも食糧自給率を高めようと稲作農家に小麦などへの転作を推奨しています。

近年では小麦の品種改良も進んでおり、北海道などの主産地以外でも小麦栽培は可能です。6次産業化や農家との交流などを組み合わせて、収益化に成功している農家も見られます。今後の市場拡大を期待できる分野なので、小麦栽培への参入を検討してみてはいかがでしょうか。

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舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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