小麦の追肥時期や施肥量まとめ|中間地・暖地の秋播き小麦
小麦は栽培期間が長く、基肥だけでは十分な生育が期待できない場合があり、収量安定のためには追肥が重要です。この記事では、主に中間地・暖地の秋播き小麦の追肥のポイントを、各地の施肥基準を参考に紹介します。
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冷涼乾燥気候を好む小麦は、日本では主に冬作物として栽培されています。収量増や品質向上のためには適切な追肥が大切といわれますが、実施するタイミングや施肥量によってはあまり効果が出ない場合があります。
そこで今回は、中間地・暖地の秋播き小麦の適切な追肥について、各地の施肥基準を参考に紹介します。
小麦の追肥の重要性
nobmin / PIXTA(ピクスタ)
気温の低い条件下の期間が長い小麦は、春作物や夏作物に比べて、肥切れを起こしやすい作物です。
そのため、基肥だけでは満足のいく収量や品質が確保できない場合もあります。農業の世界では昔から「稲は土で作り、麦は肥料でとる」といわれるように、小麦栽培では追肥の施用が収量増や品質向上の面で重要になります。
また、追肥で窒素分を複数回に分けて補うことによって施肥効率が高まるため、肥料コスト削減の面でも効果的です。
ただし、追肥と一口にいっても、行うタイミングによってその呼称や目的は異なります。小麦の追肥では、「追肥(1回目)」「穂肥(ほごえ)」「実肥(みごえ)」の3回が基本となっています。
幼穂形成期から茎立ち期に行うのが穂肥(ほごえ)です。出穂前20~25日を目安に実施され、一般的には硫安、尿素などの速効性窒素肥料を施します。
子実の充実を目的に止葉展開期から開花期頃に行う追肥が実肥(みごえ)と呼ばれます。
追肥にはそのほかにも、主に寒地を中心に冬の生育停滞期後の生長促進を目的として行われる「融雪後追肥」「起生期追肥」、秋から冬にかけての長雨が続いたシーズンや比較的温暖で冬期間中も生育が進む地域などで実施される場合のある「分げつ期追肥」「つなぎ肥」などがあります。
追肥のタイミングや施肥量の考え方
例として滋賀県の麦栽培の施肥基準を紹介します。
この基準には「農林61号」「ふくさやか」「シロガネコムギ」の施肥基準が示されています。各品種とも穂肥と実肥の時期は同じですが、穂肥と実肥の量とバランスが異なっています。
■小麦の施肥量 例 ~滋賀県 施肥基準の場合~(10a当たり施肥量・kg)
農林61号 晩生・長稈 | ふくさやか 早生・短稈 | シロガネコムギ 早生・短稈 | ||
---|---|---|---|---|
総量 | N:12~15 P:5~6 K:12~15 | N:14~15 P:4~5 K:14~15 | N:13~16 P:5~6 K:13~16 | |
基肥 | N:5~6 P:5~6 K:5~6 | N:4~5 P:4~5 K:4~5 | N:5~6 P:5~6 K:5~6 | |
追肥 | 12月下旬~ 1月下旬 | N:2 P: K:2 | N:2 P: K:2 | N:2 P: K:2 |
穂肥 | 2月下旬~ 3月上旬 | N:2~3 P: K:2~3 | N:4 P: K:4 | N:4~5 P: K:4~5 |
実肥 | 4月下旬~ 5月上旬 | N:3~4 P: K:3~4 | N:4 P: K:(4) | N:2~3 P: K:(2~3) |
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「滋賀県|売れる麦・大豆づくりに向けての指針」所収「施肥基準」よりminorasu編集部まとめ
晩生の農林61号は基肥の比率が高く、約4割、早生のふくさやか、シロガネコムギはそれぞれ約3割、約4割と異なっています。
また、追肥についてみると、農林61号は実肥が多く、ふくさやかは実肥と穂肥が同量、シロムギコガネは穂肥が多くなっています。
追肥量は品種の早晩性のほか、対倒伏性や目標とするたんぱく質含量などによっても、土壌の特性によっても異なります。実際に施用するに当たっては、ほ場に適した方法かどうかを十分考慮することが重要です。
小麦の追肥のポイントと注意点
ここからは、主に前出の滋賀県の麦栽培の指針をもとに、小麦栽培で追肥・穂肥・実肥を実施する際のポイントを紹介していきます。
追肥
nobmin / PIXTA(ピクスタ)
小麦栽培で安定した収量を実現するには、追肥のタイミングが重要です。
前出の滋賀県の資料によると、農林61号では穂数の増加とともに収量も増える傾向にあるものの、1平方m当たり500本で頭打ちになるとされています。
そのため、1回目の追肥のタイミングは茎数が1平方m当たり300~400本程度を目安として、それより多い場合は標準月より遅めに、少ない場合は早めに行うとされています。
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「滋賀県|売れる麦・大豆づくりに向けての指針」所収「施肥基準」
北海道 川田様
■栽培作物
米・小麦・大豆
▷広いほ場の効率的な管理
▷気候の変化により追肥の適期判断が難しくなっていた
▷2人で見回るには土地が広く、効率的なほ場管理ができていなかった
▷地力や生育ステージに合わせた効果的な基肥・追肥が可能になった
▷見回りが1回あたり2時間から1時間に半減。
▷適期防除ができるようになって小麦の収量が増え、地域平均が7.98俵のところ12.8俵収穫を実現。反収は近隣農家の約2倍。
穂肥
baku / PIXTA(ピクスタ)
タイミングが早すぎると生育後期に肥料切れを起こし、粒が小さめになる恐れがあります。反対に遅すぎると粒数が思うように増えず、収量低下を招きやすくなります。
そのため、生育状況を確認したうえで施用することが大切です。静岡県の麦・大豆栽培マニュアルでは、幼稈長5~10cmを目安に穂肥を行うとよいとされています。
また、前出の滋賀県の資料では3月上旬時点での茎数を参考にすることが推奨されています。気温が高くなる春頃の施肥は施肥効率が高まりやすく、窒素供給量が増えすぎると倒伏の恐れが高まってしまいます。そのため、1平方m当たりの茎数700本を目安に施肥量を調節し過剰分げつを抑えることが示されています。
出典:
静岡県「農芸振興課水田農業班」のページ所収 「麦・大豆栽培マニュアル(麦・大豆等生産推進協議会)」
農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「滋賀県|売れる麦・大豆づくりに向けての指針」所収「施肥基準」
実肥
Milvus / PIXTA(ピクスタ)
実肥は5月頃の開花期に、子実のたんぱく質含量、容積重、1粒重の向上など、品質向上を目的として行われます。特に高いたんぱく質含量が求められる製パン用や中華麺用に出荷する場合は、実肥の施用が有効です。
一方で、たんぱく質含有率がそれほど求められない日本めん用に使用される小麦では、開花期以降の追肥は避けたほうがよいとされています。
実肥を行う際の注意点は、過剰な施肥をしないことです。実肥は子実の品質向上に役立ちますが、過剰な施肥を行うと小麦粉にした際の色や明るさに劣化が見られる場合があります。
見た目の悪化により等級が低下する恐れがあるため、生育状況を確認しながら施肥することがポイントです。実肥を行う場合は、追肥や穂肥で生育を調整しておくことが求められます。
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「滋賀県|売れる麦・大豆づくりに向けての指針」所収「施肥基準」
各地で実施されている効果的な小麦の施肥・追肥手法
最後に効率のよい小麦の施肥方法を探している方に向けて、3つの施用方法を紹介していきます。
播種前の石灰窒素の施用
大地爽風 / PIXTA(ピクスタ)
水稲との輪作、または、水田輪換で小麦を栽培する場合、地力窒素が不足することがあります。そのようなときは石灰窒素の投入が有効です。
窒素分の供給は稲わらのすき込みでも効果はあるものの、稲わら分解時に発生した窒素は土中の微生物が吸収してしまい、十分な効果を期待できない場合があります。その点、石灰窒素は稲わら腐熟促進と緩効性の肥効、硝化抑制といった複数の効果が期待できます。
近畿中国四国農業研究センター(現・西日本農業研究センター)の試験によれば、稲わら全量すき込みに加え、石灰窒素を施用することよって生育の安定だけでなく、たんぱく質含量の向上も見られたことが報告されています。
また、前出の滋賀県の施肥基準では、具体的な石灰窒素の利用方法も紹介しており、それによると現物で10a当たり20kgの石灰窒素を耕起前に投入して、できるだけ深耕することが推奨されています。
ただし、窒素の供給過多を防ぐために、石灰窒素に含まれる窒素分は基肥で減量するなどの調整が必要です。また、発芽障害リスクを低減するために、播種の約1週間前までに実施するべきだとしています。
出典:
農研機構近畿中国四国農業研究センター(現・西日本農業研究センター)「水稲跡小麦栽培に対する石灰窒素入り肥料の利用法」
農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「滋賀県|売れる麦・大豆づくりに向けての指針」所収「施肥基準」
排水不良ほ場での追肥重点型施肥
小麦の湿害 穂が褐変している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
小麦は、水稲との輪作、または、水田輪換で作付されることが多い作物ですが、湿害を受けやすく水稲の後作での播種には注意が必要です。
排水性の悪いほ場では明渠施工や畔立て栽培などの工夫をしなければいけないことがありますが、それでも収量が改善しない場合は追肥重点型施肥が有効だとされています。
追肥重点型施肥とは、基肥の窒素分をあえて少なくしたうえで、多くの窒素を必要とする節間伸長期に追肥量を増やすことで小麦の効率的な生長を促す施肥方法です。
具体的には茎立ち期に行われる穂肥を重視して行う追肥を指し、通常1度しか行われない穂肥を茎立ち開始期と止葉抽出期の2回に分けて行います。
山口大学の研究では、基肥や分げつ肥での窒素を抑え(リン酸やカリウムは慣行同様)、茎立ち期以降の窒素施肥量を増やしました。
もともとは茎立ち期に10a当たり3kgを1度だけ施用していたのを、茎立ち開始期(6kg/10a)と 止葉抽出期(4kg/10a)の2回に分けて施肥したところ、慣行区と比べて5~15%も収量が増加したという結果が出ています。
出典:農林水産省「麦関連情報」所収「診断に基づく小麦・大麦の栽培改善技術導入支援マニュアル《総合版》」(農研機構 中央農業研究センター)内「施肥法の見直しによる麦類の収量性の安定化」
越冬前施肥法
どん兵衛 / PIXTA(ピクスタ)
積雪の多い地域での小麦栽培は冬期の追肥が難しい場合がありますが、新潟県では越冬前の追肥によって収量が改善した事例があります。
もともとは基肥のみを窒素成分で10a当たり6kg施用していましたが、新たな越冬前施肥法では基肥を4kgに抑える一方で、苗立ちが揃ってくる播種後2週間を目安に2~4kgの施肥を行いました。
その結果、慣行体系では越冬直前に1平方m当たり800本という目標値に届かなかったものの、新たな越冬前施肥法の試験区ではそれを超える数値を記録しています。
また、この施肥法では従来通りの葉色が維持されたほか、たんぱく質含量や容積重は慣行体系と同じでした。
細麦粒が発生するリスクがあるため、茎数が過剰になりやすいほ場では苗立期の施肥量を少なくしたほうがよいという注意点があるものの、慣行の追肥作業労賃や肥料費に比べると安価に実施できることから、収益性が増える可能性もあるとしています。
Rise / PIXTA(ピクスタ)
小麦の肥料切れは、収量、品質に影響します。品種や栽培地域によって適切な施肥量やタイミングは異なるため、地域の施肥基準、農政部署やJAの営農情報を参考にしながら、ほ場に適した追肥を行ってください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。