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【小麦の赤かび病】症状・対策と、防除に使える農薬例

【小麦の赤かび病】症状・対策と、防除に使える農薬例
出典 : Tomasz - stock.adobe.com

小麦の赤かび病は品質・収量の低下を招き、人畜へ有毒となるかび毒「DON(デオキシニバレノール)」や「NIV(ニバレノール)」を産生する病害です。この記事では赤かび病の症状や発生の原因、防除方法について解説します。抵抗性を持つ品種や赤かび病の防除に適した農薬についてもお伝えします。

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小麦の重要病害「赤かび病」とは?

小麦の赤かび病に感染した穂

小麦の赤かび病に感染して症状が現れている穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

小麦の赤かび病とは、人畜へ有害となるかび毒「DON(デオキシニバレノール)」や「NIV(ニバレノール)」を産生する病害です。赤かび病の発症は小麦の穂にFusarium(フザリウム)属菌が付着することで起こります。

小麦の赤かび病が発生しやすい時期や環境、起こる症状は以下になります。

小麦 赤かび病の発生時期や症状など

感染時期開花期から乳熟期、生育後期
好適環境高温多湿
主な症状穂の褐変
子実の萎縮
小麦粒が桃色〜橙色になる

出典:
農研機構所収「麦類のかび毒汚染低減のための 生産工程管理マニュアル改訂版」
一般社団法人日本植物防疫協会「麦類赤かび病の発生生態と防除」
茨城県「麦類-赤かび病(Gibberella zeae)」
気象庁ホームページ「農業分野における気候リスクへの対応の実例:2週目の気温予測を使った小麦赤かび病対策」

特に高温多湿である日本は、赤かび病が発生しやすい環境です。開花期の降雨は感染率を高めます。

地域ごとの特性や天候を考慮しながら適期防除を心がけつつ、抵抗性品種を導入するなど、総合的な防除対策が求められます。

小麦の流通・販売には“かび毒”対策が必須

かび毒の「DON」と「NIV」は、どちらも大量に摂取すると、嘔吐や食欲不振などの急性中毒を生じ、一定以上の摂取で免疫系に影響があることがわかっています。また、DONを大量摂取した場合、胎児へ悪影響を及ぼすことも確認されています。

農林水産省は2008年に「麦類のデオキシニバレノール・ニバレノール汚染低減のための指針」を策定し、農家に対応を求めています。

また、厚生労働省も2002年に、「小麦に含有するDONの暫定的な基準値として1.1mg/kg」を設定しています。

出典:
内閣府 食品安全委員会所収「食品安全委員会 季刊誌「食品安全」(第26号)」
農林水産省「食品のかび毒に関する情報」所収「麦類のデオキシニバレノール・ニバレノール汚染低減のための指針」
厚生労働省「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会資料(令和2年(2020年)(9月30日)」所収「食品中のデオキシニバレノールの規格基準の設定について」

さらに、農産物検査の規格では、赤かび粒混入率の許容値が0.0%と厳しく設定されています。規格外となり出荷できないおそれがあるため、徹底した防除が重要です。

出典:農林水産省「麦類のかび毒汚染予防・低減指針」

【写真あり】 小麦の赤かび病の主な症状

赤かび病が発病した小麦の穂

赤かび病が発病すると穂の褐変や白変が見られる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

小麦の赤かび病の症状は、以下のとおりです。

  • 穂の一部または全体が褐変する
  • 穎(えい)の合わせ目に胞子が形成されることで桃色〜橙色になる
  • 穂軸や穂首が侵されて部分的あるいは穂全体までもが白変することがある

小麦栽培では上記のような症状が現れていないことをこまめに確認しながら、農薬を使って防除することが欠かせません。

発生がはなはだしいと、罹病子実は白っぽい屑麦や不稔粒となり、大きな減収が避けられません。

診断のポイント

赤かび病の被害粒を見極めるポイントは以下になります。

  • 粒厚が薄い
  • 比重が軽い
  • 白く退色している
  • しわが寄っている

被害粒がある場合、周辺の小麦にも被害が及んでいる可能性が高いです。

小麦の赤かび病の原因と感染経路

麦畑

麦畑の様子
MakiEni/ PIXTA(ピクスタ)

小麦の赤かび病の原因菌は糸状菌で、Fusarium(フザリウム)属菌など約10種が知られています。

それらの菌糸や胞子は、ほ場の残さや土壌の中で子のう胞子を形成して越冬します。そして、春になるとこれらの胞子が風や雨によって飛散し、小麦の穂に付着して赤かび病となるのです。

小麦の赤かび病の防除適期は?

小麦の開花

小麦が青々と開花した様子
otamoto17 / PIXTA(ピクスタ)

小麦赤かび病は開花期、あるいは開花期から乳熟期にかけての期間に発生・感染しやすいことが明らかになっています。そのため、防除適期としては、開花期の初期段階が最も有効です。

赤かび病を防除する農薬の散布は、複数回に分けて実施するのが一般的です。

  • 秋播き小麦の防除:開花始めと1週間後の合計2回の散布を推奨
  • 春播き小麦の防除:開花始めと1週間後、さらにその1週間後の合計3回の散布を推奨

ただし、防除の回数は扱う品種や天候などによっても異なるので、状況に応じて柔軟に判断してください。

適期の見極めにはシステム導入も検討を

小麦の赤かび病を防ぐには、防除適期を見極めることが重要です。しかし、栽培環境は毎年変化することから、正確に予測するのが難しくなっています。

この問題を解決するため、スマート農業の技術の普及が進んでいます。
例えば、スマートフォンでも手軽に利用できる栽培管理システム「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」は、赤かび病の発生が高まるタイミングを予測して防除適期を知らせてくれる「病害防除推奨アラート」が備わっています。

適期を見逃すことなく早期に防除でき、農薬をムダに使用することもありません。

▼ザルビオを導入し、収量を向上させた小麦農家の事例は以下の記事で紹介しています。

小麦の赤かび病の防除に使える農薬例

小麦に農薬散布を行う様子

ほ場で小麦に農薬散布を行う様子
HAPPY SMILE / PIXTA(ピクスタ)

小麦の赤かび病の防除に使える代表的な農薬は、次のようなものがあります。

シルバキュアフロアブル

シルバキュアフロアブルは、小麦の赤かび病をはじめ、穀物の赤さびやうどんこ病の防除にも使用できる殺菌剤です。病害への予防効果と治療効果を兼ね備えています。散布時期は収穫7日前までとなっています。

出典:バイエル クロップサイエンス株式会社 「シルバキュア®フロアブル」

チルト乳剤25

チルト乳剤25は、赤かび病の仕上げ防除に適した殺菌剤です。収穫3日前まで散布できるため、小麦の収穫が早まってしまった場合でも安心して使用できます。穂が黒ずまずキレイに仕上がることから、品質の向上・収量の安定化が図れます。


出典:シンジェンタジャパン株式会社 「チルト乳剤25」

ストロビーフロアブル

ストロビーフロアブルは、従来の殺菌剤とは異なる新規有効成分「クレソキシムメチル」を含む殺菌剤です。赤かびへの予防効果に加え、胞子形成の阻害にも効果を示し二次感染を防ぎます。これまでとは違う作用機作により、農薬耐性のある菌に対しても効果が確認されています。散布時期は収穫14日前までとなっています。


出典:BASFジャパン株式会社「ストロビー®フロアブル」

イントレックスフロアブル

イントレックスフロアブルは、赤かび病への防除や各種病害に対しても有効成分となる「ゼミウム」が配合された殺菌剤です。「ゼミウム」は優れた残効性を持ち、ワックス層から断続的に作物の中へと取り込まれる働きにより、効果の持続を実現しています。散布時期は収穫7日前までとなっています。


出典:BASFジャパン株式会社 「イントレックス®フロアブル」

ミラビスフロアブル

ミラビスフロアブルは、フザリウム属菌・M.二バーレ菌由来の赤かび病に対して優れた効果を発揮します。耐雨性を持つ殺菌剤です。散布時期は収穫7日前までとなっています。


出典:シンジェンタジャパン株式会社「ミラビスフロアブル」

※ここで紹介する農薬は、2024年9月26日現在、小麦の赤かび病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。

赤かび病の耕種的防除方法

5月の小麦

5月の小麦の様子
i-flower/ PIXTA(ピクスタ)

小麦の赤かび病を徹底的に防除するには、農薬の散布だけでなく、耕種的な対策にも取り組むことが重要です。

以下で紹介する対策方法を参考にして、より強固な防除体制を検討しましょう。

抵抗性品種の導入

小麦の赤かび病を防ぐうえでは、抵抗性品種についても把握しましょう。抵抗性の強い品種を選べば被害発生のリスクが抑えられ、収量と品質の安定化につながります。

赤かび病の抵抗性品種の例は以下を参考にしてください。

麦類の赤かび病 抵抗性別の主な国内栽培奨励品種(カッコ内は栽培が奨励されている地域)

抵抗性小麦の種類や品種
強(極強)なし
やや強きぬあかり(東海)
農林61号(関東)
シロガネコムギ(近畿)
ゆめちから(近畿)
チクゴイズミ(九州)
春よ恋(北海道)
きたほなみ(北海道)
ゆめちから(北海道)
あやひかり(関東)
農林61号(関東・東海・近畿・九州)
さとのそら(関東・東海)
シロガネコムギ(近畿・四国・九州)
チクゴイズミ(四国・九州)
やや弱あやひかり(東海)
ミナミノカオリ(中国・九州)
なし

出典:農林水産省「指針活用のための技術情報」よりminorasu編集部作成

ほ場の整備

小麦の赤かび病菌は、イネ科植物に多く寄生する性質があるため、残さ処理と輪作が耕種的防除の基本となります。畑作地帯では麦類の連作を避け、稲作・麦二毛作の地帯では適期防除などの対策を実施します。

前作の作物残さの処理は、アップカットロータリーや低速度での耕起による確実なすき込みを行い、ほ場外へ持ち出すことが有効です。それにより、赤かび病菌の密度を低下させる効果が期待できます。

適期収穫の徹底

小麦は適期収穫日より5日間刈り遅れると、DON含有濃度が高くなることが報告されています。

発芽粒・くされ粒などの発生による品質の低下から、DON・NIVの産生を助長する原因となるため、適期に収穫することが大切です。

また収穫後は速やかに乾燥・調整を行い、粒厚選別をします。粒厚が2.2mm以下であると、赤かび粒率が急に増加することが確認されています。

適期収穫を前提とし、収穫にまつわる工程を見直してスムーズに収穫できる体制を整えて、小麦の品質低下を防ぎましょう。

小麦の赤かび病は、高温多湿の気候特性を持つ日本で発生しやすい病害の1つです。赤かび病の抑制には、本記事で取り上げた農薬を活用しつつ総合的な防除対策を行い、適期収穫できるよう計画することが大切です。

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山崎 修

山崎 修

学習院大学理学部化学科卒、平凡社雑誌部勤務を経て独立し、現在は書籍・雑誌編集者、取材ライター。主戦場は書籍のゴーストライティングで常時5、6冊の仕事を抱えており、制作に関与した書籍・雑誌は合計で500冊を超える。ほかにもメルマガの書評連載から講演活動、1人出版社としての活動まで守備範囲は広い。

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