新規会員登録
BASF We create chemistry

小麦の赤さび病被害に悩む北海道の農家。病害アラートによる防除で、近隣ほ場の約2倍の収量を実現

小麦の赤さび病被害に悩む北海道の農家。病害アラートによる防除で、近隣ほ場の約2倍の収量を実現
出典 : minorasu編集部撮影

4〜5年前から秋小麦の「赤さび病」に悩んでいた川田さん。普及センターの指導では解決できなかった赤さび病ですが、2023年は防除に成功し、収量は近隣ほ場の約2倍となりました。今回は、川田さんが取り組む「手軽なデジタル化による赤さび防除」について伺いました。

  • 公開日:

記事をお気に入り登録する

株式会社クロップフィールド 川田 透(かわた とおる)さんプロフィール

夏には約200万本のひまわりが咲き、“ひまわりの里”でも知られる北海道雨竜郡北竜町。株式会社クロップフィールドの川田さんは、この地にほ場35haを持ち、米・小麦・大豆を栽培しています。

普段は自身と父親の2名で農作業に従事していますが、繁忙期は奥様を含む3名で臨機応変に役割分担しています。

そんな川田さんの小麦(秋まき)ほ場では、2018年頃より赤さび病が発生。農業改良普及センターのアドバイスを頼りにするも、解決には至りませんでした。

しかし、2022年からデジタルツールを導入・活用する中で解決策を見出し、2023年は赤さび病の防除に成功。さらには業務効率化も実現し、現在は規模拡大にも目を向けています。

組織の中で働くよりも、自由を求めて農業へ

就農の経緯を語る川田さん

就農の経緯を語る川田さん
撮影:minorasu編集部

━━━就農の経緯についてお聞かせください。

高校を卒業するときの就職活動で、私は特にやりたいことがなかったんです。それで、すぐに実家で農業を手伝うという選択肢もあったのですが、父の忙しさを見てきたのでそのときは気が進まず、別業界の企業に勤めていました。

ただ、人からとやかく指示されるのが馴染まなかったし、理不尽なことを我慢する体質でもない。結局、自分は組織の中で働くより自由な働き方が合いそうだとわかってきて、28歳で農業に目を向け、本格的に家業を手伝うことにしました。

━━━本格的に手伝うようにはなったものの、やはりイメージどおりの忙しさでしたか?

それが、昔とはけっこう変わっている部分が多くて、そこまで辛いとは感じませんでした。たとえば、農機1つとっても性能は格段に上がっていますから。

また、私が農家に戻る少し前のタイミングで、父が栽培面積を増やしました。それまでは水稲だけだったのですが、戦略作物助成を活用するために小麦や大豆の栽培も始めました。

━━━息子が就農することで期待されたのかもしれませんね。現在、各作物の栽培面積はどれくらいですか?

ほ場35haに対して、米が15ha、小麦・大豆が10haずつくらいです。小麦と大豆は連作障害を避けるため交互に作付けしています。

異常気象による赤さび病の発生。防除回数を増やしても被害は収まらず

━━━親子二人三脚で営農されてきて、近年は赤さび病に悩まされていたとお伺いしましたが。

おそらく温暖化の影響ですが、4~5年前から小麦で赤さび病が発生するようになり、年々増えています。

北海道の小麦栽培では、赤さび病やうどんこ病よりも赤かび病が重要病害です。過去の実情では、赤かび病をメインで抑える農薬は赤さび病にも効果が見られたようです。

そのため、農業改良普及センターのガイドラインでは、主に赤かび病の防除剤を用いて、開花時期を含めて年2回の農薬散布を推奨しています。しかし、この情報は30~40年前の実情を踏まえて作成されたものなので、今の環境では効き目が薄いようです。

実際は年2回赤かび病の防除剤を散布しても抑えられず、年3回散布することもありました。

━━━それでも、あまり効果はなかったのでしょうか?

そうです。最近は3回散布しても防除できないので、農業改良普及センターから4回目を散布するようにいわれました。しかし、それでも抑えきれませんでした。

防除の指導は受けつつも最終的に判断するのは農家です。「なんで赤かび防除剤を撒いているのに効かないのかな?」と思いながら、正直困り果てていました。

赤さび病による収量減の恐怖。見回りの負担が重くのしかかる

━━━赤さび病を抑えられないことからくる不安な気持ちはありましたか?

赤さび病が発生すると、小麦の生育が阻害されて穂数の減少や粒重の低下などが起こり、多発すれば大きな減収につながります。当然、品質にも影響しますので、常に不安な気持ちはありました

━━━これまで赤さび病はどのように見つけていたのですか?

基本的には毎日ほ場の見回りをして調査していました。病害に気づくにはそれしか方法がありませんでした。ほ場面積が広く、すべて見回るのはかなりの重労働ですが、減収の不安があるので念入りに調べていました。

今は父と2人ですが、いずれは私1人で見回るとなれば今より大変になるので、見回りの時間を短縮する必要があると考えていました。

解決策を求めて。赤さび病防除の答えは栽培管理支援システム⁉

━━━赤さび病の抑制や見回りを含めた作業の効率化。これらに対して何か策はあったのでしょうか?

考えあぐねていました。そんなとき、農業新聞に載っていたザルビオの広告を見たんです。「栽培管理システム」という言葉に何となく興味を持ち、メーカー担当者に相談しました。

担当者と何度か話をして生育マップなどを見せてもらううちに、「見回りの苦労を軽減するのに役立つかもしれない」と感じてザルビオの導入を決めました。

━━━栽培管理システムを導入してすぐに手ごたえは感じましたか?

ひとまず地力マップと生育マップから触り始めたのですが、正直なところ、最初はピンとこなかったです。

生育状況を見て「ここは施肥が足りないんだな」と思ったら撒きに行ったり。自分では地力が高いと思っていたところが実は低かった、ということもわかったりして便利だなとは思いました。

その後、メーカー担当者に赤さび病の被害について相談しました。すると「こんな機能もあるんですよ」と病害防除アラートを教えてもらい、よく見るようになりました。

少し経って、「まだ赤さび病は出ないだろう」と油断していたタイミングで病害アラートが出たので、半信半疑でほ場を見に行ったら本当にポツンと発症していたんです

そこから一気にザルビオへの信頼が高まりました。本格的にザルビオを活用して営農してみようという気持ちになりましたね。

赤さび病の徹底防除。病害防除アラートを活用した殺菌剤の適期散布

━━━赤さび病対策について具体的にどうザルビオを活用したのか教えてください。

病害防除アラートを使いました。病害防除アラートでは感染リスクが色でわかります。

赤さび病の防除アラートと散布した農薬。病害防除アラートではランプの色で感染リスクがわかる

赤さび病の防除アラートと散布した農薬。病害防除アラートではランプの色で感染リスクがわかる
minorasu編集部作成

最初、中程度の感染リスクを示す黄色のランプが点いたのでほ場を確認したところ、赤さび病は見つかりませんでした。数日後、まだ黄色のランプが点灯しているのでもう一度ほ場を見に行くと赤さび病が発生していました。

メーカー担当者に相談して、赤さび病に高い効果を持つ農薬「ストロビーフロアブル」を散布しました。同時に、植物成長調整剤の「サイコセルPRO」も散布しています。

6月中旬の川田さん小麦ほ場。ストロビーフロアブル散布で赤さび病を抑制

6月中旬の川田さん小麦ほ場。ストロビーフロアブル散布で赤さび病を抑制
画像提供:BASFジャパン株式会社

しばらくして、赤かび剤を撒くタイミングでまた赤さび病の赤いランプが点いたので、赤かび病をメインで抑える農薬「ミラビスフロアブル」と赤さび病に効く農薬「ミリオネアフロアブル」を混用散布しました。これで赤さび病をかなり抑制することができたんです。

6月下旬の川田さん小麦ほ場。赤かび病と赤さび病の防除で小麦がきれいに生育

6月下旬の川田さん小麦ほ場。赤かび病と赤さび病の防除で小麦がきれいに生育
画像提供:BASFジャパン株式会社

━━━メーカー担当者のアドバイスが功を奏しましたね。

私は赤かび病にばかり気を取られていたので、本当にそう思います。特に、赤かび防除剤だけでは赤さび病にはあまり効かないらしく、赤さび病に効果のある農薬も散布する必要があることを教えてもらいました。

さらに農薬の適切な散布量など、専門の方にしかわからない情報をいただけたのがありがたかったです。

以前は多い場所で1年に4回も農薬散布して、それでも抑えきれなかった赤さび病が、今は年2回で防除できています

追肥の適期判断と可変施肥。生育ステージ予測と生育マップで生育状況を見える化

PCやスマホを使いザルビオを操作する川田さん

PCやスマホを使いザルビオを操作する川田さん
撮影:minorasu編集部

━━━小麦は追肥を年2〜3回実施すると思いますが、適期の判断が難しいですよね。

一応、地域で講習会があって、小麦の生育ステージをまとめた資料をいただけます。そこには「遅くても何日までに撒いてください」などと書かれています。それが追肥の判断材料にはなるのですが、年々、気温と環境が変わっているので、精度には不安を感じていました。

そこでザルビオの生育ステージを見ると、「今こんなステージです」と細かく表示されています。また、「いつぐらいに何ステージに移行しますよ」などもわかります。

なので今はザルビオの生育ステージを見て追肥のタイミングを判断し、さらには生育マップを見て「ここはちょっと足りないな」と思ったところには重点的に肥料を撒いています。

━━━以前に比べて効果的な追肥ができるようになったのですね。

これまでは経験と勘に頼る農業でしたから、ちょっと生育が悪いと思ったら追肥をするんですけど、結局はすべて均等に撒いている状態でした。

ザルビオは生育状況からほ場の天気予報までリアルタイムで確認できるので、追肥の最適なタイミングやポイントを見極められるのもいいところです。生育のバラツキはだいぶ少なくなっていると思います。

栽培技術については普及指導員に相談することもありますが、彼らは忙しいときもあり私の質問にいつでも答えられるわけではないし、対面で相談できる時間は限られています。栽培管理システムを活用することで、それに対するストレスもなくなりましたね。

農薬の適期散布や追肥で収量は近隣圃場の約2倍!

━━━赤さび防除や追肥の最適化で全体収量は変わりましたか?

赤さび防除に成功した2023年度の収量は、地域平均の約8.0俵に対して、うちの反収は12.8俵でしたこれは病害の影響を大きく受けた近隣農家と比べると、2倍近い収量を達成したことになります。

赤さび病の防除で秋まき小麦の反収が上がったグラフ

minorasu編集部作成

━━━2倍は驚きですね。あらためて要因を考えると?

やはり赤さび病防除の効果が大きかったと思いますね。防除適期の判断がうまくいったのと「ストロビーフロアブル」を散布したことがよかったかと思います。メーカー担当者の意見を取り入れた私のほ場は、赤さび病が深刻化してしまったほ場と一目瞭然の差が出ていますから。

防除アラートを使い農薬散布した川田さんのほ場。小麦の生育状態が良好

防除アラートを使い農薬散布した川田さんのほ場。小麦の生育状態が良好
画像提供:BASFジャパン

━━━作業の効率化という意味ではいかがですか。

かねてより課題だったほ場の見回り時間を短縮できました。

これまでは、赤さび病の不安もあり調査に時間をかけていたので、毎日2時間はほ場の見回りをしていました。今は、ザルビオが異常を教えてくれる安心感が生まれたので、見回り時間は1時間程度まで短縮できています

あと赤さび病の発見だけでなく、追肥のタイミングも生育ステージを見て計画的に行えるようになったので、確実に作業を効率化できていると思います。

病害防除で収量UP!見回り時間は1/2にザルビオの機能を詳しく見る

「デジタル」と難しく考えずに農業効率化を実現

デジタル化について話す川田さん

デジタル化について話す川田さん
撮影:minorasu編集部

━━━川田さんは栽培管理システムを使いこなしていますが、もともとデジタルに強いのでしょうか?

特にそういうわけではありません。ザルビオはスマホアプリをいじっているうちに使えるようになっていました。

━━━どのくらいで使い方をマスターしたのですか?

1週間程度でしょうか。毎日、何かしらは触っていました。ただ、機能がたくさんありますから、自分にとって「これは必要だ」と思うものを取捨選択して理解したという意味です。

━━━まずは自分の課題に特化したところだけ覚えていったのですね。

全体を覚えようとすれば時間がかかります。私も、使い始めは戸惑うことばかりでした。

けれど、目的が明確ならそこは覚えようとしますよね。私の場合は、作業の効率化と赤さび病の防除が課題でしたから、まずはそれに関する機能をメーカー担当者に聞きながらやんわりマスターしました。

その後、「もっと使いこなしてみようかな」と思ったときに、ほかの機能にも少しずつ慣れていけばそれで充分だと思います。“デジタルを駆使して効率化!”と構えなくても、目的意識と課題さえ自覚していれば、誰でもできそうな気がします

ザルビオの助けも借りながら“確実に儲ける”方法を

━━━栽培管理システム「ザルビオ」を導入して1年。あらためて効果をどのように感じていますか?

ひとまず、農業経営の効率化というところで一歩踏み出せたかなと思います。赤さび病の防除や追肥の適期判断などで収量アップも実現しました。また、ほ場の見回り時間を短縮でき、その時間を他のタスクに充てることができるようになりました。

━━━今後の目標を教えてください。

もっとほ場面積を増やせるかもしれないと考えています。何も策を講じずに面積を増やすと大変ですが、ザルビオでうまく栽培管理ができてくれば、もっともっと面積を拡大することができますよね。

ただし、まだ働き手は増やしたくありません。人員を増やすとコストが増えるので収益は落ちていきます。まずは35haを1人で確実に管理できるようにして、しっかり儲ける体制を整えていく。そして、ゆくゆくはほ場面積を拡大していきたいですね。

小麦の赤さび病による被害を、栽培管理システム「ザルビオ」の病害防除アラートと赤さび病に効果的な農薬「ストロビーフロアブル」の散布で見事に抑制した川田さん。

デジタルに強いわけではなく、また、栽培管理システムに高い関心はなかったそうですが、スマホアプリを使っているうちに新しい活用方法を見出せたそうです。

すでに高い収量を実現していますが、今後はさらなる収量増と規模拡大をめざしてザルビオを使いこなしたいといいます。

異常気象で新たな病害の発生や作業適期の判断が難しくなっている昨今、収量を確保するためには、勘や経験だけに頼らずデータを活用した新しい農業の実践が求められているように思いました。

”手軽”なスマート農業で収量アップを実現ザルビオで新しい農業を始める

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

宮澤聖子

宮澤聖子

出版社で商業誌の編集を経験後、広告業界へ転身。編集者としての実績を活かし、エディトリアル案件を中心に社内報・会社案内等のインナーツールをはじめ会報誌、PR誌などの制作をトータルに手掛ける。その後に勤務した制作会社ではオフィス統括Mgとして全国規模の販促を経験。2014年からフリーランスとして独立。制作の上流工程となる企画立案からディレクション業務、編集構成、取材・執筆まで守備範囲が広く、紙・Web・映像と様々な分野で活動中。好きなものは一人旅と、絵をみること。

おすすめ