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ネギの苗立枯病に使える農薬は? 育苗期の病害防除マニュアル

ネギの苗立枯病に使える農薬は? 育苗期の病害防除マニュアル
出典 : Ichiro / PIXTA(ピクスタ)

ネギの「苗立枯病」とは、発芽直後や幼苗期に発生し、枯死に至る病害です。苗立枯病自体は、稲や葉菜類、果菜類、花きなど多くの作物に発生し、病原菌は共通しています。しかし、登録のある農薬は作物により異なるため、この記事ではネギに発生する苗立枯病について解説します。

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ネギの「苗立枯病」は、発芽後間もない苗に感染して急速に広がります。農家にとって、予防や防除対策は、収量の安定や向上を図るうえで欠かせません。この記事では苗立枯病の症状や発生条件、防除に効果のある農薬、幼苗期に注意したい病害について紹介します。

ネギの苗立枯病とは? 主な症状と、発生しやすい条件

ネギの収穫後の残さ

Freddie G / PIXTA(ピクスタ)

ネギに発生する苗立枯病は、代表的な土壌伝染性病害の1つで、病原は糸状菌(かび)です。病原菌が、罹病植物の残さや土壌中に菌糸または菌核として生存し、翌年の作物に繰り返し伝染します。

厳密にいうと「苗立枯病」とは、発芽直後や幼苗期に苗が立枯れてしまう病害の総称です。病原菌は多数あり、農作物では主に以下4種の菌が知られています。

「リゾクトニア」
「ピシウム」
「フザリウム」
「リゾプス」

中でもネギの苗立枯病は、根を腐敗させるリゾクトニアを病原とするものが一般的です。そのため、リゾクトニア属菌を病原としたケースについて解説します。

ネギの苗立枯病の症状

ネギの苗床

kinpachi / PIXTA(ピクスタ)

ネギの苗立枯病は、主に苗床において、発芽から育苗期にかけて発生します。また、定植後すぐに発生することもあります。発芽して間もなく感染した場合は、地上部に芽が出ないまま枯れてしまい、幼苗に発生した場合は、地際部がくびれて暗褐色に変色し、やがて倒伏し枯死します。

伝染が早く、次々と広がって坪状に枯死したり、育苗箱1つが全滅したりすることもあるほどです。また、定植直後に発生すると、地際部がくびれて葉の上部が萎れ、欠株となることもあります。

苗が大きくなると病害は軽くなりますが、生育が悪くなります。生育初期の病害は収量にも大きく影響するため、予防と発生初期の防除が重要です。

苗立枯病の防除対策は「土壌管理」がポイント

ネギのハウス内育苗

riri / PIXTA(ピクスタ)

苗立枯病は、土壌伝染性であるため、苗床となる土壌の管理が重要です。苗床には新しい無病の土や消毒した土を使い、菌が混入しないように注意が必要です。育苗箱はもちろん、使用する農具もできる限り消毒しましょう。種子も消毒済みのものを使います。

育苗中の管理で大切なことは、かびが好む環境を作らないことです。リゾクトニアは、30℃ほどの高温や多湿条件で多発するので、土壌が多湿にならないように排水や灌水に注意しましょう。

また、極端な温度差や乾燥と多湿を繰り返すことも、株が弱り菌に侵されやすくなるため、注意する必要があります。極端な乾燥を避け、適切な温度・湿度管理が重要です。

播種後は頻繁に育苗箱を確認することが大事です。発病を発見したら、速やかに罹病苗や周辺の土壌を除去して、蔓延防止に努めることも、有効な防除対策として挙げられます。

ネギの定植作業

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

また、稲わらなどの未熟堆肥は、病原菌の繁殖を促進します。そのため、完熟した堆肥を使います。やむを得ず未熟なまますき込んだ場合は、十分に腐熟するまで、少なくとも1ヵ月は経過してから播種(はしゅ)・定植しましょう。

夏期にはマルチ被覆で太陽熱消毒を実施すると、苗立枯病の病原菌を含め、土壌中の多くの病害虫が死滅します。

そのほか、連作は土壌中の病原菌の密度が高まるので避けましょう。

苗立枯病の農薬防除|育苗時の消毒を徹底し、本圃は土壌消毒を

苗立枯病の防除に欠かせない土壌消毒や発芽後の土壌灌注には、農薬が有効です。以下では、ネギの苗立枯病に有効な農薬を、育苗管理中と本圃の準備に分けて紹介します。

なお、ここで取り上げる農薬は、2022年4月現在、ネギの苗立枯病に登録のある農薬です。施用に当たっては、その時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守って施用してください。

また、地域によって自治体の農政部署やJAによる指導内容が異なる場合があるので、その指示に従ってください。

育苗時の消毒は徹底的に

ネギの育苗箱

折茂宏明/PIXTA(ピクスタ)

苗立枯病は、土壌伝染性病害の1つであるため、防除の基本は土壌消毒です。苗床の土にほ場の土を使用する場合は、後述するように、あらかじめ土壌消毒を行いましょう。

せっかく無病の土壌を用意しても、種子そのものや育苗箱、農具や靴などが病原菌を媒介することもあります。消毒済み種子を用意し、苗床周辺を清潔に保ちましょう。

育苗期の後半にセル苗やポット苗に灌注処理をすると、本圃に定植後もしばらくは、農薬散布の必要がありません。定植後に本圃に農薬を散布するよりも、省力的・効率的に防除できるのでおすすめです。灌注処理には「ダコニール1000」「バリダシン液剤5」が有効です。

本圃は土壌消毒を

ネギ栽培 定植前の本圃

Freddie G / PIXTA(ピクスタ)

定植直後の苗の感染を防ぐためには、本圃の土壌消毒も大切です。夏場には太陽熱消毒が効果的ですが、時間や負担がかかるうえに、地域や時期によっては地熱が十分に上昇しないこともあり、効果が不安定です。そんな中で、安定した効果が得られるのは、農薬による土壌消毒です。

ネギの苗立枯病防除の場合、本圃の土壌消毒には「クロールピクリン」「バスアミド微粒剤」「ガスタード微粒剤」が有効です。白絹病やセンチュウ類などを同時防除できる場合もあるので、使用前にそれぞれの登録内容を確認しましょう。

こんな症状にも要注意! ネギの育苗期に発生する他病害の特徴

ここでは、苗立枯病以外にも育苗期に感染・発生の恐れがある、「べと病」「疫病/白色疫病」について紹介します。それぞれ症状の違いを把握し、発病の予防や早期発見に努めましょう。

葉にぼやけた病斑を形成する「べと病」

ネギベと病 白色病斑(本圃)

ネギベと病 白色病斑(本圃)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

べと病の病原は卵菌類というかびで、病原菌は胞子で空気伝染するほか、罹病作物の残渣とともに土壌中に残ります。種子伝染することもあり、その場合は発芽と同時に子葉に発病し、第一次発生源となります。

症状は主に葉身に現れ、初めは不明瞭で不定形な黄白色の病斑が発生し、病斑部分には灰白色のかびが生じます。やがて病斑の周囲が明瞭になるとともに、かびが黒っぽく変わり、悪化すると葉全体が黄白色や灰白色になって枯れます。

発生適温は20℃前後で多湿を好み、6月中旬~8月上旬と9月中旬~10月下旬の時期に、発生降雨が多いと多発します。

防除対策としては連作を避け、ほ場の排水や風通しをよくすることが挙げられます。また、発生が見られたら、速やかに発病株の周囲にある株をほ場外へ持ち出し処分しましょう。それとともに、「ダコニール1000」「アリエッティ水和剤」など多数の有効な農薬があるので、使用時の登録を確認して適切に使いましょう。

葉先に黄白色の病斑が現れる「疫病/白色疫病」

ネギの疫病と白色疫病は非常によく似ていて、種類は異なりますが、どちらも糸状菌(かび)を病原とする病害です。苗床で若葉に発生しやすく、症状もよく似ています。

初めは不明瞭で、不定形な青白色や黄白色の病斑が生じ、急激に拡大します。やがて病斑部が枯れ、そこから葉が折れ曲がり下垂します。症状が悪化すると立枯れます。

いずれも降雨が多いと多発し、排水不良のほ場や、窒素過多によって株が軟弱になった場合に、発病しやすい傾向があります。ただし、疫病の発生時期は高温期で、白色疫病の発生時期は低温期と異なります。


どちらの病害も連作を避け、土壌の排水や換気をよくして適切な施肥をすることで予防しましょう。

ネギの場合、白色疫病に使える農薬はありません。疫病については「アリエッティ水和剤」などの有効な農薬を使用して防除しましょう。

ネギ白色疫病 発病進展株(本圃)

ネギ白色疫病 発病進展株(本圃)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネギの苗立枯病は、育成期間の長いネギにとって、非常に重要な育苗期に発生する厄介な病害です。土壌を含め、育苗箱や農具などの消毒を徹底し、苗床やほ場に病原菌を持ち込まないよう厳重に管理しましょう。

それでも発生してしまった場合は、できるだけ早く農薬による防除をして、被害を最小限に食い止めましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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