BASF We create chemistry

農業で起業する! 九条ネギの6次産業化で大きく成長した「こと京都」の経営戦略を訊く

農業で起業する! 九条ネギの6次産業化で大きく成長した「こと京都」の経営戦略を訊く
出典 : 画像提供:こと京都株式会社

九条ネギの6次産業化で注目される「こと京都株式会社」。代表取締役 山田敏之さんは、一般企業からUターン就農するときに、「農家を継ぐ」ではなく「農業で起業」と決意したそうです。当初の目標「年商1億円」を遥かに超える事業成長を実現した山田さんに、その歩みと戦略を伺います。

こと京都株式会社代表取締役 山田敏之(やまだ としゆき)さんプロフィール

アパレル企業を退職し、実家の農業を受け継ぐ。年商1億円達成をめざし、就農当時400万円だった年商を2年で1500万円ほどにまでアップ。就農7年目には年商1億円を達成し、現在では年商10億円を超えている。

九条ネギの加工・販売を中心に規模を拡大し、京都府農林漁業功労者賞を始め、数多くの星を受賞している。

こと京都株式会社 代表取締役 山田敏之さん

こと京都株式会社 代表取締役 山田敏之さん
画像提供:こと京都株式会社

「農家を継ぐ」ではなく、「起業」して年商1億円をめざす

京都の伝統野菜として、古くから愛されているのが九条ネギです。葉が柔らかく甘みがあり、栄養価が高いことから、京都府内のみならず日本各地の食卓を彩っている野菜です。

九条ネギ生産農家の中でも随一の規模を誇る「こと京都株式会社」は、現在代表取締役を務める山田さんが、両親の営む農業を継いだことから始まりました。

こと京都株式会社代表取締役 山田敏之さん(以下役職・敬称略) 農家の次男として生まれましたが、日々ほ場にかかりきりで、働き詰めの両親を見て育ちました。それもあり、農業に対してよいイメージはありませんでした。

実家の農業を継ぐという考えもなく、大学卒業後はアパレル企業に就職しました。ビジネスパーソンとして全力で働き、事業部を任されるまでになりました。

転機となったのは32歳の頃です。母が交通事故に遭い、瀕死の重傷を負いました。

幸い命に別状はなかったのですが、母は回復しても、以前のように生活できる状態ではありませんでした。農業どころか家事すらままならない状態だったのです。

当時、実家の農業は父と母、祖父母の4人で行っていたこともあり、何か力になれればと思い家族と共に京都に戻りました。同じように帰省してきた兄家族と力を合わせて農作業を手伝い始めたのです。

農業で「起業」することに可能性を見出す

当時、農作業を手伝っているうちに、自然と「将来実家の農業を誰が継ぐべきか」という話題になったといいます。

山田 私がアパレル企業で働いていたように、兄も教師として自分の選んだ道を進んでいました。今後、母が農業に従事できない以上、誰かがあとを継がなければ代々続いてきた家業が途絶えることになります。

アパレル企業での仕事も軌道に乗っていた山田さんが、あとを継ぐことを決意したのは、「農業というビジネスを起業するチャンスだ」と考えたためでした。

山田 もともと「独立して起業したい」という漠然とした夢を持っていましたが、明確なビジョンはないままでした。でも、実家の農業を継ぐという選択肢が出てきたとき、「代々引き継いできたほ場という大きなリソースがある状態で、農業というビジネスを始められる」と考えました。

山田さんは、安定した需要がある農業というビジネスで、ほ場という大きいリソースを引き継いで就農できることを、起業するうえでの大きなアドバンテージだと捉えたのです。

山田 帰省して農業を手伝ったことで「農業」に対する印象が大きく変わったわけではありません。

しかし、生きるうえで欠かせない「食」にかかわる仕事は、今後も必要とされ続けます。確実に需要のあるビジネスを有利な条件で始められる、またとない機会だと直感しました。

その後、山田さんは先代のもとで作物の栽培方法を学びながら営農することとなります。

年商1億円をめざす

山田さんが就農した当初は、九条ネギ以外にもキャベツや大根、水菜などの作物も栽培していました。しかし、毎日休みなく働いて得られた売り上げは、年間で400万円ほどだったそうです。

この結果に愕然とした山田さんが立てた目標は「年商1億円の農家」になること。大幅な売り上げアップをめざし、試行錯誤とチャレンジが始まりました。

京野菜の強みを活かす。販売単価が高く通年出荷できる九条ネギへの一本化

「年商1億円の農家」になる目標をたてた山田さんが大幅な売り上げアップをめざし、まず行ったことは「栽培作物の絞り込み」でした。

こと京都株式会社 収穫直後の九条ネギ

収穫直後の九条ネギ

栽培作物を絞り込むに当たり、山田さんは、京都だからこそ、京野菜のブランド力を活かそうと考えました。中でも、「京のブランド産品」(注)として認定され、需要が安定している九条ネギに着目しました。

(注)京のブランド産品:京都こだわり生産認証システムを基準にして、「公益社団法人京のふるさと産品協会」によって認証された野菜を指します。
  京都府
  「京の伝統野菜・京のブランド産品」
  公益社団法人京のふるさと産品協会
  「京都のやさい京野菜」

京野菜に目を向けた理由は、販売単価が全国平均よりも高いことです。

京都府農林水産部がまとめた「京都産農林水産物の流通・販売の現状と課題、目指す方向について」によると、1989年から2017年にかけて京都市中央卸売市場における京都産野菜の販売単価は161.2%上昇しています。同時期の全国平均価格の上昇率は107.1%で、他府県産の作物との差別化が成功していることがわかります。

中でも九条ネギは、京野菜という強みに加え、年間を通して需要がある作物です。年間通して安定した品質と収量を確保できれば、売上規模を期待できます。

山田 栽培作物を九条ネギだけに絞ることで、栽培の効率化や栽培技術向上も期待できます。作業の合間に市場に行き、より高値で取引される九条ネギを研究し、栽培に反映しました。

試行錯誤の結果、安定して品質のよい九条ネギを安定生産できるようになり、就農3年目にして年商は1,500万円ほどにまで上がりました。

しかし、市場での販売価格はどうしても相場に左右されるため、品質向上だけでは年商1億円の目標を達成することはできないと判断しました。

「カットネギ」の自社加工・直接取引が年商1億円の足掛かりに

山田さんが次に着目したのは、九条ネギを卸売り業者に出荷するのではなく、自社でカットネギに加工し、小売店や飲食店に直接販売することでした。

山田 京都のネギ栽培の歴史は古く、当時のネギ生産農家は栽培したネギを古くから繋がりのある卸売業者に販売する形が一般的でした。

作物の加工も卸売業者に一任していることがほとんどだったので、自分たちで加工も販売もできれば差別化や売り上げ、利益率アップにもつながるのではないかと考えたのです。

カットネギの加工・販売をするに当たり、山田さんは実家の作業小屋の一角を利用し、ネギの加工場を新設しました。そして、カットネギの販売を想定し、地元の製麺卸売業者を通じて、カットネギを多く消費するラーメン屋へ販売を試みました。結果、好評を得ることができたといいます。

山田 このトライアルで、自社で加工したカットネギを小売店や飲食店に直接卸すことで価格決定権を握れることがわかりました。カットネギの自社加工と直接取引が、相場に左右されない安定した売上をあげる突破口になったのです。

こと京都株式会社  小売店で販売されるカットネギ

小売店で販売されるカットネギ
画像提供:こと京都株式会社

市場規模が大きく、九条ネギの希少性が高い首都圏をターゲットに

カットネギの自社加工と直接販売に活路を見出した山田さんが、市場として選んだのは、東京でした。1990年代以降、都内では多くのラーメン屋がひしめき合うラーメンブームが起きており、ネギの需要も高くなっていました。

山田 地元京都にもたくさんのラーメン店はありますが、その多くがすでに仕入れ先の固定されている店になります。長く続いてきた仕入れ先との取引をなくし、新たな契約を勝ち取るのは簡単なことではありません。

その点、東京のラーメン店はカットネギのニーズはありつつも、「新鮮な九条ネギの加工品」を仕入れることができる店が、ほぼないという状況でした。そのため、営業先として狙い目だと考えました。

実際に店に足を運び、こと京都の九条ネギを試食していただきました。加工された新鮮なネギを低価格で提供できるため、反応はとてもよかったです。

加えて当時はラーメンブームでした。新規オープンのラーメン店も多く、他店との差別化のために、味や素材に徹底的にこだわった店も多くありました。ニーズが高まっていた市場に、最高のタイミングで売り込むことができたことで、販路拡大や売り上げアップを実現できました。

その後、ラーメン店に提供していたこと京都のカットネギは、口コミによって知られていき、ラーメン店以外にもスーパーなどの小売店との取引も始まりました。その結果、2002年には目標としていた年商1億円を達成しています。

顧客に選ばれ続ける理由は「3つの安定」

農業の避けて通れないリスクとして、天候次第で品質や収量が左右されてしまうことが挙げられます。

卸売市場経由で食材を調達している小売店や飲食店にとっては、作況によって調達できる量や仕入れ値が変動するということです。

予定していた量を調達できなければ品揃えに影響があり、仕入れ値が上がれば粗利が下がります。仕入れ値の上昇を原価でカバーできなければ、販売価格を上げざるを得ません。その結果、顧客が離れてしまう可能性もあります。

作物の品質、収量、販売単価が安定しないことは、生産農家、小売店や飲食店、消費者の3者にとってデメリットが大きいということです。

そこで山田さんが大事にしたのが3つの安定でした。

山田 顧客を獲得できたからといって、安心できるわけではありません。お客さまに選ばれ続けるためには、ほかの商品との差別化が必要です。こと京都は「商品の安定供給」を担保することで、お客さまから選ばれ続けることができました。

また、作物の価格や出荷量が変動することで影響があるのは農家だけではありません。小売店や飲食店など、その農家の作物を仕入れている顧客にも大きな影響が出ます。

だからこそ、「安定した品質」で「安定した量」を「安定した価格」で供給できれば、大きな差別化となるのです。

こと京都株式会社 収穫されたネギの選別・調整を行う様子

収穫されたネギの選別・調整を行う様子
画像提供:こと京都株式会社

「3つの安定」を支える「安定供給」マネージメント

品質・量・価格という「3つの安定」のベースとなるのは作物の安定供給です。

農業において、天候が及ぼす影響を無視できません。どれだけ顧客の増加に合わせてほ場を拡大したり、生産効率を改善したりしても、悪天候による影響はなくならないからです。

こと京都では、かつて大型台風が京都を通過した際に、多くのネギが被害を受けたこともありました。そのため、安定供給を維持するうえでの3つの工夫を行っています。

1. 生産委託農家とのネットワーク形成

現在、こと京都では自社ほ場での栽培以外にも生産委託農家から仕入れたネギも取り扱っています。こと京都から生産を委託する農家で「ことねぎ会」という生産者ネットワークを形成し、こと京都の基準とする品質のネギを生産しています。

ことねぎ会から仕入れるネギが自社生産のネギと同じ品質に維持することで、顧客への安定供給を実現しているのです。

山田 こと京都では高い品質を維持するために、栽培方法もこだわっています。ほ場が十分に拡大できるまでは、出荷量を維持するために、外部からネギを仕入れて出荷することもありました。

安定供給のために外部からネギを仕入れて販売するにしても、私たちの作物と同レベルの品質のものを供給できなければ「安定供給」とはいえません。多少コストがかさんだとしても、安定した品質・量・供給を維持したことで、お客さまの信頼を得ることができました。

ことねぎ会では、伝統の九条ネギを継承していくためのノウハウの共有や、新規就農者支援も行っています。

2. 気候変動に対応するほ場の分散・産地リレー

京都の北部と南部では、気候の特性(気温や降水量など)が違います。共通する点は夏と冬の寒暖差の大きさです。さらに、昨今の地球温暖化により年々上昇する夏の気温は、作物の品質に影響を与えます。

そのため、こと京都ではほ場を3ヵ所に分散させて、栽培時期を調整することでネギの品質保持をしています。

こと京都株式会社 南丹市美山のほ場

南丹市美山のほ場
画像提供:こと京都株式会社

3. 災害時にも対応可能なBCP策定

山田 安定供給を実現するためには、災害の対応についても想定しておくことが重要です。以前、大型台風が京都を通過した際、多くのネギがロスになってしまったことがありました。ほ場を分散することでリスクを軽減することはできますが、収量減は避けられません。

そこでBCP(事業継続計画)
(注)を策定し、有事の際にも対応できるしくみを作りました。事前に取れる対策や、緊急時の対応を従業員全員で共有しておくことで、有事の際にも冷静で素早い対応ができるようになります。

(注)BCP(事業継続計画):企業が自然災害や大火災などの緊急事態に遭遇した時とき、事業の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続や早期復旧のために、平常時に行うべき活動や、緊急時の対応策を取り決める計画を指します。

山田 自然災害が起きた際の損害をゼロにすることは難しくても、可能な限り損害を抑える対策ができます。顧客対応のスピード感を上げることもできるので、お客さまの信頼を損うことを避けることができます。

こと京都では台風被害を想定したBCP以外にも、大地震や新型コロナウイルス蔓延の対策のBCPを策定しています。

山田 BCPは、いわばどんな状況に陥っても対応可能にするためのシステムづくりです。そしてこのシステムづくりは従業員の働きやすさにも直結します。

緊急時のほかにも、従業員がどのような状況にあっても対応できるシステムをつくることで、ワーク・ライフ・バランスの取れた営農を可能にします。

こと京都株しい会社 社員全員が必ず収穫作業を経験することで、必要なときに助け合うことができる

社員全員が必ず収穫作業を経験することで、必要なときに助け合うことができる

「安定供給」のしくみが組織や農業の持続可能性を高める

こと京都は、安定供給をキーワードに顧客のニーズに応え続けてきました。現在では、カットネギの生産・加工・販売以外にも、養鶏業や京野菜の卸売販売など、顧客のニーズに合わせて新たなビジネス領域にも参入しています。

山田 お客さまへの安定供給は、ネギ栽培をはじめとした、こと京都の事業が安定していなければ成し得ません。作物の生産・加工・販売のスキームが安定することによって、農業の持続可能性も高まり、組織の利益にもつながります。

九条ネギや京野菜のニーズは、国内外問わず存在しています。それに応え、「安定した農業を継続するために何が必要なのか」「何が求められているのか」を従業員一人ひとりが考え、業務をブラッシュアップしていけるような環境作りを心がけています。

▼こと京都株式会社のホームぺージ、SNSも是非ご覧ください。
  公式ホームぺージ
  Facebook
  Instagram

厳しい事業環境にある農業という業界において、京野菜というもともとある強みに、カットネギの安定供給という価値を重ね、より市場規模の大きい首都圏に進出。農業で年商1億円を達成するための山田さんの戦略は明確でした。

こと京都ほどの規模ではなくとも、ほかの地域・ほかの作物でも、強みと市場を戦略的に選択していくことは、農業で収益をあげるために応用できるのではないでしょうか。

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

おすすめ