トマトのモザイク病対策! 原因別の症状から対処方法、使える農薬まで一挙解説
トマトのモザイク病は、ウイルスを病原とする病害の中でも代表的なものです。ウイルスの種類によって特徴や症状が異なり、いずれもトマトの収量や品質に深刻な被害を及ぼす恐れがあります。ウイルスには有効な農薬がないため、発生した場合は徹底的な消毒や耕種的防除が必要です。
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モザイク病は短期間で感染拡大することもあり、被害を最小限に抑えるためには予防と早期発見が欠かせません。この記事では、ウイルスの種類別に症状を解説したうえで、トマトに発生するモザイク病の予防方法や、発生時に有効な防除対策について詳しく紹介します。
トマトの病害「モザイク病」とは?
田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
モザイク病は、ウイルスを病原とする病害で、トマトのほかピーマン、きゅうり、ナスなどの果菜類や、アブラナ科やマメ科、キク科など多くの作物に発生します。代表的な症状として、葉色にモザイク状の濃淡が現れるため、モザイク病と呼ばれます。
モザイク病の病原ウイルスには、複数の種類があり、生態や症状がそれぞれ異なります。種類によってはモザイク症状を示さないものもあるので、ほかの病害と間違えないように、種類ごとの特徴を把握する必要があります。
また、ウイルスには農薬が効かないため、モザイク病は農薬による予防や防除ができません。手遅れになると感染が急激に拡大し、生育不良や品質低下によって、収量の大幅な減少につながります。
万一、モザイク病が発生した際も速やかに対処できるように、まずはウイルスの種類ごとの症状を的確につかみ、早期発見に努めましょう。
原因ウイルス別の被害症状と、主な伝染経路
トマト モザイク病 葉の奇形
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマト モザイク病 葉の縮れ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
前述の通り、モザイク病のウイルスには多くの種類がありますが、その中でもトマトに感染するものは、主に以下の4つです。
●トマトモザイクウイルス(TMV/ToMV)
●キュウリモザイクウイルス(CMV)
●トマトアスパーミーウイルス(TAV)
●ジャガイモXウイルス(PVX)
これらのウイルスは、複数が重複感染し、より症状が激しくなることも少なくありません。それぞれのウイルスについて、症状と主な伝染経路を見ていきましょう。
トマトモザイクウイルス(TMV/ToMV)
<症状>
トマトモザイクウイルス(ToMV)は、タバコモザイクウイルス(TMV)の一種で、主にトマトに発生するものです。発病株の葉にはモザイク症状が生じます。そのほか、葉に奇形や萎縮が見られ、果実にも黄化や奇形が生じます。
症状が進むと葉茎や果実に壊疽を伴ったり、株全体がわい化したりします。低温期には日中にしおれる場合もあります。
<伝染経路>
ToMVは、被害作物の残さとともに土壌中に存在し、伝染経路は主に土壌伝染や種子伝染です。また、移植や芽かき、収穫など通常の管理作業をする中で、すでに罹患した株から健全株へ容易に接触感染します。アブラムシ類を介して感染することはありません。
キュウリモザイクウイルス(CMV)
<症状>
CMVが原因の場合、主に生長点にある若い葉に、モザイク症状や葉先が細くなる糸葉の症状が生じます。果実にもモザイク症状や表面の黄斑が見られ、酷くなると葉茎や果実に壊疽が生じます。株全体がわい化することもあります。
<伝染経路>
CMVは、罹病植物から飛来したアブラムシ類によって伝染します。ナス科・ウリ科・アブラナ科・キク科など多くの作物を宿主とするため、それらの作物からの感染にも注意しましょう。
またToMVと同様に、管理作業による接触感染もあるため、作業には注意が必要です。一方で、種子伝染や土壌伝染はしません。
トマトアスパーミーウイルス(TAV)
<症状>
TAVによる被害株の葉には、軽度のモザイク症状を示す場合があります。あるいは、モザイク症状を示さず、茎や葉、果実に激しい壊疽が生じることもあります。
<伝染経路>
CMVと同様に、罹病植物から飛来したアブラムシ類を媒介して伝染します。TAVも、ナス科・キク科・アカザ科など多種類の植物が宿主になります。
ジャガイモXウイルス(PVX)
<症状>
この種類のウイルスを原因とする場合は、葉のモザイク症状は比較的軽微です。ただし、ほかのウイルスとの重複感染で症状が激化します。
<伝染経路>
罹患植物から飛来したアブラムシ類によって媒介され、伝染します。トマトのほか、ジャガイモ(馬鈴薯)にも感染します
適用農薬はある? トマトをモザイク病から守る、効果的な防除対策
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
発生してしまうと感染拡大しやすいトマトのモザイク病は、どのように防除すればよいのでしょうか。ここでは、できる限り被害を抑えるための対策について解説します。
トマトに発生するモザイク病の予防・発生後の防除に使える農薬はない
一般的に、ウイルスには農薬が効きません。トマトのモザイク病にも、2022年4月1日現在、登録のある農薬はありません。
モザイク病自体を農薬によって効率的に防除することができないため、まずは感染源となるアブラムシ類の防除や、管理作業による感染の防止を徹底することが重要です。
そのうえで、発生した場合には「発病株を直ちに抜き取る」「収穫後のほ場に残さを残さない」などの地道な対処が欠かせません。
ウイルスの媒介を阻止する“アブラムシ類対策”
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
モザイク病の病原となるウイルスの多くは、アブラムシ類が媒介することで伝染します。つまり、アブラムシ類を防除することが、モザイク病の予防につながるのです。
アブラムシ類の防除には、シルバーマルチやシルバーテープを張ると、反射光による忌避効果が期待できます。施設栽培の場合は、防虫ネットでハウスの開口部分を覆って飛来を防いだり、UVカットフィルムで紫外線を遮ることで忌避したりするのも有効です。
アブラムシ類の防除に効果のある農薬は多数あるので、発生状況や時期に適したものを選んで使用しましょう。例えば、育苗期後半から定植までの間なら「ベリマークSC」の灌注など、定植時に土壌混和するなら「アルバリン粒剤」などが有効です。
定植後に散布する場合は、「モスピラン水溶剤」「ダントツ水溶剤」「ウララDF」などの登録農薬を決められた倍数で希釈して使用します。同じ農薬を繰り返し使うと、アブラムシ類が抵抗性を得てしまうので、異なる系統の農薬をローテーションで使用しましょう。
また、アブラムシ類にはテントウムシや寄生蜂など多くの天敵が自然に存在します。それらの存在はアブラムシ類の密度を低く保ってくれるので、地域に生息する天敵に影響のない農薬を選ぶことも大切です。
meromeropanchi/PIXTA(ピクスタ)
なお、ここで紹介した農薬は、すべて2022年4月3日現在、トマトとアブラムシ類に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点の登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。
また、地域によって農薬の使用について決まりが定められている場合があります。確認のうえで使用してください。
なお、ミニトマトは、トマトと登録や適用表情報が異なる場合があるため、必ず別途登録を調べましょう。
農薬登録情報提供システム
接触伝染を防ぐ“消毒の徹底”
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
管理作業による接触伝染を防ぐことも、感染拡大防止には不可欠です。発病株に触れた手指や用具で健全株に触らないよう注意し、手指の洗浄や用具の消毒をこまめに行いましょう。
消毒には「次亜塩素酸カルシウム水溶液」や「第三リン酸ナトリウム10%溶液」などが効果的です。作業の際、消毒液が直接トマトに付かないように十分注意しましょう。
ほ場の規模が大きく、作業時に頻繁な消毒をするのが難しい場合は、ハサミを1畝ごとに変え、かつ常に一定方向に作業をするなどの工夫により、被害を最小限に抑えられます。
また、熱消毒により二次感染を予防する「農業用熱ハサミ」を使うと、使用の都度、消毒液を付ける作業が省けて効率的です。ほかの病害の感染予防もできるため、導入を検討してみましょう。
連作ほ場における“ウイルスの不活化”
モザイク病が発生したほ場では、数年間はウイルスの寄生主となる作物を避け、ほかの作物を輪作することが望まれます。やむを得ず連作をする場合は、ウイルスを不活化することで発生を抑えるとよいでしょう。なお、ウイルスを不活化するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
●湛水はモザイク病ウイルスの不活化を妨げるので、モザイク病が発生した作付け後の湛水は避ける
●収穫後の残さは極力取り除き、土壌中に残った残さは十分に腐熟させることで、ウイルスが不活化する
●腐熟処理の際は、ゆっくり十分に灌水し、土壌の下層までまんべんなく適切な湿度を保つ。それにより、安定した腐熟が期待できる
●乾燥した土壌はウイルスの不活化の妨げとなる
●熱水(蒸気)土壌消毒をすると、深さ5~10cmの比較的表層でウイルスを確実に不活化できる。そこに10cm以上滅菌土を培土すれば、土壌伝染を防げる
●土壌消毒は腐熟を妨げるので、十分に腐熟したあとで土壌消毒を行う
モザイク病に強い“抵抗性品種の選定”
モザイク病の原因ウイルスの中で、ToMVについては、多くの抵抗性品種が販売されています。それらのウイルスに抵抗性・耐病性を持つ品種を選ぶことも、防除対策としてかなり有効であり、発病を大きく抑えられます。
ToMVに耐病性を持つ品種としては、「Tm-1型」に耐病性を持つ「耐病竜福」、「Tm-2^a型」に耐病性を持つ「桃太郎8」や「桃太郎ネクスト」、「Tm-2^a型」に耐病性を持つトマト台木「影武者」など多数の種類があります。
いずれもToMVだけでなく、萎凋病など複数の病気や害虫に強い複合耐病虫性を持ち、食味もよく秀品率も高い品種です。ただ、抵抗性品種であっても抵抗性を打破され、モザイク病に感染するケースはあります。そのため、ここで取り上げた防除対策は、品種にかかわらず日頃から続けることが大切です。
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
トマトのモザイク病は、防除に有効な農薬がない代表的なウイルス病です。発生するとあっという間に感染が広がり、品質や収量が大きく低減するおそれがあります。
しかし、抵抗性品種を選び、日頃からウイルスの侵入や感染拡大を防ぐように注意深く作業することで、被害を抑えることは十分に可能です。ウイルスに負けないように、よく腐熟した土壌づくりや健苗育成を心がけましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。