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曽我農園<前編>リブランディングで全国に魅力を発信! おいしさを伝える鍵は「伝わりやすさ」

曽我農園<前編>リブランディングで全国に魅力を発信! おいしさを伝える鍵は「伝わりやすさ」
出典 : 写真提供 曽我農園Instagram

曽我農園は、野菜ソムリエサミットで金賞を受賞した高糖度フルーツトマト「越冬トマト」のリブランディングによって、コロナ禍での売り上げ減少を乗り切りました。さらに、オンラインでの顧客獲得に向けた取り組みも伺います。

曽我農園代表取締役社長 曽我新一(そが しんいち)さんプロフィール

東京農業大学卒業後、アメリカでの農業研修を経て、独立行政法人国際協力機構 (JICA)の青年海外協力隊に参加。コートジボワール共和国やセネガル共和国にて農業技術指導員として活動する。その後フランスでも農業を学び、帰国。

フルーツトマト栽培技術の分析によって「金筋(きんすじ)トマト」を開発し、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が主催する「野菜ソムリエサミット」で金賞を獲得する。コロナ禍の影響を受け「金筋トマト」から「越冬トマト」へとリブランディングを実施し、全国にファン層を広げる。

曽我農園代表取締役社長 曽我新一さん(奥)、曽我千秋さん(手前)

曽我農園代表取締役社長 曽我新一さん(奥)、曽我千秋さん(手前)
写真提供:曽我農園Instagram

地域で愛されながら、経営的には難しかったフルーツトマト

フルーツトマトの栽培を行う曽我農園は、新潟県の中でもトマト栽培が盛んな濁川地区にあります。現在、曽我農園の代表取締役を務める曽我新一さんは3代目です。フルーツトマト栽培には、先代である曽我さんの父の代から、本格的に取り組んでいました。

トマト嫌いが継いだフルーツトマト栽培

直売所がオープンすると長蛇の列ができるほど人気な曽我農園のトマトですが、曽我さん自身はトマト嫌いなのだといいます。

曽我農園代表取締役社長 曽我新一さん(以下役職・敬称略) トマト嫌いなのにトマト農家に生まれてしまって、若い頃はこのままトマト農家を継ぎたくないと考えていました。一度は別の作物を栽培しようと考え、海外でさまざまな作物の栽培を学んでいました。

帰国後、実家のほ場の隅でアーティチョークやエシャロットなどを栽培していましたが、思うように売り上げを伸ばせず、挫折してしまいました。そんな中でも、父の栽培するフルーツトマトは地域の方にとても愛され、よく売れていました。

消費者に愛されながらも経営難に陥った曽我農園

しかし、地元の消費者が購入しやすい手頃な価格でフルーツトマトを販売していたことで、次第に曽我農園は経営が苦しくなっていったそうです。

曽我 さすがに経営難が見過ごせない状況になり、自分にできることをやらなければと感じました。フルーツトマト栽培のノウハウや、継続して購入してくれるお客さまもいたので、トマトで利益を上げる方法を考えました。

データに基づき、栽培方法を改良して生まれた「金筋トマト」

曽我さんは、トマト栽培に関わるさまざまなデータを記録・分析したり、奥様や直売所に来られるお客さまにトマトを味見してもらったりすることで、トマト栽培をブラッシュアップしていきました。その結果生まれたのが「金筋トマト」です。

例えばトマトは、灌水量を制限して負荷を与えることで、糖度が高まります。適切に水分量が制限されたトマトは、限られた栄養素を逃すまいと糖分を維管束の中に蓄えるのです。

糖分を蓄えた維管束は、放射状に表面に浮きでるのですが、これが「スターマーク」や「金筋」と呼ばれています。

曽我農園 金筋の入ったトマト

金筋の入ったトマト
写真提供:曽我農園Twitter

曽我 同じ品種のトマトでも、栽培方法を変えることで糖度や実の大きさが変わることがわかりました。

曽我農園では「金筋トマト」以外にも、小売店向けに通常のトマトの生産も行っています。しかし、同じトマトとは思えないほど、見た目にも味わいにも違いが生まれたのです。

そして「金筋トマト」は、2012年に開催された日本野菜ソムリエ協会主催の野菜ソムリエサミットにて、食味評価部門と購入評価部門の2部門で金賞を受賞しました。

一般社団法人 日本野菜ソムリエ協会「2012年5月 第10回 野菜ソムリエサミット」

コロナ禍により直売所への客足が減少

曽我 「金筋トマト」は、実際に直売所でトマトを見てから購入してくださる方が多く、中には東京からわざわざ買いにきてくださるお客さまも少なくありませんでした。しかし、コロナ禍よる外出自粛で客足は遠のき、遠方からのお客さまの来店は、ほとんどなくなりました。

対面販売の売り上げが下がる中、地元生協のカタログ販売での需要は伸びましたが、コロナ禍前と同じ売上高には届きませんでした。

「金筋トマト」の価値や魅力を伝える手段を失った

高糖度の「金筋トマト」は、一般的な大玉トマトと栽培環境が異なるため、栽培コストも高くなります。そのため、一般的な大玉トマトよりも高価格で販売していました。

曽我農園 同品種のトマトでも、栽培方法の違いで大きく違いがでる

同品種のトマトでも、栽培方法の違いで大きく違いがでる
写真提供:曽我農園Twitter

曽我 対面販売であれば、高糖度の証である「金筋」について、現物を見せながら説明できます。それによって「金筋トマト」の栽培方法が通常のトマトとは違うこと、一般的なトマトよりも価格が高いこともご理解いただけていたのです。

しかし、カタログ販売では栽培方法の違いや金筋の魅力を伝えきれず、この価格で購入してもらうことは困難でした。

トマトは、広く普及している作物だからこそ「買いたい」と思わせる魅力と「買う価値がある」と納得できる理由がなければ、価格競争に陥ります。コロナ禍による来客減少によって、曽我農園は再び窮地に立たされました。

曽我農園 直売所は行列ができるほどの人気だったが、コロナ禍が始まった当初は来客が激減したという

行列ができるほどの人気だったが、コロナ禍が始まった当初は来客が激減したという
写真提供:曽我農園Instagram

「金筋トマト」から「越冬トマト」へ。リブランディングによる状況打破

今まで通りの販売方法では、いずれ立ち行かなくなると考えた曽我さんは、EC販売によって全国に販路を広げられないかと考えました。

曽我 県外から買いに来てくださるお客さまは、以前からもいらっしゃったので、需要自体はあると考えていました。しかし、インターネットで全国の消費者に訴求しようと考えると、当時のホームページでは訴求しきれないと感じました。

リブランディングのサポートをクリエイターに依頼

そこで曽我さんが相談したのは、「公益財団法人にいがた産業創造機構(略称:NICO)」でした。NICOは、新潟県の産業活性化を支援するため、助成金による企業支援やセミナーの開催など、企業の抱える課題に合わせた支援を行っています。

曽我さんはNICOが行う事業の1つである「Design LAB(デザイン・ラボ)」を通じて、KATATA YOSHIHITO DESIGN代表の堅田 佳一氏や、株式会社フレームの石川 竜太氏にブランディングを依頼することとなりました。

いずれもさまざまな企業のブランディングやデザインを行い、Good design awardや日本パッケージ大賞など、多くの賞を受賞しているクリエイターです。

公益財団法人にいがた産業創造機構「NICOpress 179号 リブランディングで全国にアピールできるトマトブランドに!」

オンラインでも魅力が伝わるブランドコンセプトを立てる

リブランディングに向けて、まず行われたのは、曽我農園の経営状況や目玉商品である「金筋トマト」の分析でした。

曽我農園の「金筋トマト」は、高糖度フルーツトマトに入る「金筋」という特徴を商品名に入れたものです。しかし、ネット販売では「金筋」が何を指すのか消費者に伝わらず、購買につながりにくいという弱点がありました。

この弱点を克服するために、まずは商品名を「金筋トマト」から「越冬トマト」に変更しました。一般的にトマトには、夏野菜のイメージがあります。しかしそこに「越冬」という逆の言葉が加わることで、消費者にイメージしやすいインパクトを与えることができるのです。

「越冬トマト」というネーミングに合わせ、ホームページのビジュアルも、真っ白な雪と真っ赤なトマトの写真に変え「雪国の農家が冬の間に作るこだわりのトマト」というブランドイメージを作り上げました。

曽我農園ホームぺージ 雪の白色にトマトの赤色が映えるビジュアル写真

雪の白色にトマトの赤色が映えるビジュアル写真
写真提供:曽我農園ホームぺージ

曽我 私たちの地域では、冬のトマト栽培も日常の一部なので「越冬」というコンセプトはまったく思いつきませんでした。

しかし、首都圏の購買層には「越後の厳しい冬を越えた特別なトマト」として魅力を感じていただけたようで、新ブランド発表後には首都圏を中心に全国から注文が殺到しました。

曽我農園 ホームぺージ

価値に見合うプライシングへ

「越冬トマト」の販売に当たり、曽我さんは販売価格や販売方法の見直しも行いました。

曽我 リブランディングに向けて動き出す前に、堅田さんと石川さんに「越冬トマト」の試食をお願いしたところ、このクオリティの商品ならもっと販売単価が高くてもいいとアドバイスをいただきました。

実は、金筋トマトやその加工品は、利益率が低い価格で販売されており、加工品については利益がほとんどない状態で生産・販売を行っていたのです。

リブランディングに合わせて価値に見合う価格を設定し、利益率向上を実現しました。商品のパッケージデザインも変更し、贈答用に高級感を感じられるものにしました。

曽我農園 越冬トマトの加工品パッケージも刷新

越冬トマトの加工品パッケージも刷新

販売期間を区切ることで「特別感」を印象付ける

加工品以外の「越冬トマト」は、トマトの旬である5〜6月の期間限定の販売としました。もちろんそれ以外の時期もフルーツトマトの栽培は可能ですが、旬の時期に収穫したものと比較するとどうしても糖度は下がってしまいます。

「越冬トマト」が最もおいしくなるタイミングに絞って提供することで、おいしさに妥協を許さない、こだわりのブランドであることを確立しました。

曽我 商品名やホームページのビジュアルで「特別なトマトであること」を表現し、作物の品質が最もよくなるタイミングを狙って販売することで「高品質」かつ「今しか手に入らない希少性」という付加価値を生み出すことができたのです。

消費者が「選びたくなる」理由を、オンラインで効果的に伝えることで、直接作物を確認できなくても「食べてみたい」という気持ちを刺激し、購入につなげることができたと曽我さんは語ります。

曽我農園 オンラインショップ「春限定 越冬野菜」

SNSの積極的な活用と「バズ」を生み出す表現力

リブランディングの一環として、曽我さんはTwitterをはじめとしたSNSでの発信にも力を入れていました。

消費者に刺さるユニークなネーミング

曽我農園 尻腐れした「闇落ちとまと」

尻腐れした「闇落ちとまと」
写真提供:曽我農園Twitter

曽我 規格外として商品にならないトマトの中に「尻腐れ」といった状態のものがあります。水分を制限することで高糖度トマトを栽培することができますが、水分ストレスがかかりすぎてしまうと、どうしても「尻腐れ」が一定数起きてしまうのです。

尻腐れしたトマトは食べられないわけではなく、むしろ高糖度でおいしいトマトなのですが、どうしても見た目の悪さから商品として販売するのは難しくなります。

その様が、まるで映画「スターウォーズ」に登場する、優秀すぎるが故にダークサイドに落ちてしまうアナキン・スカイウォーカーと重なったのです。

キャッチーなSNS発信が、新たな顧客層を開拓

曽我 さまざまな個人や企業が利用するTwitterですが、ユーザー層としては、サブカル好きな人が多いと感じていました。そこで、サブカル好きな方にもヒットするようなキーワードとして「闇落ちとまと」という名前を採用したのです。

Twitterで「闇落ちとまと」が話題になったことで、「闇落ちとまと」を求めて直売所に来てくれる方や「闇落ちトマト」をきっかけに曽我農園のほかの商品を購入される方が増えたといいます。

曽我 この発信がきっかけとなり、これまで曽我農園を知らなかった新たな顧客層にも、曽我農園や「越冬トマト」の存在を知っていただけるようになりました。

▼多くの反響があった「闇落ちとまと」のツイート
実は一番甘い「尻腐れ」というトマトは見た目がこんなですのでほとんど捨てられてきましたが「闇落ち」という名前にしたら人気商品になりました。直売所で絶賛発売中。

顧客のニーズに寄り添い、変化していける柔軟性を大切に

リブランディングを行うことで、ブランド価値を向上させ再スタートを切った曽我農園ですが、当初は戸惑いもあったといいます。

曽我 自分が試行錯誤して作り上げてきた「曽我農園のトマト」のイメージを1度壊すというのは、正直抵抗がありました。しかし、思い切ってリブランディングを行ったことで、経営状況を回復させる兆しを見つけることができたのは事実です。

現在の曽我農園は「越冬トマト」のブランドを大切にしながらも、顧客のニーズを掴みながら変化していける農場をめざしているそうです。曽我農園のような、時代の変化に合わせた柔軟性こそが、持続可能な農業を実現する秘訣ではないでしょうか。

後編では、曽我農園が課題解決にむけて取り組んでいる「栽培の工夫」についてお話を伺います。(近日公開予定)

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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