【大豆】正しい“中耕培土”で収量アップ! 実施方法と作業機選びのポイント
大豆栽培で、古くから行われてきた中耕・培土は、大規模化・機械化が進んだ現在、トラクターを利用してより効率的に行えます。土壌の条件によっては効果が出にくいものの、水田転換畑では大豆の収量や品質の向上に効果の高い技術です。
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目次
中耕・培土は、大豆の安定的な収量確保に有効です。しかし、タイミングや実施方法が適切でないと効果が上がらず、コンバイン収穫時に汚粒が増える原因となる場合もあります。そこで本記事では、効果的な作業のポイントやおすすめの作業機について詳しく解説します。
CRENTEAR/PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培における中耕・培土の目的は? 期待できる4つの効果
中耕と培土は、もともと異なる作業でしたが、それぞれの作業時期や目的、得られる効果が重なることから、同時に行われるようになりました。
どちらも大豆の生長を促進し収量増加に有効とされますが、タイミングや実施方法によっては効果が得られないばかりか、かえって生長を妨げることにもなりかねません。
適切に作業を行い収量・品質を向上させるために、まずは中耕・培土を実施する目的や効果について正しく理解することが重要です。4つの具体的な目的・効果を解説します。
1. 大豆生育期の除草
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
中耕の主な目的は生育期の除草で、いわゆる「耕種的防除法」に当たります。大豆栽培は、葉が茂る前の生育初期の除草が重要です。播種時に除草剤を散布した場合でも、除草剤の効果が切れて雑草が発生し始めたら、中耕を行って埋め込むことで除草します。
除草剤による防除の効果は、イネ科雑草や広葉雑草などの種類によって異なる場合があります。一方、中耕は雑草の種類を問わず一掃できる点で、より効率的です。ただし、雑草が伸びすぎていたり、土壌が湿っていたりすると埋め込んだ雑草が再生することがあります。
雑草が伸びすぎないように、発生が目立つ場合は少し早めに行うなど、柔軟に対応しましょう。
2. 大豆苗の倒伏軽減
培土の主な目的は、畦間を掘り起こした土を大豆の株元に寄せ、茎の下部を覆うことです。これによって不定根が発生するため根張りがよくなり、大豆の倒伏が軽減されます。同時に、掘り起こされた畦間の土壌は通気性が確保され、通常の根の発達も促されます。
この効果は、土壌の性質や種類の違いに関わらず、どのほ場でも同じように認められています。日本の大豆品種は耐倒伏性が低いものが多いため、培土による防止対策は重要です。
通気性・排水性など土壌条件の改善
ふうび / PIXTA(ピクスタ)
中耕には作土を膨軟化し、通気性を改善する目的もあります。根圏域である畝間の土壌通気性が改善されれば、通常の根の発達が促され、より多くの養分や水分を吸収できるようになります。
また、培土には土を高く寄せることで排水性を向上させる効果もあり、湿害防止につながります。
4. 大豆の収量向上
これまでに挙げた中耕・培土の目的や効果は、以下3つの理由から結果的に大豆の収量や品質の向上をもたらすと考えられます。
1.雑草の抑制による収量の増加
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
中耕によって大豆の生育初期に雑草の発生を抑えることで、大豆が土壌の養水分を十分に吸収できるようになり生育が向上します。また、幼苗の倒伏を軽減することで収量減や収穫ロスを防げるため、全体の収量が増加します。
2.根粒菌の発育促進による収量の増加
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土壌の通気性を高めることは、大豆の根系を広げ根粒菌の発育を促進させます。その結果、窒素固定や養水分の吸収が増大し、茎葉の生育が盛んになって収量や品質が向上します。
大豆は根粒の酸素要求量が多いため、土壌の酸素が不足すると根が十分に発達しません。そのため、水田転換畑など土壌水分が多く通気性の劣る土壌においては、中耕・培土により土壌に酸素を供給することが収量増加には不可欠です。
3.倒伏や干ばつ、湿害などの防止による収量の安定確保
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培土による不定根の発生は倒伏防止だけでなく、干ばつ防止の効果も高まります。さらに排水性の向上による湿害防止の効果もあることから、倒伏や干ばつ、湿害といった減収の要因を防止でき、収量の安定確保につながります。
こうした収量増加の効果は、特に湿度の高い水田転換畑や粘土質の土壌などにおいて高く発揮されると考えられます。
一方で、もともと乾燥していて通気性・排水性の高い火山灰土や、水田転換畑でも乾燥した条件のほ場などでは、中耕・培土を行っても、除草以外の効果はほとんど現れません。
中耕・培土の必要性は、ここに挙げた目的・効果と適用するほ場の条件に加え、作業負担やコストもあわせて検討し、判断しましょう。
増収をめざす! 中耕・培土の作業適期と正しいやり方
中耕・培土は、適切な実施時期に、大豆に適した深さで行うことが大切です。また、やむを得ずタイミングを逃した場合には、茎葉処理剤で雑草防除しましょう。これらの手順ごとに方法を紹介します。
作業の実施時期
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安定的に中耕・培土の効果を上げるためには、適切なタイミングで作業することが重要です。タイミングの目安は、地域やその年の気候などによって多少の変動はありますが、播種後おおよそ20~35日の間に1〜2回行います。
生育段階としては、本葉2~3枚の頃に1回目、本葉5~6枚の頃に2回目を行います。この時期は、大豆の不定根の発生が盛んなため、中耕・培土の効果が高まるでしょう。
ただし、開花期に入る頃にはすでに根が畦間まで伸びているため、中耕・培土を行うと根を切断し、生育を妨げたり落花を増やしたりする恐れがあります。遅くとも開花期前には終わらせましょう。
また、中耕・培土は作業負担が大きいため、1回のみで十分とする考えもあります。播種が遅れたり、雨天が多く1回目の中耕・培土が遅くなったりした場合には、無理に2回目を行う必要はありません。
播種後の日数はあくまでも目安とし、実際の大豆の生育状況や雑草の発生をよく観察しながら実施時期や2回目を行うべきかを判断しましょう。
大豆に適した中耕・培土の深さ
培土の深さも、収量に大きく影響することがわかっています。培土の際は、不定根が発生しやすいように株元までしっかりと覆うことがポイントです。
なお、培土を高くしすぎると、コンバイン収穫の際に土砂によって汚損粒が発生しやすくなる可能性があります。そのため、中耕を2回した場合でも、培土は1回目のみにした方がよいともいわれます。
参考までに、1987年、1988年に福島県の農業試験場で実施した試験によると、最も効果的な培土の深さは15~20cm程度と報告されています。
出典:農林水産省「大豆のコンバイン収穫マニュアル(農産園芸局畑作振興課編)」内「3.中耕・培土(表21)」
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中耕・培土のタイミングを逃したら、茎葉処理剤で雑草防除を
前述のように、播種の時期が遅れたり、梅雨期などで中耕・培土のタイミングを逃したり、作物の生育状況から2度目の作業を見送ったりすると、土壌処理剤の効果が切れて雑草が繁殖してしまうことがあります。その場合は、茎葉処理剤を使用して、別途、除草のみ行いましょう。
茎葉処理剤を使う場合は、まず繁殖している雑草を観察し、イネ科雑草か広葉雑草か、一年生雑草か多年生雑草かなどの分類を確認します。そして、それぞれ防除すべき雑草に適した選択制の茎葉処理剤を選び、散布しましょう。
なお、茎葉処理剤には「選択制」と「非選択性」があります。選択制の処理剤は、雑草だけを枯らすことができるので、全面散布が可能です。非選択性の茎葉処理剤を散布する場合は、大豆にかかると枯れてしまうため、注意深く畝間処理をする必要があります。
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より高効率な中耕・培土を実現するには? 作業機選びのポイント
大規模栽培のほ場では、中耕培土機を利用することで中耕・培土を効率化できます。専用の乗用型もありますが、トラクターに取り付ける牽引型のものは、手持ちのトラクターを活用できるので便利です。
いずれの型でも、中耕培土機には主に「ロータリ式」と「ディスク式」の2種類があります。
従来はロータリ式が主流でしたが、土を練り込みやすく、水分の豊富な土壌で使うと土壌の質を低下させてしまう問題がありました。そこで開発されたディスク式は、土を反転させて培土を行うため土を練り込むことがありません。
そのうえ、宮城県古川農業試験場で2013~2014年に行われた試験によれば、湿潤土壌でなければロータリ式よりも株元まで土を寄せることができ、除草の面でもロータリ式より残草量が少なく、高い効果を上げられることがわかっています。
また、作業速度は土壌条件などに関係なく、ロータリ式の1.3~2.5倍とされ、効率性についても上回ります。
ただし、湿潤な土壌における作業では培土が株元まで上がらない場合があり、ディスクの角度を変えるなどの対応が必要です。
出典:宮城県「普及に移す技術 第90号(平成27年4月)」所収古川農業試験場「大豆作におけるディスク式中耕培土機による雑草防除効果」
このように、多くの大規模農家にとってディスク式を用いるメリットは大きいと考えられます。
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大規模農家におすすめ! 大豆に使える“ディスク式”中耕作業機2選
最後に、これから購入を検討するなら選択肢に含めたい2つのディスク式中耕作業機について、その仕様や特徴、価格などを紹介します。
トラクター牽引式 「中耕ディスク DC SERIES」(小橋工業株式会社)
小橋工業株式会社のDCシリーズは、赤いボディが鮮やかなトラクター牽引型の中耕ディスクで、中耕・除草・培土を効率的に行います。1畦につき前列・後列それぞれ2枚、計4枚のディスクユニットで、水分の多い土でも練らずに返し、株元までしっかり培土できます。
ロータリ式の2倍の速度(メーカー比)で作業できるため、作業の省力化や燃料コストの大幅カットも期待できます。
作業位置をスライドすることで条間60~85cmに対応するほか、ほ場や土壌の状態、大豆の生育状況に合わせてディスクの角度や位置も調整できるので、さまざまな条件下でも適切に培土を行えます。
ラインナップはユニットが2連、3連、5連の3種があり、それぞれ適応するトラクターによって2〜3種類にわけ、合計8種類を展開しています。
メーカー希望小売価格(税込)は、2連の最も小さいタイプが550,000円、最も大きい5連タイプが1,375,000円です。
製品ページ:小橋工業株式会社「中耕ディスク」
複数作業に対応できる乗用管理機 「ミッドマウント管理作業車 MD20」(ヤンマーホールディングス株式会社)
ヤンマーアグリジャパン株式会社 Youtube公式チャンネル「ミッドマウント管理作業車 MD20 中耕ディスク作業」
ヤンマーホールディングス株式会社の「ミッドマウント管理作業車MD20」は、温暖化による猛暑の中、炎天下で行われる農作業の負担を軽減すべく開発された、新機能満載の乗用管理機です。
名前の通りミッドマウント方式を採用し、作業機を本体の中央に配置しているため、作業者は前を向いたまま作業状況を間近で目視確認できます。状況に合わせて操作を微調整できるため、作業精度や効率が向上します。
また、作業機が機体の中央にあることで前後のバランスもよくなり、左右の傾斜がある場所での作業もズレが生じにくくなります。
中耕・培土作業には、中耕ロータリや中耕ディスク、培土機など、作業に合ったアタッチメントを換装します。
中耕ディスクの場合、条間65~85cmに調整可能で、一度に3条を作業できます。さらに施肥機を同時に使えば中耕・培土・施肥作業が一度に済むので、作業効率が大幅にアップします。
本体は標準仕様で629kgと軽量で、3輪のため同じ溝をタイヤが一度しか通らず、踏みしめを最小限に抑えたほ場に優しい設計です。日よけ付きで、作業者への負担軽減も考えられています。
メーカー希望小売価格(税込)はミッドマウント管理作業車本体が2,293,500円です。
製品ページ:ヤンマーホールディングス株式会社「ミッドマウント管理作業車MD20」
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培において、中耕・培土は収量・品質の向上に欠かせない作業とされてきました。しかし、土壌環境などによっては、収量増加にはそれほどの効果がない場合や、1回でも十分な効果が得られる場合があることがわかっています。
水田転換畑など湿度の高いほ場では、除草や倒伏防止だけでなく、干ばつ防止、湿害防止、収量増加などに高い効果が見込めます。一方で、条件によっては不要かつ、コンバイン収穫の際に妨げとなるという声もあります。
それらの情報を多角的に集め、自身のほ場の土壌環境や大豆の生育状況を確かめながら、適時・適切に中耕・培土を行い、収量増をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。