ナスのハスモンヨトウ対策! ヨトウムシ類を見分けて適切に防除する方法
ナスには多くの害虫がつきますが、中でもハスモンヨトウは食欲旺盛で葉だけでなく果実も食害するため、収量や品質に甚大な影響を与えます。被害を出さないために、ハスモンヨトウの発生を早期に発見し、速やかに防除対策を実行できるよう備えが必要です。
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ハスモンヨトウは、昼間は葉裏や株元に潜むことが多いため発見しにくいうえに、薬剤抵抗性を持ちやすい難防除害虫です。そこで本記事では、ほかの害虫との見分け方を写真付きで解説するとともに、効果的な農薬や耕種的防除のポイントについて説明します。
ハスモンヨトウとは? ナスの品質・収量に悪影響を及ぼす難防除害虫
ハスモンヨトウ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
難防除害虫であるハスモンヨトウの被害からナスを守るために、まずは被害の特徴や生態を知り、早期発見を心がけましょう。
ナス栽培時における被害の特徴
ハスモンヨトウは極めて広食性の害虫で、ナスや大豆、里芋、ヤマトイモ、キャベツ、白菜、ブロッコリー、レタスなどの作物での発生が多く見られます。
そのほかにもトマト・ピーマンなどナス科、大根やカブなどアブラナ科、きゅうりやスイカなどウリ科、インゲンやエンドウなどマメ科の作物をはじめとして、ほうれん草やニンジン、ネギ、れんこん、イチゴなど被害作物は多岐にわたります。
ダリアのハスモンヨトウ被害花
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
野菜類以外にもブドウや柑橘などの果樹、キク、カーネーション、ダリア、シクラメンなどの花き類への食害も見られます。雑草にも広く発生するため、周囲の藪などからほ場に侵入するケースもあります。
ナスに発生した場合の被害は、葉だけでなく花蕾や新梢、果実にも及びます。
若齢幼虫は集団で葉裏から食害し表皮だけを残すため、産卵された被害葉はところどころ白く透けてかすり状になるのが特徴です。
ハスモンヨトウ若齢幼虫 葉裏から食害し表皮だけを残す
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
中齢幼虫以降は分散し、老齢幼虫では葉脈や葉柄だけを残して葉を食い尽くすほど暴食するようになります。新芽や蕾、果実も好んで食害するため、果実が変形したり穴が開いたりして、収量や品質が大幅に低下することも少なくありません。
ナスの果実に潜り込んで食害するハスモンヨトウの老齢幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
基本生態と、発生しやすい時期・条件
ハスモンヨトウは南方系の害虫で、寒さに弱く、雨が少なく乾燥した気温の高い年に多発します。休眠性はないため、日本では暖地であっても露地での越冬は困難です。
そのため、冬場は施設に侵入して活動し続け、暖かくなってから露地に出ていく個体があると考えられています。また、夜行性で、中齢幼虫以降、日中は地際部などに潜み、夜間に活動する傾向があります。
Mt223N / PIXTA(ピクスタ)
露地の場合、暖地では4月頃から、関東以北では6月頃からほ場で被害が見られ始めますが、越冬する個体は少ないため、春先の被害は目立ちません。8月から9月にかけて発生が最も増えます。施設では、秋季と春季に多発します。
ほ場に飛来した成虫雌は、数十~数百個の卵塊を3~6ヵ所ほどに分けて産み付け、雌1匹の総産卵数は1,000~3,000個といわれています。
ふ化した幼虫は、若齢幼虫のうちは集団で過ごし、周囲の葉を裏から食害します。この頃は食害量が少なく、被害に気付かないこともあります。
中齢以降は分散して食害するようになり、急激に摂食量が増えます。この頃になると穴の開いた葉が目立つので、被害に気付くケースが多いようです。終齢幼虫を経て体長4cmほどになると、土中に潜って蛹になり、2週間ほどで羽化します。
ハスモンヨトウの 雌成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
成虫は体長約15~20mmで、雄・雌とも前翅は茶褐色をしています。左右の羽に、斜めに交差する淡褐色の縞模様があるのが特徴で、それが和名の由来にもなっています。
露地における発生は、比較的暖かい地域で年5~6回ほどです。1世代のサイクルは、25℃の環境下で卵は4日、幼虫は19日、蛹は14日、羽化後から産卵までは2日、卵から産卵までは39日程度といわれます。
【画像で確認】 ヨトウムシ類やその他害虫との見分け方
同じヨトウムシ類でも、種類によって農薬の効果が異なる場合があります。特にハスモンヨトウは、ほかのヨトウムシ類に比べ薬剤抵抗性が発達しやすく、防除が困難です。
また、ハスモンヨトウの防除には幼虫が小さいうちの早期対策が効果的なため、できるだけ早く発生している害虫の種類を特定し、適切な防除対策を行うことが大切です。
そこで以下では、ハスモンヨトウの特徴と間違えやすい害虫との見分け方を、生育ステージごとに写真付きで解説します。
卵
ハスモンヨトウの卵塊は、丸い小さな卵を直径2cmほどに盛り上げて産み付けられ、黄褐色の毛で覆われているのが特徴です。なお、この毛は成虫の鱗毛です。シロイチモジヨトウの卵塊も同様に鱗毛で覆われていますが、ハスモンヨトウよりも白っぽいので区別がつきます。
ハスモンヨトウの卵塊。卵は重ねて盛り上げるように産み付けられ、黄褐色の毛で覆われている
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
シロイチモジヨトウの卵塊。卵は平らに産み付けられ、覆っている毛が白っぽいのがわかる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ヨトウガの卵塊。卵は平らに産み付けられ、毛で覆われていない
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
若齢幼虫(ふ化直後~1週間程度)
ふ化直後から2〜3齢期までの若齢幼虫は、体長1cm足らずで透き通った黄緑色や白灰色をしており、集団で食害します。
ヨトウガやシロイチモジヨトウも若齢幼虫の間は集団でいますが、ハスモンヨトウの特徴として、頭の後ろのほうに左右一対の黒い斑紋が見えることが挙げられます。
ハスモンヨトウの若齢幼虫。頭の後ろのほうを見ると、左右の横腹辺りに黒い斑紋が見える
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
よく似た害虫であるヨトウガの若齢幼虫は、シャクトリムシ状に歩くので区別がつきます。
ヨトウガの若齢幼虫は、シャクトリムシ状に歩く
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
中齢~老齢幼虫(ふ化後1週間以降)
3〜6齢の中齢・老齢幼虫となると、体長は1~5cm程度に成長し、それぞれ単独で活動・食害を始めます。
体色は黄緑っぽい色から黒褐色まで個体差がありますが、若齢幼虫と同様に、頭の後方脇に黒い斑紋が見られます。
ハスモンヨトウの中齢幼虫。頭の後方の脇に左右対の黒い斑紋がある
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ヨトウガの老齢幼虫とは体の色や大きさがよく似ているので、この斑紋が見分けるポイントとなります。
ヨトウガの老齢幼虫。頭の後方の黒い斑紋がない
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ナスのハスモンヨトウ防除に有効な3つの対策
ハスモンヨトウは中〜老齢幼虫まで成長してしまうと防除が難しくなるため、飛来や繁殖を抑えつつ、農薬を使って密度を下げることが有効な対策です。それぞれの具体的な対策と注意点を解説します。
1. 侵入防止:成虫の飛来を防ぐ
施設栽培・露地栽培とも、畝と通路の両方をマルチングし雑草を繁茂させない
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)・Mt223N / PIXTA(ピクスタ)
まずは、ほ場への成虫の飛来を予防することが重要です。施設栽培の場合は、通気口などの開口部に寒冷紗や防虫ネットを張って、成虫の侵入を防ぎます。ハスモンヨトウの防除には目合い4mm以下で効果があります。
ただし、ネットに卵を産み付けられ、そこから幼虫が施設内に侵入するケースがあるため、成虫の発生に注意し、防虫ネットをこまめに確認しましょう。
施設・露地ともに、ほ場の周囲の雑草繁茂地や、ほかの作物でハスモンヨトウが繁殖すると、そこから幼虫・成虫が侵入します。そのため、幼虫が発生する前に周辺の作物の防除や除草をしておくことで、ほ場での発生リスクを大幅に減らせます。
大豆やサツマイモ(甘藷)など、ハスモンヨトウの好む作物が近隣にある場合は、ナスを定植する前にそれらのほ場での発生を抑えておきましょう。
すでに周囲で幼虫が発生している状況で防除を行うと、幼虫が周囲からナスのほ場へ移動することを促してしまうため、周辺とほ場の防除を同時に行うなど、タイミングには注意が必要です。
2. 繁殖防止:フェロモンディスペンサーや黄色蛍光灯の設置
ハスモンヨトウ雄成虫のフェロモントラップ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハスモンヨトウの成虫は飛来したり地面を這ってきたりするため、防虫ネットや農薬だけでは、ほ場への侵入を完全には防げません。そこで、繁殖(産卵)をできる限り防ぐ対策が有効です。
成虫の交尾や産卵を防止するには、フェロモントラップにフェロモンディスペンサーを設置して成虫同士の交信を撹乱させ、交尾ができないようにする方法や、フェロモントラップで誘引した成虫を大量に捕殺する方法があります。
ただし、これらのトラップにはシロイチモジヨトウ用とハスモンヨトウ用があり、違う種に使っても意味がありません。また、産卵前に設置しなければ効果はないため、ほ場で成虫を見つけてから設置しても手遅れです。
したがって、周囲の作物の害虫発生状況や地域の病害虫情報などをよく調べ、自身のほ場の立地条件なども併せて検討し、適切な時期にフェロモンディスペンサーなどを設置することが大切です。
ハウス内の黄色蛍光灯(トマト栽培ハウス)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
また、黄色蛍光灯を設置して終夜灯すことで、成虫の産卵を防ぐ方法もあります。この方法は、オオタバコガとの同時防除も可能です。
ただし、10a当たり5〜10基設置して終夜点灯するため、導入費用やランニングコストがかかる点や、黄色光が作物の生育に影響しないかなど、導入前に十分に検討する必要があります。
なお、繁殖の防止に最も確実で効果的な方法は、卵や若齢幼虫を見つけたら、その都度、葉ごと取り除き捕殺することです。卵は葉裏に産み付けられるので、成虫の姿を見たら注意深く葉を観察すると早期発見につながります。
3. 早期&適期の防除:農薬の効果が出やすい時期に散布
ハスモンヨトウが発生してしまった場合は、耕種的防除と併せて、効果が出やすい若齢幼虫時に農薬散布を行うと効果的です。中齢幼虫になると薬剤抵抗性を得やすいうえに、日中は株元などに潜むため、農薬が効きにくくなります。
発生状況はフェロモントラップで確認し、成虫の飛来が確認できたら産卵があったものと想定し、ふ化してから若齢幼虫のうちに農薬散布を実施しましょう。
フェロモントラップ内で誘殺されたハスモンヨトウ雄成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
抵抗性を持たせないために、農薬は系統の異なるものを数種類用意し、ローテーション散布を基本とします。ただし、農薬だけでは完全に防除できないため、前述したように耕種的防除も併せて行いましょう。
ナスに適用のあるおすすめの農薬としては、オオタバコガやハモグリバエ類などと同時に防げる「アニキ乳剤」「ディアナSC」「アファーム乳剤」や、育苗期や定植時に灌注して使え、定植後の散布もできる「プレバソンフロアブル5」などがあります。
なお、これらの農薬は2022年6月7日現在、ナスとハスモンヨトウに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用量・用法を守ってください。また、地域に農薬の使用についての決まりがある場合は、必ずそれに従ってください。
農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
ハスモンヨトウはナスの収量や品質に深刻な被害をもたらすうえに、幼齢幼虫の頃は発見しづらく、中齢幼虫以上になると農薬が効きにくくなる、防除の難しい害虫です。
しかし、特徴を正確に捉え、フェロモントラップを利用したり農薬を散布したりすることで、被害を抑えることが可能です。早めに対策を講じ、ハスモンヨトウの多発を防ぎましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。