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【農業経営に求められる戦略視点とは】第4回 戦場(事業環境)の選択② 収益観点での作物選択

【農業経営に求められる戦略視点とは】第4回 戦場(事業環境)の選択② 収益観点での作物選択
出典 : プラナ / PIXTA(ピクスタ)

前回は販路の選択、つまり「誰に売るか」を考えました。本記事では、「何を売るか」の観点の1つとして作物の選択があります。本稿では、主に野菜類に注目して検討します。

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「何を作るか?」検討時における分類の考え方

作物の分類方法は、様々な観点があり多岐に渡ります。今回は「何を作るか?」を検討する際に大きく影響を与える分類として、野菜指定産地制度上の分類と管理方法の分類を挙げます。

野菜指定産地制度とは、作物選択においてリスクを最大限に低減する制度

指定野菜 14品目

出典:独立行政法人農畜産業振興機構「指定野菜及び特定野菜の生産・流通・消費動向」所収「指定野菜の生産・流通・消費動向(令和4年6月)よりminorasu編集部作成

野菜指定産地制度は、国内で消費量の多い野菜について、国民に安定供給できるように国が生産を奨励する制度です。

国に指定された産地(指定産地)は、指定野菜を生産・出荷する役割を担う一方、市場価格が下落した際でも補給金で補償されます。

※詳細は、独立行政法人農畜産業振興機構「指定野菜価格安定対策事業の概要」をご確認ください。

すなわち、指定産地で指定野菜を生産するというのは、非常にリスクの低い選択肢であるといえます。指定野菜には、玉ねぎ、きゅうり、ナスなど、消費量の多い野菜が14品目設定されています。

指定野菜に準じる野菜として、特定野菜があります。指定野菜と類似した補償がされており、価格が大幅に下がった際に補給金が交付される制度があります。こちらは35品目が設定されています。

※詳細は、独立行政法人農畜産業振興機構「特定野菜等供給産地育成価格差補給事業」をご確認ください。

▼指定野菜については下記記事で詳しく解説されていますので参照ください。

露地か?施設か?によって、コントロールするリスクとリターンは大きく変わる

栽培管理の方法は、細かく分類すれば様々ありますが、大きくは、施設園芸設備を伴うかどうかの観点が重要です。「露地栽培」「施設園芸栽培」に分類されます。

施設栽培の暖房機 露地栽培の防除作業

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)・川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

収益観点では、施設園芸栽培は設備への初期投資に加え温度管理やメンテナンスなどの維持コストを伴います。一方で、高単価で販売できる時期に出荷を調整しやすく、天候リスクや病害虫リスクを回避しやすい、などのメリットが期待できます。

露地栽培は、施設園芸栽培に比べると、設備・燃料費などの管理コストを抑えることができます。その一方で、作物選択については土地の気候風土の影響や、天候リスク・病害虫リスクを受けやすい、など、施設園芸栽培と裏返しの関係にあります。

両者は、どちらがよいということはなく、選択によって「とるリスク」と「期待リターン」が変わります。農家それぞれが、自分なりの根拠と想いをもって、最もリスクをコントロールできる選択肢を選ぶことが重要です。

「とるリスク」と「期待リターン」のイメージ

Ivelin Radkov - stock.adobe.com

収益の基本構造は、単価×収量-(変動費+固定費)

収益(利益)の基本構造は、「売上-費用」です。売上は、売れた分であり、作った分とは異なります。しかしここでは便宜上、販路を既に確保していることを前提とし、売上は、単価×収量とします。

▼販路に関する記事は前回の記事をご覧ください

いずれの要素も事業環境(戦場)によって大きく変わり得る。個別解が大事

売上・費用双方の概要を解説していきますが、その前にお伝えしたいのは、「この作物が儲かる(収益が高い)という単一解はない」という点です。販路検討の際も同様の前提をお伝えしました。

たしかに作物による単価の違い、収量の違いはあり、代替の目安があります。同様に、費用にも大体の相場があるでしょう。相場の情報を押さえておくことは極めて重要です。

しかしながら、皆さんがどのような地域・土地で事業を営んでいるかによって、作物の収量は変わります。もしも、強引にその土地に合わない作物を作ろうとすると、設備関係のコストが跳ね上がります。

加えて、こちらも販路検討の際と同様になりますが、作物選択の際も農家の皆様の「想い」も是非重視すべきと考えます。

費用は、変動費と固定費を分けて考える

野菜 施設野菜作の収益構造

出典:農林水産省「営農類型別経営統計」内「令和2年度・全国・施設野菜作」よりminorasu編集部作成

固定費は、作物の生産・販売量に連動しない固定的な費用です。作物選択によって大きく変わる固定費は、設備の維持・修繕に関するコストです。

具体的には、ハウス栽培をした際は、ハウスの維持(光熱費)・修繕費等は生産量には依存せず固定的にかかるコストです。

前述の通り、作物の栽培管理の方法によって一番変わるのは、固定費です。施設園芸栽培を選択する際は、固定費相応の「単価」もしくは「収量」が求められることが収益構造の式から分かります。

変動費とは、作物の生産・販売量に連動して変わる費用を指します。作物選択の際に考慮する変動費には、「材料・資材コスト」「出荷コスト(梱包・配送)」などが挙げられます。

作物による単価と収量の相場の違い

作物によって単価や収量には当然ながら違いがあります。ここでは相場観を見ていきます。

指定野菜の反収と単価

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和2年産野菜生産出荷統計」、東京都中央卸売り市場「統計月報」よりminorasu編集部作成
注)10a当たりの出荷量=10a当たりの収穫量×(出荷量÷収穫量)
  1kg当たりの平均単価:東京都中央卸売り市場の2021年7月~2022年6月の平均単価

上のグラフは、横軸に反収を、縦軸に単価をとり、指定野菜をプロットしています。

これをみると、右上のトマトやきゅうり、ピーマンなど果菜類は、反収も平均単価も高めです。施設栽培が多いことを考えると、短期間で栽培を増やすことは容易ではありません。栽培管理の工夫で反収アップと単価アップをめざす農家が多い所以です。

右下の、白菜やキャベツ、大根、ニンジンなどは、反収は高いものの単価が低いため、農地を集約して大規模化・機械化を進め、面積当たりの生産コストを下げて収益を出そうとする地域がみられます。

左上のほうれん草は、単価は高いものの、反収は1,000kgに届きません。出荷調整の手間もかかるため、周年栽培の回転率を上げ、作業を平準化することで収益アップに取り組む農家がよくみられます。

繰り返しになりますが、相場はあくまで相場です。地域、出荷時期によっても大きく変わりますし、費用の掛かり方も大きく変わる点を忘れずに。

何をつくるか?の際に考慮すべきチェックポイント

ここまで収益構造の各要素についてみてきました。収益構造を意識しつつ、「何をつくるか?」という作物選択において考慮する視点をまとめます。

需要(必要としている人はいるか?なぜ必要か?)

収益構造を説明した際は割愛しましたが、作ったから売れるわけではありません。作物の需要を考えることは重要な視点です。

自社がその作物を作ったならば「必要としている人はいるか?」「なぜ必要としているか?」が需要を考える上での重要な問いかけです。

顧客ニーズの種類については、下記を考慮しておくとよいでしょう。

需要は十分ある場合、求められているのは
「品質/希少性か?」
「安さか?」
「安定供給か?」

ここでは需要の整理の一例として、出荷先で整理してみます。

作物選択を考える上でのポイント(需要観点)

資料提供:株式会社コーポレイトディクション

この図では、出荷先を4種類に分類しました。前述のように野菜指定産地制度は、国による需給バランスの安定化といえます。従って、指定野菜の需要は安定的です。

一方で、特定の販売先と取引する場合は、その顧客が求めていることは何なのかについて深く理解する必要があります。

例えば、特定の販売先と既にお付き合いがある場合、需要を知ることによって関係深化を図れるかもしれません。既に別な作物で信頼関係があるならば、関係構築がしやすく、場合によっては出荷配送コストなどの効率化もできるかもしれません。

特定の実需者との関係を築くという点では「契約栽培」も選択肢にはいってくるでしょう、下記記事も参照してください。

収量(自社でつくるのに適しているか?)と費用

「売れるか?」を考える視点として需要をあげたのに対して、「作れるか?」を考えるのは収量視点です。

他業種と比べると、農業は需要を担保する制度が充実しており、農家のみなさんの最も意識する視点は収量ではないでしょうか。

作物選択を考える上でのポイント(収量観点)

資料提供:株式会社コーポレイトディクション

ポイントは、「自社でつくるのに適しているか?」です。下記に考慮すべき要素を挙げます。

環境調節:農地の土壌、地域の気候
環境にあった品種の有無
自社の事業資産:農地の面積、必要な設備、人手(生産・梱包等)、販路の目途、対象作物の管理ノウハウ、経験、頼りになる情報収集・相談先の有無
農地全体での中長期的な最適化:(後述)

費用は、収益構造で既に述べたので割愛します。環境調節へのアプローチによって、固定費が大きく変わる点は特に注意すべき点です。施設園芸栽培は、固定費が増大しがちな点に注意しましょう。

面積当たりの収量(反収)を増やすには?

作物の選択においては、作物の種類を個別で考えていくだけでなく、農地全体の年間計画で最適化させることが重要です。つまり栽培計画が重要になります。

この点について、詳しくは栽培の専門家に譲りますが、要素として、連作障害を回避しつつ面積当たりの収益増を期待できる輪作体系の導入や、作物と作型の組み合わせによる作業負荷の平準化などが挙げられます。

実態としては、皆さんは既に慣習的/無意識でやっていることの多くが当てはまるのかもしれません。しかしながら、経営を管理するという意識で整理することによって、栽培計画の見直しの余地があるかもしれません。

まとめ

ここまでありがとうございました。作物の選択について要点は次の通りです。

収益の基本構造は、単価×収量-(変動費+固定費)

作物を検討する上でのポイントは、「需要」「収量」「費用」

需要に関しては、誰が、何を求めているのかを見極める。求められているのは「品質/希少性か?」「安さか?」「安定供給か?」で見る

収量に関しては、作物単体ではなく、栽培計画によって農地全体を中長期的な時間軸で最適化させる

費用に関しては、栽培方法によって固定費が大きく変わる点に注意する

販路の選択同様、作物の選択に一般解はない。自社の事業環境に合わせて、個別解を模索する

▼前回までの連載も是非ご覧ください。

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芳賀正輝

芳賀正輝

株式会社コーポレイトディレクション マネージングコンサルタント。 東京工業大学工学部卒。同大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。工学修士(経営工学)。外資系化学メーカーBASFコーティングス株式会社、株式会社星野リゾートを経て、現在に至る。

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