加工用トマト収穫機が実用化! ヤンマー×カゴメ共同研究から見る農家の未来
トマトの収穫作業はトマト栽培の中でも大きな割合を占める作業です。負担の大きな収穫作業を機械化することで、農家の負担を減らして栽培に専念できます。この記事では、トマト栽培における収穫作業の機械化への取り組みについて紹介します。
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この記事では、トマトの収穫作業の機械化事例について紹介します。近年取り組まれている機械化の事例を知ることで、トマト栽培の負担軽減や規模拡大につなげましょう。
未だ人力…。 トマト農家にとって労働負担の大きい収穫作業
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省の品目別経営統計によると、トマト栽培に掛かる労働時間は次のようになっています。
※2007年(平成19年)に調査が終了しているため、あくまでも参考です。
露地栽培の大玉トマト(夏秋)の年労働時間は、農家1戸当たり・年間で1,297.6時間です。そのうち、収穫が343時間で全体の26.4%、栽培管理が421時間で全体の32.4%を占めています。
施設栽培の大玉トマト(冬春・夏秋合計)の年間の労働時間は、農家1戸当たり3,314.4時間です。そのうち、収穫が1,080時間で全体の32.6%、栽培管理が1,140時間で全体の34.4%を占めています。
出典:農林水産省「品目別経営統計 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成
露地栽培、施設栽培ともに収穫と栽培管理作業に要する労働負担が大きいことがわかります。スマート農業技術の発展により、環境制御や灌水の自動化といった栽培管理の作業負担は軽減されつつあります。
しかし、収穫作業については作業負担の軽減には至っていません。「実が密着して房になっている」「実のなっている方向が各実によって異なる」といった特性から、人力による収穫作業が必要となるのが現状です。
国産トマトの収穫機械化を実現! 加工用トマト収穫機 「KTH」とは?
収穫作業の軽減に向け、カゴメ株式会社はヤンマーグループと加工用トマト収穫機を共同開発しました。手作業と比べておよそ3倍という作業効率の高さから、導入地域は拡大しています。
これは、加工用トマトが機械収穫に適していたからこそかなった省力化といえます。今後は青果用トマトの省力化に向け、収穫用ロボット開発が進められていますが、まだ実用化には至っていないのが現状です。本記事では、こうした国産トマトの収穫機械化について解説します。
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
ヤンマー×カゴメの共同開発。 作業効率は約3倍に
農家の負担となっている収穫作業の軽減に向けて、多数のトマト加工製品の製造・販売を行うカゴメと農業機械メーカーであるヤンマーグループでは6年の月日をかけて、加工用トマトの収穫機「Kagome Tomato Harvester(KTH)」を共同開発しました。
従来の手作業と比較しても作業効率は約3倍で、1人1日当たり1.8tの収穫ができることから導入地域が拡大しています。
2021年時点でカゴメが保有しているKTHは17台で、12道県の農家へ貸し出されています。カゴメの国内加工用トマトにおいて、全作付け面積の26%(約75ha)でKTHが使用されています。
また、カゴメとヤンマーアグリジャパン北海道支社は、2021年に北海道のいわみざわ農業協同組合(JAいわみざわ)と連携協定を締結しました。野菜飲料の原料として使用する加工用トマトの産地拡大を目的として、収穫作業の機械化を進めています。
岩見沢市は北海道中部に位置しており、昼夜の寒暖差や日照時間の長さといったトマト栽培に適した条件を備えています。広大で平坦なほ場があり、機械を導入しやすい環境であったこともJAいわみざわと連携協定を締結した決め手です。
KTHの導入だけではなく、スマート農業や灌漑設備といったJAいわみざわ農業インフラを活用することで、栽培基盤の確立と栽培の効率化を図り、2025年までにJAいわみざわ管内の加工トマト栽培面積を、現在の3倍である30haまで拡大する計画を進めています。
機械収穫に適した加工用トマトだからこそ叶った省力化
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海外ではこれまでも加工用トマトの収穫機が活用されていましたが、国内での実用化は進んできませんでした。
その理由として、日本のほ場は海外に比べて小規模のため、海外のトマト収穫機では大きすぎて日本のほ場に合わなかったことが挙げられます。
しかし、加工用トマトは青果用トマトと異なり「実が硬くてつぶれにくい」といった特徴から、本来は機械収穫に適した品種です。そこで、日本のほ場に適したトマト収穫機の開発が進められたというわけです。
また、農業の人員不足に対するサポートとして、カゴメ加工トマトの輸送を担っている美野里運送倉庫株式会社と連携することで、KTHとともに収穫作業の人員を派遣する「収穫委託の取り組み」を実施しています。
輸送の人員を手配する負担を軽減することで、農家の方たちがトマト栽培に専念できる環境を作っているのです。
加工用トマトが機械収穫に適していたからこそかなった省力化といえるでしょう。ただし、加工用トマトの機械収穫が実現したのは「実がかたい」からであり、「実が柔らかい」青果用トマトでは、現段階では収穫の機械化は残念ながら難しいといえます。
出典:
株式会社 食品新聞社「加工用トマト産地拡大へ協定 収穫の機械化を推進 カゴメ」(食品新聞 2021年9月8日)
カゴメ株式会社
「生物多様性方針」
「トマト栽培の負担を軽減するサポートで、農業を豊かに~SDGsと関連したカゴメの取組⑨~」
青果用トマトも省力化できる? 収穫用ロボット開発の最新動向
chIrAdEch / PIXTA(ピクスタ)
加工用トマトと異なり、実が柔らかい青果用トマトの収穫を機械化するには「柔らかい果実を傷つけずに切断、もしくはもぎ取る」というしくみが必要です。それを実現する方法として、上述のようなトマト収穫機ではなく「トマト収穫ロボット」の開発が進んでいます。
これには、トマトに適した環境が人間に適した環境ではないことも背景にあります。トマトの栽培環境下で人間が労働することは、熱中症の危険があることからもロボット投入による無人化が求められていました。
収穫用ロボットの具体的な機能として、果実を切断する機能は、補助グリッパー付きはさみによる切断収穫を採用しました。果実をもぎ取る機能としては、無限回転ハンドによるもぎ取り収穫が採用されています。
認識機能としては、トマトの色で判断するとともに三次元情報を得ることで果実を認識しています。ほ場内でトマトの色を検出することでトマトがあることを認識し、距離情報を用いることで、個体を判断するという流れです。
2014年からは北九州学術研究都市で「トマトロボット競技会」が開催されています。競技会では、ほ場に近い環境でトマトを収穫する際の速度や自律性、正確性が競われるため、収穫用ロボット開発の実験の場としての役割も果たしているのです。
また、実用化に向けパナソニック株式会社は開発途上でありながらも、トマト収穫ロボットを実際の農家で稼働させて検証することで、機能改善を図っています。青果用トマトの収穫においても、機械化および自動化できる未来は遠くないといえるでしょう。
出典:一般社団法人日本ロボット学会「日本ロボット学会誌バックナンバー 2018年」 「2018 Vol.36 No.10|「テレイグジスタンスと社会実装」特集について」所収「収穫装置と視覚認識に着目したトマト自動収穫ロボットの構成法」(J-stage内)
▼トマト収穫用ロボットについてはこちらもご覧ください
トマト栽培において、負担となっている収穫作業の軽減に向けて、機械化が進んでいます。カゴメとヤンマーグループが共同開発した「KTH」の導入が進み、加工トマトの収穫自動化が拡大しました。今後は青果用トマトの自動収穫に向けたトマト収穫用ロボットの開発にも注目です。
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田仲ダイ
大学では都市景観を中心に学び、景観や地球環境に関心を持っていた。卒業後はIT企業で勤務。部門長や内部監査員も経験し、マネジメント経験を積んだ。2021年からフリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネス系を中心に幅広いジャンルで執筆を手掛けている。サッカーの指導者としても活動中。