イチゴの土壌消毒の重要性と効果的な消毒方法
イチゴの土壌消毒は、連作によって発生リスクが高くなる萎黄病や炭疽病などの発生リスクを下げるために重要です。この記事ではイチゴの連作で問題になる病害虫と、その対策となる土壌消毒の方法3種類を解説します。
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イチゴの連作障害として問題になるのが、萎黄病や炭疽病などの発生ではないでしょうか。
連作障害の被害を軽減する有効な方法として挙げられるのが土壌消毒です。この記事では、イチゴ栽培で導入されている土壌消毒の種類と効果を高めるポイントについて解説します。
イチゴの連作障害で問題となる病害虫とは?
土壌消毒の方法について解説する前に、まずはイチゴの連作障害で発生する病害虫の中でも被害が大きい「萎黄病」と「炭疽病」、「ネグサレセンチュウ」について、特徴や発生条件などを紹介します。それぞれの特徴をよく把握して、早期発見に努めましょう。
萎黄病
イチゴ萎黄病 新葉の奇形
HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴ萎黄病 下葉が枯れ始めている
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
萎黄病はカビの一種である糸状菌が繁殖して発生する病害です。発病すると新葉が黄緑色に変色し、3小葉のうち1~2葉が船形に奇形して小さくなります。
また、発病株には、クラウン部や葉柄、ランナーの維管束で褐変症状が見られるのも特徴です。
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土壌伝染だけでなく、ランナーを経由して感染拡大する場合もあることから、親株に発生すると子苗に次々と感染して大きな被害をもたらすケースがあります。
萎黄病は土壌温度が25~30℃で、高温期に発病・進展します。一方で、地温が20℃以下の低温時には症状が進展せず、軽症の株の場合は症状が一時的に消える場合もあります。
萎黄病は近年の温暖化などによって発生しやすくなっていますが、最も基本的な対策は発病株を本圃に持ちこまないことです。本圃で発生した場合は、作付け終了後に残さの処理を徹底し、土壌消毒を実施します。
炭疽病
イチゴ 炭疽病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
炭疽病も糸状菌が原因で発生する病害で、ランナーや葉などに3~7mm程度の黒くくすんだ病斑が発生します。病斑が拡大するとその先端部が徐々に枯れて生育不良につながるほか、果実に発生すると品質低下が起こります。
イチゴ炭疽病 褐変したクラウン部
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
また、株によっては病斑がまったく見えないにもかかわらず、クラウン部や根が侵されることで枯死に至る場合もあるので注意が必要です。
第一次感染源は主に罹病株の持ち込みと残さを含む土壌で、病原菌はクラウン部や葉などで越冬するため、一度発生すると翌年の5月頃に再び感染拡大することがあります。
防除の基本は、萎黄病と同様、育苗床にも本圃にも病原菌の罹病株を持ち込まないことです。発生したことのあるほ場では、残さの処理を徹底したうえで、土壌消毒を行います。定植後は農薬散布を定期的に実施しましょう。
炭疽病は病斑の胞子が雨や灌水の水はねを介して周辺の株へ伝染します。作業時の水はねには十分注意し、多湿や密植を避けることも大切です。
センチュウ類
イチゴ ネグサレセンチュウ被害株 根が褐変している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴ以外にも大根やニンジン、レタスなど野菜類全般に被害をもたらすのがセンチュウ類です。一口にセンチュウ類といってもいくつかの種類がありますが、イチゴ栽培ではクルミネグサレセンチュウによる被害がよく見られます。
センチュウ類は作物の根から寄生することで生育を妨げ、収量の減少をもたらします。多数のセンチュウに寄生された株は根量が極端に減少し、土壌中の栄養素を吸い上げられなくなることで最終的には枯死するので、早めの対策が重要です。
主な防除方法としては、被害株をほ場外へ持ち出して処分することと土壌消毒が挙げられます。
イチゴの土壌消毒の方法
イチゴの主な連作障害対策として効果的なのは土壌消毒です。土壌消毒には大きく分けて、「太陽熱消毒法」「土壌還元消毒法」「土壌くん煙剤を使った消毒法」の3つがあります。
1. 太陽熱消毒法
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太陽熱消毒法はその名のとおり、太陽熱を用いて地温を上昇させ、土壌中の病害虫を死滅させる土壌消毒方法です。
萎黄病や炭疽病に対して特に高い防除効果が期待できます。
具体的な方法としては、ほ場に十分な量の灌水を行ったあと(ほ場容水量の6割程度)、ビニールやマルチなどで土壌の熱が逃げないように覆いをします。そのあとは、地温が十分に上昇するまで一定期間維持します。
同じ期間で、より大きな防除効果を得るためのポイントは「いかに地温を上昇させるか」ということです。実施期間は一般的に20日間程度とされていますが、曇天が続いて地温の上がりが遅い場合には長めにするなどの調節が必要です。
冷涼地で地温が上がり切らないケースもあるため、基本的には日本の西南暖地の施設栽培で夏季に実施されることの多い土壌消毒方法です。
また、太陽熱消毒というと、ハウスでの土耕栽培が一般的ですが、栃木県農業試験場では、高設式養液栽培でも太陽熱消毒を簡便にできる方法を開発してその成果を報告しています。
出典:栃木県農政部「最近の研究成果(病害虫)|Ⅰ栽培技術」所収「栃木県農業試験場 研究成果集23号|イチゴの高設式養液栽培培地の太陽熱消毒による イチゴ萎黄病防除」
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2. 土壌還元消毒法
気候や地域性などによって太陽熱消毒が行えないほ場で選択肢に挙がるのが、萎黄病やネグサレセンチュウに大きな防除効果が期待できる土壌還元消毒法です。
土壌還元消毒法では、米ぬかやフスマといった分解の速い有機物を混入した土壌に水を、前述の太陽熱消毒より多く、ほぼ湛水状態にしたうえでビニールで被覆し、太陽熱による土壌消毒を行います。
混ぜこんだ有機物を微生物が分解して酸素を消費すると、土壌は急速に酸素を失い「還元状態」になります。この過程で抗菌作用のある物質が生成され、高温と還元状態などの要因とあわさって病原菌を死滅させます。
太陽熱消毒法より土壌中の温度が低くても効果を得られるため、日照時間の少ない北日本でも行いやすい方法だといえます。
3. 土壌くん蒸剤を使った消毒法
土壌くん蒸剤を使用した消毒は、太陽熱消毒法や土壌還元消毒法に比べて、一般的に安価で安定した効果が得られるので実施される機会が多い方法です。防除する病害虫と作物にあわせ、剤型や使用方法の選択肢がさまざまあることがメリットといえるでしょう。
これまでは「クロルピクリンくん蒸剤」や「D-D剤」を使った畝上げ前処理が主流でしたが、近年は消毒後の耕転による再汚染の防止するために新しい方法が普及してきました。
「クロルピクリン錠剤」を畝上げ後に散布してから被覆する「畝上げ後土壌消毒法」や灌水チューブを通して使用する「クロピクフロー」による処理などがこれに当たります。
実施に当たっての注意点は、必ず用法と容量を守って作業することです。土壌くん蒸剤のガスは人体に害を及ぼす可能性もあるので、実施する際には防毒マスクや保護メガネ、ゴム手袋の着用を忘れないでください。
また、ガス抜け期間を十分に設けないと自らの健康被害のみならず、作物に薬害を引き起こす恐れもあるので気を付けましょう。
なお、ここに記載した農薬は、2022年7月現在登録があるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。
また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
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イチゴの連作障害で問題になる病害虫として、萎黄病や炭疽病、センチュウ類などが挙げられますが、適切な土壌消毒を行うことで被害を軽減できる場合があります。
土壌消毒には主に太陽熱消毒法、土壌還元消毒法、土壌くん煙剤を使用する方法の3つがあり、それぞれに効果的な病害虫は異なるので、今回の記事を参考にほ場に適した土壌消毒について検討してみてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。