ネギの萎凋病は発病前に防除の徹底を!効果的な土壌管理と農薬
ネギ栽培で夏から秋にかけて気を付けたいのが萎凋病です。定植後の本圃で使える農薬がなく、大幅な減収につながりかねません。この記事ではネギ萎凋病の発生原因や防除方法を解説します。
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ネギ産地では、安定収入をめざして周年栽培を導入している場合が少なくありません。輪作していても十分な輪作年限をとれなずに連作になることもあり、土壌伝染性病害は農家にとって大きな課題ではないでしょうか。
特に萎凋病は、本圃への定植後に使用できる農薬がなく、深刻な被害をもたらすことがあります。この記事では萎凋病の発生原因や防除方法を解説します。
ネギの萎凋病とは
まず萎凋病の原因や被害、病原菌が発生しやすい条件について把握しておきましょう。
ネギの萎凋病の原因と被害
ネギ萎凋病の症状 下葉の黄化、湾曲がおき、最終的に枯死する
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
苗が感染するとまず立ち枯れ症状が見られ、そのあと下葉の黄化と湾曲が進み、最終的には枯死します。発芽直後に発病した場合は、地上部に芽を出すことなく枯れることもあります。
ネギ 萎凋病 本圃で発生した場合 下葉から黄化する
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
一方、定植後に発病した場合は、最初に下葉の黄化とねじれが起こり、症状が進むごとに萎凋症状が激しくなるのが特徴です。
それと同時に地下部の葉鞘や根の腐敗、導管部の褐変も進行し、萎凋病に侵された株は容易に引き抜けるほどに根量が減少します。症状の進行はそれほど速くありませんが、株全体が徐々に侵されて最終的には枯死に至ります。
ネギの萎凋病が発生しやすい条件
株式会社キタデザ(北村笑店) / PIXTA(ピクスタ)
萎凋病を引き起こす病原菌の発育適温は25~28℃で、晩春から初秋にかけて発生します。夏の高温期や、施設栽培で地温が23~30℃程度まで上がり、土壌が乾燥気味になっているときに増加する傾向があります。
萎凋病の病原菌は、地温が低くなると、被害株の残さなどに厚膜化した耐久体を作り、残さとともに土壌中で生存し続けます。
そして、暖かくなると耐久体が発芽し、根の分岐部分や傷がついた部分から侵入して発病を引き起こすのです。そのため、土寄せ時の根の切断や土壌pHの低下、排水不良などによる根痛みも発病を助長する原因になります。
ネギ萎凋病が発生したほ場で連作すると、発生の繰り返しによって病原菌が土壌に蓄積され、発病リスクが高まります。
ネギの萎凋病の防除方法
ネギ萎凋病の発生を防ぐことは簡単ではありません。しかし、いくつかの点に注意すれば発病リスクを減らせたり、被害を軽減できたりする場合があります。
育苗管理を徹底して感染を防ぐ
gomasio / PIXTA(ピクスタ)
萎凋病を防ぐうえで最も基本的なことは、ほ場に病原菌を持ち込まないことです。そのためには、育苗の段階での徹底した管理も重要になります。
具体的には、以下のポイントを守りましょう。
●チェーンポット、あるいは、セルトレイ育苗の場合は、無病の専用培土を用いる
●地床育苗の場合は、無病地を選び、土壌消毒を行う
●育苗中に根傷みを起こさないよう、高温・乾燥状態にならないように管理する
定植前には「トップジンM水和剤」や「トリフミン水和剤」、「ベンレート水和剤」などによる根部浸漬処理を行いますトリフミン水和剤については灌注処理にも対応しているので、作業状況に合わせて使用するとよいでしょう。
なお、ここに記載する農薬は、2022年7月時点で登録があるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
▼ネギ育苗の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
定植前の適切な土壌管理・土壌消毒
前述したように、萎凋病の発生ほ場で連作すると、発生の繰り返しにより、病原菌の密度が徐々高くなり、発病リスクが高まります。
可能であれば他の作物と輪作体系を組み、ネギの一般的な輪作年限である1~2年は、同じほ場で作付けしないよう計画しましょう。
また、萎凋病が発生しにくい土壌環境を整えることも重要です。排水性が悪いほ場の場合は排水溝を作り水が停滞しないよう準備します。また、土壌pHが低いと根傷みがおきやすいので、pH6.0~6.5程度になるよう、石灰資材などを用いて調整しましょう。
萎凋病が発生したことがあるほ場では、前作の残さの処理を徹底し、定植前に土壌消毒を行います。土壌還元消毒法や「バスアミド微粒剤」などを使用した土壌消毒を行います。
Freddie G / PIXTA(ピクスタ)
萎凋病に抵抗性のあるネギの品種は?
2022年7月時点、萎凋病に確実な抵抗性を示している品種は存在していません。しかし、山口大学や東北大学などの機関が合同で研究した結果、2017年にネギとシャロットの掛け合わせ系統からネギ萎凋病の抵抗性に関与する遺伝子群を特定することに成功しています。
現在はその遺伝子群をもとに、ネギに萎凋病抵抗性を付与する研究が進められており、将来的に抵抗性品種の誕生が期待されている状況です。
出典:東北大学 大学院 生命科学研究科「ネギ萎凋病の抵抗性に関与する遺伝子群の特定に成功−近縁種シャロットがもつ抵抗性をネギに導入することで国内初の抗性品種育成を目指す−」(最新情報 2017年8月21日)
tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)
ネギの萎凋病は土壌伝染と種子伝染の双方で感染が拡大する難防除病害です。定植後の防除は困難である点や、抵抗性のある品種は登場していない点から、病害が発生しないような対策を取ることが防除の基本になります。
ネギ農家の方は、今回紹介したように育苗管理や土壌管理に注意しながら栽培してください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。