ピーマン農家の収益はいくら? 年収の目安と、単収向上のためにできる工夫
新しくピーマン農家になろうとしている方にとっては、年収や労働時間の目安、単収を上げる工夫について気になるところでしょう。この記事では、就農に当たってのピーマン農家の実態と、高収益をめざすための工夫について詳しく解説します。
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sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
ピーマンは消費量が多く、天候に左右されにくい施設栽培でも育生できる作物です。そのため、新規に就農してピーマン農家になることを検討している方も多いでしょう。その際に気になるのは、ピーマン農家の収入や労働時間などの実態です。
また、ピーマンは施設栽培の方が高収入を期待でき、施設栽培においては所得率(粗収益における年収額の割合)を向上させることが重要です。この記事では、ピーマン農家の実態と高収益を実現するための工夫について解説します。
ピーマン農家は儲かる? 年収と労働時間の目安
ピーマン農家の実態を知るために、まずはピーマン農家の年収や労働時間の目安について、データをもとに解説します。
露地栽培、および施設栽培における平均収入
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
2007年に農林水産省が行った品目別経営統計(注)をもとに、露地栽培、施設栽培それぞれのピーマン農家の平均粗収益と平均経営費を見ていきましょう。
(注)品目別経営統計は、2007年(平成19年)に調査が終了しているため、あくまでも参考値としてご覧ください。
ピーマンには、大別すると以下の作型があります。
●春夏に収穫する半促成栽培
●夏秋に収穫する普通栽培
●秋冬に収穫する抑制栽培
●冬春に収穫する促成栽培
そのうち、普通栽培の夏秋ピーマンと、促成栽培の冬春ピーマンについてデータがあるので収支を比較してみましょう。
ピーマン農家の収支・10a当たり
露地(夏秋) | 施設(夏秋) | 施設(冬春) | |
---|---|---|---|
粗収益 | 142.7万円 | 147.2万円 | 405.1万円 |
経営費 | 53.2万円 | 84.9万円 | 247.4万円 |
農業所得 | 89.5万円 | 62.3万円 | 157.7万円 |
農業所得率 | 62.70% | 42.30% | 38.90% |
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成
10a当たりの収支をみると、夏秋ピーマンの場合は、露地142.7万円、施設147.2万円で大差がなく、施設の場合は経営費が高い分、農業所得が少ないことがわかります。
一方、施設の冬春ピーマンの粗収益は、露地の夏秋ピーマンの約2.8倍の405.1万円、農業経営費はかかるものの農業所得も157.7万円と露地の夏秋ピーマンの約1.9倍になっています。
では、1戸当たりではどうでしょうか。
ピーマン農家の収支・1戸当たり
露地(夏秋) | 施設(夏秋) | 施設(冬春) | |
---|---|---|---|
ピーマンの作付面積 | 15.0a | 39.9a | 33.3a |
粗収益 | 213.8万円 | 586.9万円 | 1,347.3万円 |
経営費 | 80.2万円 | 338.6万円 | 823.4万円 |
農業所得 | 133.6万円 | 248.3万円 | 523.9万円 |
農業所得率 | 62.50% | 42.30% | 38.90% |
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成
露地の夏秋ピーマンは、全国平均の栽培面積が小さいことから、所得率は高いものの、1戸当たりの農業所得は133.6万円で、施設の夏秋ピーマンの248.3万円の4割弱、同じく冬春ピーマンの523.9万円の約4分の1にとどまっていることがわかります。
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ピーマン農家の主な仕事と、出荷までの総労働時間
ピーマン農家の主な仕事は、ほ場作りや播種、定植、病害虫の防除、収穫までの栽培管理、収穫、調整・出荷などです。
ここでは、ピーマン農家の労働時間と作型による農繁期の違いについて見ていきましょう。
ピーマン農家の総労働時間
農林水産省の品目別経営統計によると、自営農業の年間労働時間の全国平均は以下のとおりです。
ピーマンの年間労働時間
露地(夏秋) | 施設(夏秋) | 施設(冬春) | |
---|---|---|---|
10a当たり | 775.6時間 | 784.7時間 | 1,479.8時間 |
1戸当たり | 1,163.4時間 | 3,127.7時間 | 4,921.9時間 |
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 分析指標・労働時間(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成
栽培から出荷までの労働時間は、露地栽培のほうが少ないことがわかります。
10a当たりの作業別の内訳をみると、施設栽培、特に冬春ピーマンは栽培管理と収穫にかかる労働時間が露地栽培よりかなり多くかかることがわかります。
施設栽培の栽培管理と収穫にかかる時間が長いのは、収穫期間が露地栽培に比較して長いことがあります。その間、収穫作業と並行して、脇芽かきや摘葉、整枝などの栽培管理作業も継続して行わなくてはなりません。
出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 分析指標・労働時間(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成
ピーマン栽培の農繁期
ピーマン農家の労働時間は、露地栽培と施設栽培のいずれも収穫にかかる労働時間が最も多く、収穫期は農繁期ともいえます。
ピーマン栽培の年間スケジュールを作型ごとに見てみると、露地栽培は5月中旬~10月頃、施設の促成栽培は10月~翌6月頃、抑制栽培は8月~12月中旬頃までが収穫期に当たります。
ピーマンの作型(中間地・暖地)
出典:タキイ種苗株式会社「ピーマンの作型と品種(中間地・暖地)」よりminorasu編集部作成
年収が高いのは施設栽培! 一方で所得率に課題も?
露地栽培を選ぶか、施設栽培を選ぶかは、自身の農地の状況や人的リソースなどを勘案して決めていくことになります。
露地栽培の10a当たりの農業所得は、冬春ピーマンの施設栽培と比較すると低いですが、労働時間は少なく、所得率は高いので、所得を増やすには規模拡大が選択肢として考えられます。
施設栽培であれば、環境制御装置の導入や仕立て方などの工夫で、反収を向上させることが所得率アップにつながりやすいでしょう。
例えば、茨城県では、反収向上のためのピーマンの生産量1位を誇る茨城県では、国の「スマート農業総合推進対策事業」を活用してスマート農業の導入に取り組んでいます。
茨城県鹿嶋市・神栖市地域では、促成栽培と半促成栽培、あるいは抑制栽培を組み合わせることで、1年を通じてピーマンを生産できるように周年栽培が行われてきました。
しかし、促成栽培には収量が少ないため収益が上がりにくい、収量を確保できる半促成栽培は、ほかの農家も多く採用している作型であるため、単価が低くなりやすいという課題があります。
2020年度は、データに基づく精緻な環境制御や、炭酸ガス施用の導入推進などに取り組み、半促成栽培では慣行栽培に比べて16%の収量増となったと報告されています。
出典:農林水産省『「グリーンな栽培体系への転換サポート」、「スマート農業産地展開支援」、「次世代につなぐ営農体系確立支援事業」』所収 「鹿島南部地域ピーマン営農体系確立検討協議会(茨城県鹿嶋市・神栖市)」
単収アップのために、ピーマン農家が検討するべき3つの工夫
施設栽培ピーマンの単収を向上させるため、ピーマン農家が導入を検討すべき3つの工夫について、事例とともに紹介します。
光合成を促す「炭酸ガス」の施用
やえざくら / PIXTA(ピクスタ)
ピーマンのような施設野菜は、炭酸ガスの施用によって光合成を促すことで増収を望めます。
実際に、ピーマン生産量3位の高知県では、ピーマンを生産する施設のおよそ6割に炭酸ガス発生装置が設置されています。販売単価が高い12~3月の10a当たり収量が約8.5tから約12tへと4割近く増え、10a当たり約80万円の増収につながったケースもあります。
炭酸ガス発生装置の導入には、1台当たり約60万円かかります。しかし、上記のような事例を考えると、導入コストを考慮しても所得率アップにつながると考えられます。
出典:農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター「BRAIN」所収「<こぼれ話24>炭酸ガス施用でハウス作物が増収」
「ミスト噴霧」による環境制御の実施
炭酸ガス施用と組み合わせて活用したい技術に、「ミスト噴霧」があります。ミストをハウス内に噴霧することで、ハウス内の湿度を上げるという環境制御技術です。
茨城県で行われた研究結果によると、炭酸ガス施用とミスト噴霧を組み合わせることで、特に半促成栽培において着果数と品質を向上させ、10~25%もの収量向上の効果が認められたという結果が出ています。この効果は、特に半促成栽培において見られたとされています。
出典:茨城県 農業総合センター鹿島地帯特産指導所 「研究成果」所収「炭酸ガス施用・ミスト噴霧によるピーマン収量増加技術」
「ハイワイヤー+養液栽培」など新栽培技術の導入
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
ピーマンの単収アップに貢献する栽培技術は、日々研究・更新されており、常に新しい技術の情報をチェックしておくことが大切です。
新栽培技術の一例として、近年研究が進んでいる「ハイワイヤー+養液栽培」による栽培方法を紹介します。
養液栽培とは、栽培期間の延長や土壌の病害回避を実現することで、単収をアップさせる栽培方法のことです。しかし、ピーマンの養液栽培の事例は全国的にも少ないとされています。
同じくピーマンにおいて導入が進んでいない栽培方法に、ハイワイヤー栽培があります。ハイワイヤー栽培とは、ワイヤーや誘引フックを使って茎を直立にすることで受光性を高め、限られた農地で最大限の収量を実現する誘引法です。
また、立ったまま収穫作業を行えるため、収穫にかかる作業効率も向上します。ハイワイヤー栽培は、特にトマト栽培に活用されており、トマトの多収化を実現しています。
この研究では、養液栽培を利用することによる収量の変化と、養液栽培にハイワイヤー栽培を組み合わせることによる収量の変化を分析しています。
結論としては、どちらも目標であった10a当たり25tを超える収量を達成しました。また、養液栽培とハイワイヤー栽培を組み合わせることで、さらなる収量の増加が見られました。
作業時間については、ハイワイヤー栽培の場合に誘引の作業時間が多くなるものの、収穫時間が短縮されるため、総作業時間が同等という結果が出ました。
ピーマンにおいてハイワイヤー栽培や養液栽培の導入はまだまだ進んでいませんが、今後導入が進めば単収を上げるための大きな一助となることが期待されます。
出典:宮崎県「令和3年版研究レジュメ集について(一覧有)」所収「促成ピーマンにおけるハイワイヤー・養液栽培の仕立て方法」
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この記事では、これから新規にピーマン農家になろうとしている方に、ピーマン農家の年収の目安や労働時間、仕事内容などの実態と課題、そして単収アップのための工夫について紹介しました。
ピーマンの施設栽培は、露地栽培に比べて所得が高くなる傾向がある一方、単収アップが課題となっています。そのためには、さまざまな最新技術の情報を取り入れ、技術を活かして栽培方法を工夫することが重要です。
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小谷美乃里
ビジネス、介護、受験など多分野の記事執筆に携わるwebライター。これまで10以上のメディアで記事執筆や校正に携わり、現在は毎月20本以上を執筆中。大学時代に農業経営を学んだ経験も持つ。趣味は、ウォーキングと日本の豊かな自然を写真に収めること。美しい海と緑のためなら何万歩でも歩けるほど自然が好き。