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栗農家になりたい! 収入・労働時間の目安と「儲かる」経営のコツ

栗農家になりたい! 収入・労働時間の目安と「儲かる」経営のコツ
出典 : ゴン太/PIXTA(ピクスタ)

栗農家になりたい人や、水稲などほかの作物をメインに栽培しているものの、所得向上のために栗を栽培したいと思っている人にとって、栗栽培の労働時間や収入がどれくらいかは気になるところでしょう。そこで本記事では、栗農家の実態について、統計などをもとに解説します。

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栗の栽培は比較的手がかからず、ほかの作物と並行して栽培しやすいといわれます。とはいえ、より収益を上げるためには基本の栽培暦を押さえたうえで、効率化や合理化などの工夫も必要です。本記事では栗農家の実態とともに、儲かるために押さえたい3つのポイントを紹介します。

ネット荷姿の栗

enterFrame / PIXTA(ピクスタ)

栗農家は儲かる? 期待できる収量と収入の目安

新規に栗農家をめざす人はもちろん、すでに主業農家で、現在メインで栽培している作物と並行して栗栽培をできないかと検討している人も、まずは「どれくらい儲かるのか」という目安を把握しておく必要があります。

そこで、まずは気になる栗栽培農家の所得目安について、農林水産省のデータなどをもとに解説します。

栗栽培における10a当たり平均収量はどれくらい?

農林水産省がホームページ上で公開している、栗栽培の2012年から2021年にかけての結果樹面積や10a当たり収量を見ると、2012年における結果樹面積は全国で21,000ha、10a当たり収量は100kg、収穫量は20,900tとなっています。

栗の結果樹面積・収穫量・10a当たり収量・出荷量の推移

結果樹
面積
収穫量10a当たり
収量
出荷量
2012年産2.10万ha2.09万t100 kg1.53万t
2013年産2.06万ha2.10万t102 kg1.55万t
2014年産2.02万ha2.14万t106 kg1.60万t
2015年産1.98万ha1.63万t82 kg1.18万t
2016年産1.93万ha1.65万t85 kg1.21万t
2017年産1.88万ha1.87万t99 kg1.45万t
2018年産1.83万ha1.65万t90 kg1.30万t
2019年産1.78万ha1.57万t88 kg1.25万t
2020年産1.74万ha1.69万t97 kg1.36万t
2021年産1.68万ha1.57万t93 kg1.28万t

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(果樹) 確報 令和2年産果樹生産出荷統計」「令和3年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成

2012年から2021年までの10年間、多少の増減はあるものの、すべての数値が下がり続けています。これは、高齢化によって労働力不足に陥り、廃園が増えたことなどが原因と考えられます。

特に2015年からの7年間、10a当たり収量は常に100kgを下回っています。最新の2021年の概算では93kgです。

なお、都道府県別の収獲量を見ると、最も多いのが茨城県で全国の24%を占め、次いで熊本県、愛媛県、岐阜県、埼玉県の順に多く、この5県で収穫量全体の半分以上を占めています。

栗の収穫量ランキング(2021年産)

収穫量構成比結果樹面積
茨城県3,800 t24.20%3,190 ha
熊本県2,210 t14.10%2,300 ha
愛媛県1,300 t8.30%2,030 ha
岐阜県685 t4.40%423 ha
埼玉県581 t3.70%581 ha
宮崎県527 t3.40%667 ha
栃木県455 t2.90%464 ha
長野県451 t2.90%235 ha
兵庫県417 t2.70%485 ha
千葉県363 t2.30%352 ha
そのほか4,911 t31.30%6,073 ha
全国計15,700 t100.00%16,800 ha

出典:農林水産省「令和3年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成

栗の栽培で期待できる年間所得はいくらくらい?

品目別の年間所得がわかる全国的な統計は、現在は行われていません。農林水産省による最後の統計となった2007年の「品目別経営統計」を見ると、農家1戸当たりの栗の農業粗収益は175万4,000円です。

一方、経費(農業経営費)は78万9,000円で、収益から経費を差し引くと農業所得は96万5,000円です。これが2007年時点での栗栽培の全国平均です。

栗栽培の収支

1戸当たり10a当たり
粗収益175.4万円11.2万円
経営費78.9万円4.8万円
農業所得96.5万円6.4万円

出典:農林水産省「農業経営統計調査 品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり) 」よりminorasu編集部作成

この統計は15年前の古いデータです。しかし、東京都中央卸売市場の市場統計によると、2007年にはキロ当たりの平均単価が411円だったのに対し、2021年では692円と大きく上がっています。

このことから、物価の高騰などによる経費の上昇を考慮しても、農業所得額は2021年でも大きく変わらないか、少し上がると予測できます。

なお、この数値は全国平均であって、実際には地域や品種、栽培面積などの条件によって大きく異なります。

参考までに、生産量の最も多い茨城県の場合、代表的な品種「丹沢」を栽培した場合の所得の例は、10a当たりで粗利益が98,000円、経営費が56,000円、所得が42,000円とされています。

出典:茨城県「笠間地域農業改良普及センター 笠間地域就農支援協議会」所収「笠間で栗を作ってみませんか?(栗の栽培&補助事業ガイド)」

労働時間は? 「栗農家は大変」なイメージの実態

収量や所得の目安をつけられたところで、次は栗の栽培暦や労働時間について見てみましょう。

栗の園地 春

にゃんたっちゃぶる / PIXTA(ピクスタ)

栗農家の年間作業は地域や気候、品種によって少しずつ異なりますが、おおむね以下のような年間スケジュールになります。

・12~3月上旬(冬~早春):剪定

剪定作業は、次作の栗の実りの良し悪しを決める大切な作業です。樹齢や品種に合わせて、適切な枝を次作や将来の結果母枝(花や果実をつける「結果枝」を出すための枝)として残し、余分な枝を切ります。

・11月下旬~3月(収穫後~早春):基肥

収穫後の11月下旬頃、土壌に基肥を施用します。今年の実りに感謝を込めて「お礼肥」という地域もあるそうですが、9月の収穫期間にお礼肥を施す地域もあるようです。

3月までの早春に施肥する場合もあります。施肥量は、樹齢に合わせて総量を決め、基肥と追肥にバランスよく配分して施用します。

・6~8月(春~収穫まで):病害虫防除・除草

栽培期間中、必要に応じて随時行います。除草剤や草刈り機を合わせて使用して、効率よく防除しましょう。

・8月下旬~10月(晩夏~秋):収穫

早生は8月下旬頃から、晩生は10月上旬から収穫が始まります。虫がついていないか丁寧にチェックしながら、できるだけ短期間で一気に拾います。

栗畑 収穫作業

Sunrising/PIXTA(ピクスタ)

主な作業は以上です。前出の出典、品目別経営統計を参照すると、特に「整枝・剪定」「除草・病害虫防除」「収穫・調整作業」の比重が大きく、ほかの作業に比べて時間を要します。

労働時間は比較的短め。複合栽培も可能!

前項で触れた農林水産省の品目別経営統計によれば、栗栽培の総労働時間のうち、前項で比重が高いと説明した「整枝・剪定」が1戸当たり216.3時間、「除草・病害虫防除」が136.6時間、「収穫・調整作業」が382.4時間かかっています。

栗栽培 作業別労働時間

出典:農林水産省「農業経営統計調査 品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり) 」よりminorasu編集部作成

この労働時間は15年前のデータですが、果樹園は木が多いため園地では動きにくく、一般的に機械化やスマート化が進みにくいので、今でも15年前と同じように作業をしている農家が多いと思われます。

栗の栽培に要する作業時間は、同じ果樹の中でもりんごや柑橘類などと比較して労働負担が少ないです。そのため、栗栽培は作業に多くの時間がかかる水稲など、他作物との複合栽培にも適しているのです。

栗農家になりたい! 独立までの道のりや使える支援策は?

栗は苗木の植え付けから行った場合、安定して収穫できる成樹になるまでに5年程度の歳月が必要です。その間は、ほとんどまとまった収入を見込めません。

したがって、これから新規で栗農家になるのであれば、高齢化による引退などで担い手がいなくなる農園を引き継いだり、農協や自治体から園地を斡旋してもらったりするのが現実的です。

また、栗農家になりたいという明確な目標があれば、栗栽培が盛んな地域に移り住んで始めると、多くのメリットがあります。

茨城県は、「笠間の栗」をブランド和栗として推しだしている

茨城県は、「笠間の栗」をブランド和栗として推しだしている
出典:PR TIMES株式会社(茨城県営業戦略部販売流通課 ニュースリリース 2016年10月7日 )

例えば、栗の生産量で日本一を誇る茨城県笠間市では、「日本一の栗産地づくり推進補助事業」を実施しています。

4年間の収入保障や栗の栽培機材・資材における購入費補助など、就農時に支援を受けられるのはもちろん、農地の提供側にも補助金が交付されるため、承継が活発に行われています。

出典:
笠間市「 日本一の栗産地づくり推進補助事業」
茨城県「笠間地域農業改良普及センター 笠間地域就農支援協議会」所収「笠間で栗を作ってみませんか?(栗の栽培&補助事業ガイド)」

また、そのような産地では周りに栗栽培に詳しい先輩が多く、アドバイスを受けたり相談したりしやすいことや、参考になる園地が多いことも心強い点です。

“儲かる栗農家”になるために。知っておくべき3つのポイント

最後に、栗農家としてより多くの収益を上げ、経営を成功させるための3つのポイントについて解説します。

1.経営規模の拡大や、水稲などとの複合栽培を検討する

まだ若い栗の園地

Yama / PIXTA(ピクスタ)

栗の栽培で高収入をめざすなら、まずは経営規模(栽培面積)をできるだけ拡大することが大切です。規模が小さいと、効率化や合理化がなかなか進まず、コストカットにも限界があります。

規模を大きくして機械化などで作業効率化を進めれば、利益率を上げ、より高収入を得ることが可能になります。

例えば、栗の生産量日本一の茨城県笠間市が公表しているデータによると、栗専作の場合、経営規模が1haであれば期待できる粗利益は100万円前後(所得は50万円前後)です。

ところが、5haになると粗利益約540万円(所得256万円)程度となり、効果的かつ安定的な経営を実現できるとされています。

笠間地域就農支援協議会による栗栽培の収支試算

粗利益経営費所得
栗 成園 1ha111万円57万円54万円
栗 成園 5ha539万円283万円256万円
水稲 5ha
栗 成園 1ha
890万円652万円238万円
水稲 5ha
栗 成園 1h
栗 未成園 2ha
890万円766万円124万円
水稲 5ha
栗 成園 3h
1,134万円766万円368万円

注:植栽1年目の補助金を除く
出典:茨城県「笠間地域農業改良普及センター 笠間地域就農支援協議会」所収「笠間で栗を作ってみませんか?(栗の栽培&補助事業ガイド)」よりmiorasu編集部まとめ

また、もともと水稲栽培などを行っていた農家が栗栽培で複合栽培を導入することで、安定的な農業経営をめざす方法もあります。

同じく笠間市の資料によれば、水稲との複合栽培を行った場合、苗木の植え付けから始めた場合でも、栗の収量が安定する5年目以降は、水稲と合わせて1千万円以上の粗利益(約370万円の所得)が得られることが示されています。

2.収穫期間が長くなるよう、高単価な優良品種を選定し組み合わせる

栗の晩生品種「石鎚」

蕎麦喰亭/PIXTA(ピクスタ)

より高収入をめざすなら、品種の選定もとても大切です。1つの品種に絞るのではなく、育てやすく高単価で販売できる優良品種数種を、より長期間収穫できるように組み合わせて栽培することで、収入の大幅アップにつながります。

高収入を得られる組み合わせの例としては、9月上旬に収穫できる早生品種の「丹沢」をメインとして、中生の「筑波」、晩生の「石鎚」を作付けする組み合わせなどがあります。

3.焼き栗販売など、6次産業化で利益率の向上を図る

効率化や経費削減など作業工程を工夫する一方で、損失を減らすことも収入アップに欠かせない対策です。

傷がついた栗やクリシギゾウムシのついた栗は、選果作業で廃棄されロスとなってしまいますが、自ら6次産業に参入し、焼き栗やマロンペーストなどの加工品を製作して販売すれば、そこから利益を上げることが可能です。

実際の成功事例として、石川県輪島市にある松尾栗園の松尾和広さんを紹介します。

松尾農園の焼き栗「能登栗」

松尾農園の焼き栗「能登栗」
出典:PR TIMES株式会社(株式会社ライデンペール ニュースリリース 2020年7月20日)

松尾さんは輪島で農家から研修を受けたあと、2.5haの栗園を引き継ぎました。当初は年収20万程度にしかなりませんでした。3年間はコンビニのアルバイトをしながら努力を重ね、徐々に売上が伸び始めましたが、それとともに経費も上がったため、所得はなかなか増えなかったそうです。

効率化や省力化にも限界を感じていたところ、選果で廃棄となった栗を自ら加工し、商品化して販売することを思いつき、「焼き栗棒」「焼き栗ペースト」の2つの商品を作って売り出しました。

商品はヒットし、今ではこの2つの商品の売上が、全体の売上の50%以上を占めるほどになっています。

出典:松尾栗園ホームぺージ「栗農家-松尾和広」

松尾農園の「能登栗ペースト」を使用した「熟成無糖モンブラン」

松尾農園の「能登栗ペースト」を使用した「熟成無糖モンブラン」
出典:PR TIMES株式会社(株式会社ライデンペール ニュースリリース 2020年7月20日)

自ら6次産業を立ち上げることはリスクも伴いますが、しっかりと経営について勉強し、コストや収支を見極め、明確なブランディングを確立して取り組めば、マイナスをプラスに転じて安定的な高収入へとつなげることも可能です。

栗はほかの果樹に比べて手がかからず、複合栽培としても取り組みやすいといわれます。それでも、品質のよい栗を生産し、安定的に経営するためには地道な努力や経営上の工夫、そして周りのサポートが必要です。

栗農家になりたいなら、産地に学び、経営のノウハウも勉強しながら収量アップをめざしましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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