栗収穫機を使って省力化! スマート農業実現への取り組み
栗の産地は、栗農家の高齢化と後継者不足、これに伴う放任園地の増加という課題を抱えています。それらを解消する方法の1つに、機械化やスマート農業による作業の省力化・効率化があります。本記事では栗栽培でのスマート農業の導入について解説します。
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Sunrising / PIXTA(ピクスタ)
栗の栽培では防除や下草刈り、収穫・選果作業などの身体的な負担が大きく、高齢化などの問題も相まって、これら作業を大幅に省力化する技術の活用が求められています。そこで本記事では、栗栽培に活用できる最新の収穫機械や開発中の技術について、詳しく解説します。
現状の栗農家が抱える課題
栗の産地では、園地を持つ農家の高齢化と後継者不足が進み、ほかの果樹と同様、放任園地化が問題になっています。
また、園地の多くが傾斜地にあり、小規模で障害物が多いことから、機械化やスマート農業の導入がしにくく、省力化・効率化の点で大きく遅れているのが現状です。
こうした事情から、結果樹面積、収穫量とも減少し続けています。
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(果樹) 確報 令和2年産果樹生産出荷統計」「令和3年産西洋なし、かき、くりの結果樹面積、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成
例えば、栗きんとんが人気の岐阜県恵那市や中津川市では、2021年の栗農家の平均年齢が約72歳と高く、後継者も15%ほどしか確保できておらず、地元産の栗だけでは栗きんとんの2~3割ほどしか賄えないという状況です。
出典:東海テレビ放送株式会社「NEWS ONE」2021/11/16配信記事「人気の「栗きんとん」も地元産は2-3割...高齢化進む岐阜の栗園で『スマート農業』実験 収穫量増に期待」
阪神梅田本店では、秋に、中津川市の老舗和菓子店の栗きんとんを集めた「岐阜・中津川栗きんとん祭」イベントが開催される
株式会社PR TIMES(株式会社阪急阪神百貨店 ニュースリリース2022年9月22日)
負担軽減のために機械化に注目が集まる
従来の栗栽培で負担の大きい作業としては、主に「剪定」「下草刈り」「病害虫防除」「収穫」「選果」などが挙げられます。
出典:農林水産省「農業経営統計調査 品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり) 」よりminorasu編集部作成
このうち、剪定や選果には熟練の判断や技術が必要であるため、すぐにはスマート農業の導入までにはつながらず、今後のAI技術などの向上が待たれます。
一方、栗の園地のように傾斜地や中山間地の農地では、肥料や農薬の散布にはドローンの活用が有効です。
栗の園地においても実用化が進められています。2021年には、JA高知県が四万十市内の栗園地で粒状肥料の散布実演会を行い、大幅に省力化できる成果が実証されました。
出典:JA高知県「栗園地でドローン活躍 施肥を実演」
ドローンによる肥料や農薬の散布は、ほかの作物でもすでに実用化されており、果樹園に活用できるものもあります。ドローンに使用できる農薬も各社から販売されているため、手軽に利用できるようになりました。
ただし、使用に当たっては航空法や農薬取締法を守らなければなりません。購入する前に、必ず使用方法やガイドラインを確認しましょう。
※詳細は以下を確認してください。
農林水産省「無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報」所収「ドローンで農薬散布を行うために」
国土交通省「無人航空機の飛行許可・承認手続」
極楽蜻蛉 / PIXTA(ピクスタ)
また、春から収穫期まで作業が必要な下草刈りにおいても機械化が進んでおり、すでに多くのメーカーで実用化され、栗園をはじめさまざまな果樹園で活躍しています。
例えば、急傾斜地や狭く複雑な果樹園の中でも安全に走行できるリモコン(ラジコン)草刈機や、自走走行もできるロボット草刈機などが、国内のさまざまなメーカーから販売されています。
出典:農林水産省「スマート農業推進フォーラム2020 |リモコン草刈機」
Sunrising / PIXTA(ピクスタ)・ keite.tokyo / PIXTA(ピクスタ)
そして、栗農家にとって最も時間と労力を要するのが収穫作業でしょう。ほかの果樹のように高所でもぎ取る必要はないものの、落花した実を病害虫から守り、品質の低下を防ぐためには、できる限り速やかに拾う必要があります。
さらに、栗の実だけでなく収穫後のイガも拾い集め、園地の土壌を清潔に保つことも大切です。
従来、機械では地面から栗の実やイガを枯れ葉などと分けて的確に拾い上げることが難しく、収穫作業は主に人力に頼っていました。
しかし、近年では海外から機械を購入したり、国内メーカーで新たな技術を導入したりして、実用化が進んできています。
次項では、その実例を紹介します。
栗収穫の機械化事例
TATSU / PIXTA(ピクスタ)
栗の収穫用農機としては、効率的に吸引する収穫機や、AI技術を駆使した最新の収穫ロボットなどが開発されています。それぞれの実例を見てみましょう。
トラクターを動力とした栗収穫機
2022年8月現在、日本国内では一般に実用化された栗収穫機はありません。しかし、海外にはいくつかの栗収穫機があり、県で購入して改良を加えたり、実証実験を行ったりしている事例があります。
一例として、岡山県の事例を紹介します。
岡山県農林水産総合センター森林研究所では、2015年にイタリア製の背負い式栗収穫機を購入し、改良を重ねてより効率的な栗の収穫方法を検討しています。
2018年には、小型の運搬機に取り付けて一度に20kgまで収穫できるようにしたり、ホースに取っ手を付けて扱いやすくしたりするなど、少しずつ工夫を重ねています。
そうした改良の様子は、動画としてYouTubeにアップされています。
岡山県農林水産総合センター森林研究所 YouTube 公式チャンネル「栗の収穫機」
岡山県農林水産総合センター森林研究所 YouTube 公式チャンネル「栗収穫機(改良版)」
AIを使った自動栗収穫ロボット
パワーを武器に効率的な収穫を実現する収穫機は、もちろん便利ではありますが、栗に傷が付いたり、選別の際にロスが多く出たりする恐れがあります。
そのため、高品質を売りにしたブランド栗などの収穫にはあまり向いていません。また、品種によっては実だけが落ちるものやイガごと落ちるもの、その両方が混ざるものがあるため、どちらに適しているのかも考慮する必要があります。
現在では、そのような栗にも安心して使える、スマート農業の技術を活用した自動栗収穫ロボットの開発も進んでいます。
埼玉県の株式会社アトラックラボが、ベンチャー企業「エステクノファクトリー」とともに開発している栗収穫ロボットは、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を使って地面に落ちている栗を見分け、傷を付けることなく拾える収穫機です。
AI認識と、パラレルリンクロボットアームを搭載した栗拾いロボットを現場で試験(株式会社アトラックラボ)
出典:株式会社PR TIMES(株式会社アトラックラボ ニュースリリース 2020年10月5日)
自動栗拾いロボット「Arm-I」は、アルミ製の枠にカメラとアームとタイヤが付いており、カメラに映した地面からAIが栗の実や実の入ったイガを見分け、自動でアームを動かして実を拾います。
拾うペースは2秒に1個ほどですが、実の入ったイガを正しく認識する精度が低く、さらなる改良が必要とのことです。とはいえ、2021年9月には京都府京丹波町の「丹波農園」で実証実験も行われており、近いうちの実用化に期待が高まります。
出典:
株式会社アトラックラボ 「AI認識と、パラレルリンクロボットアームを搭載した栗拾いロボットを現場で試験」(株式会社PR TIMES(株式会社アトラックラボ ニュースリリース 2020年10月5日)
読売新聞社「ロボットがクリ拾い、AIで認識した栗をアームでかごに…農園社長「ロボットの手借りたい」(読売新聞オンライン 2021/09/27 09:45 配信)
作業効率を高める栗収穫用ネット
地面に落ちた栗を効率的に拾うのではなく、あらかじめ栗収穫用ネットを張っておき、ネット上に落ちた栗を中央に寄せて効率的に拾う、という方法もあります。
この収穫方法は、もともと傾斜地の栗園で確立している技術です。熊本県農業研究センター球磨農業研究所では、それを平坦地で応用した場合の省力効果を試験しました。
試験の概要は、植栽距離4m×4mに直線状に植栽された栗の樹に対し、4~6mmメッシュのネットを幅2m・長さ25mで用意し、樹の主幹に高さ70~80cmの位置で固定します。ネットのもう一端は、緩まないように地面に留めておきます。
その状態で栗が落ちると、栗はネットを転がって植栽間の通路の中央に集まるため、作業面積を集約することが可能です。
コストはネット代として10a当たり4万2,000円程度で済むうえ、一度設置してしまえば使用後は中央に丸めて寄せておけばよいので、次年以降の設置時間を大幅に省略できます。
出典:株式会社日本政策金融公庫「農林水産事業|最新技術情報|果樹」所収「平坦地における収穫ネットを活用したクリ収穫作業の省力化(技術の窓No.2398)」
このように、栗収穫用ネットを活用すれば少ないコストと手に入りやすい材料で、収穫作業を省力化・効率化できます。
また、外国製のクルミやアーモンドを拾う器具の使用時も、腰を屈めることなく効率的に収穫できるので、体への負担が少なく便利です。
Sunrising / PIXTA(ピクスタ)
栗農家にとって、収穫は多大な労力と時間がかかる作業です。ところが、国内では収穫作業を省力化・効率化する自動収穫機の開発が遅れており、2022年8月の時点で栗収穫機として実用化されているものはありません。
とはいえ、産地を持つ都道府県では開発が進められており、近年中には実用化が見込まれているものもあります。それまでの間は、少しでも効率化・負担軽減につながるよう、栗受けネットなど、手軽に実行できる資材や器具を活用するとよいでしょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。