かぼちゃ農家の年収は?10a当たり収入の目安と省力栽培のススメ
新しくかぼちゃ農家になろうとしている方にとっては、収量や収入の目安、収益を拡大する工夫について気になるところでしょう。この記事では、就農に当たり気になるかぼちゃ農家の実態と、高収益をめざすための工夫について解説します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
新規に就農してかぼちゃ農家になることを検討している方も多いでしょう。その際に気になるのは、かぼちゃ農家が「儲かるのか」ということです。
また、かぼちゃ農家の安定経営のためには、大規模化や多品目栽培、栽培の省力化がポイントになります。この記事では、かぼちゃの農家の収量や収入の目安、高収益をめざすためのポイントや省力化を実現する工夫について解説します。
みのすけ / PIXTA(ピクスタ)
かぼちゃ農家の年収は? 最新データで見る10a当たりの年収目安
まずは、かぼちゃ農家の都道府県別収穫量ランキングと10a当たり収量や粗収益の目安について、データをもとに解説します。
かぼちゃの収穫量ランキング(2020年産)
収穫量 | 構成比 | 作付面積 | 構成比 | |
---|---|---|---|---|
北海道 | 92,300t | 49.50% | 6,990 ha | 47.20% |
鹿児島県 | 7,500t | 4.00% | 682 ha | 4.60% |
長野県 | 6,520t | 3.50% | 557 ha | 3.80% |
茨城県 | 6,510t | 3.50% | 434 ha | 2.90% |
長崎県 | 5,310t | 2.80% | 435 ha | 2.90% |
宮崎県 | 4,010t | 2.10% | 193 ha | 1.30% |
神奈川県 | 4,000t | 2.10% | 220 ha | 1.50% |
沖縄県 | 3,590t | 1.90% | 382 ha | 2.60% |
千葉県 | 3,190t | 1.70% | 180 ha | 1.20% |
秋田県 | 2,880t | 1.50% | 360 ha | 2.40% |
その他 | 50,790t | 27.20% | 4,367 ha | 29.50% |
全国計 | 186,600t | 100.00% | 14,800 ha | 100.00% |
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査|令和2年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
全国の収穫量18.7万tのうち北海道が約半分を占めており、日本において北海道は有数のかぼちゃの産地であることがわかります。
次に、青果物卸売市場調査をもとに、1kg当たりの卸売価格と10a当たりの粗収益の目安を見ていきましょう。1kg当たり販売価格×10a当たりの出荷量で計算すると、10a当たり約19万円となります。
かぼちゃの10a当たり粗収益の試算
10a当たり 粗収益の試算 | ||
---|---|---|
10a当たり 収量 | 1,260kg | |
10a当たり 出荷量 | 1,020kg | ※出荷量÷作付面積 |
1kg当たり 卸売価格 | 181円 | |
10a当たりの 粗収益目安 | 18.5万円 |
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査|令和2年産野菜生産出荷統計」、「青果物卸売市場調査|令和2年青果物卸売市場調査報告」よりminorasu編集部作成
かぼちゃについては、品目別あるいは営農類型別のデータがないので、農業所得や所得率の全国平均を直接みることはできません。
参考に、広島県が公表している水稲とかぼちゃの複合経営を前提とした、夏どりかぼちゃ(収獲は8月のみ)の部門収支を紹介します。
広島県 夏どりかぼちゃの部門収支
営農規模 | かぼちゃ 夏どり 1.1ha 水稲 1.1ha | 10a当たり |
---|---|---|
販売量 | 22,000kg | 2,000kg |
1kg単価 | 157円 | 157円 |
売上高 | 344.5万円 | 31.3万円 |
経営費 | 241.2万円 | 21.9万円 |
所得 | 103.3万円 | 9.4万円 |
所得率 | 30.0% | 30.0% |
自営労働時間 | 1,178時間 | 107時間 |
雇用労働時間 | ー | ー |
自営労働時間 当たり所得 | 877円 | 877円 |
出典:広島県「経営指標 【野菜】」所収「29:【複合用】かぼちゃ1.1ha(中部・北部) 」よりminorasu編集部作成
この経営モデルは、販売単価は全国平均より低いものの、10a当たりの出荷量を全国平均の2倍弱に設定してあるため、10a当たりの粗収益は31.3万円で、先ほどの試算の約1.7倍となっています。
作付面積は1.1ha(110a)で、この規模での農業所得は103.3万円と試算されています。
このように、1.1ha規模で10a当たり出荷量を2,000kgと高く設定しても、農業所得は100万円前後で、かぼちゃのみの単一経営を行うことは難しく、複合経営が前提といえるでしょう。
かぼちゃの作型と価格
Tony / PIXTA(ピクスタ)
かぼちゃは、作型と地域によって栽培暦が異なります。夏に出荷する露地普通栽培と、主に初夏に出荷するトンネル早熟栽培、秋から冬至の出荷を狙う抑制栽培が主な作型です。ほかに、貯蔵性のよい品種を利用して最も品薄な年明けに出荷する貯蔵かぼちゃなどの作型があります。
中間地での主な栽培暦は以下の通りです。
かぼちゃの主な作型と栽培暦(中間地)
播種 | 定植 | 収穫 | |
---|---|---|---|
露地普通栽培 | 4月下旬~5月上旬 | 5月下旬~6月中旬 | 8月下旬~9月上旬 |
トンネル早熟 | 1月下旬~2月下旬 | 3月中旬 | 6月中旬~7月下旬 |
露地抑制 | 8月中旬~8月下旬 | 9月上旬 | 11月中旬~11月下旬 |
無加温ハウス抑制 | 8月下旬~9月上旬 | 9月下旬 | 12月中旬~12月下旬 |
出典:以下資料よりminorasu編集部作成
タキイ種苗株式会社「品種カタログ えびす 標準栽培適期表」
神奈川県 三浦半島地区事務所ホームページ「カボチャ」
神奈川県「神奈川県作物別施肥基準」所収「作物別施肥基準 果菜類・豆類」
農研機構 北海道農業研究センター「北農研のカボチャ」所収「カボチャの国内産端境期に向けた品種と栽培マニュアル」内「神奈川県における抑制カボチャ栽培マニュアル(神奈川県農業技術センタ-)」
Tony / PIXTA(ピクスタ)
東京都中央卸売市場の2021年の月別の取扱数量と平均取引価格をみると、価格が高いのは5月・6月と12月・1月で、北海道産のかぼちゃが多く出回る8~11月は価格が低いことがわかります。
早熟栽培、抑制栽培の作型を工夫して、価格の高い時期に出荷することで、粗収益を伸ばせる可能性があります。
出典:東京都中央卸売市場 統計月報よりminorasu編集部作成
▼かぼちゃの作型の詳細は、以下の記事をご覧ください。
かぼちゃ栽培にかかる労働時間の目安
次に、かぼちゃ農家の年間労働時間を見ていきましょう。
長崎県が「長崎県農林基準技術」で想定しているかぼちゃの延べ作業時間は、トンネル早熟栽培で10a当たり235時間、露地の直播き抑制栽培は10a当たり151時間です。
出典:長崎県「長崎県農林業基準技術(平成31年2月作成)」所収「かぼちゃ 早熟」「かぼちゃ 抑制」
ほかの露地野菜の10a当たり労働時間と比較すると、トンネル早熟栽培は、同じ作型が多いメロンやスイカと、露地の直播き抑制栽培は、露地栽培の根菜類と同じ程度であることがわかります。
出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成
かぼちゃは、露地栽培の野菜類の中では、ほかの果菜類と比べると労働時間が短く、この点でも複合経営向きだといえるでしょう。
例えば、9月頃に収穫期を迎える水稲と、初夏に収穫する早熟栽培、あるいは、冬に収穫する抑制栽培のかぼちゃを組み合わせれば、単価の高い時期に出荷でき、収益性向上が期待できます。
最新技術を活用! かぼちゃ農家が実践すべき省力化技術
前述の通り、かぼちゃ農家として高い収益を上げるには、複合経営を前提とした大規模化がポイントになります。それには、かぼちゃの栽培工程を省力化し、労力を削減する必要があります。
ここでは、かぼちゃ農家が実践すべき省力栽培の3つのアイデアを具体例とともに紹介します。
“短節間かぼちゃ”品種を利用した省力栽培技術の導入
農研機構「TC2A」(ほっとけ栗たん)
株式会社PR TIMES(農研機構 プレスリリース 2015年10月6日)
かぼちゃの大規模栽培では、整枝・誘引・収穫作業での労力負担が大きいことが難点です。これらの労力負担を減らし、多収化と栽培の省力化を実現するために開発されたのが「短節間かぼちゃ」です。
短節間かぼちゃは、つるがほとんど伸びず、茎葉が横に広がりません。茎葉は株元に密集し、地面と垂直方向に生えていきます。そのため、摘心・整枝・誘引作業が不要で、定植後は放任栽培が可能です。また、果実が株元付近に結実するので、収穫が容易になります。
このように、「短節間かぼちゃ」はかぼちゃ栽培の労力負担減少につながる品種です。さらに、基本的には1株に1つ結実するため、成熟度合いが均一になり一斉収穫でも品質を安定させることができます。
「短節間かぼちゃ」には、現在「TC2A(商品名:ほっとけ栗たん)」・「ジェジェJ」・「くりひかり」といった品種があります。
農研機構と株式会社渡辺採種場による研究では、「ほっとけ栗たん」と普通品種の定植後における作業時間を比較した場合、作業時間が約2割削減したという結果になりました。
また、同じく短節間かぼちゃである「おいとけ栗たん」という新品種も育生されています。
「おいとけ栗たん」の特徴は、国産かぼちゃの供給が少ない12〜5月に出荷することができ、収穫後3ヵ月貯蔵しても品質を維持できることです。端境期に収穫でき、青果だけでなく加工原料としても利用することができます。
出典:
農林水産省「最新農業技術・品種2017」所収「栽培の省力化に向けた短節間性カボチャ品種」
農研機構「 端境はざかい期向けかぼちゃ新品種「おいとけ栗たん」
農研機構「品種詳細|くりひかり」
独立行政法人農畜産業振興機構「「ブランド・ニッポン」開発品種(4) 短節間性かぼちゃ「TC2A」」
灌水作業を省力化する“灌水制御装置”の設置
かぼちゃは、特に育苗期や肥大期に多くの水分を必要とします。作業負担が多いことは、大規模化の妨げになりかねません。規模拡大を実現するためには、灌水作業を省力化する「灌水制御装置」の導入が有効です。
かぼちゃの本圃では、マルチ下に灌水チューブを仕込むタイプを採用する場合が多いようです。
Tony / PIXTA(ピクスタ)
収獲機械化をかなえる“加工用かぼちゃ収穫機”の活用
かぼちゃの収穫作業は、機械化が進んでいないのが現状です。茎葉を切り離す作業やコンテナへの収容作業などが手作業で行われており、農家の高齢化が進んでいる現在では、作付面積や生産量が減少する原因になっています。
そこで、収穫作業の機械化を実現する「加工業務用かぼちゃ収穫機」が農機具メーカーにより開発されました。かぼちゃの拾い上げ・選別・コンテナへの収容を自動で行い、手作業に比べ約3倍の作業能率で収穫できるとされています。
この装置は加工用のかぼちゃを対象にしていますが、青果用のかぼちゃ収穫機の開発も進んでいます。
さらに、ドローンやAIを活用することで、かぼちゃの生育から収穫までを効率化し、収穫の機械化だけでなく栽培管理の最適化や収量予測を行えるシステムの開発も進んでいます。
このような収穫機やシステムを利用することで、近い将来、収穫作業の大幅な省力化を実現できるでしょう。
出典:
ヤンマーホールディングス株式会社「重量野菜「かぼちゃ」の収穫作業を軽労化する加工業務用かぼちゃ収穫機を開発」
株式会社 日刊工業新聞社「おも~いカボチャの収穫作業を効率的に、AI・ドローン・ロボットが連携(日刊工業新聞 ニュースイッチ 2019年05月30日)」
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
この記事では、これから新規に就農してかぼちゃ農家になろうとしている方に、かぼちゃ農家の収量や年収の目安、かぼちゃ農家として安定経営をめざすためのポイント、さらに栽培省力化をかなえる工夫について解説しました。
かぼちゃ単一栽培で十分な収益を上げるのは難しいため、水稲などとの複合経営となりますが、省力化技術を導入しながらの規模拡大を検討し、農地全体の収益性向上をめざしてください。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
小谷美乃里
ビジネス、介護、受験など多分野の記事執筆に携わるwebライター。これまで10以上のメディアで記事執筆や校正に携わり、現在は毎月20本以上を執筆中。大学時代に農業経営を学んだ経験も持つ。趣味は、ウォーキングと日本の豊かな自然を写真に収めること。美しい海と緑のためなら何万歩でも歩けるほど自然が好き。