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メリクロン苗でイチゴを栽培するメリットとデメリットとは?

メリクロン苗でイチゴを栽培するメリットとデメリットとは?
出典 : Nori / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培では、メリクロン苗(ウイルスフリー苗)を自治体の種苗センターやJAなどから入手することで、萎黄病や炭疽病、ウイルス病などの病害リスクを抑えることが一般的に行われています。この記事では、メリクロン苗でイチゴを栽培するメリット・デメリットについて解説します。

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バイオテクノロジー実用化で生まれたメリクロン苗は、イチゴだけでなくサツマイモ・アスパラガスなどの野菜類やキク・ラン類といった花きなどの育苗で導入が進んでいます。はじめに、メリクロン苗の特徴やイチゴの生産現場におけるメリクロン苗の研究・普及の現状について解説します。

メリクロン苗とは?

組織培養の模式図

VectorMine - /stock.adobe.com

メリクロン苗とは、植物の生長点の組織を無菌環境下で培養して育成された苗です。植物の分裂組織を意味する「メリステム」(meristem)という言葉と、栄養繁殖性を意味する「クローン」(clone)という言葉を合成して、メリクロン(mericlone)と呼んでいます。

メリクロン技術は、ウイルスフリー苗・無病苗の供給や、苗の大量生産を目的に活用されています。

1. ウイルスフリー苗・無病苗の供給

イチゴなどの栄養繁殖性作物では、親株の根や茎・葉などがウイルスに感染していると子株にも伝染してしまいます。

しかし、メリクロン苗の場合は、ウイルスに侵されない茎頂0.2mm程度の組織を培養するため、一般に無病苗といわれる苗を作ることができます。

※農家に提供される定植苗の段階で、完全に無病というわけではありません。

2. 苗の大量生産

茎頂分裂組織を取り出して培養するため、生産された苗は遺伝的に均質です。そのため、形質の揃った苗を、数万〜数十万の単位で生産することができます。

ただし、メリクロン苗は遺伝的に均質とはいえ、その後に変異が発生することも、栽培環境によって株の生育や形質にバラツキがでることもあります。

イチゴの生産でも研究・普及が進むメリクロン苗

蘭のメリクロン苗生産

xy - stock.adobe.com

蘭のメリクロン苗生産

xy - stock.adobe.com

1967年に国産のシンビジウム(洋ラン)のメリクロン苗が販売されて以来、カーネーション・キクやジャガイモ・サツマイモなど多くの花き・野菜類でメリクロン苗が普及しています。

イチゴの主要産地では、自治体の研究機関で維持している原々苗を種苗センターで培養し、これを増殖した定植苗が農家に供給されるのが一般的です。

一方、近年では栄養繁殖型よりも増殖効率のよい種子繁殖型のウイルスフリー苗も開発されています。

メリクロン苗でイチゴを栽培するメリット

メリクロン苗では、農家に渡される定植苗の段階でも、ほぼ無病の状態になっているため、病害・ウイルス感染の発生リスクを軽減させることができます。苗の生育ムラも少なく、品質・収量を安定化できるメリットがります。

病害虫の対策につながる

イチゴ 親株から出たランナーと子株

cozy / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培でのメリクロン苗採用の一番のメリットは、まずは病害の予防です。

メリクロン苗の培養は、光・温度の環境や水分・栄養状態が管理されたクリーンルームで行われ、その後の増殖は消毒が徹底されたメッシュハウスなどで行われます。

農家に提供される定植株は、配布された当初はほぼ無病の状態ですが、病原菌に対する抵抗性をもっているわけではないので、栽培中に土壌や胞子を介してウイルスに感染していきます。

定植後の減収リスクを回避するためには、農薬による防除や耕種的防除の徹底が必須です。

品質の維持と安定生産につながる

種苗センターや種苗会社を通じて、遺伝的に均質でよく管理された揃った定植苗を入手すれば、その後の生育が揃いやすく、また、自家育苗と比べ大幅な省力化になります。

▼イチゴの自家育苗についてはこちらの記事をご覧ください。

収量も、一般の苗と同程度とされています。

地方独立行政法人北海道立総合研究機構で、2003〜2005年度にかけて、メリクロン苗の1次親苗としての子苗生産能力、2次親苗由来の子苗の果実生産能力の検討が行われました。

その結果、メリクロン株の1次親苗あたりの採苗本数、メリクロン苗由来の子苗の収量と糖度は、慣行の1次親苗由来のものと同レベルであることがわかりました。

出典:地方独立行政法人北海道立総合研究機構(道総研)「研究成果(作物別)|一般課題H18(H17年度)」所収「いちご無病苗の省力定植技術」

メリクロン苗でイチゴを栽培するデメリット

メリクロン苗の導入によってイチゴの収量が安定する反面、営農コストは高くなる傾向があります。苗の発注から納品まで長期間かかる点にも留意して、栽培計画を立てなければなりません。メリクロン苗を利用する際に注意する点についても紹介します。

市販の苗は値段が高い

市販のイチゴ苗

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

イチゴのウイルスフリー苗は、自治体の研究機関などで維持されている原々苗から原苗をとり、種苗センターなどで増殖され、農家には定植苗を供給されるのが一般的です。農家は、JAや生産団体を通じて事前に申込みます。

しかし、JAや生産団体を通して提供されるウイルスフリー苗は品種が限られています。

もし、独自に新品種を導入したい場合は、種苗会社から購入することになりますが、メリクロン苗は値段が高いのです。一般の苗だと1株あたり100~150円前後ですが、メリクロン苗は1株あたり300円前後かかります。

購入先によっては、苗の代金とは別に切り出し料(播種料)や送料がかかる場合があります。苗の品種や数量によって代金が変わる場合もあるため、購入前に見積を依頼するのもよいでしょう。

一方、自家育苗では培土づくりや防除など、作業負担やコストがかかり、育苗環境によっては不良苗が発生するリスクも伴います。

その点を考えると、多少コストがかかってもウイルスフリーのメリクロン苗を導入したほうが総合的に見ると低コストであるという考え方もできるでしょう。

なお、メリクロン苗は種苗会社、農業資材販売店、通信販売などで購入できます。

発注から受け取りまでに時間がかかる

メリクロン苗を専門業者に発注する場合、定植日に合わせて苗を納品してもらえます。しかし、苗の培養・増殖に時間がかかる関係で希望納期の8ヵ月~1年前には苗を申し込む必要があります。苗の受け取りまでに時間がかかるので、栽培計画を立てる際には注意が必要です。

また、栽培する品種によっては事前に自治体や種苗会社に許諾を得る必要があります。許諾手続きに2週間~2ヵ月程度かかる点も考慮したうえで、長期的な栽培計画を立ててメリクロン苗を導入するとよいでしょう。

収量が少なくなる可能性がある

メリクロン苗は遺伝的に均質ですが、突然変異が起こる可能性もあります。定植の段階では苗に問題がなくても、開花時や茎・葉の生長段階で変異が生じることも考えられます。その結果、予定した収量に達しないリスクを伴う点にも注意が必要です。

メリクロン苗の購入先によっては結果不良に対する補償規定を設けている場合があります。減収に備えて、あらかじめ購入先の補償規定の確認をおすすめします。

イチゴの収穫作業

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培にメリクロン苗を取り入れることで、栽培時に病害虫やウイルスの影響を受けるリスクを軽減できます。

苗の価格が高く発注から納品まで時間がかかるデメリットはあるものの、均質な苗を必要な分だけ入手できるので、イチゴ農家にとってメリットが大きいといえるでしょう。

ただし、メリクロン苗はウイルスフリーであっても、ウイルスの抵抗性を持っているわけではないため、収量を確保するためにはこれまでと同様に農薬による防除や耕種的防除の徹底が重要です。

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舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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