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【梅の栽培歴】防除暦や使える農薬は? 栽培の各工程をポイント解説

【梅の栽培歴】防除暦や使える農薬は? 栽培の各工程をポイント解説
出典 : jimy/ PIXTA(ピクスタ)

実梅は梅干しや梅酒、ジャムなどの原料として人気の高い作物です。主要産地である和歌山県をはじめ、東北から九州まで各地で生産されています。地域や気候によって栽培暦には少し差がありますが、果樹の中では開花時期や収穫期が比較的早いので、早期に準備を始めましょう。

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梅の収穫量は、1980~1990年にかけて増加し、2000年代は安定していましたが、2010年以降は、台風被害や暖冬などによる凶作の年もあり安定していません。

出入りはありますが、農家の高齢化による廃業もあり、結果樹面積、収穫量とも減少傾向にあります。

梅の収穫量と結果樹面積の長期推移

※2022年産は第一報
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(果樹)」の長期累年、「令和4年産びわ、おうとう、うめの結果樹面積、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成

こうした状況の中、地域ごとの栽培暦に沿った適切な栽培管理により、品質・収量の向上を図ることが重要です。

梅の栽培暦・防除暦一覧! 農薬散布や収穫はいつやるの?

開花期の梅の園地

miamiwatase/ PIXTA(ピクスタ)

梅は品種が豊富で、品種さえ選べばさまざまな気候・地域で栽培できます。主要産地は和歌山県で、温暖な気候のもと、人気品種の「南高(なんこう)」の生産が盛んです。和歌山に次ぐ産地として、気候の変化が激しい群馬県や寒冷な青森県などでも多く生産されています。

群馬県を中心とした東日本では、主に大粒品種の「白加賀(しらかが)」などが栽培されています。一方、青森県や長野県など比較的寒い地域では、寒冷地での栽培に適した大粒品種の「豊後(ぶんご)」などが主です。

栽培暦・防除暦は品種や気候によって少しずつ異なるため、栽培に当たっては地域と品種に合った栽培暦を確認する必要があります。

■梅の栽培暦

梅の栽培暦

出典:以下資料よりminorasu編集部作成
JA紀南「営農指導」所収「令和5年 梅栽培暦」
JA紀州みなべいなみ梅部会「梅栽培の年間作業」

上記の表は、代表的産地である和歌山県の「南高」など、主要品種を対象とした栽培暦をもとに独自に作成した栽培暦です。

次項からはこの表に沿って、高品質果実を安定的に収穫するための各工程でのポイントについて解説します。具体的な時期は、地域の気候や品種によって差があるので、これを基本として調整してください。

【1月~3月/開花期~】 受粉作業や遅霜対策を実行

温暖な地域では新年を迎えて間もなく、開花に向けた準備を始めます。それと同時に、遅霜対策など厳しい寒さへの備えが大切です。

開花期を逃さず、ミツバチの放飼や人工授粉を実施する

梅 ミツバチの訪花による受粉

manabu/ PIXTA(ピクスタ)

梅の開花はほかの果樹に比べて早く、温暖な地域で1~2月頃、寒冷な地域では3~4月下旬頃から開花し始めます。

梅は自家受粉しない品種が多いため、品種ごとに適した受粉樹を混植し、ミツバチなどの花粉媒介昆虫を利用したり、人工授粉をしたりすることで、安定的に収量を確保します。

梅の花の受粉能力があるのは、開花後3日以内とされています。 その時期を逃さないためにも、受粉樹には結実させる樹との相性がよく、同時期か少し早く開花する品種を選びましょう。

梅の園地に設置されたミツバチ巣箱

めいおじさん / PIXTA(ピクスタ)

より確実に着果させるには、受粉樹として開花時期の異なる品種を2本以上植え付けるのがポイントです。そうすれば、気候や天気が不安定で、開花のタイミングが合わなかったり、十分に花粉が取れなかったりしたときに補えます。

ミツバチを利用する場合は、開花に合わせて巣箱を園地内の暖かい場所に設置します。ミツバチは各地の養蜂業者からレンタルできますが、花粉交配用のミツバチが不足している場合もあるので、早めに準備を始めることがポイントです。

地域によっては梅の開花期の気温が低かったり、開花期に降雨が続いたりして、ミツバチの行動が鈍くなり、受粉の効果があまり現れない場合があります。

その場合は、あらかじめ採取しておいた受粉樹の花粉を、筆や羽根ボウキなどを使って結実させる樹の花に付け、人工授粉を行います。

▼梅の受粉・授粉については、下記記事をご覧ください。

3月には、梅の全滅リスクもある「遅霜対策」の徹底を

開花期が終わると、無事に受粉した花のがくの中に小さな実ができます。この頃に注意したいのが、遅霜(おそじも)です。遅霜は4~5月初旬にかけて、放射冷却が起こると発生しやすくなります。幼果が霜に当たると変色・落果し、一晩で全滅する恐れもあります。

遅霜対策として、まず園地内の地上1.5mほどの高さに温度計を設置し、遅霜発生の予測をするための気温測定をします。遅霜発生の目安としては、よく晴れて風がなく、日中は暖かくても夕方以降1時間に1℃以上気温が低下し、18時頃の気温が10℃以下という条件のときです。

遅霜のリスクを下げるために、以下の点にも注意しましょう。

・土壌の乾燥は気温低下を促すので、十分に灌水して土壌の湿度を高めること
・冷気は下に流れるため、傾斜地では下に防風ネットや障害物があれば取り除き、冷気が園地に溜まらないようにすること
・草生栽培における下草や、敷わら・マルチなどは日中の地温上昇や夜間の土壌からの放熱を妨げ冷却を助長するため、下草は短く刈り、遅霜のリスクがある時期には土壌を覆わないこと

防霜ファン 遅霜

スミレ / PIXTA(ピクスタ)

遅霜のリスクの高い地域では、一定の気温以下になると自動的に作動する防霜ファンを設置するのも効果的です。防霜ファンは、上部の空気と下部の空気をかくはんすることで、霜が降りるのを防ぎます。

ただし、マイナス3℃以下になると防霜ファンだけでは気温の低下を防ぎきれません。その場合は、灯油や市販の防霜資材を使った「燃焼法」を併せて行うとよいでしょう。燃焼法を行うときには近隣住民の迷惑とならないように、近隣の消防署への届け出が必要です。

ほかにも、スプリンクラーなどで樹体に均一に水をかけることで、気温が0℃以下になることを防ぐ「散水氷結法」もあります。散水氷結法では10a当たり1時間で4t以上の水を使うことになります。

防霜ファンなどの設備がない園地では、気温の変化に注意しながら燃焼法で霜を防ぎましょう。

[注意] ミツバチ保護のため、開花期の農薬散布は行わない!

梅の栽培では、冬の間でも蛾の発生や灰星病などの防除が必要です。しかし、農薬の使用はミツバチやほかの訪花昆虫への影響が大きいため、巣箱を設置する前後から農薬散布は行わないのが原則です。

やむを得ず農薬を使用する場合には、巣箱に薬剤がかからないように注意し、ミツバチやほかの訪花昆虫に影響の少ない農薬を選びましょう。散布は風のない日の早朝や夕方といったミツバチの活動しない時間帯に行います。

【3月~5月/発芽期~】 施肥、および病害虫防除作業の実施

開花期が終わると、3~5月にかけて発芽期を迎えます。この時期には実を肥大させるために、適切な施肥や病害虫防除、除草、灌水などの管理が必要です。

4月~5月には、実肥として化成肥料を散布

5月の梅の園地 実が肥大し始めている

mmaki / PIXTA(ピクスタ)

肥料は、果実を付け始める4~5月頃に実肥を、収穫後にお礼肥(おれいごえ)をそれぞれ施用します。実の付き具合を見て、実肥を2回に分けてもよいでしょう。地域で施肥基準が提示されている場合には、それを参考にしながら品種や園地の土壌状態、収量に合わせて加減します。

一例として、「南高」の収量2tを基本としたJA紀南の施肥基準(10a当たり)は、以下のとおりです。

・4月に実肥として、FTE入り有機化成肥料(8-6-10)を40kg
・5月に実肥として、微量要素入り化成肥料(14-10-8)、または、高度化成肥料(14-10-13)を40kg
・収穫前後にお礼肥として、FTE入りのペレット肥料(7-6-7)を140kg、または化成肥料(10-6-7)を100kg

出典:JA紀南「営農指導」所収「令和5年 梅栽培暦」

▼梅の施肥については以下の記事も参照してください。

3月~5月にかけて、かいよう病や黒星病、アブラムシ類等を徹底防除

梅 かいよう病

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

梅 黒星病

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

開花期が終わったら、品質・収量を上げるために病害虫防除を徹底します。この時期に特に注意すべき病害は「灰色かび病」「かいよう病」「黒星病」です。また、害虫ではアブラムシやカイガラムシ類の発生に気を付けます。

それぞれ農薬が有効で、灰色かび病には「ロブラール水和剤」が、かいよう病には「Zボルドー」「マイコシールド」が適用しています。

そのほか、黒星病や灰星病、灰色かび病、環紋葉枯病やすす斑病、枝枯病と多くの病害に適用のある「ベルクート水和剤」や、黒星病とすす斑病に有効かつ無人航空機での散布にも適用した「デランフロアブル」を用います。

梅 タマカイガラムシ 寄生枝

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

害虫には「モスピラン顆粒水溶剤」「フェニックスフロアブル」などがあります。

なお、上記で紹介した農薬は2023年1月9日現在、梅で登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。

病害虫以外にも、この時期は雑草の繁茂にも気を付けましょう。除草には、小粒核果類に適用のある「バスタ液剤」が、一年生・多年生雑草ともに有効です。

また、梅雨の時期に雨が少ない場合や、晴天が1週間以上続いた場合などは土壌の乾燥に注意し、灌水の管理を適切に行うことも、品質や収量の向上には欠かせません。

【6月/成熟期】 青梅・漬け用完熟梅の収穫

次に、収穫に当たって気を付けるべきポイントについて解説します。

用途に応じて、適切な熟度で収穫する

収獲直後の青梅

Orange_Bowl_70 / PIXTA(ピクスタ)

梅の収穫時期は、暖地で6月上旬から下旬にかけての1ヵ月ほどです。青梅・完熟梅それぞれに適した品種があり、収穫時期も異なります。

人気品種の「南高」を暖地で栽培した場合は、おおよそ6月上旬頃から青梅の収穫を始めます。中旬頃には黄色く色付き始めるので、下旬までに完熟梅を収穫します。

同一の品種から青梅で出荷する分と、完熟してから出荷する分をあらかじめ決めておき、収穫は計画的に行います。完熟した果実は保存性に乏しいので、出荷までの保存にも注意が必要です。

鳥獣害等の対策のため、収穫後に追熟させる方法も

完熟梅の出荷

Orange_Bowl_70 / PIXTA(ピクスタ)

通常、完熟梅の収穫は自然に樹から落ちるのを待ち、事前に設置したネットで集めます。

しかし、果皮・果肉ともに赤色に着色する「露茜(つゆあかね)」という品種では、完熟まで待つと鳥やタヌキなどの鳥獣害を受けやすく、熟度のばらつきも多いという問題がありました。

そのため、現在では完熟まで待たず未熟な果実を収穫し、エチレン処理により追熟させる方法が確立されています。

梅干しへの加工

Orange_Bowl_70 / PIXTA(ピクスタ)

【10月~12月/落葉期~】 整枝・剪定の実施、基肥の施用

最後に、収穫後に行う整枝・剪定や土作りなどの作業について解説します。

収穫後は、ほ場の除草と基肥の施用を実施

地力の低い園地では、収穫後、夏の間になたね粕や鶏ふんを施用し、地力の向上を図ります。その後、9〜10月に基肥を施用し、10月以降には土作りを行います。

前述のJA紀南の栽培暦では、バーク堆肥を10a当たり2〜4t、苦土石灰を140kg、BMようりんを60kg、FTEを6kgを基準設計としています。

出典:JA紀南「営農指導」所収「令和5年 梅栽培暦」

これを参考に、自身の園地の土壌診断結果も踏まえ、冬までに十分な有機質を投入して地力を高めます。

秋期~冬期に整枝・剪定を行い、来年の収穫に備えよう

梅の枝 剪定 剪定バサミ

NOV / PIXTA(ピクスタ)

梅の樹が休眠期に入った11月以降に、整枝・剪定を行います。梅は成長が早く、枝がどんどん伸びるので、こまめな剪定をするのがポイントです。

剪定作業は、開花後の4〜5月や収穫後の7〜8月にも行います。開花後の剪定は、新しい枝を芽吹かせるために行い、枝ごとに新芽を3〜4個残して、枝の先を1/3ほどのところでカットします。

収穫後の剪定は、成長して翌年花になる「花芽」が付くのを促すために行います。長く伸びた枝や交差した枝、内側に伸びた枝などを短く切り戻します。

そして、休眠期に行う剪定は特に重要です。樹形を整え、日当たりや風通しをよくして安定した収量を確保するために欠かせません。

剪定バサミと剪定ノコギリを用いて、植え込みを行ってから3年目までは幹や太い枝の成長を促すようにカットします。4年目以降は、勢いよく上に伸びる枝や交差した枝、内側に伸びた枝などを短く切り、枝が混み合わないように形を整えながら剪定しましょう。

春を迎えた梅の園地

miamiwatase / PIXTA(ピクスタ)

実梅の栽培暦は地域や品種によって多少異なりますが、梅の品質や収量を安定的に確保するには、栽培暦を基本として適切に栽培管理する必要があります。本記事で紹介した栽培暦を参考に、園地の特性や梅の樹の状態をよく見ながら、重要なポイントを押さえて作業しましょう。

また、梅などの果樹は長い間同じ樹から収穫を続けるので、長期的な栽培計画を立て、年間を通して病害虫防除や土作りを行うことも重要です。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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