【2023最新】イチゴの生産量ランキング!日本一の産地が立てる戦略とは?

イチゴの主要産地は栃木県・福岡県・静岡県・熊本県・長崎県・愛知県で、この6県だけで全国の収量・出荷量の約半分を占めます。本記事では、2021年産イチゴの生産出荷統計をもとに、最新の生産量ランキングとイチゴ栽培の最新事情をご紹介します。
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イチゴは、ハウス栽培のものが冬から春にかけて旬を迎え、全国の産地から集まったさまざまな品種が青果店やスーパーの店頭に並びます。各イチゴ産地では毎年のように新品種が登場し、品種・産地間で品質や生産量アップの熾烈な競争が繰り広げられています。
主要品種も! 都道府県別・イチゴの生産量ランキング【2023最新】

YUMIK/ PIXTA(ピクスタ)
まずは、農林水産省による2021年産作況調査の「野菜生産出荷統計」をもとに、イチゴの生産量(収量)の全国合計および都道府県ランキングトップ10を見てみましょう。
順位 | 県名 | 収穫量 | 構成比 | 作付面積 | 構成比 |
---|---|---|---|---|---|
1位 | 栃木県 | 2万4,400t | 14.8% | 509ha | 10.3% |
2位 | 福岡県 | 1万6,600t | 10.1% | 428ha | 8.7% |
3位 | 熊本県 | 1万2,100t | 7.3% | 298ha | 6.0% |
4位 | 愛知県 | 1万1,000t | 6.7% | 254ha | 5.2% |
5位 | 長崎県 | 1万700t | 6.5% | 266ha | 5.4% |
6位 | 静岡県 | 1万500t | 6.4% | 292ha | 5.9% |
7位 | 茨城県 | 9,220t | 5.6% | 240ha | 4.9% |
8位 | 佐賀県 | 7,380t | 4.5% | 160ha | 3.2% |
9位 | 千葉県 | 6,630t | 4.0% | 218ha | 4.4% |
10位 | 宮城県 | 5,000t | 3.0% | 136ha | 2.8% |
その他 | ー | 5万1,270t | 31.1% | 2,129ha | 43.2% |
全国計 | ー | 16万4,800t | 100.0% | 4,930ha | 100.0% |
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)」の「令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
収穫量トップ10の県は、収穫量5,000t以上で全体の7割弱を占めます。また、収穫量が1万t以上の6県で、全体の52%を占めています。
本記事では、トップ5の産地について、それぞれ詳しく生産状況を見てみましょう。
【イチゴ生産量:第1位】 栃木県

出典:株式会社PR TIMES(栃木県農政部経済流通課 プレスリリース 2022年1月15日)
栃木県では1月15日を「いちご王国・栃木の日」としてプロモーションを行っている
2021年産イチゴの生産量第1位の栃木県は、今回で1968年産以降54年連続収量1位の座に輝き、作付面積でも2001年産以降21年連続で1位を守っています。「いちご王国・栃木」としてキャラクターやアンバサダーを起用し、PR活動もとても積極的です。
県内では、すべての市町でイチゴが生産され、県の中南部が一大産地となっています。中でも真岡市・栃木市・鹿沼市・壬生町・宇都宮市などの市町が、作付面積の大きい主要な産地です。
また、栃木県では品種改良も盛んで、多くのオリジナル品種が育成されています。全国No.1のシェアを持つ主力品種の「とちおとめ」をはじめ、期待の新品種「とちあいか」「スカイベリー」や、白いイチゴの「ミルキーベリー」、夏に収穫できる「なつおとめ」などの品種を主に栽培しています。
【イチゴ生産量:第2位】 福岡県

株式会社PR TIMES(JA全農ふくれん プレスリリース 2022年11月15日)
福岡県とJA全農ふくれんは、「博多あまおう」の本格的な生産販売開始から20年を記念し、『「博多あまおう」20周年プロモーション』を実施している
福岡県は、10a当たりの収量は3,880kgと7位に甘んじていますが、作付面積は428haと3位以下を大きく上回り、2位となっています。
主要品種は「あまおう(福岡S6号)*」です。近年、イチゴの品種は大粒のものが主流になっていますが、その先駆けともいえる「あかくて、まるくて、おおきくて、うまい」福岡が誇る人気品種です。
*商品名はあまおう、品種名は福岡S6号です
「あまおう」の栽培は、許諾契約を結んだ福岡県内の生産者および生産団体に限られます。福岡県のJAグループでは、差別化を図るため「博多あまおう」のブランド名で販売しています。2022年は「博多あまおう」20周年ということで、福岡県やJA全農ふくれんが主体となって大々的にキャンペーンを行っています。
県内の主なイチゴ産地は、広川町・筑後市・大川市・八女市・前原市などです。
【イチゴ生産量:第3位】 熊本県

株式会社PR TIMES(JA全農の産直通販JAタウン プレスリリース 2021年12月15日)
2021年12月、「JA全農の産直通販JAタウン」に熊本県産の「ゆうべに」と「恋みのり」を食べ比べできる商品が登場
熊本県は作付面積が微減しているものの、10a当たり収量を前年比102%と伸ばし、3位となりました。主要品種は比較的新しい「ゆうべに」や「恋みのり」などです。
「ゆうべに」は2015年、100年に一度しかない「15(イチゴ)」イヤーに誕生した、食味がよく中まで赤いのが特長の熊本県のオリジナル品種です。熊本県産イチゴの主力品種として、マスコットキャラクターやおなじみの「くまモン」が盛り上げています。
県内の主なイチゴ産地は、横島町・天水町・竜北町・玉名市などで、平たん地から中山間地までさまざまな地域でイチゴ栽培が行われています。
【イチゴ生産量:第4位】 愛知県

株式会社PR TIMES(株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド プレスリリース 2021年1月6日)
2021年の2月から3月にかけ、名古屋プリンスホテル スカイタワーで、「ゆめのか」「章姫」など愛知県産のイチゴを使ったスィーツのフェアが実施された
温暖な東海地方からランクインしたのは愛知県です。作付面積は254haと、同じ東海地方の静岡県(292ha)を下回りますが、10a当たり収量が4,320kgという生産性の高さで4位の座に輝きました。
冬も日照量が多いことにより、厳冬期であっても糖度の高いイチゴ栽培が可能となっています。
愛知県で生産されているイチゴは、主に「とちおとめ」「章姫」「紅ほっぺ」「ゆめのか」などです。このうち「ゆめのか」は、2007年に品種登録された愛知県のオリジナル品種で、やや大粒のジューシーな実が特長です。
2022年9月には、ゆめのか以来15年ぶりに愛知県発の新ブランド「愛きらり」が商標を取得しました。イチゴ農家や関係団体が立ち上げた「愛知県いちご新品種ブランド化推進協議会」が、PRや需要拡大に向けた取り組みを進めています。
県内の主なイチゴ産地は、愛西市・西尾市・豊橋市・豊川市・蒲郡市・岡崎市などで、県内一帯でイチゴが栽培されています。
【イチゴ生産量:第5位】 長崎県

株式会社PR TIMES(JA全農の産直通販JAタウン プレスリリース 2022年1月27日)
JA全農ながさきは、「JA全農の産直通販JAタウン」内の「もぐもぐながさき」で「ゆめのか」など「長崎いちご」の販売に注力している
長崎県は、作付面積・収量ともにほぼ前年並みをキープし、5位にランクインしました。主な産地は県央地区・長崎地区・西彼地区などですが、温暖な気候を活かして県全体でイチゴの生産に取り組み、県統一ブランドとして「長崎いちご」を販売しています。
主な品種は、従来は「とよのか」を親に持つ「さちのか」が主力でしたが、現在は「ゆめのか」の生産に力を入れています。県内の「ゆめのか」生産農家が協力し合い現地検討会を開催するなど、「長崎ゆめのか」を日本一人気のイチゴにしようと、品質向上に努めています。
また、「ゆめずきんちゃん」というキャラクターを活用したPR活動も盛んです。
世界と比較すると? 生産量と栽培面積から見る、国内イチゴの現状

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日本のイチゴは、世界中でも「おいしくて甘い」と品質の高さが評価され、シンガポールや台湾など富裕層からも好まれています。しかし、世界市場の中で見れば、日本のイチゴのシェアはまだ低い状況です。そこで以下では、世界から見た日本のイチゴ事情について解説します。
出典:独立行政法人農畜産業振興機構 「月報 野菜情報 今月の野菜 いちご 2018年12月」
日本全体のイチゴ生産量と近年の推移
前出の表から、2021年の全国のイチゴ生産状況を見ると、全国では作付面積が昨年比98%とわずかに減少していますが、収量・10a当たり収量・出荷量はすべて100%を超え、結果として生産量を増やしています。
次に、農林水産省の「野菜生産出荷統計」からイチゴの「作付面積、収穫量及び出荷量累年統計」をもとに、1970年代以降の生産量の推移を見てみましょう。
作付面積は減少の一途をたどる一方、収穫量は1980~1990年頃まで大きく増加し、そこから減少しています。こうした背景には、この時期の品種改良や生産技術の向上があると考えられます。

出典:農林水産省「作物統計|作況調査(野菜)」の「長期累年」「令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部が作成
一方、家計調査によれば、イチゴを含めて青果全体の国内消費量は減少傾向にあるものの、ほかの果物と比較するとその下げ幅は緩やかです。また、コロナ禍で家庭内の食料品消費が増えたこともあり、イチゴは比較的安定した需要が見込めます。
出典:独立行政法人 農畜産業振興機構 令和3(2021)年の生鮮野菜の消費動向(令和3年1-12 月家計調査)
世界一の産地は? イチゴ生産量の国別ランキング
2021年の世界のイチゴ生産量では、中国が338万tで1位、アメリカがその半分以下の121万tで2位、3位がトルコの67万t、4位がメキシコの54万t、5位がエジプトの47万tと続きます。日本は16万tで世界第11位、シェアはわずか約1.7%です。
日本のイチゴが品質で高い評価と人気を得ながらも、シェアが伸びない事情には、マーケティングの弱さや、日本のイチゴが柔らかく、長期の輸送が難しいことなどが挙げられます。
また、日本産のイチゴが海外でも産地別に対立し、ブランド別に売り込むため全体のアピール力が劣ってしまう、といった事情もあります。今後、輸出量を伸ばしていくには、これらの課題解決が重要です。
一方、国内でも近年、輸入イチゴを見かけるようになりました。生鮮イチゴの輸入は、国内産イチゴの生産が減少する夏から秋の時期に見られ、ほとんどがアメリカから、そのほかオランダや韓国からも輸入されています。
また、加工用原料として輸入される冷凍イチゴは約半分が中国産となっています。
ただし、輸入品に対して品質面での不安があるため、夏場も国産へのニーズが高まっています。近年は日本でも「なつおとめ」や「すずあかね」など、夏に収穫できる「夏秋イチゴ」の品種開発が進んでおり、需要に応えています。
「夏秋イチゴ」は需給バランスにより単価が高いうえ、ケーキ店・アミューズメントパークなど業務用での安定した需要があるため、収益性も高く注目されています。
日本一の産地に学ぶ! イチゴ生産量を増やす“3つの工夫”とは?

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今後イチゴの生産量を増やし、国内のほかの産地や世界の産地にも負けない産地・農家となるためには、品質の高さだけに頼らず、地域ぐるみで一体となったマーケティングへの取り組みが必要です。
参考事例として、日本一の産地である栃木県で行われている取り組み例を3つご紹介します。
「とちおとめ」から「とちあいか」へ! 新時代を担う品種への切り替え

Taisuke / PIXTA(ピクスタ)
栃木県では、これまでイチゴ生産全国トップの座を支えてきた主力品種「とちおとめ」の生産量を減らし、新品種「とちあいか」への切り替えが進んでいます。
その背景には、「とちあいか」は「とちおとめ」と同じ面積で作付けした場合、生長が早いうえに1.3倍も多く収穫できるという生産性の高さがあります。
生産農家の収益向上をめざし、食味に優れ、断面が「ハート形」に見えることから見た目もよい「とちあいか」を今後、栃木県の主力品種とするという県の意向を受け、県全体で「とちおとめ」の生産を減らしているとのことです。
このように、県がブランドの方向性を決め、主力品種の減産というリスクを負ってでも個々の農家が力を合わせて生産を調整していくことが、強いブランド力を維持する秘訣の1つといえるでしょう。
SNSを上手に活用! 積極的なプロモーションで消費の拡大を狙う

metamorworks / PIXTA(ピクスタ)
今や商品のプロモーションには、SNSやホームページなどインターネットの活用が欠かせません。
消費量拡大を狙い、栃木県は「いちご王国」を名乗って専用のホームページを作成するとともに、FacebookやInstagramにもアカウントを持って、積極的に情報を配信しています。
王国内には独自のキャラクターがいて、栃木県のイチゴ生産の歴史を「王国の歴史」として紹介したり、県内産地を「王国のパートナー」と紹介したり、就農相談や農場試験場の研究も王国を通して紹介したりするという徹底ぶりです。
それと並行して、「いちご王国・栃木」検定の創設や、王国産イチゴを使ったスイーツコンテストの開催、さらに王国の新名物として「いちごナポリタン」のパスタソースを作成し、ふるさと納税の返礼品とするなど、さまざまな方法でPRを進めています。
かつて香川県が「うどん県」として知名度アップに成功したように、県全体の徹底したプロモーションで栃木県を「いちご王国」として売り出し、メディアにも少しずつ取り上げられるなど成果を上げています。
農業大学校に「いちご学科」を新設! イチゴ農家の育成基盤も整備
「いちご王国」の活動は、消費者に向けたPRだけに限りません。2021年に栃木県農業大学校に日本初の「いちご学科」を新設し、イチゴ生産の担い手育成を推進しています。
また、イチゴ生産の研修や体験、移住支援なども含めた就農希望者へのサポートも充実させ、イチゴ農家を増やすための取り組みを積極的に行っています。こうした、後継者の育成も含めた地域での取り組みは、今後ますます重要となると考えられます。
日本国内で青果の消費が全体的に落ち込む中、イチゴはニーズに合わせた品種改良が各産地で行われていることもあり、比較的需要が安定しています。各産地が競争の中で互いに品質や生産方法を磨き向上させてきた、という経緯もあります。
今後は国際市場への進出や、イチゴそのものの消費拡大をめざし、産地を越えて農家が手を取り、協力し合うことも大切です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。