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玉ねぎ農家の年収は?儲かる?1年の仕事と経営のコツ

玉ねぎ農家の年収は?儲かる?1年の仕事と経営のコツ
出典 : sasaki106/ PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎは年間を通して需要があり、近年は加工用の需要も高まっていることから比較的安定した収入が見込める作物です。スマート農業の導入や規格外品の活用など、新たな活動に取り組む意欲的な農家も多く、作付面積は野菜の中でも増加傾向にあります。

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新たに玉ねぎ栽培に取り組もうとしている農家にとって、玉ねぎ農家の収入や年間の作業内容、将来性は大いに気になるところでしょう。本記事では、玉ねぎ農家の年収や作業スケジュール、所得を増やすためのポイントなどを解説します。

玉ねぎ農家の年収はいくら?儲かる?

玉ねぎ 栽培 トラクター

kiki/ PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎ農家と一口に言っても、産地や規模によって収入は大きく異なります。それを踏まえたうえで、1つの目安として参考になるデータをいくつか紹介します。

まず、農林水産省「令和2(2020)年営農類型別経営統計」の「露地たまねぎ作部門」を見てみます。

30の個人経営体について集計した結果、部門粗収益は1,551万6,000円(うち共済・補助金等受取金が127万9,000円)で、部門経営費が1,421万5,000円、収益から経費を差し引いた部門所得が130万1,000円となっています。

2020年 露地野菜作部門の経営収支(万円)

出典:農林水産省「令和2(2020)年営農類型別経営統計」よりminorasu編集部作成

ほかの露地の葉菜・根菜類と比較して粗収益は決して低くないものの、経営費が高いため、部門所得率は8.4%と1割を切っています。

2020年 露地野菜作部門の粗収益 vs. 所得率

出典:農林水産省「令和2(2020)年営農類型別経営統計」よりminorasu編集部作成

これらのデータから、年収を上げるにはコストカットや省力化がカギとなることがわかります。


もう1つ、2007年まで行われていた「品目別経営統計」も、やや古い情報ではありますが、玉ねぎ生産の状況を知る参考になります。

最後のデータとなる2007年の「露地野菜作経営 たまねぎ」の調査結果では、北海道、愛知、兵庫、佐賀の4つの主要産地含む全国の産地で、計48戸の農業経営体に対して調査した結果が示されています。

■玉ねぎの1戸当たり経営収支(2007年)

玉ねぎの1戸当たり経営収支(2007年)

出典:農林水産省「品目別経営統計 2007年」よりminorasu編集部作成

この表では、ほかの産地と比較して北海道の作付規模が群を抜いて大きく、その分、粗収益の規模も高いことがわかります。

10a当たりでみると、粗収益は温暖地の3分の2から半分程度で、経営費は全国平均21万1,000円に対して19万7,000円とやや低い程度なので、所得率は低くなっています。

■玉ねぎの10a当たり経営収支(2007年)

■玉ねぎの10a当たり経営収支(2007年)

出典:農林水産省「品目別経営統計 2007年」よりminorasu編集部作成

これは、北海道では主に大規模経営で加工・業務用の玉ねぎを中心に生産しているためです。

この表からわかるように、玉ねぎ生産の状況は北海道と本州以南とでは規模が違い、事業経済性も大きく異なります。自分の地域での生産状況を知りたい場合は、各都道府県で公示している経営指標一覧を参照するとよいでしょう。

所得の予想を立てるもう1つの指標として、玉ねぎの取引価格があります。

東京都中央卸売市場の統計月報をみると、玉ねぎの卸売価格は年間を通して、概ね1kg当たり70~160円前後の範囲に収まっています。

東京都中央卸売市場 玉ねぎの1kg当たり価格

出典:東京都中央卸売市場「統計月報・年報」よりminorasu編集部作成

ただし、2021年の冬から2022年の春にかけて平年の2倍近くまで価格が上がりました。それは主産地である北海道産が2021年夏の高温干ばつで不作になり、さらに2022年4月以降は低温や多雨のため掘取が遅れ、出荷量が減少したためです。

しかし、2023年時点ではすでに平年並みに落ち着いています。この結果から、玉ねぎは比較的に安定して収益を得られる作物といえるでしょう。

玉ねぎ農家の年間スケジュール

玉ねぎ 植え付け

kiki/ PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎ栽培を始めるに当たっては、年間の栽培スケジュールを把握しておくことも重要です。特に、水稲栽培の裏作など、ほかの作目と並行して栽培する場合は、繁忙期が重ならないように作業が調整できるかどうか、よく検討することが大切です。

また、ほかの産地からの供給が不足する端境期を狙って出荷できるように調整すれば、単価を大幅に上げることも可能です。そのため、自身のほ場のある地域だけではなく、各地の主な作型や栽培スケジュールについても把握しておくとよいでしょう。

玉ねぎの作型の主流は、東北以南、特に西日本などの暖地における「秋まき春どり」と、北海道の「春まき秋どり」の 2つの作型です。

このほか、東北・北陸で行われている「春まき夏どり栽培」や、西南暖地で行われている「セット冬どり栽培」などもあり、新玉ねぎとしてすぐに出荷するもの以外は貯蔵して周年で供給されます。

タマネギの慣行作型とセット初冬どり新作型の栽培暦

出典:福島県「農業総合センター技術マニュアル」所収「東北地域におけるタマネギセット栽培マニュアル」

なお、セット栽培とは、苗ではなく直径 2cm 程度の小球である「セット球」を夏に定植し、冬に新玉ねぎを収穫する栽培方法で、主に九州など西南暖地で行われています。

近年、このセット栽培を東北などの寒冷地で取り入れる「セット初冬どり」という技術が開発され、これまで供給の少なかった初冬の新玉ねぎが生産できるようになっています。

また、端境期の7〜8月に収穫できる、東北以南の「冬春まき」が開発されました。この作型での注意点は、病害虫の発生が多いため防除を徹底することです。

「冬春まき」の作型例

「冬春まき」の作型例

出典:JA全農「栽培関連情報」所収「東北以南におけるタマネギの冬春まき栽培マニュアル」

玉ねぎの作付面積は増加傾向

玉ねぎ畑

kiki / PIXTA(ピクスタ)

次に、近年の玉ねぎ栽培の動向について見てみましょう。

2009年〜2020年まで12年間の野菜の作付面積を調査した農林水産省の資料によると、野菜の作付面積は総じて減少傾向にあるものの、玉ねぎについてはゆるやかな増加傾向が見られます。

全国の玉ねぎ栽培面積は、2009年の24,000haから2020年には25,500haと、12年で約1,500haも増加しており、増加している品目の上位3位に当たります。

出典:農林水産省「野菜の作付面積及び販売農家数」

玉ねぎは通年で高い需要が見込め、価格も安定していることから各地で積極的に導入が進んでいることが理由として考えられます。

近年注目を集める「加工・業務用玉ねぎ」

玉ねぎ 工場 加工

kurga / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎ栽培において、近年では加工・業務用の需要が高まっています。安全性への考慮や供給の安定性から、これまで輸入農産物に頼っていた食品業界や外食産業で、国産野菜のニーズが高まっていることが主な理由として考えられます。

直近ではコロナ禍やウクライナ情勢で輸入品の供給が不安定になったことで、国産品への需要が一気に高まりました。

反対に、一般消費者の生食用玉ねぎへの需要は減少傾向にあることから、国内では加工・業務用玉ねぎの生産に向けた新たな産地の開拓や、新品種の開発が進んでいます。

なお、加工・業務用は需要が安定しており、出荷規格も簡素で機械化システムも整備されています。水稲栽培との競合作業も少ないため、水田での栽培も可能です。ただし、安定した収量の提供が欠かせないため、今後は生産の効率化や規模拡大を進めていくことが求められます。

玉ねぎ産地の先進的な取り組み事例

次に、玉ねぎ生産における先進的な取り組み事例を紹介します。

スマート農業の導入:宮城・秋田・岩手

農業 ネットワーク 情報交換

metamorworks/ PIXTA(ピクスタ)

東北地域は、小規模の玉ねぎ生産農家の点在、また移植時期の短さや収穫時期の気候条件などもあり、これまで安定した収量が得られませんでした。

しかし、玉ねぎの主要産地である北海道と西南暖地からの出荷が少なくなる7~8月にかけての収穫が東北では可能なことから、この時期の、主に加工・業務用の需要を満たす玉ねぎの生産が促進されています。

株式会社みらい共創ファーム秋田、双日株式会社、および農研機構は、8月3日、東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォームを設立

株式会社みらい共創ファーム秋田、双日株式会社、および農研機構は、8月3日、東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォームを設立
出典:株式会社PR TIMES(双日株式会社 プレスリリース 2022年8月3日)

民間企業の株式会社みらい共創ファーム秋田と双日株式会社は、これまで収量が安定しなかった東北地方での初夏どり玉ねぎの安定的な収穫をめざし、農研機構とともに「東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォーム」を設立しました。

このプラットフォームは、スマート技術を活用して地域関係者が広域で連携して情報交換を行い、新たな生産・加工・流通システムを構築することを目的としています。

広域連携システムの構築に向けて活用されているのが、生育、気象、環境、出荷データなどを蓄積して栽培マニュアルのデジタル化を可能にする「NEC営農指導支援システム」というシステムです。

同プラットフォームに参加している農家や関連業者は、このシステム上で個々の農家が入力した栽培状況をもとに生育状況が確認できます。

システムに集約されたデータは、研究施設や大学、種苗会社と共有し、より精度の高い情報分析や技術開発に活かすほか、流通業者や加工業者ともつながり、需要見込みを共有することも可能です。

このプロジェクトは実証実験を経て2022年にスタートしたばかりですが、今後は参加者を募ってプラットフォームの拡大を図り、新たな加工・業務用玉ねぎの産地形成を進めていく計画です。

出典:
農研機構「(お知らせ)東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォームの設立」
農林水産省 東北農政局「スマート農業推進フォーラム2022 in 東北」所収「東北地域のタマネギ生産の安定化と出荷連携体制の構築に向けた実証における取り組みのご紹介(農研機構)」

生産・加工基盤の整備:北海道

富良野市の玉ねぎ ほ場

やたがらす / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎの主要産地である北海道中富良野町では、ほ場の大区画化を実施したり、暗渠を利用した地下灌漑の導入で、移植機や収穫機などの大型農機を活用した効率化が可能となり、収量拡大を実現しました。

さらに、空気調整(CA)貯蔵庫やエチレン貯蔵庫を整備し、収穫後に適切な環境で保存しておくことで、玉ねぎが高値となる7月まで出荷時期を延長できるようになりました。

生産面での取り組みだけでなく、6次産業化を進めて玉ねぎの付加価値を向上させたり、「多面的機能支払交付金」を活用して地域全体で環境改善や清掃をしたりする活動も行っています。

この結果、町内の玉ねぎの作付面積は、2007年の672haから2019年には819haまで22%増加しました。

そのほか、JAふらの中富良野支所における農家1戸当たりの販売額は同時期に1,300万円から2,200万円まで69%も増加、JAふらのにおける加工品販売額も同じく3億8,900万円から5億1,400万円と32%増加するなど、販売も堅調です。

また、地域住民を巻き込んだ活動によって地域全体が活性化し、若手農業者の増加に伴い小学校の児童数も増加するという副次的な成果にもつながっているようです。

出典:農林水産省「農村振興プロセス事例集(第2弾)」所収「基盤整備を契機としたたまねぎの生産拡大と地域収益力の向上【北海道・中富良野町】」

暖地での機械化一貫体系&加工・業務用玉ねぎの推進:長崎県

前述のように、玉ねぎは収益性は低くないものの、コストや作業時間がかかることから、生産性が伸び悩む傾向にあります。これは大規模経営の多い北海道よりも小規模経営が多い本州の玉ねぎ農家において顕著です。

北海道の大規模経営ほ場では、加工・業務用玉ねぎの栽培が主流で、耕起から播種、管理作業、収穫、調整作業までの工程が機械化され、生産性が高いのが特徴です。

本州でも、近年は収穫後の調整作業が大幅に省力化できる加工・業務用の玉ねぎ栽培を取り入れ、機械化に取り組む産地が増えています。

小規模経営の多い本州の玉ねぎ農家が効率的に機械化を進めるには、地域の複数の農家と市町村、農業委員会、JAなどと連携してほ場を集約する必要があります。そのうえで、地域全体で機械化による一貫した生産体系を構築することで、作業の効率化と収益アップが実現します。

このような取り組みの一例として、長崎県の取り組みが参考となります。

長崎県平戸市の「ながさき西海農業協同組合」では、青果用の「吊り玉ねぎ」を出荷していました。しかし、管内生産者の高齢化が進み、収獲・出荷調整作業を省力化が求められていました。そこで考えられたのが、出荷調整作業の負担が軽い加工・業務用玉ねぎの導入です。

2011年度から、加工・業務用たまねぎの試験栽培を開始し、2012年度には先進地域である兵庫県や佐賀県などへの研修を実施しました。

そして、2013年度には県の事業で移植機、収獲機、鉄コンテナなどを導入し、加工・業務用たまねぎの産地化に取り組んできました。

結果、2011年度の試験栽培時には0.5haだった作付面積は、2014年度には11.8haまで拡大しました。

出典:農林水産省 九州農政局「九州地区の加工・業務用野菜優良事例について」所収「ながさき西海農業協同組合|機械化一貫体系による加工・業務用たまねぎの推進~ながさき西海農業協同組合(長崎県平戸市)~」
農林水産省「普及活動事例|平成27年度|県北地域における「加工用たまねぎ」の推進(長崎県)

玉ねぎ栽培で収益を上げるポイントについては、こちらの記事も参考にしてください。

玉ねぎは高い需要がありながら、収益性が低いために収入が伸びない産地が少なくありません。しかし、加工・業務用品種の導入や大規模化・機械化による作業効率の向上など、工夫次第で収益を大幅に上げることは可能です。

加工・業務用玉ねぎの国産品への需要が高まる中、玉ねぎ栽培は伸び代が大きく、今後も生産拡大が期待されています。もちろん、従来のように手をかけて生産する玉ねぎも、高付加価値農産物として維持しながら、多様な生産体系を構築しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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