かいよう病からトマトを守るために。伝染経路や発生原因を知り正しい防除対策を実践!
トマトかいよう病は細菌感染によって発生する病害で、内部組織を崩壊させたり果実や葉・茎など広範囲に病斑を形成したりします。かいよう病による減収を回避するためには、消毒をはじめとする防除の徹底が重要です。この記事では、かいよう病の特徴や、伝染経路、防除方法に加え、耐病性のある品種について解説します。
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かいよう病は、トマトだけに発生する種子伝染性の病害です。土壌伝染・接触伝染によって被害が拡大する恐れがありますが、感染から発病まで時間がかかるため、早期に発病株を発見できれば被害を軽減できる可能性があります。まずは、かいよう病の症状や発生条件について解説します。
かいよう病の特徴
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
かいよう病は「Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis」という細菌によって引き起こされる病害で、トマトだけに発生するのが特徴です。
1909年にアメリカで初めて発見されて以来、世界各地でトマトかいよう病の発生が問題になりました。
国内では1958年に北海道で初めて確認され、全国各地の施設栽培や露地栽培・養液栽培で発生が広がりました。細菌の生育適温は25~27℃、多湿環境で発生しやすいため、施設栽培・養液栽培では温度・湿度の管理に注意が必要です。
かいよう病の初期症状は淡褐色の脱水症状で、上位~中位葉に発生します。発生後3~4日ほどで脱水症状が進み、葉の黄化や巻き上がりが発生します。
水分バランスの崩れが原因の生理障害と症状が似ているため、病徴の変化については慎重な見極めが必要です。イムノクロマト法を用いた診断キットを活用すれば、短時間でかいよう病の有無を確認できます。
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状が進むと、葉全体が褐変して枯死に至ります。茎や葉柄の表皮にコルク状の斑点を形成する場合や、果実に鳥目状の病斑が生じる場合もあります。
また、青枯病など他の病害と併発する可能性もあるため、病害ごとの特徴を確認したうえで、早期にかいよう病を発見することが被害防止につながります。
トマトがかいよう病に感染する3つの経路
トマトかいよう病は種子伝染性の病害ですが、土壌伝染・接触伝染でも発病する可能性があります。接触伝染によって病害が拡大する傾向があるため、後述する防除対策を徹底することがかいよう病の伝染を防ぐポイントです。
種子伝染
発芽直後のトマト
霜越 まこと / PIXTA(ピクスタ)
種皮に付着した病原菌が子葉の気孔から侵入して発病します。病原菌が付着した種子を播種・育苗した場合は、苗床を通じて感染する恐れがあるので注意が必要です。トマトの種子は熱に弱い特性があるものの、乾熱消毒や温湯消毒が効果的とされています。
栽培が終わったトマトの片づけ
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
土壌や残さに付着した病原菌が根の傷口から侵入して発病します。土壌に残った感染株の根も伝染源となるため、感染拡大を防ぐためには残さの確実な除去が重要です。
接触伝染(二次伝染)
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
芽かき・葉かきや誘引といった管理作業中に健全株の傷口に触れてしまい、発病に至る事例も見られます。ほ場内の施設・機材に病原菌が付着して二次伝染を引き起こす場合があるほか、作業者の移動によって別のほ場に病原菌を持ち込むことも考えられます。
そのため、種子伝染・土壌伝染よりも影響が広範囲に及ぶ傾向があります。
かいよう病を防除する方法
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
かいよう病の感染拡大を防ぐためには、種子消毒や土壌消毒だけでなく農薬の予防的散布や作業中の消毒の実践が重要です。
以下では、かいよう病の防除方法について解説します。かいよう病に耐病性がある品種も紹介するので、かいよう病対策を検討する際は参考にしてください。
本圃は土壌消毒を
野菜ハウスの太陽熱消毒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトかいよう病に対応した土壌消毒剤は登録されていないため、太陽熱や熱水で土壌消毒を行うのが一般的です。普及が進みつつある、土壌還元消毒もかいよう病対策には有効です。
太陽熱による消毒
年間で最も高温となる7月中旬~8月下旬に、土壌の蒸し込み処理を行います。土壌の深さ40cmの部分で30℃以上の地温が1ヶ月程度確保できる期間に土壌消毒を実施するのがポイントです。
熱水による消毒
土壌の深さ30cm程度まで耕起した後、土壌表面に灌水チューブを等間隔に敷設して1平方m当たり100~150Lの熱水を注入します。大量のエネルギーが必要となりますが、安定した消毒効果を得られるのが特徴です。
土壌還元消毒
糖含有珪藻土や糖蜜吸着資材といった新規資材を10a当たり1~2t散布して混和した後、湛水状態になるまで水を注入します。灌水量が不足すると資材に含まれる糖が溶けきらず、消毒効果が低下するので注意しましょう。
消毒開始後の3日間に晴天が続けば地温が十分に上昇し、消毒効果が高まります。
農薬の予防的散布に努める
yoshifusa / PIXTA(ピクスタ)
かいよう病が発病した後の防除は困難なため、茎や葉に農薬を散布して発病を予防します。仮に発病株が見つかったとしても、二次伝染の防止に効果を発揮します。
農薬を使用する際はラベルに記載された使用方法を十分に確認し、不明な点はメーカーや普及指導センターなどに問い合わせるなどして適切に使用しましょう。
・カスミンボルドー
細菌性の病害に効果があるカスガマイシンと、汎用性殺菌剤である銅剤を混合した農薬です。耐雨性に優れており、効果も安定しています。収穫前日まで最大5回利用可能です。
・マイコシールド
広範囲抗生物質テトラマイシンが17.0%含まれている農業用抗生物質剤です。細菌のタンパク質合成を阻害して高い抗菌活性を示すのが特徴です。収穫開始の7日前まで、最大2回利用可能です。
・クプロシールド
塩基性硫酸銅が有効成分のフロアブル剤で、収穫直前まで利用でき、作物への汚れが少ないのが特徴です。JAS法の有機農産物栽培で使うことができます。
資材の消毒はもちろん、作業中の消毒をこまめに
andrianocz / PIXTA(ピクスタ)
かいよう病の伝染を防ぐには支柱やハサミといった資材の消毒はもちろん、作業者もこまめに手・指などの消毒を行うなど細菌が付着しない作業環境を整えることが大切です。
芽かきや誘引・摘果など手で作業を行う際は、ゴム製または塩化ビニル樹脂製の使い捨て手袋を着用するようにします。手袋をはめたらケミクロンG500倍液で消毒してから作業を開始し、50株ごとを目安に作業終了まで繰り返し消毒を行います。
資材の消毒にも、ケミクロンGは有効です。ただし、ケミクロンGは作物の防除には対応していないため、消毒液が作物に触れないように注意しましょう。
薬剤や熱で刃を自動消毒するハサミの活用も、かいよう病の防除には効果的です。薬剤で自動消毒するタイプのハサミは、開く動作と同時に薬剤が刃に噴霧されます。70%エタノールやケミクロンG500倍液などを消毒液として利用できます。
また、熱で自動消毒するタイプのハサミは、外付けのボンベから供給されるガスを燃焼させて刃を高温にすることで消毒効果が得られます。
発病株を触ったら、健全株は触らない
二次伝染を防ぐため、かいよう病の発病株を触ったら手・指や使用した資材を消毒または洗浄するまで健全株に触らないようにしましょう。伝染拡大の防止だけでなく農作業を効率良く進めるためにも、発病株や発病の疑いがある株の管理作業は最後に実施するのがポイントです。
発病株を見つけたら速やかに根から抜き取り、根に付着した土と一緒にほ場外で焼却処分します。発病株が見つかったほ場では次年度以降の土壌伝染を防ぐため、栽培終了後に資材と土壌の消毒が必須です。
また、健全株に発病株から飛散した病原菌が付着しないよう、管理作業は晴天時に行うのもポイントです。
耐病性のある台木の導入
vallefrias/adobe stock
耐病性のある台木の導入も、かいよう病対策の一つの方法です。株に病原菌が移行した場合でも発病が抑えられ、発病したとしても枯死を回避できます。台木を導入する際は、穂木の部分が地面と接触しないように移植するのがポイントです。耐病性のある台木の品種を紹介します。
Bバリア
「Bバリア」は青枯病や根腐萎凋病など複数の病害虫に耐性がある品種です。Bバリアを自根苗として栽培した場合はかいよう病の発病株率が19%ですが、「桃太郎サニー」と接木すると発病株率が60%に上がります。
一方、桃太郎サニーを自根苗として栽培した場合の発病株率は63%で枯死株の発生も見られるため、接木した場合も一定の耐病性が期待できます。
製品ページ:タキイ種苗株式会社「台木用トマト|Bバリア」
出典:広島県「農業技術センター 平成27年度 研究成果情報集」所収「トマトの品種別かいよう病耐病性(栽培技術研究部・生産環境研究部)」
ボランチ
「ボランチ」は青枯病や褐色根腐病などにも耐病性がある品種です。「CF桃太郎ファイト」との接木でかいよう病の発病株率が40%に抑えられます。
また、台木の維管束の褐変率は73%、穂木の維管束の褐変率は80%なので、耐病性のある台木を導入することで上部への細菌の移行を抑えられるといえます。
製品ページ:タキイ種苗株式会社「台木用トマト|ボランチ」
出典:東京都農林総合研究センター「単年度成果(平成28年度)」所収「16-1 台木品種を用いたトマトかいよう病の防除効果」
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
トマトかいよう病の初期症状は生理障害と似ていますが、発病後3~4日で葉の黄化や巻き上がりが発生し、やがて枯死します。かいよう病の被害は、土壌伝染や資材・作業者を介した接触伝染によって拡大する傾向が見られます。
被害を最小限に抑えるためには、土壌消毒や作業中の消毒作業の実践が必須です。Bバリアやボランチといった耐病性のある台木と他品種の穂木を接木しても防除効果を期待できます。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。