太陽熱土壌消毒の方法は? 防除効果を高めるには
太陽熱土壌消毒は、土壌中の病害虫の予防・防除に効果的であるだけではなく、特殊な機材を必要としないため費用面でのメリットもあります。本記事では、太陽熱土壌消毒の具体的な作業工程や防除効果を高める工夫を紹介します。
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1990年代までの主たる土壌消毒剤は、臭化メチルでした。その代替技術として研究されてきた土壌消毒方法が太陽熱土壌消毒です。本記事では、太陽熱土壌消毒の方法、その効果や注意点に加え、病害虫の防除効果を高める工夫について紹介します。
太陽熱土壌消毒とは
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
太陽熱土壌消毒とは、太陽光を利用した加熱処理によって土壌の地温を上昇させて行う農地消毒方法の1つです。
太陽熱土壌消毒は、土壌の保温効果を維持するために土壌中水分量を増やし、通常は農業用ビニールやマルチで地表面を覆うことで土中の熱伝達を高める処理を行います。
太陽熱土壌消毒により、土壌病害虫の密度低減と同時に、雑草種子の防除や連作障害の抑制が期待できます。
特殊な機材を必要としないため、安価で実施できることが太陽熱土壌消毒の大きな利点です。ただし、太陽熱を利用する消毒法であるため、消毒効果は天候に左右されやすい点には注意が必要です。
密閉可能な施設内では消毒効果が高いものの、露地での実施時や冷夏の年には十分な効果を発揮できず、病害虫が発生する可能性があります。このため、太陽熱を地下に効率的に伝えることや、保温効果を持続させることが重要になります。
太陽熱土壌消毒の手順(畝立て後処理)
太陽熱土壌消毒を実施する際は、土壌の水分量、温度管理など注意すべきポイントがあります。以下、一般的な太陽熱土壌消毒を行うプロセスと注意点について紹介します。
畝立て前処理と畝立て後処理
出典:一般社団法人日本土壌肥料学会「日本土壌肥料学雑誌 79巻4号」所収「宮崎型改良陽熱消毒法を用いた土壌消毒効果(宮崎県総合農業試験場 西原基樹)」、株式会社大地のいのち「サンビオテック|ノウハウ手帳|太陽熱消毒(養生処理)マニュアル」よりminorasu編集部作成
太陽熱土壌消毒の手順は、地表を被覆して太陽熱消毒を行ってから、基肥・畝立てをして定植するのが一般的でした。
この効果を安定させるために、宮崎県総合農業試験場が開発したのが「宮崎方式」と呼ばれる基肥・畝立て後に消毒処理を行う方法です。消毒完了後は、耕起はせずにそのまま定植するため、再汚染のリスクが低くなります。
以下、この「畝立て後処理」を基本に記述していきます。
耕うんと畝立て
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
耕起と畝立ては、太陽熱土壌消毒において重要な役割を果たします。畝立てすることで、土の表面積が拡大し、太陽熱が地中に伝わりやすくなります。
なお、畝立て前処理の場合も、一度、畝を立てたほうが処理の効果が高まり、水分過多になるリスクを避けられます。
耕起・畝立ての前には、準備として土壌pHの調整を行います。土壌pHは、土壌中微生物が活性化しやすい環境づくりのために調整します。微生物は、発酵熱で地温の保つために役立つ上に、土壌の殺菌作用も期待できます。
土壌pHの値は、土壌中微生物の活性に最適なpH6.0~6.5を目安に調整します。pHを調整する方法としては、石灰資材を施用することが一般的です。事前に土壌pHを測定し、必要な資材量を算出します。
▼土壌pHの測定方法や調整方法はこちらの記事を参考にしてください
土壌pH調整資材を投入したあとは、資材が均一に混合されるよう、土壌を耕うんします。20〜25cmを目安に、できるだけ深く耕します。
土壌が十分に混和されたら、土壌の表面積を広くするために幅60〜120cmほどの畝を立てます。畝立てには消毒後の排水を良くする効果もあります。畝高を20cm以上にすることで、太陽熱処理の効果が高まります。
灌水チューブを設置する場合は、畝上と通路に配置します。
被覆前の灌水
温井ヒロシ / PIXTA(ピクスタ)
太陽熱土壌消毒では、土壌の水分量を高めることで土中の熱の伝達と保温を促進します。病原菌は湿潤状態の高温環境や酸素濃度の低い環境に弱いため、土壌には十分な水分量を含ませることが大切です。
被覆前の灌水は、できるだけ降雨のあとに十分に水分を補填します。水を与える目安はほ場容水量の60%ほどとし、湿った土を握った手を開いた際、土の塊がひび割れる程度の水分量を目標としましょう。
灌水での注意点としては、水はけの良し悪しや土壌の状態によって、水分量の調整が必要な場合や、一度に大量の灌水を行うと畝が崩れてしまう場合があります。必要に応じて、複数回に分けて水分調整を行います。
太陽熱消毒には、畝立からの深度30cmの地温が40℃以上の状態を10日ほど維持することが必要です。そのためには、最低でも灌水直後の4日間は平均気温30℃以上を確保できるように、晴天が続く日を見極めて実施しましょう。
地表の被覆
地表の被覆は土中の水分および熱の発散を防止する目的で行います。
被覆にはビニールやポリエチレンフィルムを使用します。農業用ビニールのほうがポリエチレンフィルムよりも高い防除効果があります。被覆の際は畝全体を密封状態にすることを心がけましょう。
畝立ての際に、マルチャーで畝を密封したあと、全面を覆って二重被覆にすると、より土壌消毒効果を高められます。
消毒完了
消毒完了の目安は、積算温度で算出できます。
畝立からの深度30cmの地温×日数が800℃以上になれば消毒を終了します。例えば、深さ30cmでの温度が50℃で16日続いた場合、積算温度は50℃×16日=800℃となり、消毒を終了できます。
日程に余裕があれば、900〜1000℃以上になるまで消毒を継続することも可能です。また、800℃に満たない場合でも、栽培スケジュールが迫っていれば太陽消毒を終了できます。ただし、消毒中は地温が30℃以上を保てていることが前提となります。
太陽熱消毒を終えた直後は地温が高くなっていますので、遮光や通風を行うことで、地温を下げましょう。地温が下がるまでには1週間程度かかる場合があります。消毒が完了し、地温が下がったあとで、施肥、畝立て、定植を行います。
太陽熱土壌消毒の防除効果を高める方法
あら~んどろーん / PIXTA(ピクスタ)
太陽熱土壌消毒は、作業工程や施用する資材に工夫を加えることにより、防除効果を高めることができます。
以下、おすすめの方法を3例紹介します。
効果を見える化した「陽熱プラス」
陽熱プラスとは、前述した「宮崎方式」をベースに開発された、太陽熱消毒による病害対策だけでなく、健全な土壌環境作りまで視野に入れた栽培方法です。
宮崎方式の特徴である畝立後に太陽熱消毒を行う体系を基本としたより総合的な栽培体系で、以下のような特徴があります。
・消毒効果の見える化
・養分供給効果の見える化
・生物相や環境への影響評価の組み込み
陽熱プラスでは、温度記録計およびセンサを用いることで積算地温を記録し、それを指標として、太陽熱消毒の効果をより的確に判断できます。これにより、天候に左右される太陽熱土壌消毒においても安定的な消毒と防除が可能となります。
また、温度記録計を使用していない場合でも、気象情報を利用して積算地温と太陽熱土壌消毒効果を推定する手法も開発されています。
陽熱プラスについて、詳しくは以下のリンクの文献や動画をご覧ください。
参考:
農研機構「技術紹介パンフレット|陽熱プラス実践マニュアル」所収「陽熱プラス 実践マニュアル」
農研機構 Youtube公式チャンネル「NAROchannel」内「陽熱プラス実践マニュアル概要編」
微生物による防除効果を高める「還元型太陽熱土壌消毒」
「還元型太陽熱土壌消毒」とは、還元消毒法と太陽熱消毒を組み合わせた土壌消毒方法です。還元消毒法では、湛水で土壌を還元状態にして病原菌を死滅させますが、太陽消毒法と組み合わせることで防除効果が高まります。
さらに、還元消毒の効果を高めるために、フスマや米ぬかなどの易分解性の有機物を散布します。これにより、土壌中の微生物が有機物を餌として増殖し、酸素消費による還元化が促進されるほか、有機酸の生成による病原菌の低密度化が期待できます。
還元型太陽熱土壌消毒による消毒は、以下の流れで行います。
1. 有機物の施用
※消毒を開始する2〜3日前までに、米ぬかやフスマなどの有機物を10a当たり1t施用します
2.土壌pH調整資材の施用
3.耕起と畝立て
4.地表の被覆
5.灌水
※灌水量は1a当たり10〜15tが目安となります。還元状態を作るため、一般的な太陽熱土壌消毒より多めに灌水し、湛水状態にします
※処理から1週間程度でドブ臭が発生すれば、還元化が進んでいます。ドブ臭を確認できない場合は、灌水を繰り返します
6.消毒完了
7.施肥
8.耕起と畝立て
※耕起の際は、未消毒の土壌が消毒済みの耕土層と混合しないように注意します。有機物を入れた深さ以上に深耕しないでください。
9.定植
各ステップの具体的な処理方法は、基本的には一般的な太陽熱土壌消毒方法と同じです。
還元型太陽熱土壌消毒は、宮崎方式と組み合わせることで、さらなる防除効果の向上が期待できます。その場合、施肥は土壌pH調整資材の施用のあとに行い、消毒完了のあとは耕起をせずにそのまま定植します。
石灰窒素を用いた太陽熱消毒「太陽熱・石灰窒素法」
太陽熱土壌消毒には、特に石灰窒素に着目した「太陽熱・石灰窒素法」があります。
太陽熱・石灰窒素法は、太陽熱消毒に、農薬や肥料としても活用できる石灰窒素の作用を掛け合わせた消毒方法で、土壌消毒だけでなく土壌改良の効果も期待できます。
▼詳しくは以下の記事をご参考ください。
太陽熱土壌消毒の注意点
太陽熱土壌消毒は、平均気温30℃前後の日が多いかつ土壌が水分を多く保持している季節に実施することが望ましいため、最適期は梅雨明けの7月中旬から8月下旬頃となります。灌水を行う直後の地温確保も重要です。晴天日が4日以上連続する日を狙って灌水しましょう。
また、夏季の施設密閉の際には、機材や精密機器の高温障害にも注意が必要です。機材などは施設の外に持ち出すか、天窓の解放または遮熱シートで対策しましょう。
土壌の土質によっては、排水が良好なため還元状態にすることが難しい場合もあります。このような場合は、太陽熱消毒では十分な効果が得られないため、土壌くん蒸剤処理や抵抗性品種の導入など、異なる防除方法を適宜組み合わせる工夫が必要です。
panoramaimages / PIXTA(ピクスタ)
太陽熱土壌消毒は、太陽光を利用して土壌の地温を上昇させ、土壌中の病害虫や雑草の種子などを防除する土壌消毒方法です。
特殊な機材を用いることなく比較的安価に行うことができる土壌防除方法ではありますが、天候不良や気温の低下によって防除効果が左右される可能性があります。
そのため、太陽熱土壌消毒を実施する際は、太陽熱を効率的に伝え、保温効果を維持するために十分な灌水を行うことが重要になります。
自身のほ場の土質や栽培する作物を考慮しつつ、最適な太陽熱土壌消毒の方法を選択することで、病害虫リスクの低減を図りましょう。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。