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【キャベツの萎黄病】症状・原因と、連作時の防除方法

【キャベツの萎黄病】症状・原因と、連作時の防除方法
出典 : KY/ PIXTA(ピクスタ)

「萎黄病」はキャベツ栽培農家をはじめ、ブロッコリーやグリーンボールなどのアブラナ科作物を栽培している農家が注意すべき病害です。名前の通り、葉の一部が黄化し萎縮して、悪化すると枯死に至ります。病原菌を持ち込まないよう、予防と発生時の早期防除が重要です。

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「萎黄病」はアブラナ科作物によく見られる病害ですが、キャベツ栽培においては抵抗性品種が普及しています。とはいえ、発生すると被害が大きく、土壌に残った菌の完全な防除は困難です。本記事では、キャベツ萎黄病の主な症状や予防・防除方法について詳しく解説します。

キャベツの病害、萎黄病(いおうびょう)の被害症状

キャベツ 結球 肥大

ノンチャンさん/ PIXTA(ピクスタ)

幼苗期にキャベツ萎黄病が発病した場合は、子葉が黄変し、立枯れ症状が現れます。移植後に発病した場合は、下位葉から黄変が見られ、その部分は発育が悪くなります。

キャベツ萎黄病の特徴は、被害葉のほとんどが、主脈を中心として片側だけに症状が現れることです。そのため、主脈は黄変した側に曲がり、奇形になったりねじれたりします。

また、発病株の茎を見ると、黄変した側の維菅束が褐変して硬くなっているのも、キャベツ萎黄病の特徴です。症状が進むと株全体の葉が黄化・落葉し、やがて枯死します。

キャベツに萎黄病が発生する原因

キャベツ 日光 葉脈

ノンチャン/ PIXTA(ピクスタ)

キャベツ萎黄病は、糸状菌(かび)の一種である「フザリウム オキシスポルム f. sp. コングルティナンス(Fusarium oxysporum f.sp. conglutinans)」を病原としています。アブラナ科作物共通の病害で、キャベツのほかにブロッコリーやカリフラワー、グリーンボールでも被害が見られます。

典型的な土壌伝染性病害で、病原菌は土壌中で数年から十数年生存し続け、キャベツなどアブラナ科の作物が植えられると根の先や傷口から侵入し、感染を繰り返して増殖します。

発病適温は26~30℃と高温を好み、高温条件下では幼苗期から収穫期にかけて発生が見られます。温度が低いと発病までに時間がかかるものの、18℃以上でも発病の可能性があります。

土壌中に生存する病原菌の密度が高まると発生しやすくなるため、連作によって発生リスクが高まります。

キャベツ萎黄病を防除する4つの方法

萎黄病を防ぐためには、アブラナ科植物の連作を避けることが、最も効果の高い方法です。萎黄病だけでなく、ほかの多くの病害虫被害においても、連作によって発生リスクが高まります。

とはいえ、同一ほ場で連作する必要があるキャベツ農家も多いでしょう。その場合は、ほかの方法で土壌中の病原菌の密度を下げ、感染を防ぐ対策を立てることが重要です。具体的には、以下の4つの方法が挙げられます。

・土壌くん蒸剤による土壌消毒
・夏の高温時期に行う湛水処理
・抵抗性品種の作付け
・かに殻資材の施用

ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。

農薬を用いた土壌消毒

畝立て後・定植前のキャベツほ場

Cybister / PIXTA(ピクスタ)

土壌消毒は、キャベツ萎黄病だけでなく多くの土壌伝染性病害の防除に有効です。一般的に土壌消毒は「土壌くん蒸剤」を用いて行います。

土壌くん蒸剤は、ガス化して効果を発揮します。ムラなく薬剤が混和されガスが十分に行きわたるように、事前にロータリ耕起などを行って細かく砕土しておきます。また、土を細かく崩しておくことは、処理後にガスが早く抜けるためにも大切です。

土壌くん蒸剤を処理したあとは、処理後の日数など、それぞれ決められた用法に沿ってガス抜きを行います。

キャベツ萎黄病に効果のある土壌くん蒸剤としては、クロルピクリンくん蒸剤の「ドロクロール」「クロルピクリン錠剤」や、ダゾメット粉粒剤の「バスアミド微粒剤」「ガスタード微粒剤」などがあります。

上記の土壌くん蒸剤はすべて、2023年6月3日現在、キャベツと萎黄病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点の登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。

クロルピクリン剤による土壌消毒は、多くの土壌病原菌やセンチュウなどの土壌害虫に対して高い殺菌効果があります。ただし、強い刺激臭があるため、住宅地の近くのほ場などでは使用を控えましょう。

クロルピクリン剤は地温7~10℃以上から処理が可能で、地温が高いほど短い期間で効果を発揮します。

くん蒸期間の目安としては、平均地温が25~30℃の場合は約10日、15~25℃の場合は10~15日、10~15℃の場合は15~20日、7~10℃の場合は20~30日です。

一方、ダゾメット剤は微粒剤で散布しやすく、においも強くないので住宅地付近のほ場でも使用できます。ただ、安定した効果を得るためには適度な土壌水分と地温が必要です。

土壌が乾燥している場合は、土壌消毒を行う前に、散布前に散水しておきましょう。散布する量は、手で軽く握って崩れずにひびが入る程度の土壌水分を目安にします。

ダゾメット剤の場合は、一般的に散布後被覆をします。被覆期間は地温に比例して短くなります。目安として、地温が25℃以上の場合の被覆日数は7~10日、20℃の場合は10~14日、15℃の場合は14~20日、10~15℃の場合は20~30日以上です。

上記の目安の期間が過ぎたら、様子を見ながらガス抜きを行います。

なお、重粘土質土壌や水分過多で通気性が悪い土壌の場合、処理後のガス抜きが不十分となって、作物に薬害を生じる場合があります。また、処理後に雨が降って土壌水分が高くなった場合も、同様にガスが抜けにくくなります。

そのような場合には、土壌くん蒸剤を使用方法に従って適切に処理したあと、丁寧に耕起してガス抜きを十分に行いましょう。

ガスが抜けているかどうかを確認したい場合は、「発芽テスト」を行うとよいでしょう。発芽しやすい大根・小松菜・クレソン・レタスなどの種を、処理した土壌と未処理土壌をそれぞれ入れた別々の容器にまき、乾燥を防ぎながら密閉します。

直射日光を避けた温かい場所で2~3日置いて発芽状況を比べ、未処理土壌と変わりない状況であれば、ガス抜きができていると判断できます。発芽不良が見られたら、もう一度ガス抜きを行います。

出典:JA全農茨城県本部「営農ニュース(2022年)」所収「土壌くん蒸剤の効果的な処理法について(令和4年2月3日 第2926号)」

高温期の湛水処理

キャベツ 水田との輪作畑

Tsukasuke / PIXTA(ピクスタ)

夏季、水温25~30℃を1ヵ月以上保てるタイミングでほ場に湛水処理を行うと、病原菌の密度を大幅に低減できます。

1987年に発表された九州病害虫研究会の研究結果によると、夏の高温期にほ場に湛水処理を行ったところ、湛水期間30日で、昼間の水温25~30℃の場合、温度の上昇に伴って土壌中のフザリウム菌の数が著しく減少したとのことです。

この結果、萎黄病の発病がかなり大幅に遅延する効果が得られました。研究結果では、湛水期間が2ヵ月、3ヵ月と長くなるほど発病遅延効果が高くなることがわかっています。

逆に、水温が25℃を下回る場合は、湛水処理の効果がそれほど発揮されないとの結果が出ています。1ヵ月の間、25℃以上の水温を保てない地域の場合は、ほかの防除対策を行いましょう。

夏場に30℃以上の水温を保てる地域であれば、水田輪作を行うことで高温期間含め3ヵ月の湛水期間を保てるため、キャベツ萎黄病のリスクを大きく軽減できます。高温を保ちやすい施設栽培にも向いています。

ただし、湛水処理にはかなりの労力がかかり、処理中はほかの作物を作付けられないため、規模の大きなほ場などの場合は、ほかの対策をするとよいでしょう。

出典:九州病害虫研究会「九州病害虫研究会報 第33巻」所収「「キャベツ萎黄病の生態的防除に関する研究」

抵抗性品種の利用

現在ではキャベツ萎黄病に対して効果の高い抵抗性品種が普及しており、これまでのところ、それらの品種を作付けしている場合は、それほど深刻な問題にはなっていません。

主な抵抗性品種は、20世紀にアメリカで開発された「YR品種(Yellows Resistance)」の系統で、現在日本で流通しているキャベツ品種のほとんどは、完全抵抗性を示す「Type-A」の抵抗性を有します。

主な品種としては、気候によって秋播きの初夏どりまたは春播きの夏どり栽培に適する「YR天空」や、晩抽性・早熟性が高く、4月下旬から初夏どりに適する「YR春空」などが挙げられます。

そのほか、暖地では秋どり~年内どりまたは初夏どりに、冷涼地では夏秋どりに適し、黒腐病にも比較的強い「YRしぶき2号」や、長野県が育成した早生に近い中性種「YRSE」などもあります。

出典:京都府「京都府の農業生産について | 京都府における農作物病害虫・雑草防除について」所収「環境にやさしい農業技術」(P22)

これらの抵抗性品種を用いれば、萎黄病の発生はかなり抑えられます。また、近年はType-A抵抗性にかかわる遺伝子が同定されており、遺伝子研究のさらなる進化によって、より効率的な抵抗性品種の開発が期待されています。


▼品種の製品ページ案内
タキイ種苗株式会社「YR天空」
タキイ種苗株式会社「YR春空」
有限会社石井育種場「YRしぶき2号」
一般社団法人長野県原種センター「取扱種苗について|園芸作物等の種子」所収「YRSE」

かに殻資材の施用

土作り資材として「かに殻粉末」を施用すると、萎黄病を抑制できることが知られています。キチン質を豊富に含むかに殻によって、キチン質を好む放線菌群が繁殖・活性化し、同じキチン質でできたフザリウム菌の細胞壁を溶解します。これにより、フザリウム菌の密度を低減できます。

農研機構の研究により、基肥と同時にかに殻粉末を10a当たり200kg、ほ場前面に3年以上続けて施用すると、施設栽培・露地栽培ともにキャベツ萎黄病の発病を抑制できることがわかっています。

出典:農研機構「カニ殻粉末施用と病原性喪失菌の前接種を併用したキャベツ萎黄病の発病抑制」

キャベツ萎黄病は、キャベツやブロッコリーなどアブラナ科の作物に発生する病害です。高温条件下では幼苗期から収穫期まで発生し、葉の奇形や落葉を引き起こして枯死することもあるため、かつては重要な病害でした。

現在は効果の高い抵抗品種が多くあり、被害はほとんどありません。しかし、近年の温暖化によって高温条件下に置かれる状況が多くなっていることから、高温で発生しやすいキャベツ萎黄病の発生が懸念されています。

日頃から病害についての情報を広く集め、発生に備えて対策を講じておくことが大切です。また、可能であれば連作を避け、アブラナ科以外の作物との輪作や水田輪作を行うと、より確実に予防できます。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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