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【イチゴ栽培×AI】病害予測や自動栽培も。安定経営を目指す最新技術の活用事例

【イチゴ栽培×AI】病害予測や自動栽培も。安定経営を目指す最新技術の活用事例
出典 : Princess Anmitsu/ PIXTA(ピクスタ)

日本のイチゴ生産は施設栽培が主流で、施設栽培と相性のよいスマート農業の普及も進んでいます。特に近年は、AI技術の急速な進化に伴い、より高度なスマート技術によって栽培作業の効率化や品質・収量の安定的な向上を実現する事例が多く見られます。

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イチゴの施設栽培において、AI技術は多岐にわたって活用され、成果を上げています。イチゴ栽培に新たに取り組む際は、どのような技術を導入するかという検討も重要です。そこで本記事では、多くの事例とともにイチゴ栽培のAI技術活用について解説します。

イチゴ農家の課題解決に期待。 進化するAI技術

イチゴ 施設栽培 環境制御

やえざくら/ PIXTA(ピクスタ)

多くの作物と同じく、イチゴ生産の現場でも、担い手の高齢化や後継者不足による作付面積・生産量の減少が問題になっています。

農林水産省の作況調査(野菜)によると、イチゴの作付面積は1980年の11,900haから減少傾向にあり、2021年では4,930haまで縮小しています。

同様に、収穫量は、1980年から1990年は19.3万tから21.7万tまで増加していますが、その後、減少傾向から横ばいに変化して、2021年には16.5万tとなっています。

これらの背景には、生産者の高齢化や後継者不足があります。生産者が減っていく中で、収量を維持・増加させて収益を上げるためには、省力化・自動化の技術は欠かせません。

イチゴの収穫量と作付面積の推移

出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|長期累年|果実的野菜」、「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

また、施設栽培の抱えるもう1つの大きな問題として、近年の原油高の影響による光熱費の高騰で、生産コストが上がっている点があります。

少し古い数字ですが、2007年で終了した「品目別経営統計」で、施設栽培イチゴの10a当たり収支構造を見ると、光熱動力費は28.1万円となっており、農業経営費の約17%を占めています。

イチゴ農家にとって、光熱費の高騰は決して無視できるものではありません。しかし、光熱費の削減は容易ではなく、イチゴ栽培農家の収益アップには、収量や品質の向上も重要課題となります。

そして近年、著しく進化し続けるAI(Artificial Intelligence:人工知能)技術をスマート農業に取り入れ、イチゴ栽培の現場に活用することで、これらの課題を解決しようという動きが各産地で広がっています。

その中から代表的なイチゴ栽培におけるAI技術の活用事例を4つ紹介します。

【事例1】 ネットワークカメラとAIで、イチゴの収量を自動予測

画像認識AIが、イチゴの生育状況を数値化

ビニールハウスに取り付けられたネットワークカメラで定点・定期撮影。撮影画像は画像解析クラウドに転送され、画像解析クラウドによって生育状況や収量予測が数値かされる

ビニールハウスに取り付けられたネットワークカメラで定点・定期撮影。撮影画像は画像解析クラウドに転送され、画像解析クラウドによって生育状況や収量予測が数値かされる
出典:株式会社PR TIMES(キヤノンITソリューションズ株式会社 プレスリリース 2018年8月30日)

キヤノンMJグループは、九州大学や大分県でイチゴを生産する「株式会社アクトいちごファーム」などと共同で、自社の防犯・防災用ネットワークカメラをイチゴ栽培に活用するスマート農業ソリューションを開発しています。

ビニールハウス内に設置したネットワークカメラで、ハウス内の約80ヵ所から定期的にイチゴの花や実を撮影し、その画像をクラウド上に蓄積します。それをAIが解析し、葉や花・実の数や色などの生育状況に関する情報を数値化します。

イチゴ栽培ハウス内に設置されたカメラ(左) 画像から成長度を判断する(右)

イチゴ栽培ハウス内に設置されたカメラ(左) 画像から成長度を判断する(右)
出典:株式会社PR TIMES(キヤノンITソリューションズ株式会社 プレスリリース 2018年8月30日)

さらに、ハウス内の温度・湿度など環境データも併せて解析処理をし、過去の生育状況と比較して生育が遅れている場合は、温度・湿度調整や施肥量などを判断します。

これまで人が目視で確認し経験を通して判断していたことを、AIがデータをもとに自動で行うため、人手不足解消や管理作業の削減が可能です。しかも、ほ場全体をこまめにチェックし環境を整えるので、生育を安定化できます。

収穫適期と収量の予測により、安定生産が可能に

この取り組みでは、蓄積したデータから生育状況を把握して栽培管理に活用するだけでなく、AIの分析によって収穫適期や収量の予測も行います。

イチゴが、いつ頃、どれくらいの収穫が見込めるのかを花の段階から予測できれば、販売契約に当たって有利になったり、計画的に販売できるため、経営の安定化につながります。

また、ブランド化を図っている場合には、安定的な収穫を売りにすることで、ブランド力の向上にも役立ちます。このシステムが商品化すれば、人手不足の大幅な解消と、品質向上や安定生産が実現できるため、イチゴの単価が上がり、経営収支の改善が期待できます。

出典:キヤノンマーケティングジャパン株式会社「ネットワークカメラ×AIが、イチゴの収量の自動予測を可能に」

【事例2】 AIによる病害虫の検知を、スマホカメラで安価に実現

株式会社美らイチゴのイチゴ栽培ハウス

株式会社美らイチゴのイチゴ栽培ハウス
出典:株式会社PR TIMES(株式会社美らイチゴ プレスリリース 2021年1月15日)

AI画像解析により、生育状況の確認作業を省力化

沖縄県の株式会社美らイチゴと株式会社オプティムは、2018年から2020年までの3年間で、農林水産省の「農業界と経済界の連携による生産性向上モデル農業確立実証事業」の補助金を活用したAIシステムの開発を行いました。

スマートフォンで撮影したイチゴの実の画像をAIが解析し、収量や病害虫の発生を予測するシステムを作り上げたのです。

2018年当時、すでにAIのディープラーニングや画像解析を使うシステムは存在したものの、大手のサービスはいずれも高額で、個人経営の農家が気軽に手を出せるものではありませんでした。

そこで、多くの人が持っており、解像度も申し分のないスマートフォンのカメラを利用しようと考えたのです。

このシステムは、現場では、スマートフォンを用いてイチゴを撮影し、画像データをオプティムに送信します。

データを受け取ったオプティムは、AIを用いて病害虫の「あたり」と「はずれ」を判別。そして、判別の正誤を美らイチゴのスタッフが目視で確認し、AIに答えを返すことで、判別の精度を高めています。

膨大なデータを学習したAIは、スマートフォンで撮影した画像から病害虫の発生を判別できます。さらに、生育段階のデータも学習しているため、生育状況や収量予測まで可能になっています。

大型ハウスが並ぶ、株式会社美らイチゴのほ場。規模は沖縄県内最大規模。

大型ハウスが並ぶ、株式会社美らイチゴのほ場。規模は沖縄県内最大規模。
出典:株式会社PR TIMES(株式会社美らイチゴ プレスリリース 2021年1月15日)

スマートフォンの活用で、スマート農業技術の導入コスト問題も解決

この実証のポイントは、身近なスマートフォンのカメラを用いることにより、スマート農業技術の導入コストを抑えられる点です。

この実証の期限である2020年以降、商品化に関する情報は得られていませんが、この技術が実現すれば、5Gによるさらなるスマートフォンの低廉化が期待されていることもあり、個人農家でもAI技術を導入しやすくなるかもしれません。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「スマホカメラとAI画像解析でイチゴの生産作業を最適化」

【事例3】 ロボット技術とAIで、イチゴの授粉・収穫作業を自動化

HarvestX株式会社のイチゴの完全自動栽培ロボットシステムの研究開発施設,「HarvestX Lab」

HarvestX株式会社のイチゴの完全自動栽培ロボットシステムの研究開発施設,「HarvestX Lab」
出典:株式会社PR TIMES(HarvestX株式会社 プレスリリース 2021年6月21日)

授粉の自動化で、安定した生産量を確保

HarvestX株式会社が開発したイチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」は、まさに近未来農業ともいうべきシステムです。植物工場において、「植物の管理」および「授粉」と「収穫」という3つの作業を、新型ロボット「XV3」とAIが自動で行います。

このシステムでは、ロボットが植物工場内を自動走行しながら、搭載したセンサーでデータ収集をしたり、AIの分析に基づいて授粉や収穫作業を行ったりします。

植物工場向け自動授粉・収穫ロボット「HarvestX」

植物工場向け自動授粉・収穫ロボット「HarvestX」
出典:株式会社PR TIMES(HarvestX株式会社 プレスリリース 2022年12月21日)

特に、授粉作業では、画像によって花の向きを正確に解析し、花粉を雌しべにまんべんなく付着させられるようにブラシの向きを調整しながら、花ごとに自動受粉を行います。

これによって、ハチより27.8%も高い精度で授粉でき、収量の向上が見込めるほか、ハチの使い捨てや死骸による病害発生リスクといった植物工場のデメリットを解消し、衛生環境も改善できます。

出典:HarvestX株式会社「イチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」を2023年より順次提供開始します。」

将来的には“イチゴの完全自動栽培”も実現?

イチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」は、2023年からサービス提供を開始しています。2025年には栽培支援機能を追加して、完全自動化を実現する構想があるようです。

植物工場は、中小規模の農家が取り組むのは困難ですが、大規模なほ場を持ち、植物工場化を視野に入れているのであれば、このような最先端の技術を導入して、高度な技術による安定生産をめざすことも可能です。

出典:HarvestX株式会社「イチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」を2023年より順次提供開始します。」

【事例4】 イチゴが1粒1,000円に!? データ活用で品質・生産性を向上

「ミガキイチゴ」のイチゴ狩りができる『ICHIGO WORLD』は、株式会社リクルートが主催する国内・海外旅行予約ネット『じゃらん』北海道・東北エリア「いちご狩り人気施設グランプリ」において、2019年・2020年・2021年の3期連続で優勝

「ミガキイチゴ」のイチゴ狩りができる『ICHIGO WORLD』は、株式会社リクルートが主催する国内・海外旅行予約ネット『じゃらん』北海道・東北エリア「いちご狩り人気施設グランプリ」において、2019年・2020年・2021年の3期連続で優勝
出典:株式会社PR TIMES(農業生産法人 株式会社 GRA プレスリリース 2022年12月23日)

コンピューターによる環境制御で高単価を実現した「ミガキイチゴ」

最後に紹介する事例は、AIではなくICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用したものです。

農業生産法人GRAは、ICTにより蓄積したデータと匠の技術を組み合わせることにより、イチゴの収量と品質、販売価格を飛躍的に向上させました。

GRAは、東日本大震災でほとんどのイチゴハウスが津波にのまれてしまった宮城県山元町で創業した企業です。東京でIT企業を経営していた若き経営者が地元に戻り、地元の誇りであるイチゴ栽培を復活させて雇用を生むためにICTを導入しました。

ただし、ICTだけではなく、イチゴ栽培40年のベテラン農家を最高栽培顧問に迎え、匠の技を取り入れました。

ICTの活用に当たっては、温度、湿度、風向き、風速、二酸化炭素濃度など、あらゆるデータを取得して蓄積しました。

それらのデータをハウスの制御プログラムに反映させつつ、匠の技(知恵や知見)を取り入れながらプログラムを調整し、イチゴ栽培開始から3年目には単収も販売価格も2倍になりました。

今でも、データによる事実とベテラン農家の勘をすり合わせながら事業を拡大し続け、1粒1,000円するイチゴもある「ミガキイチゴ」をブランド化しています。さらに、イチゴを使ったスイーツやお酒、コスメなどのオリジナル商品を展開しています。

出典:NTT東日本「栽培歴40年のベテランに怒鳴られながらも データ活用で品質と生産性を一挙に向上」
ICCパートナーズ株式会社「「GRA」はITでイチゴ栽培を形式知化・ブランド化し、宮城発で世界に挑む【文字起こし版】」

GRAの「ミガキイチゴ」のロゴマーク「MIGAKI-ICHIGO」

GRAの「ミガキイチゴ」のロゴマーク「MIGAKI-ICHIGO」
出典:株式会社PR TIMES(農業生産法人 株式会社 GRA プレスリリース 2019年3月22日)

今後、自動収穫ロボットが商品化される可能性も

このICTを駆使したビジネスモデルの展開に合わせて、町ぐるみで「イチゴの町」をPRした結果、イチゴ狩りや直売所などを目当てに年間70万人以上の観光客が訪れるようになりました。さらに雇用も増え、町民の平均年収も向上したといいます。

GRAでは現在、人の目ではなくAIを使ったイチゴの画像解析技術や、自動収穫ロボットなどの技術を用いたイチゴ密植移動栽培システムなども研究しており、将来的な実用化とイチゴ栽培のさらなる飛躍が期待されます。

出典:ダイワボウ情報システム株式会社「最先端技術で栽培したイチゴを宮城から世界へ」

スマート農業技術を生かす、これからのイチゴ農家の在り方

阿蘇地方のイチゴ大型ハウス

オセロ / PIXTA(ピクスタ)

現在、すでに実用化されているシステムやサービスはもちろん、開発中の栽培管理や栽培工程の自動化技術を活用することにより、今後、イチゴ農家の作業負担は大きく軽減し、品質・収量も安定的に高められることが期待できます。

ただし、これらの技術はまだ導入コストが高いものも多いため、規模や生産力に見合った技術の導入を見極めることが重要です。

また、生産力に見合った販路の拡大も課題になります。特に、日本の品質の高いイチゴは海外で高い人気を得ており、海外輸出が急増しています。今後は海外市場も視野に入れ、販路を広げるとよいでしょう。

例えば、熊本県のJA阿蘇イチゴ部会では、60a~1haの中・⼤規模営経営体を中心として、スマート農業技術を用いた環境制御技術を導入し、安定的かつ省力的なイチゴ生産に取り組む実証を行いました。

併せて、「選別ロボット」や「低コスト高鮮度輸送技術」など、出荷・輸送にかかるコストを抑える技術も活用し、香港・台湾などの東アジアを中心に輸出を強化するモデル構築を進めています。

出典:農研機構「スマート生産技術の導入による次世代イチゴ生産モデルの構築」

高度なロボットやシステムは、生産コストの削減や収益アップにつながるものの、導入には多額の費用がかかります。一軒の農家では導入が難しくても、地域を上げて最新技術を活用した生産・販売モデルについて検討していくことが、これまで以上に重要になると考えられます。

イチゴ 農家 未来

kaka/ PIXTA(ピクスタ)

イチゴは施設栽培が中心で、環境を人為的に制御しやすいため、AIなど最新のスマート技術を活用しやすい作目です。担い手不足や高齢化によって作業が困難になったら、地域全体でAIをはじめとしたスマート技術を導入し、大幅な作業の省力化や収量・収益向上に取り組んでみましょう。

データやコンピューターの判断に依存しすぎず、その技術と長年培ってきた農家の勘をうまく組み合わせ、互いに活かしていくことが、スマート技術導入成功の秘訣といえます。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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