【キャベツ栽培】軟腐病の防除方法! 利用可能な農薬は?
キャベツ栽培において、「軟腐病」は特に注意すべき重要な病害の1つです。とりわけ結球期に高温多湿になる条件下での発生が多く、収穫後に感染が広がるケースもある厄介な病害です。収益にも大きな影響を及ぼすことがあるため、予防を主とした防除が欠かせません。
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「軟腐病」は多くの野菜に発生する病害で、キャベツ栽培でも頻繁に見られます。しかし、有効な農薬も複数あり、病原菌の特徴を知って菌が活発になる環境を作らないことで防除できます。本記事では、軟腐病の特徴や効果的な防除方法、おすすめの農薬などについて解説します。
キャベツの軟腐病の症状と発生原因
まずは、軟腐病の症状の特徴と病原について詳しく解説します。
軟腐病の主な症状
キャベツ 軟腐病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
キャベツ軟腐病は、主に葉が地表を覆う結球期以降に見られます。症状は次のように進行します。
1. 葉や茎、根、地際部など組織の一部に小さな水浸状病斑が生じる
2. 病斑は次第に広がり、軟化・腐敗してアメ色に変化する
3. 最後は株全体がベトベトに腐り、独特の異臭を放つ
最初に症状が現れるのは、結球部の柔らかい葉の場合もあれば、地際部の芯・茎・根などから発生し始める場合もあります。
外葉から侵されて枯れる例や、外葉や表面の葉は健全に見えても結球内部が侵されている例もあるため、早期に発見するには表面だけでなく茎や地際部の確認も重要です。
さらに厄介なのは、外葉だけが枯れているように見えて、一見無事に見える結球内で軟化していることや、収穫時には症状がなく、流通過程で軟化・腐敗が進むことがある点です。
販売先への信用にも関わるので、確実に予防することが重要です。
軟腐病の発生原因
軟腐病は土壌中に常在する細菌「学名:Pectobacterium carotovorum(ペクトバクテリウム カロトボラム)」を病原とする、典型的な土壌伝染病性の病害です。
根の周辺に生存する細菌が、土壌に接触している部分から植物組織内に侵入したり、降雨や灌水時に泥がはねて葉や茎の表面に付着し、害虫の食害痕の傷口、水孔や気孔から組織内に侵入したりして感染します。
ハエなどの虫によって媒介されることもあります。そして、被害株で増殖した細菌が風雨などにより周囲の株に付着して、二次伝染が広がります。
結球期以降、特に夏季から秋季にかけて高温多湿の条件で発生しやすく、この時期の大雨や台風のあとに多発します。雨水が流れてほ場中に細菌が広がることや、雨や風で株が傷付き、菌が侵入しやすくなることが原因と考えられます。
また、窒素過多で株が軟弱になると発生しやすい傾向にあります。
キャベツの軟腐病の防除方法
モンキチ / PIXTA(ピクスタ)
軟腐病の防除方法について、耕種的防除と科学的防除に分けて解説します。
耕種的防除
耕種的防除においては、土壌中の細菌の密度を下げることと、細菌が活発になる条件を作らないことが重要です。
連作を避ける
病原菌は作物に感染することで増殖するので、軟腐病に感染するアブラナ科やナス科などの作物の連作を避けることで、土壌中の細菌密度が高くなることを防ぎます。病原細菌が感染しないイネ科・マメ科作物と輪作するとよいでしょう。
高温多湿を避ける
加えて、高温・多湿の条件を作らないことも重要です。速やかに水が引くように、ほ場の排水をよくしたり高畝にしたりするなど、風水害対策をしっかり行います。
ほ場へ持ち込まない
そして、できるだけ早期に発見できるよう、こまめに作物の状態をチェックし、発生してしまった場合は被害株を速やかに処分します。また、病原菌をほ場に持ち込まないように、農機や資材の消毒を行い、ほ場の衛生管理を徹底します。
適切な肥培管理
また、細菌が付着しても感染しにくくするためには、株に傷が付かないように注意深く管理したり、窒素過多になって株が弱らないよう施肥を適切に行ったりすることも大切です。
化学的防除
軟腐病に有効な農薬は複数ありますが、効果を十分に発揮するためには、散布のタイミングが非常に重要です。
軟腐病の場合、強い降雨や台風のあとに発生することが多いので、降雨前後に農薬散布を行うと防除効果が高くなります。発病してからの農薬散布では効果が低いので、発病前から予防的に散布することがポイントです。
特に、台風通過後には株が傷付いていることが多く、感染しやすくなっているので念入りに行いましょう。地際の土壌に接している部分や、泥が付いている部分を洗い流すように散布すると効果的です。
また、害虫による食害痕があると、そこから感染しやすくなるため注意が必要です。病害の発生を助長するので、害虫の発生があれば併せて殺虫剤を散布します。
キャベツの軟腐病の防除に効果的な農薬
川村恵司/ PIXTA(ピクスタ)
キャベツの軟腐病の防除に利用できる農薬について、「予防に効果のあるもの」と「発病後に効果のあるもの」に分けて紹介します。
※なお、ここで紹介する農薬は2023年7月8日現在、登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み用法・用量を守りましょう。
また、地域の防除所からの情報を必ず確認し、地域によって独自のルールがある場合には、指導に従って使用してください。
予防的散布
・スターナ水和剤
オキソリニック酸を有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒斑細菌病」にも登録があります。軟腐病に用いる場合は、1000倍に希釈して散布します。
収穫7日前まで使用できますが、オキソリニック酸を含む農薬の使用回数は3回以内にとどめます。なお、発生後の効果は期待できません。
・ヨネポン水和剤
ノニルフェノールスルホン酸銅を有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒腐病」「べと病」とアブラムシ類に登録があります。軟腐病に用いる場合は、500倍に希釈して散布します。
収穫7日前まで使用できますが、ノニルフェノールスルホン酸銅を含む農薬の使用回数は5回以内にとどめます。夏期高温時に使用する場合は、薬害を生じるリスクがあるので注意が必要です。
・マスタピース水和剤
生きた微生物である「シュードモナス ロデシアHAI-0804株」を有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒斑細菌病」や「黒腐病」に登録があります。軟腐病に用いる場合は、1000~2000倍に希釈して散布します。
改正JAS法に適合しており、使用回数制限がないうえに、収穫前日まで使用できるのが特長です。農薬の使用回数としてもカウントされません。
発生後の散布
・カセット水和剤
オキソリニック酸とカスガマイシンを有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒腐病」「黒斑細菌病」に登録があります。軟腐病に用いる場合は、1000倍に希釈して散布します。
収穫7日前まで使用できますが、オキソリニック酸を含む農薬は3回以内、カスガマイシンを含む農薬は4回以内の使用回数にとどめます。作用性の異なる成分の配合で、感染前の予防効果と感染初期の拡大を抑制する効果があります。
・バリダシン液剤5
バリダマイシンAを有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒腐病」と「株腐病」に登録があります。軟腐病に用いる場合は、800倍に希釈して散布します。
散布後は茎葉に吸収されて、道管内に侵入した細菌の増殖を抑制するユニークな効果が特長です。収穫7日前まで使用できますが、バリダマイシンを含む農薬の使用回数は5回以内にとどめます。キャベツの結球後期まで防除できます。
黒腐病、黒斑細菌病との同時防除
・カスミンボルドー
カスガマイシン-塩酸塩と塩基性塩化銅を有効成分とする殺菌剤で、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒腐病」「黒斑細菌病」に登録があります。細菌性の病害に効果が高いカスガマイシンと汎用性殺菌剤の銅剤を配合し、予防にも発生後の抑制にも効果を発揮します。
軟腐病に用いる場合は、1000倍に希釈して散布します。収穫7日前まで使用できますが、カスガマイシンを含む農薬の使用回数は4回以内にとどめます。銅には使用回数制限はありません。
・カッパーシン水和剤
カスミンボルドーと同じく、カスガマイシン-塩酸塩と塩基性塩化銅を有効成分とします。したがって、キャベツに対しては軟腐病のほか、「黒腐病」「黒斑細菌病」に登録があります。
軟腐病に用いる場合は、1000倍に希釈して散布します。収穫7日前まで使用できますが、カスガマイシンを含む農薬の使用回数は4回以内にとどめます。
そのほか、注意すべきキャベツの病害
terumin K/ PIXTA(ピクスタ)
キャベツ栽培においては、軟腐病以外にもさまざまな注意すべき病害があります。
キャベツを含むアブラナ科の野菜に共通して発生する病害も多いので、アブラナ科野菜を連作する場合や、周囲に同じアブラナ科の作物が多い場合は、病害の発生を予防することや、発生を早期に発見して速やかに対処することが重要です。
特に、「苗立枯病」「黒すす病」「べと病」「黒腐病」「菌核病」などが代表的な病害です。
これらの病害について、被害の特徴や防除方法を知りたい場合は、キャベツの病害を一覧にした下記記事も参考にしてください。
キャベツの軟腐病は、土壌に常在する細菌を病原としており、高温の条件下で台風や豪雨によって多発するリスクがあります。以前からキャベツの重要な病害の1つとして認識されていましたが、近年の気候変動により軟腐病の発生条件がそろいやすくなっており、一層の注意が必要です。
収量・収益低下を避けるためにも、軟腐病の予防を徹底し、発生しても被害を最低限に抑制できるよう、日頃から防除対策を講じておきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。