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みどりの食料システム戦略とは?メリットや補助金、対象の取り組みをわかりやすく解説

みどりの食料システム戦略とは?メリットや補助金、対象の取り組みをわかりやすく解説
出典 : AGR / PIXTA(ピクスタ)

日本の農業は、担い手不足や高齢化などに加え、社会情勢や環境の変化による多くの問題を抱えています。そうした多様な問題を解決するとともに、生産力の向上と持続性の両方を実現する革新的な方策として、国は「みどりの食料システム」(みどり戦略)を策定しました。

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「みどりの食料システム」(通称「みどり戦略」)では、従来の農林水産業を見直し、これまでにない価値を生み出し変革することを目的としています。本記事では、この制度が農業にどのような影響を与えるのか、また農家は何をするべきかなどについて詳しく解説します。

みどりの食料システム戦略(みどり戦略)とは?

みどり戦略 SDGs

にしやひさ / PIXTA(ピクスタ)・biscuit / PIXTA(ピクスタ)

日本の農林水産業は、深刻化する担い手の減少や高齢化などの影響を受けて、生産基盤のぜい弱化や地域コミュニティの衰退が顕在化しつつあります。

また、近年では、温暖化による気候変動や自然災害の頻発などが生産現場に与える影響も深刻化しています。

さらに、世界では、SDGsや環境保全を重視して経済と環境をイノベーションで両立させる動きが始まっており、国際環境交渉や諸外国の農薬規制の拡がりに的確に対応していく必要があります。

上記の問題を解決し、国外の動きにも対応するためには、持続可能な食料システムを構築することが急務となっています。

そこで国は食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を革新的な方法(イノベーション)で実現するため、「みどりの食料システム戦略」(以下、「みどり戦略」)を策定しました。

みどり戦略では、「2050年までにめざす姿」として農林水産業におけるCO2(二酸化炭素)排出量ゼロを掲げ、さらに農業や食品製造業、食品企業、林業、漁業それぞれのめざす姿を具体的に示しています。

そのうち農業に関するものとして、以下のような目標(KPI)が掲げられています。

  • 化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
  • 化学肥料の使用量を30%低減
  • 有機農業の取り組み面積を25%まで拡大

こうした取り組みによって、持続的な産業基盤を構築、豊かな食生活の維持や地域社会の雇用・所得の増大、安心して暮らせる地球環境の継承といった効果が期待されるとしています。

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略トップページ所収「みどりの食料システム戦略パンフレット(閲覧用)」(3ページ:みどりの⾷料システム戦略(概要))

みどり戦略の実現に向けた4つの取り組み

みどり戦略では、目標を達成するための具体的な取り組みを、「調達」「生産」「加工・流通」「消費」という4つのステージに分けて例示しています。

「みどりの食料システム戦略」の具体的な取組み

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略 トップページ」掲載の「みどりの食料システム戦略(具体的な取組み)」よりminorasu編集部作成

ここからは、各ステージについて、農業と関わりの深い取り組みに触れていきます。

調達

資源・エネルギーの調達では、脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減を推進するため、持続可能な資材・エネルギーの調達、地域・未利用資源の一層の活用、資源をリユース・リサイクルする技術や体制の確立を進めます。

具体的な取り組みとして、例えば以下のようなものが期待されています。

  • 地産地消型エネルギーシステムを構築する取り組み
  • 食品残渣や汚泥などから肥料成分を回収し活用する取り組み

生産

これまでにない技術革新(イノベーション)によって持続的な生産体制を構築するため、高い生産性と持続性を両立できる生産体系への転換や、農機の電化・水素化など脱炭素燃料化の推進、農地・森林・海洋へのCO2の大量・長期貯蔵、環境負荷を軽減する作物の品種開発などを進めます。

具体的な取り組みとしては、例えば以下のようなものがあります。

  • スマート技術導入によるピンポイント農薬散布や施肥管理
  • バイオ炭の農地投入技術導入への取り組み

加工・流通

ムリ・ムダがなく持続可能な加工・流通システムを確立するため、無理なく持続できる輸入食料・原材料への切り替えや、AIなどを活用した加工・流通の適正化や合理化、長期保存や長期輸送に適した包装資材の開発などを進めます。

具体的な取り組みとして、例えば以下のようなものがあります。

  • 官民一体となって持続可能性に配慮された輸入原材料の調達先の確保・切替えを推進
  • サプライチェーンの温室効果ガス排出量を算定して削減に取り組むなど持続可能性を高める企業行動の促進

消費

環境負荷の少ない、持続可能な消費の拡大や食育を推進するため、食品ロスの削減、消費者と生産者の交流・相互理解の推進、日本型食生活の総合的な推進、建築の木造化・木質化の推進などを進めます。

具体的な取り組みとして、例えば以下のようなものがあります。

  • 国産品の食料・食材の輸出に向けた取り組み
  • 農林水産業による持続可能性の確保に向けた努力と工夫について、消費者の理解・行動変容等を促進するため、表示方法を含めた事業者の取り組みの可視化の推進や、持続可能な食を支える食育を推進

生産分野では、スマート農業の導入等に期待

みどり戦略とスマート農業

hiro / PIXTA(ピクスタ)

みどり戦略の中でも、「生産」分野は特に農業と関連が深く、農家が主体となった取り組みが求められています。先の例で挙げられた「スマート技術導入によるピンポイント農薬散布や施肥管理」もその1つです。

これは、ほ場の画像データなどをAIが分析して生育状況を見える化し、最適な場所に最適な量の肥料や農薬を散布する「可変施肥(散布)」と呼ばれる技術です。

可変施肥は、最先端の栽培管理支援システムを使えばドローンなどを使わずスマホで手軽にできるため、導入しやすくなりました。

▼可変施肥については、こちらの記事をご覧ください。

また、バイオ炭の農地への投入というのは、バイオマスの活用方法の1つで、バイオ炭を土壌に撒くことで土壌が改良され、作物の収量アップにつながります。これは二酸化炭素を土壌に閉じ込めることになり、みどり戦略で大きな目標とされているCO2排出削減に貢献できます。

▼バイオ炭については、こちらの記事をご覧ください。

みどり戦略の取り組みを推進する「みどりの食料システム法」

みどり戦略を実現に当たっては、農家をはじめとする食料調達・生産・加工・流通・消費の関係者が一体となって環境負荷低減の取り組みを行える環境が必要です。

その一環として、2022年4月22日には「環境と調和のとれた食料システム確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(以下、「みどりの食料システム法」)が成立し、同年7月1日に施行されました。

この法律は、みどり戦略の実現を目的としており、食料システムの関係者で共有すべき基本理念を定めるとともに、農家(生産者)や事業者による環境負荷低減に向けた取り組みを後押しする認定制度です。

環境負荷低減を図る取り組みに関する計画の認定を受けることで、さまざまな支援を最大限受けられるようになります。

▼みどりの食料システム法について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参照してください。

みどり戦略の活用で何が変わる? 農業者のメリット

みどり戦略の取り組みにより、農業者には主に次の5つのメリットがあります。

  • 「みどりの食料システム戦略推進交付金」の対象になる
  • 農業改良資金などの無利子・低利子融資が受けられる
  • 「みどり投資促進税制」で所得税・法人税の負担が軽くなる
  • 農地転用許可などの行政手続きが簡単になる
  • 国庫補助金の採択で優遇される

以下、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

「みどりの食料システム戦略推進交付金」が受け取れる

みどり戦略の実現に向けた交付金 イメージ

tanakorn - stock.adobe.com

「みどりの食料システム戦略推進交付金」は、みどり戦略の実現に向けた取り組みを支援するために制定されました。各地域において、環境負荷の低減と持続的発展に向けて地域ぐるみで行うモデル地区となる取り組みを支援します。

この交付金には、「推進体制整備」「有機農業産地づくり推進」「グリーンな栽培体系への転換サポート」「SDGs対応型施設園芸確立」「地域循環型エネルギーシステム構築」「バイオマス地産地消の推進」「バイオマス地産地消施設整備」の7つの事業があります。

ここでは、農業者に大きく関わってくる「グリーンな栽培体系への転換サポート」について説明します。(ほかの事業は、モデル事業の構築(調査・立案、実証など)が主であるため)

「グリーンな栽培体系」とは、化学農薬・化学肥料の使用量を適正化することや、有機農業の取り組み面積を拡大することと、温室効果ガス削減のための栽培技術、省力化のための先端技術などを組み合わせた栽培体系のことです。

この交付金は、こうした栽培体系に転換するための地域ぐるみの活動に対して交付されます。そのため、交付対象となる事業実施主体の要件は、以下の構成員を含むこと、さらに組織の協定や規定などについて一定の要件を満たすことが必要です。

農業経営を行う個人・法人や農業関係団体(以下、農業者)、実需者、農機メーカー、農薬メーカー、肥料メーカー、ICTベンダー、農業協同組合の営農指導事業担当、市町村、都道府県などにより構成されていること。

特に、普及組織としての都道府県、農業協同組合の営農指導事業担当、農業者は必ず含まれていること。

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略トップページ」所収「みどりの食料システム戦略推進交付金交付等要綱」(50ぺージ)

農業改良資金などの無利子・低利子融資が受けられる

minorasu(ミノラス)の画像

nikonmike - stock.adobe.com

みどりの食料システム法の計画認定を受けると、環境負荷低減に取り組む農家などの生産者や、技術提供などを行う事業者は有利な融資を受けられるようになります。

農家の場合、土作りや化学肥料・化学農薬の使用適正化、温室効果ガスの排出量削減などに向けた計画が認定されると、必要な設備などへの資金繰り支援が受けられます。

この支援の対象となれば、日本政策金融公庫により無利子で借り入れできる「農業改良資金」などの償還期間が延長される、といった措置が取られます。

「みどり投資促進税制」で機械や建物への特別償却が適用される

減価償却のイメージ

taikichi / PIXTA(ピクスタ)

2022年、みどりの食料システム法に基づいて、環境負荷低減に取り組む農家や事業者が機械・施設などへ投資することを促進するために、「みどり投資促進税制」が創設されました。

みどりの食料システム法の計画認定を受けた農家は、化学肥料・化学農薬の使用適正化を目的として機械・施設などを導入する場合に、機械などには32%、建物には16%の特別償却の適用を受けられます。

ただし、対象は化学肥料・化学農薬の削減に取り組む場合に限る点と、対象の機械は国が基盤確立事業で認定したものに限る点に注意が必要です。

みどり投資促進税制について詳しく知りたい方は、パンフレットを参照してください。

農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどり投資促進税制」

農地転用許可などの行政手続きが簡単になる

オンライン申請

pp7 / PIXTA(ピクスタ)

環境負荷の低減に取り組むモデル地区としてみどりの食料システム法の計画認定を受けた場合、必要な施設整備などに関する農地転用許可や、補助金等交付財産の目的外使用の承認などを申請する際の手続きがワンストップ化できます。

これは、対象者から上記の申請があった場合は許可があったものとみなす、みどりの食料システム法の「みなし規定」によるもので、手続きを簡略化できます。ただし、これは地域ぐるみの活動を行うモデル地区にのみ適用されるもので、農家個人には適用されません。

出典:農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどりの食料システム法の認定制度等について」

国庫補助金の採択で優遇される

みどりの食料システム法による計画認定を受けることにより、先述した「みどりの食料システム戦略推進交付金」や「強い農業づくり総合支援交付金」など、さまざまな国庫補助金の採択において優遇されます。

「強い農業づくり総合支援交付金」を含む、補助金・交付金の詳しい内容について知りたい方は、こちらの記事も参照してください。

▼農業関連の補助金について、網羅的に知りたい方は、「komeney」内の以下の記事をご覧ください。

みどりの食料システム戦略の対象となる取り組みの例

みどり戦略で支援を受けられる取り組みについて、具体的な例を紹介します。

みどり戦略の対象となる取り組みの全体像

みどり戦略の対象となる取り組みは、みどりの食料システム戦略推進交付金に関する地域の取り組みと、みどりの食料システム法の認定制度に関する地域または生産者の取り組みがあります。

以下では、みどりの食料システム法の認定制度に関する生産者の取り組み例を紹介します。

みどりの食料システム法 認定制度 環境負荷低減を図る取り組み例

農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどりの食料システム法の認定制度等について」よりminorasu編集部まとめ

みどりの食料システム法の認定制度では、国が示した基本方針に沿って、農林水産業の生産者やモデル地区となる地域が環境負荷低減事業活動実施計画を作成し、都道府県・市町村から認定されれば、支援を受けることができます。

対象となる生産者の取り組み類型は、「土づくりと化学肥料・化学農薬の使用低減」「温室効果ガス削減」「⽔耕栽培と化学肥料・化学農薬の使⽤低減」など多岐にわたります。

土づくりと化学肥料・化学農薬の使用低減

生産者向け計画認定の取り組み類型のうち、「⼟づくりと化学肥料・化学農薬の使⽤低減」に該当する取り組みとは、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 農作業スケジュール管理アプリによる農薬・肥料の削減(作物全般)
  • 堆肥、緑肥等有機物の施⽤による⼟づくり (緑肥を活⽤した⽔稲栽培での肥料の使⽤削減)(水稲)
  • 土壌改良資材と薬剤散布適期連絡システムを基本としたイネ稲こうじ病の総合防除対策(水稲)

出典:農林水産省「「みどりの食料システム戦略」技術カタログ」所収「現在普及可能な技術「みどりの⾷料システム戦略 技術カタログ〜現在普及可能な新技術〜 (Ver.3.0)」

温室効果ガスの排出量削減に寄与する設備の導入

みどりの食料システム法の生産者向け計画認定のうち、「温室効果ガスの排出量の削減に資する事業活動」に該当する取り組みとは、具体的に次のようなものが挙げられます。

  • 自動運転田植機(水稲・温室効果ガスと労働生産性)
  • 水田の中干し延長によるメタン発生量の削減(水稲)
  • バイオ炭の農地施用(水稲、野菜、果樹など)

出典:農林水産省「「みどりの食料システム戦略」技術カタログ」所収「現在普及可能な技術「みどりの⾷料システム戦略 技術カタログ〜現在普及可能な新技術〜 (Ver.3.0)」

上記は、環境負荷低減事業活動のごく一部です。実施計画を策定する際は、各地域の食料システム基本計画を踏まえた上で、みどりの食料システム戦略技術カタログなどを参考にしてください。

地域農業とアグリテック

metamorworks / PIXTA(ピクスタ)

みどり戦略は、従来の農業の在り方を大きく変えるような技術革新を取り入れることで、これまでの課題解消や地域の活性化を図り、持続可能で堅固な農業と地域コミュニティを構築しようとするものです。

今後2050年までの間、国は戦略を推し進める方針です。これをチャンスと捉え、交付金や優遇措置を積極的に活用して、経営規模の拡大やブランド化、地域ぐるみでの産地形成などに取り組むとよいでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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