営農支援システムとは?機能別比較&導入事例から見る農家の活用メリット
営農支援システムとは、AIやセンシング技術などを利用して農業に関する情報を一元管理したり、経営管理の効率化・合理化を実現できるシステムです。スマート農業に欠かせない技術として、農機メーカーやシステム企業が開発しています。本記事では、営農支援システムを導入するメリット、選び方、おすすめのシステムを紹介します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
営農支援システムは、スマート農業を始めるに当たり、栽培管理や経営状況を把握できるための重要なツールです。しかし、どのようなシステムを導入すべきか迷っている方も多いのではないでしょうか?そこで今回は、営農支援システムでできることや選び方を解説します。本記事を読んで、自身の営農に適したシステムを選択してください。まずは、営農支援システムの概要から見ていきます。
営農支援システムとは?
foly / PIXTA(ピクスタ)
農業経営のデジタル化が進み、従来は紙で管理していた営農日誌や防除記録などをデータ化して保存している農家の方も多いのではないでしょうか。
農業経営で収益を上げるには、ほ場、作物、農薬、肥料、病害虫の発生、栽培計画、作業記録、農機の稼働、収量、出荷、収支など、多くの情報を管理して活用することが重要です。
しかし、それぞれのデータを適切に収集・管理し、有機的に結び付けて経営や栽培管理に活用するのは簡単ではありません。
そこで、農業に関わる膨大な知識や情報を収集して一元化し、欲しい情報をいつでも取得できるように開発されたシステムが「営農支援システム」です。
営農支援システムの機能はメーカーにより異なりますが、いずれもデータを収集・管理するだけでなく、それを活用して農作業の省力化や効率化、収量アップや品質向上につなげることが可能です。
また、これまで農業者個人の経験や勘に頼っていたノウハウなども見える化できるので、初心者でも知識や技術を得やすくなり、人手不足に悩む農業現場での経営改善にも役立ちます。
営農支援システムは、特に大規模農家にとって経営を左右する重要なツールといえそうです。
導入メリットは? 営農支援システムでできること
Yoshi / PIXTA(ピクスタ)
営農支援システムは多くのメーカーが開発しており、そのサービス内容はさまざまです。システムごとに違いはありますが、主な機能には次の4つがあります。
- ほ場や作業情報などの記録・管理
- ほ場環境などのデータ収集
- AIなどによるデータ分析や推奨作業の提案
- 営農指導支援や販売支援
次項で、それぞれの機能について具体的に解説します。
ほ場や作業情報などの記録・管理
面積や栽培作物などのほ場情報、施肥・農薬散布などの作業情報を記録・管理し、栽培計画のシミュレーションなどを行えます。
過去の栽培データに基づいて効果的な栽培計画を立てられるため、作物の収量・品質向上につなげられます。
また、記録した情報には複数のデバイスからアクセスできるため、メンバーとリアルタイムで進捗を共有できます。
進捗管理を効率化できる上に、営農情報を熟練者と共有することで、初心者でも適切な管理が可能となります。
さらに、実際のほ場状況や栽培管理、作業工程の記録をデータとして蓄積することで、各作業のノウハウや技術を次世代に伝承できるメリットもあります。
ほ場環境などのデータ収集
ほ場環境や作物の生育状況などの情報を、スマート技術を利用して収集するシステムがあります。
具体的には、ほ場に設置した各種センサーとIoT技術を利用したり、ドローンによる空撮画像や衛星画像などを利用することで、ほ場の環境や生育状況、土壌の状態、病害虫の発生状況などのデータを収集できます。
これらの機能が搭載された営農支援システムを導入すれば、広大なほ場や離れた場所に点在するほ場でも、温度・湿度・土壌水分など精密なデータに基づいて適切な栽培管理が行えます。また、ほ場の見回り作業を省力化できます。
AIなどによるデータ分析や推奨作業の提案
スマート農業技術は、AIの登場により飛躍的に向上しました。営農支援システムにおいても、AIを活用することで、収量予測や推奨作業の提案などを効率的・効果的にできるようになっています。
基本的なしくみは、収集・蓄積した地域、作物の種類、気象データ、ほ場環境などの情報をAIが分析します。その結果として、作物の収量・品質を予測したり、生育ステージを予測して作業すべきタイミングを提案できます。
また、AIと衛星画像などを組み合わせることで、地力や生育ムラを可視化することもできます。ほ場の地力や生育ムラに合わせて最適な量を施肥する「可変施肥」を行えば、コスト削減や収量アップにつながります。
営農支援システムは情報を収集・管理するだけでなく、分析や活用も自動で行うまでに進化しています。これまで経験や勘に頼ってきた部分もデータとして見える化でき、より効率的・効果的な栽培管理が可能になります。
営農指導支援や販売支援
個々の農家だけでなく、営農指導員や農業者グループなど、組織で利用するためのシステムもあります。
業務日誌を複数人で入力・編集することができます。承認や返信機能を使って組織的に管理・共有しやすい機能があるので、営農指導で利用されるほか、農業者グループなど複数の農家による組織でも役立つシステムです。
具体的には、営農指導については、実際のほ場の状態と生育目標とのギャップを見える化することで、適切な指導・支援が可能となり、販売データに基づいた経営分析などができるようになります。
農業者グループにとってのメリットとしては、組織を構成する複数の農家が同じ情報を共有するため、効率的に作業を進めたり、産地全体で収量や品質向上をめざすことが可能となります。
農家に合った営農支援システムの選び方
Tong Patong / PIXTA(ピクスタ)
営農支援システムは、農機メーカーをはじめとする大手企業から新進気鋭のIT企業など、多くのメーカーが開発を進めています。製品ごとに価格や使える機能、強みなどが異なるため、要件に適したものを選ぶことが大切です。
システムを選ぶポイントとしては、主に次の3つがあります。
- 農業経営のどの部分を改善したいか
- システム導入の予算はいくらか(スマート農機は必要か)
- 管理しているほ場や作業者の数はどの程度か
以下の項目で、それぞれのポイントについて具体的に解説します。
1. 農業経営のどの部分を改善したいか
営農支援システムには栽培管理が得意なもの、経営・販売支援が得意なもの、可変施肥ができるもの、使用している農機と連動できるものなど、システムごとに異なる強みがあります。
例えば、施肥や雑草・病害虫防除などを含む栽培技術について適切なアドバイスがほしいという場合であれば、可変施肥や生育ステージ予測など栽培管理に強いBASFの「ザルビオ フィールドマネージャー(xarvio FIELD MANAGER)」が向いています。
このように、営農支援システムを導入する際には「農業経営の何を重点的に改善したいのか」について考え、改善に必要な機能が備わっているかどうかを確認することがポイントです。
2. システム導入の予算はいくらか(スマート農機は必要か)
営農支援システムの価格帯は非常に幅広く、初期費用は無料〜1月当たり10万円程度、利用料は、無料〜月額8万円程度です。なお、利用料はオプション機能によっても異なります。
無料のシステムは、株式会社クボタやヤンマーアグリ株式会社、井関農機株式会社など農機メーカーのサービスです。
導入費用は比較的安価といえますが、システムをフル活用するためには対応するスマート農機が必要になるため、大規模経営体や地域全体でまとめて購入する場合に向いています。
一方、経営最適化に向け、情報収集から管理、分析と作業の提案までと幅広く支援するシステムの場合は、初期投資額や利用料の月額が高額になります。その分、機能を使いこなせば、大幅な省力化・効率化や収量アップが見込めます。
営農支援システムの導入では、機能とコストのバランスを取ることが重要です。例えば、「情報収集は人が行い、その後の管理や共有機能のみを利用する」、あるいは「情報収集と管理を自動化し、活用方法は自分で考える」など、必要に応じて機能を絞り、コストを抑えましょう。
3. 管理しているほ場や作業者の数はどの程度か
経営規模に適しているかどうかも、システムを選ぶ際の重要なポイントです。
管理しているほ場が広大な場合や何箇所にも点在している場合は、ほ場のモニタリング機能が搭載されたシステムを導入することで、ほ場の見回り作業にかかる労力を大きく削減できます。
例えばBASFの「ザルビオ フィールドマネージャー」なら、ほ場ごと、ほ場内の生育状況が一目で分かります。
また、作業者を多く雇用している場合、作業者ごとに作業の内容や作業時間を管理できる機能がついた製品を選ぶことで、労務管理に活用でき、適切な人員配置や働き方改革につながります。
例えば、株式会社パスカルの営農支援システム「アグレンジャー」は、ほ場管理や農業日誌、作業計画などの機能に加え、作業者の管理機能も備えています。
【機能別】 営農支援システムおすすめ5選
Scharfsinn / PIXTA(ピクスタ)
強みとなる機能別に、おすすめの営農支援システムを5つ紹介します。
スマート農機がなくても可変施肥ができる!「ザルビオ フィールドマネージャー(BASF)」
画像提供:BASFジャパン株式会社「ザルビオ フィールドマネージャーxarvio® FIELD MANAGER」
大手化学メーカーBASFが提供する「ザルビオ フィールドマネージャー」は、衛星画像などのデータとAIによる分析機能を活用して栽培管理を最適化するシステムです。
例えば、ほ場内の地力や生育ムラを見える化して、スマホやPCで確認することができます。これにより、スマート農機がなくても手動で施肥量をコントロールして可変施肥ができます。
また、AIを生かした生育ステージ予測や最適な栽培管理方法の提案機能などがあり、作業効率化や収量アップを実現できます。
- 衛星画像×AI分析による「地力・生育マップ」や「可変施肥マップ」の自動作成機能
- ほ場情報や作物の品種情報、気象情報、農薬登録情報、病害リスクなどの情報をAIが分析し、ほ場の状況に最適な管理を提案
- ヤンマー、井関、クボタなど主要メーカーのスマート農機と連携可能
- 初期費用は無料、利用料金は米/麦/大豆は月額1,100円〜(ほ場サイズ・作物・機能に応じた料金プランを選択可能)
出典:BASFジャパン株式会社「ザルビオ フィールドマネージャー」
食味・収量の向上も支援 「KSAS(クボタ)」
画像提供:株式会社クボタ「KSAS」
クボタが提供する「KSAS」は、ほ場情報や作業進捗などの営農情報を見える化したり、クボタの対応農機と連携してデータ収集や分析が行えるシステムです。
営農情報を見える化することで、栽培管理の効率化を実現します。また、クボタの農機と連携すれば、食味や収量の改善に役立てられます。
- ほ場情報や作業の記録などの営農情報を見える化して管理
- 食味・収量の把握と、次年度の栽培改善への活用
- ほ場内の施肥量を設定して可変施肥マップの作成
- BASFザルビオと連携して、可変施肥マップの作成を効率化(予定)
- 登録ほ場100枚までは無料、有料プランは月額税込み2,200円で利用可能
センサーでほ場や土壌をモニタリング 「アグレンジャー(パスカル)」
パスカルが提供する「アグレンジャー」は、ほ場情報や作業・管理を記録して見える化する「営農日誌システム」と、ほ場の環境などを見える化する「環境モニタリングシステム」の2つを柱とする営農支援システムです。
作業と環境の両面からデータを蓄積することで、より効率的で生産性に優れた農業の実現に活かします。
- ほ場情報、農薬や肥料の利用記録、収穫・出荷の記録と併せて労務管理を手軽に行える
- 音声入力もでき、操作が簡単
- 入力した情報はCSV/PDFで出力可能
- 料金は定額、利用人数やほ場の数は無制限
指導員との連携を強化! 「営農指導支援システム(NEC)」
NECが提供する「営農指導支援システム」は、組織向けの支援システムです。作業記録などの基本機能に加え、現状の分析と生育目標を踏まえた栽培指導支援なども可能です。
さらに、独自の「説明可能なAI」により、データ分析の結果を人が見ても分かりやすい形で出力できる強みもあります。
- JAなどの営農指導のほか、産地全体または生産団体など、組織的な取り組みを支援
- 生育目標に向けた生育状況の見える化および分析
- 組織内の農家や指導員と情報を共有
- 初期費用は10万円〜、基本利用料は月額8万円(ユーザー数150名/栽培品目20の場合)
出典:NECソリューションイノベータ株式会社「NEC 営農指導支援システム」
経営分析にも対応 「ファームボックス(ソフトビル)」
株式会社ソフトビルが提供する「ファームボックス」も、営農指導や複数農家による組織での利用に向く営農支援システムです。
営農支援システムとしての基本機能は押さえつつ、情報を集約・見える化し、産地全体で共有できます。販売支援や分析支援機能もあり、組織的な営農管理・改善に役立ちます。
- 主にJAや農業者グループなどを対象としており、組織全体で情報共有が可能
- 植付計画や植付実績の情報をもとに短期・中期・長期の収量予測が可能
- 収量予測は営農日誌情報と紐付けして皆んなで把握できる
- 作付け情報と、選果場での出来高や販売情報を紐付け、農家ごとに生産から販売までの情報を分析
- 料金は要問い合わせ
実際の効果は? 営農支援システムの活用事例
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
最後に、営農支援システムを実際に導入し、成果を上げている事例を3つ紹介します。
営農支援システムによる施肥設計で食味をコントロール
岡山県で水稲を栽培するYさんは、クボタの「KSAS」と、システム対応農機である「PFコンバイン」を導入しました。PFコンバインは食味・収量センサー付きのコンバインで、収穫しながら食味や収量を数値化して記録します。
これにより、玄米にする前の収穫段階で、食味数値の高いロットは販売用に、低いロットは飼料米や加工米にといった具合に、あらかじめ仕分けしながら効率的に作業できます。
また、食味・収量センサーから得た過去のデータを整理し、その年の気候条件などと照らし合わせて施肥設計を行っています。データに基づく施肥設計により、食味や収量が目標値を大きく下回らないようリスクヘッジを実現しています。
出典:株式会社クボタ「食味収量コンバインとKSASで リスクマネジメントした美味しいお米生産」
管理の負担が大きい多品目栽培も、支援システムで効率化
多品目で手間を惜しまないこだわりの栽培をしている「株式会社エンドレスプロジェクト」では、ほ場や作物の情報を管理しやすい株式会社パスカルの「アグレンジャー」を導入しました。
スマホでいつでもどこからでも簡単にデータを入力・確認できるほか、スタッフ全員でほ場の写真を共有できるため、効率的な管理が可能になりました。
出典:株式会社パスカル「株式会社エンドレスプロジェクト様」
また、長野県の「りんごやSUDA」では、アグレンジャーを導入したことで、離れたところにある複数のほ場での生産管理情報だけでなく、別々に勤務しているスタッフの勤怠管理も容易になりました。スタッフからも、出勤の報告が楽になったと評判は上々です。
出典:株式会社パスカル「りんごやSUDA様」
可変施肥で収量アップ
ザルビオ「導入事例」
画像提供:BASFジャパン株式会社
宮崎県で水稲とサツマイモを栽培する児玉さんは、兼業農家から専業農家になるに当たって、知識や経験が不足していることに課題を感じていました。また、資材高騰の影響を受けており、肥料や農薬コスト削減の必要性を感じていました。
そこで、衛星データを活用して地力や生育状況を見える化できる「ザルビオ」を導入しました。高額なスマート農機がなくても、手持ちの農機で可変施肥ができる点も、ザルビオを選ぶポイントとなりました。
導入後、普通のブロードキャスターを使い、地力マップを見ながら地力の低い場所は施肥量を多く、高い場所は施肥量を少なく調整したことで、ほ場全体で過剰な施用がなくなり、肥料コストの25%削減に成功しています。
さらに、最大収量が見込める最適な施肥量に調整できたことで、収量は15%もアップしたとのことです。
▼可変施肥の手軽な始め方については以下の記事をご覧ください
営農支援システムは、情報収集から分析・作業提案まで総合的にサポートするものから、特定の情報収集や共有に特化したものまで、さまざまなものが開発されています。導入すれば、日々の農作業を大幅に省力化できるだけでなく、収量や品質の向上にもつながります。
製品によって食味を数値化できるものや、従業員の労働状況を管理できるもの、可変施肥ができるものなど、サービス内容は多岐にわたるため、導入前に欲しい機能を整理し、経営規模やコストに見合う最適なものを選ぶようにしてください。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。