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「背中を見て学ぶ」の壁に悩む若手就農者。10年日誌を積み重ねてたどり着いた営農とは?

「背中を見て学ぶ」の壁に悩む若手就農者。10年日誌を積み重ねてたどり着いた営農とは?
出典 : minorasu編集部撮影

結婚を機に20代後半で農業の道へ進んだ都築健太さん。120haという広大なほ場を相手に農業を始めますが、経験不足による難しさを感じることも。それでも、10年日誌や手書きの地図に記録を残し、自分なりの農業スタイルをつかみ始めた6年目、理想のデジタルツールと出会いました。

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都築 健太(つづき けんた)さん プロフィール

都築健太さん。大型農機の格納や水稲や大豆の作業に使う大型ハウスにて

都築健太さん。大型農機の格納や水稲や大豆の作業に使う大型ハウスにて
撮影:minorasu編集部

愛知県西尾市在住。奥様の実家が農家で「将来は農業を継ぐこと」が結婚の条件だったため、2015年、当時28歳の都築さんは第二子誕生をきっかけに大手CDショップを退職して就農します。

現在は親方(奥様の父上)、先輩、後輩、そして都築さんの計4人で、約120haの広大なほ場で水稲、麦、大豆を栽培。都築さんは作業全体に関わりますが、中でも防除・追肥は全体を任されています。

日本酒が好きで、いつか自分が作った酒米で日本酒を作りたいという夢があるそうです。

米麦大豆の2年3作。120haという広大な農地を4人でまわす

小麦のほ場の一部。取材した2月には小麦の茎立ちが始まっていた

小麦のほ場の一部。取材した2月には小麦の茎立ちが始まっていた
撮影:minorasu編集部

都築さんが農業を営む愛知県西尾市は、小麦の生産量、県内トップを誇ります。まずは西尾市で農業を始めるに至った経緯や営農状況を伺いました。

━━━農業に就かれたのは、どのような経緯だったのでしょうか?


農家出身の妻との結婚に際して、いずれ就農するという条件でした。当時は、あまり深く考えておらず「すぐに就農するのは難しいがいずれは」ということで「わかりました」と引き受けました。

ちょうど2人目の子供ができたタイミングで、勤めていたCDショップを辞めて農業の道に入りましたが、正直惜しい気持ちもありましたね。当時、出世が見えてきたかな、というところだったので、志半ばで前職を退職することになりました。

━━━そこから現在に至るという訳ですね。かなり広大なほ場ですが、栽培状況はどのような感じでしょうか?

現在120haあるほ場のうち、25haは稲作・畑地固定、それ以外は2年3作のブロックローテーションで米、小麦、大豆を栽培しています。

主な作業は、4〜5月に水稲の田植えと大豆の播種、8〜10月に稲刈り、そのあと11〜12月は大豆の収穫と小麦の播種を同時進行します。小麦は5〜6月に刈り取ります。

栽培品種は、水稲は「コシヒカリ」が3割で「あいちのかおり」が7割、大豆は「フクユタカ」、小麦は「きぬあかり」と「ゆめあかり」です。

稲作固定のほ場は基本的に田植えですが、ローテーションをしている8割のほ場では愛知県が開発したV溝直播の播種機を使った乾田直播です。直播する理由は、作業効率がよいことと、稲を刈ったあとすぐに田んぼが乾くので、小麦の播種など次の作業がしやすいからです。

ただ、直播は水の管理が大変です。この辺りは、3日通水3日断水なので常に水がくるわけではなく、シビアに水管理をしないと田面が乾いてカピカピになってしまいます。

昨年は酷暑による高温障害の心配がありましたが、暑さに強い新品種米「あいちのこころ」を増やしていたので収量はとれました。ひと安心でした。

━━━ほ場が広いだけでなく、品種や栽培方法を工夫して営農されているのですね。現在は、何名で運営されているのですか?

もともと親方と先輩と私の3人でしたが、新しく後輩が加わり4人になりました。親方は主に経営的な仕事を担っており、作業的な仕事は先輩や私の方で抱えていましたが、今は後輩を加えて3人で仕事を分担しています。お姑さんや妻は経理関係のことをやってくれています。

「点」の作業が「線」に変わり、6年目に大きな転機を迎える

都築さんの「10年日誌」。8月の最終週は、早生の稲刈りが始まっている。水稲では直播ほ場の水切りやカメムシ類防除、大豆では畝間除草が毎年行われていることがわかる

都築さんの「10年日誌」。8月の最終週は、早生の稲刈りが始まっている。水稲では直播ほ場の水切りやカメムシ類防除、大豆では畝間除草が毎年行われていることがわかる
写真提供:都築健太さん

これまでに大変だったことは、農業の経験がない中で指示される作業が「点」でしか感じられなかったことだという都築さん。作業記録を残すことで全体像が掴めてきたようです。

━━━現在に至るまでさまざまな苦労があったと思います。これまでで一番大変だったことはなんでしょうか?


防除全般を任されていますが、就農1年目からドローンを使っているので物理的な負担はありませんでした。強いていうならば、田んぼが決壊したので何時間もかけて修復したのに、翌日再び決壊したことでしょうか。

ただ、苦労してきたことでいうと、作業の意味を理解することです。就農1年目から親方や先輩から作業の指示があるのですが、何のためにするのか、どんな意味があるのかがわかりませんでした。指示された作業が終わるとすぐに次の作業が入り、「点」の作業が続きます。

最初は特に作業記録をつけていなかったし、3人でのミーティングなどもしていません。親方と先輩は長年の「あうんの呼吸」で作業できているのですが、経験値の低い私には何をしているのかわかりませんでした。農家として成長したいのに、なんとも歯がゆい日々でした。

そこでまずは、以前の仕事でつけていた10年日誌をつけることにしました

田植えなどの農作業は毎年およそ同じ時期に始まるので、記録しておくことで来年は余裕を持って事前準備に取り掛かれます。また、カメムシの防除や除草剤を撒くタイミングが遅かったという失敗を日誌に残しておけば、次の年に活かすこともできます。

親方や先輩が持っている豊富な経験が私にはありませんので、自分で日誌に記録して、少しでも経験の差を埋められるようにしました。

日誌をつけながら経験を積み、就農から6年くらいが経つとだんだん農業の全体像が見えてきて、これまで「点」だった作業が「線」としてつながっていきましたね

全体が見えたら大きな疑問が!「なぜ記録をとらないの?PDCAをまわさないの?」

━━━経験が足りないために苦労する中で始めたのが10年日誌への記録だったんですね。農業の全体像が見えてきたことで変わったことはありますか?

記録を取ることの重要性を強く感じるようになりました。長年の経験や勘があったとしても、記録がないと去年の作業ですら忘れてしまうことがあります。

前職では「PDCAをしっかり回せ」と口酸っぱく言われていました。去年と今年を比べて改善点を洗い出し、計画的に作業を進めるためには、やはり記録することが大事だとわかりました

親方レベルになれば頭の中でPDCAを回せるし、記録がなくても作業を改善できるかもしれません。しかし、自分はそうはいかず、特に繁忙期はコミュニケーションすらうまくいかないことがあります。そんなときは親方や先輩の「背中を見て学ぶ」しかありません。

しかし、データや記録を残せば誰でもその作業ができるようになるし、再現性が高まります。忙しくてコミュニケーションが減ったとしても、記録があれば自分で作業を進められます。

親方の頭の中にある「この田んぼはこの部分が硬い」といった経験で培った情報も、アウトプットして残す術がほしいと思っていました。農業に関する経験や勘はやはり親方や先輩の方が圧倒的なので、とにかく学んだことは記録して改善に生かすことが自分の成長にもつながります。

記録の蓄積。ほ場図への書き込みに限界を感じてデジタル化を進める

都築さんの手書きのほ場図。作業の種類と作業日を記録しておくことで、ほ場ごとの作業計画がたてやすくなる

都築さんの手書きのほ場図。作業の種類と作業日を記録しておくことで、ほ場ごとの作業計画がたてやすくなる
写真提供:都築健太さん

10年日誌や手書きの地図に限界を感じた都築さんは、デジタルツールの導入を決めたそうです。

━━━6年かけて自分なりの農業スタイルを築くことができたそうですが、何か節目のような出来事があったのでしょうか?


実は今まで、10年日誌に加えて地図に作業を書き込むこともしており、日誌と手書きの地図を照らし合わせて「昨年のこのエリアはタイミングが遅くて効かなかったから今年は早めにしよう」などと防除や追肥のタイミングを判断していました。

ただ、6年目ともなるとほ場の広さもあって蓄積した情報が膨大になり、把握や分析が難しくなりました。うっかり地図を無くした年もあったので、手軽にほ場やタスク管理ができるデジタルツールを検討することにしたのです。

いくつかのデジタルツールを試した結果、シンプルで使いやすく、いちばんしっくりきた「ザルビオ」を導入しました

さらに、タイミングよく後輩が入り、私が担当していた作業のいくつかを彼に任せるようになりました。そして時間に余裕ができたので「自分なりの農業」にじっくり取り組めるようになったのです。

それまでは「前職に戻りたい」と思うことがたびたびあった日々でしたが、俄然やる気がでてきましたね。

ザルビオがもたらした事業継承の芽。タスクの記録で適期判断や効率化を実現

ザルビオの画面。ほ場を俯瞰して見ながら、それぞれのほ場の作業記録や生育ステージをすぐに把握できる

ザルビオの画面。ほ場を俯瞰して見ながら、それぞれのほ場の作業記録や生育ステージをすぐに把握できる
写真提供:都築健太さん

タスクの記録にザルビオを使い始めて3年。タスク入力数が全国No.1の都築さんが実感するデジタルツールの効果を語ります。

経験が浅くても、気候が不安定でもPDCAで適期作業が可能に

━━━紙への記録からデジタルツール「ザルビオ」への入力へ移行されたのですね。具体的にどのようなことを記録しているのでしょうか?

1日の業務量やほ場で使用した薬剤、防除・追肥の時期などを入力し、異変があったときは写真付でメモとして残すことにしています。また、「この辺りは効果があった」「この辺りは効果が弱かった」という結果と収量への影響も記録に残します。

記録は簡単に見返すことができるので、「今年の初期除草剤は、違う薬剤を使ってみよう」「田植え時期は毎年この時期だから、その前にやるべきことを終えておこう」「昨年のカメムシの防除は遅れ気味だったから今年は早めにやろう」と、PDCAサイクルを回せるようになり、自分でマネジメントしながら適期での作業計画を組めるようになっています

農業は世界中で行われていますが、各地域や近所ですら同じ栽培方法をしているところがありません。

また、普及指導や営農資料の推奨が、「このほ場のこの場所」に本当に合っているとは限りません。結果として適期を外せば効果は限定的になってしまいます。

先人たちは、経験で培った知識を糧に天候や病害虫と戦いながら、自分なりに試行錯誤して農業スタイルを確立していますが、経験値の浅い私にそれはできません。なので、実施した作業と結果を記録して振り返ることで、改善の速度と質を上げているのです

「親方でなければわからない」から「誰でもわかる」に

━━━デジタルツールに記録を残すことによって感じている効果はありますか?

記録した情報が「見える化」されるので、作業を誰もができるようになっています

120haのほ場の地質は、ここは柔らかいけどあっちは硬い、ここは水はけがよくないけどあっちは乾きやすいなど、場所により特性が違います。追肥や防除の適期がそれぞれ違うし、気候や雨量でさらに細かい調整が必要です。

親方は長年の経験や勘と知識を生かして適切な作業や時期を判断できますが、私や後輩には難しいです。親方は適期を迎えると「そろそろ〇〇をやったほうがいいよ」と私に声をかけてくれて、そこで始めて作業適期だと気がつくこともあります。

しかし、ザルビオのタスク入力があれば私のやってきた作業は一目瞭然です。作業の意味や気付きまで記録すれば、「私でないとわからない作業」が「誰にでもできる作業」になっていきます

今後、さらに人員を増やすことも考えていますが、ザルビオがあればすぐに作業を覚えることができると思います。

作業の効率化で時間と心に余裕ができる

広々とした作業庫の中に立つ都築さん

広々とした作業庫の中に立つ都築さん
撮影:minorasu編集部

親方のツルの一声で建設された作業庫。120haという農業ビジネスの規模がわかります。「今は農業に専念したいと思えますが、3年前までは前職に戻りたいなぁって思っていました」と、苦笑いの都築さん。

━━━デジタルツールの活用で経験値のあるベテランに属人化していた作業が標準化され、技術指導にも活かせそうですね。そのほかに感じた効果はありますか?


ザルビオを導入してよかったもうひとつの点は、作業を効率化できたことです

田植えと麦の収穫が重なる春の農繁期はかなり忙しく、親方がひとりで夜中まで作業することがあります。

私もそうですが、人間は忙しいと余裕がなくなり、伝達ミスなどが発生して効率が下がります。でも、親方しかできなかった作業をみんなができる作業にすれば、従業員で分担することで負担やミスを減らして効率化できます

親方が夜中までしている作業は、いずれ私が受け継ぐことになるかもしれません。デジタルツールを導入した理由には、農家として成長したいという思いだけでなく、ゆくゆくは「自分が楽したい」という思いもありました。

時間と体力的に余裕があれば周囲との無駄な軋轢もなくなり、コミュニケーションが円滑になり、さらに作業効率が上がると思っています。

作業記録のデジタル化で作業効率を大幅改善ザルビオの便利な機能を知る

「作業効率化」の効果を「収量」という結果として手にしたい

大型トラクターを背に農業を語る都築さん

大型トラクターを背に農業を語る都築さん
撮影:minorasu編集部

━━━作業の効率化によって、作業場の雰囲気も改善されそうですね。今後の目標はありますか?

作業効率が上がり、農業経営に対して意欲的になってきたところですが、私の経験不足もあり、まだ収量アップには結びついていません。

今後は地力マップや生育マップを使い、収量アップに挑戦したいと考えています

地力マップを使えば、ほ場内の地力ムラが色でわかるので、それに合わせて施肥をしてみようと思います。農協へ依頼している土壌診断のためのサンプリング地点も、地力マップを元にすれば、バランスよく選べそうです。

ザルビオを使って作業効率を上げることができたので、次は可変施肥だったり、収量上げ、コスト下げの工夫をしたり、経営改善をしていこうと思います。

これからの農業のために!若い人に農業の魅力と伸びしろを伝えたい

都築さんは「農業にはのびしろしかない」として、いろんな人に魅力知ってほしいと感じているそうです。

大切なのは作業の効率化と技術の棚卸

━━━今までの経験を踏まえて、これからの農業に重要だと思うことはありますか?

これまで先輩や同僚のアドバイスには何度も助けられたし、親方の背中を見て学ぶことも多かったです。でも、デジタルツールを活用すれば技術継承がスムーズになると思います

例えば、ザルビオを使って誰でも過去の記録を見直すことができるようになれば、農業技術の棚卸=作業する全員がすべての業務を把握して、「この人にしかできない」作業を減らすことができます。

地力マップや生育マップを見れば、「ここはやる」「ここはやらない」みたいな判断を新米でもできるようになります。

後輩は成長スピードをあげられるし、先輩は作業が楽になるし、ゆくゆくは収量にもよい影響が出るはずです。「今までのやり方」や「独自のルール」などを見直して、スムーズに技術を伝えていくことが大切だと思っています。

若い人にもっと「農業」の魅力を知ってほしい

早春の小麦ほ場に立つ都築さん

早春の小麦ほ場に立つ都築さん
撮影:minorasu編集部

━━━農業に取り組む若者が少なく高齢化が進んでいることに関して、思うことはありますか?

新しい従業員を募集してもなかなか集まりません。3年前に後輩が入ったときは「やっと見つかった」って感じでした。

なぜ、こんなにも若い世代の就職先に「農業」という選択肢がなさすぎるのか、他産業と比べて農業は魅力に劣るのか、重要な問題だと思います

農業は「農業高校や農大を出ないと難しい」といった敷居の高さがあるようですが、実際はそんなことはありません。また、「農業は力仕事が多いうえ休めない」というイメージもあるようですが、そんなこともありません。

今は大型機器が開発されているので管理機で播けるし、田植え機もあるし、ドローンで防除もできる。体力のない女性でも農業ができる時代です。

むしろ「人材を育成する」という意味では、女性のほうが農業のセンスがあるんじゃないかと感じています。細やかな気配りができるので、私の周りでも出荷管理や難しい水稲の水管理は女性に任せている農家がたくさんありますから。

男女問わずもっと若い世代に農業というビジネスがあると知ってもらい、「学校を卒業したら農業やってみよう」という時代を作るために、私たちの世代が率先してアピールして新しい風を吹かせなくてはと思います。

農業はこれからもどんどん機械化され、デジタルによる管理が当たり前になってきます。ある意味、のびしろしかない業界です。若い世代に固定概念をどんどん壊してもらって、農業の新常識にチャレンジしてほしいと思っています。

農業の経験が不足している中で記録の必要性を感じ、10年日誌や手書きの地図からデジタルツール「ザルビオ」へと作業記録の方法を改善してきた都築さん。

作業記録を見える化することで、作業の効率化だけでなく、自身の成長やモチベーションアップにもつながっているようでした。

今年で就農9年目。スマート農業を武器に新たなステージへと進むべく、農業経営の参画への意欲も語ってくれました。

作業記録の可視化で効率化と精度向上を促進ザルビオでスマート農業を始める

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日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

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川口美彩子

川口美彩子

紙媒体の頃から観光情報誌の取材・執筆・編集を長く経験し、現在はwebライターとして、働く母 の視点をいかして子育てを中心に毎月10本以上を執筆する。農業関連のほかにも、受験、金融、腕時計など のグッズ関連、ペット関連まで、執筆分野は多岐にわたる。

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