りんご収穫機の最新動向!スマート農業で進化する収穫ロボットと収穫機
りんご収穫作業の負担軽減と効率化に役立つ最新の機械化技術を解説します。収穫ロボットやハーベスター、自動運搬ロボット、選果機などの開発が進み、作業時間の短縮や労力軽減が可能になっています。りんご栽培における大規模化の課題解決を目指し、最適な機械化技術の導入を検討してください。
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目次
りんごの栽培工程は手作業の工程が多く、中でも収穫・調整作業は、労働時間全体の約18%を占めており、農家にとって大きな負担となっています。経営の大規模化のためには、大きな労力がかかる収穫と運搬、選果作業の機械化が必要です。
りんご農家の経営課題と、機械化の重要性
seeing / PIXTA(ピクスタ)
りんご作経営の課題として、手作業で行う工程が多いため、大規模化が難しい点が挙げられます。
りんごの慣行栽培では、授粉・摘花・摘果、袋掛け・除袋、収穫、選果、整枝・剪定など、多くの作業が手作業によって行われています。
少し古いデータですが、農業経営統計で2012年まで集計されていた、りんご作の作業別労働時間を見てみましょう。
出典:農林水産省「営農類型別経営統計(個別経営)|確報|平成24年営農類型別経営統計平成24年営農類型別経営統計(個別経営、第2分冊、野菜作・果樹作・花き作経営編)」内「りんご作経営|りんご作部門|部門労働投下量」および「部門の概況と分析指標」よりminorasu編集部作成
りんご栽培の1年は、冬の剪定から始まります。春の開花とともに授粉と摘花、幼果がついてきたら摘果して袋掛けします。夏は、日焼けせず果実が充実するように枝葉の整理をしながら、少しずつ袋を外していきます。
そして収穫に向け、「玉回し」や「葉摘み」といった著色管理を続けていきます。
これらの工程のほとんどは、マメコバチなどによる授粉を除いて、人が細心の注意を払って行う手作業です。上の統計によると、ここまでの工程で10a当たり約173時間、労働時間全体の6割強の時間を占めています。
そして、収穫期を迎えると、収穫・調整に10a当たり約48時間、そのあとの包装~出荷までの一連の作業が約27時間かかり、合わせて労働時間全体の約27%を占めています。これらの作業も手作業が中心です。
seeing / PIXTA(ピクスタ)
このように、手作業で行う工程の多さが、りんご作の大規模化のハードルになっているといえるでしょう。
▼りんごの栽培暦、りんご農家の収益性については下記の記事をご覧ください。
【2023最新】 りんご収穫機の開発・活用例3選
りんごの収穫作業を効率化する技術には、現在開発中の最新技術から、すでに実用化済みの機械まで、さまざまな例があります。
りんごの自動収穫ロボットや、収穫作業を省力化する農機まで、活用できる機器の最新情報を3つ紹介します。
りんごの自動収穫が実現? 果実収穫ロボット
農研機構 YouTube公式チャンネル(NAROchannel)「果実収穫ロボット(プロトタイプ)」
2020年12月、農研機構、立命館大学、株式会社デンソーの3法人が、果実収穫ロボットのプロトタイプを開発したと発表しました。実用化に向けた実証実験が進められています。
V字樹形のりんご、日本梨、西洋梨の収穫を対象としており、果実1個につき約11秒で収穫が可能です。この成果は、収穫作業にかかる労働時間を3割以上減らすことに相当します。
3法人はこれまで、果樹栽培の自動化・機械化をめざして、自動走行車、収穫機の開発に取り組んできました。今回のプロトタイプは、自動走行車にけん引されながら、2本のアームにより果実の収穫を行います。
人工知能のディープラーニング技術を活用しており、カメラで果実を認識すると自動で停止し、収穫します。
出典:
農研機構「プレスリリース・広報|プレスリリース|果樹茶業研究部門|(研究成果) 果実収穫ロボットのプロトタイプを開発」(2020年12月23日)
農林水産省 農林水産技術会議「農業技術10大ニュース|所収「TOPIC 5 2つの腕でロボットが果実を収穫-果実をAI認識、人と同じ速度で作業-」
立命館大学「プレスリリース(メディア向け)|果実収穫ロボットのプロトタイプを開発 ~人とほぼ同じ速度でのリンゴやナシなどの果実収穫を実現~」所収「プレスリリース全文」
手作業の収穫を効率化! 自走式りんごハーベスター
ackF / PIXTA(ピクスタ)
欧州のメーカーからは、りんごの収穫作業の負担を大幅に軽くできる「りんごハーベスター」が販売されており、日本でも導入している農家があります。
自動収穫するのではなく、収穫作業をする人の負担を軽減する農機といったほうがよいでしょう。
自走できる高所作業台車に、異なる高さの作業台とビン(収穫コンテナ)搭載台、作業台とビンをつなぐコンベアがついています、
複数人の作業者が乗り、手作業でもいだ果実をコンベアに載せると、ビンに運ばれ、満載されたビンは次のビンに自動で交換され、ハーベスター自体が園地を直進していく仕組みです。
MunckhofMachinery Youtube公式チャンネル「Pluk -O- Trak Senior & Junior」
上のMunckhof Fruit Tech Innovators社(オランダ)の「りんご用収穫機 Pluk-O-Trak SENIOR」の動画を見ると、複数人が乗り込み、手作業でもいだりんごが4つのコンベアで次々とビンに積み込んまれていく様子がわかります。
このMunckhof Fruit Tech Innovators社のハーベスターは、青森県の農家で実際に導入されています。
出典:弘前大学「平成28年度弘前⼤学グローカル⼈材育成事業モデル事業
学⽣市⺠等協働プログラム報告書|加⼯⽤りんご収穫機械化プロジェクト」(5ページ、2)Munkhof 社への聞き取り)
このタイプのハーベスターを導入すれば、「収穫かごを持って脚立を昇り降りし、脚立を筒の場所まで移動させ、いっぱいになった重い収穫かごを園地からの搬出場所まで運び、脚立を次の場所に動かす」動作をしなくてすみます。
これにより、作業者の負担を軽くするとともに、作業時間の大幅な短縮することができます。
ただし、自走式のハーベスターを使用するためには、樹をまっすぐ等間隔に植え替えたり、樹形や樹高を調整したりする必要があります。
VirtualExpoグループのページから、カタログが見られるメーカーの製品を2つ紹介します。
Munckhof Fruit Tech Innovators社(オランダ)
りんご用収穫機 Pluk-O-Trak SENIOR
りんご用収穫機 Pluk-O-Trak JUNIOR
同社の日本語の製品ページ:「プルク・オ・トラック Pluk-O-Trak: 多用途ハーベスター」
加工用りんごを一気に収穫! ツリーシェイカー
ジュースやジャムなど、加工用向けりんごの場合は、収穫にツリーシェイカーという農機を導入できます。機械の力で収穫する果樹を振動させ、下に落ちた果実を受けとめる農機です。
WEREMCZUK AGROMACHINES社 YouTube公式チャンネル「Apple harvesting - shaking machine MAJA AUTOMATIC LK」
自走式やトラクター牽引式の大型製品のほか、トラクターと果樹をワイヤーでつなぎ、果樹を揺らすタイプのツリーシェイカーも販売されています。
ワイヤーでつなぐ機種は、トラクターのPTOを回して振動を伝えるアタッチメント式であり、導入も容易です。
Bystroň - Integrace s.r.o.社 YouTube公式チャンネル「Setřásač ovoce Bystroň za traktor」(Bystroň fruit shaker for tractor)
▼VirtualExpoグループのページから、上の2つの動画の製品ページを紹介します。
WEREMCZUK AGROMACHINES社(ポーランド)
リンゴツリーシェイカー MAJA AUTOMATIC
Bystroň - Integrace s.r.o.社(チェコ)
プラムツリーシェイカー FRUIT TREE SHAKER
収穫後も省力化! りんごの運搬・選果に使えるスマート農機
りんご生産では収穫だけでなく、その後の運搬、選果作業にも大きな負担がかかります。
この章では、収穫から運搬、出荷までの作業を省力化できる農機と、りんご生産に関するスマート農業技術の最新情報について紹介します。
AIがりんごを運ぶ! 自動運搬ロボット
月面探査ロボットの技術を応用した農業用AIロボットの開発をすすめる、輝翠TECH株式会社は、経済産業省東北経済産業局と仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会によって「J-Startup TOHOKU」に選定された
出典:株式会社PR TIMES(輝翠TECH株式会社 プレスリリース 2022年12月15日)
果樹園作業では、収穫物、諸資材の運搬に多くの時間を要しており、運搬を補助する農機が望まれてきました。そのため、りんご収穫後の運搬を想定した「自動運搬ロボット」の開発が進められています。
2022年秋、青森県弘前市の複数のりんご生産者の園地で仙台市の「輝翠TECH株式会社」による自動運搬ロボットの運転試験が行われました。
このロボットには、GPSが利用できない園地や電波が届かない園地でも稼働できるよう、月面探査機に導入されている技術が導入されています。
りんご園内を走行することで、障害物や路面の起伏を認識すると同時に、データに基づいた地図を作製し、この地図を用いることで、次回以降はスムーズな走行が可能となるのです。
試験に用いられた2種類の試作機2種は、それぞれ約30kg、約80kgのりんごの積載が可能です。さらに、昇降機能を搭載するなど、実用化に向けた研究が続けられています。
輝翠TECH株式会社 YouTube公式チャンネル「Automated Transportation Concept Video: Farmer Empowerment via Robotic Assistance」
出典:
東京読売新聞 朝刊 2022年9月30日「リンゴ運搬 お助けロボ 弘前の農園で運転試験 月面探査機の技術活用=青森」
毎日新聞 地方版 2022年10月3日「農業用運搬ロボット:重いリンゴ、ロボで運搬 農業用AI運転試験 仙台の企業が開発 弘前 /青森」
朝日新聞 朝刊 2022年10月7日「リンゴ収穫、ロボットがお助け 月面探査車応用 東北大発のベンチャー企業 /青森県」
TOHOKU360「宇宙工学の技術で「りんご運搬ロボット」を開発 高齢化が進む農家の救世主に」
選果作業をマニュアル化! 透過型光センサ搭載連続選果機
収穫後のりんごは、果実の大きさ、色づき、形、さらに細かな傷や病虫害を確認し、定められた等級ごとに選別してから出荷されます。
りんごを収穫籠から箱に移すときに行う「粗選果」
seeing / PIXTA(ピクスタ)
りんごの共同選果施設
東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)
実際には、園地で収穫籠から箱に移すときに「粗選果」し、市場出荷前にさらに12前後の等階級に選別します。等階級の選別はJAや生産組合の共同選果施設に持ち込むことが多いようです。
しかし、自社独自のブランド化や消費者への直販に取り組む場合、自社で等階級の選別までしようとすると、時間がかかるうえ、作業者の経験の差によって精度にばらつきがでてしまうことが課題でした。
そこで期待されるのが、法人単位でも導入しやすいコンパクトな透過型光センサ搭載の選果機です。
2022年秋に、弘前市の農業生産法人「みらいファーム・ラボ」(株式会社小栗山農園)が、三井金属計測機工株式会社製の選果機を導入し、その様子を報道陣に公開しました。
それまで、60個入りの箱20箱を選果するのに手作業で4時間ほどかかっていましたが、この選果機の導入で10分ほどに短縮できたそうです。
同社では、地域全体で品質向上・ブランド力強化に寄与するべく、近隣の農家に向け、1箱200円での選果代行、30分500円での選果機の時間貸しをしています。(価格は2023年同社ブログに掲載されているもので、変更になることもあります)
三井金属計測機工株式会社 YouTube公式チャンネル「SMARTーSELECTOR【Vol.3】:りんご褐変編 青果物 選別機、選果機、光センサ、サイズセンサを搭載」
この選果機は、糖度・熟度・酸度・内部障害などを選別するを透過型光センサと、サイズを計測する光電式のサイズセンサを通すことで、最大12等階級の選別が可能です。
熟練の技が必要なりんごの等階級の選別を誰でも実施でき、1時間で10,800個の処理ができることは、自社選果でブランド化や直販をめざすりんご農家にとって大きなメリットなります。
三井金属計測機工製の選果機は、ヤンマーアグリジャパン株式会社が「透過型光センサ搭載連続選果機「ひかり庵」」として販売しています。
出典:
東奥日報 2022年11月10日「光センサーでリンゴ選果 弘前の農業法人導入 省力化支援 農家貸し出し、代行も」
河北新報 2022年11月11日 朝刊「リンゴ選果 機械で楽々/弘前の農業法人/貸し出しサービス/2人で4時間→10分に短縮/人件費抑制、品質安定にも 弘前市の農業法人「みらいファーム・ラボ」が、リンゴの大きさや色味などを光センサーで自動判・・・」
株式会社小栗山農園 BLOG「2022年11月|光センサー選果機導入!」、「2023年2月|光センサー選果機貸し出し続々始まってます!」
三井金属計測機工株式会社「製品案内|小型選果機シリーズ/SMART-SELECTOR(BK)バケット搬送式手載せタイプ」
ヤンマーホールディングス株式会社 「透過型光センサ搭載連続選果機 ひかり庵」所収カタログ
【海外事例】 りんご栽培の機械化に適した樹形への更新も検討を
イタリア チロル地方のりんご園地
Marco Taliani - stock.adobe.com
慣行のりんご栽培の場合、1本1本の個性を見て手を入れながら、「開心形」「遅延開心形」などの樹形をめざして樹形を整え、長期の収穫を実現しています。
しかし、機械化を推進する場合は、高所作業台車や収穫機が入りやすい、「SNAP」や「fruit wall」と呼ばれる、もっと平面的な樹形が適します。
「SNAP」とは、「Simple=単純」「Narrow=幅が狭い」「Accessible=届きやすい」「Productive=生産性が高い」の略、「fruit wall」の「wall」は壁面的樹形の意です。
代表的な樹形が「トールスピンドル」「バーティカルトレリス」「バイアクシス」などで、日本では長野県でトールスピンドル樹形の高密植栽培の導入が進んでいます。
長野県 トールスピンドル樹形のりんご園地
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
ヨーロッパの果樹生産主要国のイタリア・南チロル地方では、10a当たり5~6t の単収を実現しています。
生産者・研究機関・公共機関・民間企業が協力して、樹形更新やIPM、雹害・霜害の対策に取り組み、その中でもトールスピンドル仕立ての高密植栽培の導入が単収増と労働時間削減に大きく寄与しているといわれます。
しかし、樹形の更新には当然ながら、費用がかかります。トールスピンドルなどの樹形の場合、支柱やトレリスなどの資材や大量のフェザー苗が必要になります。
出典:公益財団法人中央果実協会「調査報告・刊行物>調査研究成果(海外)」所収
「 欧州及びイタリアの果樹農業の現状とスマート農業に関する調査報告書」
「米国ワシントン州のりんご生産の現状と省力・機械化技術に関する調査報告書」
りんご栽培には、細やかな手作業を必要とする工程が多く、これが、省力化・効率化、経営の大規模化を困難にしています。しかし、近年、特に労力のかかる収穫、運搬、選果などの作業を機械化したり、ロボットを開発する動きが進んでいます。
ただし、りんご栽培の機械化に取り組むには、それに適した樹形への更新が必要です。機械化導入のメリット、デメリットを把握し、自身の経営状況に照らしたうえで、最適な収穫機や運搬機、選果機などを導入してください。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。