りんご農家の仕事とは? 一年間の作業と年収、経営成功のコツ

儲かるりんご農家になるには、中・長期の経営戦略に基づいた品種選定や園地整備などが重要です。これからりんご農家として経営を始める人に向けて、りんご農家の一年間の作業内容や年収の目安、対策すべき課題と成功に向けた経営のアイデアを解説します。
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りんごにはさまざまな需要があり、加工用に特化して機械化・大規模省力化を進めたり、付加価値によってブランド化をめざしたりと、経営方法は多様化しています。規模や目的に合わせて経営方針を定め、最新技術も導入することにより、りんご農家としての安定経営を図っていくことが大切です。
りんご農家の年間スケジュール
りんごは永年性作物で、苗木が育ち実るようになると、その木を手入れして生育しながら、長い年月をかけて栽培し続けます。
りんごの休眠期である12~3月に整枝・剪定を行い、発芽後の4月~9月に病害虫防除のための農薬散布、中耕除草、受粉や摘花・摘果などの管理作業を行います。そして9月~11月に収穫という流れです。このように、農作業は年間を通して行われます。
生食用を目的とした慣行栽培では、袋掛けや反射シート敷き、実まわしなどの着色管理は手作業で行います。出荷基準が厳格であるため、作業には高い技術が求められます。
生食用りんごの栽培方法は加工用に比べて機械化が難しく、機械化を導入するには園地の改植が必要ですが、わい化栽培技術やスマート農業の導入により省力化を推進している産地もあります。
一方で、昨今需要が高まっている加工用りんごは、生食用に比べると機械化や省力化が容易です。
生食用よりも低価格になりますが、見た目が重視されないため葉摘みや実まわしなどの作業にかかる労力や時間を大幅に削減できます。
また、多少の傷や変形を許容する買い手がいることも、機械化や省力化が進んでいる要因の1つです。
▼りんご農家の年間を通した農作業については、以下の記事でも解説しています。
りんご農家は儲かる?収入・年収の目安

T-Urasima / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)」で2018年まで提供されていた「りんご作農家」の調査によると、2018年のりんご農家の年収は農業所得が280万6,000円、これに年金や農外所得を加えた農家総所得が513万6,000円でした。
同調査における2012年からの農業所得を見ると、青森県で大雪・台風被害のあった2012~2014年は低くなっていますが、それ以外では概ね280万円以上で推移しています。

出典:農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)|個別経営、第2分冊、野菜作・果樹作・花き作経営編」の各年結果よりminorasu編集部作成
(注)りんご作農家:果樹の販売収入が他の営農類型の農業生産物販売収入と比べて最も多い経営のうち、りんご作部門収支を取りまとめている経営体
また、同じ出典で規模別に農業所得を見ると、0.5ha未満では90万7,000円と最も低く、1ha以上で350万円を上回り、3.0ha以上では平均の3倍以上である860万5,000円になります。

出典:農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)|個別経営、第2分冊、野菜作・果樹作・花き作経営編 2018年」よりminorasu編集部作成
(注)農業所得のうち、共済・補助金は、「受取金額ー拠出金額」として算出
データは少し古いものの、民間で独自に行われている調査結果などを見ると、近年のりんご農家における水準も大きく変わっていないと考えられます。
ただし、これは全国のりんご作経営の平均値であり、品種や経営形態によって収支は大きく変わります。例えば、手作業の多い慣行栽培と機械化を前提とした高密植栽培とでは、反収や必要経費が異なります。
地域のモデル経営などを参考にしながら、反収や労働時間を予測し、品種や園地の規模からおおよその年収を割り出してみてください。
りんご農家の将来性は?
カットフルーツやフルーツジュースなどの需要の高まりから、今後は業務用・加工用りんごの需要が高まると考えられます。需要に応じた品質と生産体制が実現できれば、将来的にも稼ぎ続けられる品目であると言えます。
2023年産のりんごのデータを見ると、開花期の凍霜害や果実肥大期の高温・少雨などの影響で、出荷量は前年比で18%も減少し、さらに不足感が増しています。

出典:農林水産省「作物統計|作況調査(果樹)|果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
出荷量の減少に伴い、りんごを含む国産果実の卸売価格は上昇傾向にあります。

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査報告」よりminorasu編集部作成
総務省の家計調査をもとに、1世帯当たりにおけるりんごの支出金額と購入数量の推移を見ると、多少の増減はあるものの年間4,500~5,500円(10kg程度)で堅調に推移しています。

出典:総務省「家計調査 家計収支編 二人以上の世帯」よりminorasu編集部作成
これらのデータから、出荷量は生産農家数の減少や近年の異常気象なども受け減少傾向にあるものの、卸売価格や1世帯当たりの購入金額(=ニーズ)は堅調に推移していることがわかります。
したがって、後継者や新規参入者が大規模化・省力化に取り組んだり、付加価値を付けてブランドを確立したりすることで、「稼げる」りんご農家になれる可能性はあるといえます。
▼りんごの輸出戦略については、こちらのインタビュー記事もご覧ください。
りんご農家が抱える3つの課題
将来性が期待できる一方で、りんご農家が抱える深刻な課題もあります。特に大きな課題となっているのは、労働生産性と労働力の確保、機械化に伴う高額な初期投資の3つです。
実際にりんご作経営を始める際には、これらの課題についても向き合い、対策を講じる必要があります。
課題1:労働生産性を高めづらい

dr30 / PIXTA(ピクスタ)
慣行栽培により高品質なりんごを栽培する場合、丁寧な管理作業や収穫作業が必要です。慣行栽培では熟練の技術が求められる手作業が多いため、労働生産性を高めづらいという問題があります。
労働時間の長いことで、人手不足の解消や経営規模の拡大が進まない、といった問題も発生しています。
また、園地は手作業に適した植栽や樹形になっており、機械化の導入に向けた園地の更新も簡単ではありません。
手作業による手数を惜しまない慣行栽培による高品質のりんごには一定の需要があります。労働生産性を上げるには、収量・品質を保ったまま機械化を取り入れていくことがポイントです。

seeing / PIXTA(ピクスタ)
課題2:労働力の確保が難しい
高齢化や労働力不足は農業全体の問題ですが、りんごの慣行栽培は特に重労働であるため、さらに事態は深刻です。高齢者が重労働に耐えられずりんご栽培をやめる一方、新規参入者は少なく、労働力を確保できずに園地を維持できなくなるりんご農家も増えています。
りんごの結果樹面積の推移を見ると、2006年には4.03万haとわずかに4万haを超えていたものの、その後は一貫して減少傾向にあり、2023年には3.46万haまで減少しています。

出典:農林水産省「作物統計|作況調査(果樹)|果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成農林水産省「作物統計」所収「 作物統計調査 令和5(2023)年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
こうした現状を改善すべく、効率化により少ない労働力で大規模な園地を維持する工夫が、これからのりんご農家には求められます。さらに、人手不足を解消するためには、若者が魅力を感じられるような将来性のある経営戦略が必要です。
課題3:機械化導入には高額な初期投資がかかる
慣行栽培の園地で、機械化に適していない品種を栽培している場合は、大規模な改植が必要です。また、大量の苗も購入しなければらないため、初期投資費用がかかります。
1つの目安として秋田県の試算を参照すると、開園時の初期投資は10a当たり普通栽培で6万8,160円、慣行的わい化栽培では37万7,200円であるのに対して、機械化に適した高密植わい化栽培(詳しくは後述)では283万7,100円と圧倒的に高額です。
出典:美の国あきたネット「克雪対策技術研修会資料」 所収「新たな雪害対策に向けて~新たな雪害対策試験の紹介~(秋田果樹試 後藤主任研究員)」
これは改植にかかる台木や苗木、トレリスや灌水装置などの設備、土壌改良や植え付けの作業にかかる経費のみです。新たに農機を導入する場合は、さらに初期投資費用がかさみます。
農機類は手持ちのものを活用したり、地域で共有したりすることで経費を抑えられますが、機械化のための開園・改植の初期投資費用は十分に試算をして準備する必要があります。
また、大量の苗はすぐに調達できないこともあります。余裕のあるスケジュールを組み、開園・改植の準備を進めることが大切です。
りんご農家で成功するために。実践したい9つのアイデア
前述の課題を踏まえたうえで、りんご農家が取り組むべき9つのアイデアがあります。
1.園地を拡大する
先のグラフで見た通り、りんご農家の所得は園地の規模が大きくなるほど高くなる傾向にあります。これは、規模が大きければ機械化やスマート化の恩恵を受けやすく、作業効率を飛躍的に上げられるためと考えられます。
新規にりんご作経営を始める場合は、りんご栽培を続けられない農家から園地を購入するなどして、大規模化を図るのも1つの手です。初期投資額は大きくなりますが、農機を使える範囲が広がるため、機械化のメリットを享受しやすくなります。
また、規模を拡大して法人化することで、税制面の優遇を受けられる場合もあります。
2.栽培方法を見直す

alps/PIXTA(ピクスタ)
近年、機械化や作業の省力化・効率化のために、各産地で促進されているのが「高密植わい化栽培」です。
わい化栽培とは、小型のまま成熟するわい性台木を利用して樹高を低くそろえ、機械が入れるように樹を真っすぐ等間隔に植える栽培方法です。すでに主要産地の大規模経営農家で取り組まれてきました。
高密植わい化栽培は、わい化に加え、狭い樹間で高密度にフェザー苗を定植し、側枝を下垂誘引する方法です。これにより、植栽本数は従来のわい化栽培の3倍程度に増えて収量の大幅な向上につながるほか、作業する枝に手が届きやすくなります。
先述した通り、高密植わい化栽培の導入には高額な初期投資が必要ですが、軌道に乗れば早期多収が見込めるため、5年目で初期投資が回収できることもあり、その後も高い収益が期待できます。
ただし、地形や周囲の環境、気候などにより高密植わい化栽培に向く園地と向かない園地があります。地域の指導員とも相談しながら、導入予定の園地がどの栽培方法に向いているのかを十分に検討することが重要です。
▼高密植わい化栽培については、次の記事も参考にしてください。
3.作業の機械化を進める
特に規模が大きな園地で作業効率を上げるためには、機械化が有効です。りんご栽培における機械化には、以下のような例が挙げられます。
- マニュアスプレッダーやブロードキャスターによる堆肥・肥料の散布
- スピードスプレイヤー(薬剤噴霧器、SS)による摘果剤や農薬の散布
- 乗用草刈機による雑草防除
- 動力受粉機による受粉作業
- トレーラーを利用した収穫・運搬
さらに、高密植わい化栽培を導入すれば農機が通りやすくなるため、より作業効率が高まります。
しかしながら、こうした機械化を一度に導入するには初期投資がかさみます。そのため、購入した機械を他者に貸し出したり、地域で共同所有したりするなどの工夫をして、コストを抑えることが大切です。

dr30/PIXTA(ピクスタ)
4.スマート農業を導入する
スマート農業を導入することで、労働生産性が向上するだけでなく、作物の品質や収量の向上も期待できます。
スマート農業とは、農業にロボットやICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用することで、農作業の効率化や省力化、精密化、作物の品質向上を実現する新たな農業のスタイルです。
水稲や野菜栽培ではスマート農業の導入が進んでおり、ICTやIoT(Internet of Things)、AI(人工知能)を活用することにより、以下のような作業が実現しています。
- 大型農機の自動操舵
- ドローンによる散布作業
- 可変施肥・ピンポイント農薬散布
- ほ場から得たデータの分析による精密農業
- 施設園芸の環境制御システム
- ロボットによる収穫
りんごをはじめとした果樹でも、すでに自動選果機で果実の大きさ・着色の選別ができるほか、光センサーにより蜜の入り具合や糖度、褐変の有無などの測定も可能です。光センサーを使うため、果実を破壊する必要もありません。
スマート技術の農業利用は日進月歩で急速に進化しています。効率的なりんご栽培をするためにも、機械化と併せてスマート農業の導入を検討することも大切です。
▼スマート農業については、以下の記事も参考にしてください。
5.経営管理・生産管理に取り組む

dr30 / PIXTA(ピクスタ)
新たにりんご作経営に取り組む際には、初めにできるだけ具体的な経営管理・生産管理体制を構築することが、経営の成功につながります。家業のりんご園を引き継ぐという場合にも、まずは経営管理・生産管理体制を見直し、改善を図る必要があります。
初めに行うのは「経営のビジョン・目標を明確にする」ことです。機械化を進めて加工用に特化するのか、品質を重視してブランド化をめざすのかといった方針を定め、適切な規模、品種、販路を選択します。
さらに、具体的な目標とする収量や所得、想定される労働時間や作業量、必要な農機なども計算しておけば、就農後の感覚を掴めます。
実際に経営を始めてからは、経営実態を把握するためにも帳簿付けが必須といえます。記帳は青色申告をする際にも必要なので、税金対策にも有効です。
そのほか、作業ごとに要した人員や労働時間などの労働管理も記録し、生産性や収益性を分析することで、経営の課題を定量的に捉えることができます。
データ分析や記帳によって気づいた課題を翌年以降に解決するサイクルができれば、毎年ステップアップできる可能性が高まります。
▼デジタル上で経営管理をしたいと考えている方は、農業経営に役立つアプリを紹介しているこちらの記事もご覧ください。
6.ブランドを確立する

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りんごは、すでに青森りんごや秋田ふじ、津軽りんご、弘前りんご、江刺りんごなど、産地や銘柄によるブランドが多数確立されています。すでに地域で確立した人気のブランドがあれば、その品種を選んだり、新しい品種を導入して新ブランドを確立したりするなどの方法があります。
ブランド化のコツは、地域や銘柄を活用するほか、「蜜が多い」「色が珍しい」「香りがよい」「潮風を受けて育った」「雪の中で甘味を増した」など、品種や産地、栽培方法の特性からアピールポイントを決めることです。
ブランドのイメージやコンセプトが固まったら、人目を引くようなブランド名やキャッチコピーも考え、統一したデザインを用いてSNSやブログ、広告などで発信します。
インターネットが発達した現代では、法人経営だけでなく個人経営農家でも、このような方法でブランド化の確立が可能です。ただし、マーケティング戦略を立てずに行うと、思ったように売れずに失敗する可能性が高まります。
ブランド化は、マーケティングについての知識があるほど成功につながりやすいので、インターネットや書籍、成功事例を参考にして戦略を立てることが重要です。
▼農業のマーケティングのポイントや成功事例を知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
7. 6次産業化に取り組む

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りんごは生食だけでなく、ジュースやジャム、お菓子や調味料などにも用いられる果樹です。加工用のりんごは、見た目を気にする必要がないため省力化はしやすいものの、単価が低いという難点もあります。
そこで、自身で加工・販売まで一貫して行う「6次産業化」という選択肢もあります。農業の6次産業化は国も推進しており、補助金を受けられる場合もあるので、6次産業化を始める際には農林水産省のホームページを確認してみてください。
6次産業化でも、やはりマーケティングが重要です。すでに多く出回っているりんごの加工品や6次産業化の成功事例などを調べ、消費者のニーズにマッチする商品を開発することが成功につながります。
▼6次産業化のマーケティングのポイントや成功事例は、以下の記事で解説しています。
8.消費者に直接届ける
消費者へ商品を直接届けられる販路を確保することで、利益の向上やファンの獲得が期待できます。
誰でも気軽にECサイトを立ち上げられるようになった現在、農家が直接消費者や実需者に農産物を販売する「D2C」(Direct to Consumer)が広まってきました。
ECサイトを利用すれば、農家自身が価格を決められるだけでなく、農産物のアピールしたいポイントを思い通りに伝えられます。また、ほ場の様子やスタッフの気持ちなども伝えられるため、消費者・実需者との交流やファンの獲得も期待できます。
先述のようなブランド化戦略においても、ECサイトはこれからの販売戦略に欠かせないツールです。
▼直接販売の成功事例について、詳細は以下の記事をご覧ください。
9.海外に輸出する

西本Wismettacホールディングス株式会社は、りんごの中でもアジア市場で最も売れている小玉りんごに着目し、「SUGOI」のブランド名で主に東南アジア向けに輸出している。この取り組みで同社は、平成30年(2018年)度の農林水産大臣賞を受賞した。
画像提供:西本Wismettacホールディングス株式会社
日本のりんご市場は安定した需要があるとはいえ、輸入品の増加による価格低迷も懸念されています。一方で、日本産りんごの品質は海外でも高く評価されており、自由貿易はむしろ海外に日本産りんごを売り込むチャンスともいえます。
特に小玉りんごは海外での需要が高く、輸出による新たな販路拡大のチャンスがあります。
▼りんごの輸出戦略については、以下の記事でも解説しています。
りんごは安定した需要があり、品種や栽培方法の選択肢が多いため、多様な経営戦略が立てられます。中長期的な視点で生産計画を立てつつ、ご自身に合った栽培方法やマーケティング戦略を選択し、りんご農家としての成功をめざしてください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。