りんご農家が年収を上げるには_ 経営のポイントと将来性
りんご農家を継ぐ、あるいは新たにりんご農家に就農する際には、年収や将来性を事前に確認し、あらかじめ中・長期の経営ビジョンを明確にすることが大切です。そこで、りんご農家の実態や課題について解説し、年収を上げるためのポイントをまとめました。
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果樹の中でもりんごは需要が安定し、加工用に特化して大規模省力化を進めたり、手数を惜しまず育ててブランド化をめざしたりと、経営方法は多様です。本記事では、りんご農家の年収向上のために導入すべき最新技術や戦略を、経営方針別に解説します。
りんご農家は稼げる? 実際の年収は?
alps / PIXTA(ピクスタ)
りんご農家をめざす人にとって、稼げるかどうかは大いに気になる情報でしょう。りんご作経営を成功させるためには、あらかじめ収支の目安を立てて中・長期的なプランニングをすることが重要です。
そのためにも、まずはりんご農家の実際の年収や経営の動向を確認しておきましょう。
1つの目安として、農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)」で2018年まで提供されていた「りんご作農家」の調査結果を参照すると、りんご農家の農業所得は、2018年で280万6,000円、これに年金や農外所得を加えた農家総所得は513万6,000円です。
同調査で2012年からの農業所得の推移を見ると、青森県で大雪被害のあった2012~2014年は低くなっていますが、それ以外では、概ね280万円以上で推移しています。
出典:農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)|菜作・果樹作・花き作経営編」の各年結果よりminorasu編集部作成
(注)りんご作農家:果樹の販売収入が他の営農類型の農業生産物販売収入と比べて最も多い経営のうち、りんご作部門収支を取りまとめている経営体
また、規模別に農業所得を見ると、0.5ha未満では90万7,000円と最も低く、1ha以上で350万円を上回り、3.0ha以上では平均の3倍以上、860万5,000円になります。
出典:農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)|菜作・果樹作・花き作経営編 2018年」よりminorasu編集部作成
(注)農業所得のうち、共済・補助金は、「受取金額ー拠出金額」として算出
ただし、これは全国のりんご作経営の平均値であり、栽培規模や経営形態によっても違うので、経営プランを立てるに当たっての目安の1つとして考えましょう。
りんご農家の実態と課題とは?
りんご農家と一口に言っても、その経営方法はさまざまです。
一つひとつ手間をかけて育てた高品質な果実をブランド化したり、6次産業化してジャムやジュースなどの加工品を作ったり、観光農園を営んだり、園地を集約化・機械化して加工用りんごを効率的に生産したりなど、多様な経営の方向性があります。
そして、それぞれ必要な戦略もコストも、収支バランスも異なります。このような経営の多様性や自由度は、農業の大きな魅力の1つです。
とはいえ、どの経営方法の場合でも、以下のようなりんご農家共通の課題を抱えています。
家族経営が中心で労働生産性を高められない
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日本の高品質なりんご栽培は、手作業による丁寧な管理作業や収穫によって実現されています。しかし、現状は家族経営が多いため人手が足りず、経営規模の拡大も進んでいません。また、多くの園地は手作業に適した植栽や樹形のため、機械化も遅れています。
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高齢化や労働力不足により栽培面積が減少している
農業全体でも高齢化や労働力不足が問題になっていますが、現状のりんご栽培は特に重労働なうえに十分な収入が得られないため、農業に魅力を感じて参入した若者も離れてしまいます。
高齢者が重労働に耐えられずりんご栽培をやめる一方、新規参入者が少ないため、栽培面積が減少しています。
こうした課題の解決方法として、今後のりんご作経営には効率化や大規模化、若者が魅力を感じられるような将来性のある経営の展開が必要です。
出典:農林水産省「作物統計|作況調査(果樹)|果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
年収を上げるには? りんご農家経営のポイント
りんご農家が直面する課題を解決するため、2020年には果樹農業振興基本方針が公表され、各都道府県でも果樹農業振興計画や果樹産地構造改革計画の策定が進んでいます。行政によるバックアップが期待できる今、りんごを含む果樹栽培を始めるチャンスともいえます。
そこで、りんご農家の年収アップを実現するため、農家自らが経営においてできる7つのつの対策を紹介します。
1. 園地を拡大する
先述の通り、りんご農家の所得は園地の規模が大きくなるほど高くなります。これは、園地の規模が大きければ機械化やスマート化がスムーズに進み、作業効率を飛躍的に上げられるためと考えられます。
新規にりんご作経営を始める場合は、りんご栽培を続けられない周囲の園地を集約し、大規模化することを検討するとよいでしょう。それによって経営規模が大きくなる場合は、法人化することでより円滑な経営につながるかもしれません。
2. 機械化する
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規模が大きくなれば、作業効率を上げるために機械化が不可欠となります。繊細な作業が多く機械化が難しいとされてきたりんご栽培も、技術の発展や工夫により多くの作業で機械化が進んでいます。
現在、機械化や作業の省力化・効率化のために各産地で促進されているのが「わい化栽培」です。わい化栽培とは、小型のまま成熟するわい性台木を利用して樹高を低くそろえ、機械が入れるように樹を真っすぐ等間隔に植えなおす技術です。
こうすることで、マニュアスプレッダーやブロードキャスターによる堆肥・肥料の散布、スピードスプレイヤー(薬剤噴霧器、SS)による摘果剤や農薬の散布、乗用草刈り機による雑草防除、動力受粉期による受粉作業、トレーラーを利用した収穫・運搬などが可能となります。
これらの機械化により、作業の大幅な省力化が実現できます。収量が増えれば選果機なども導入するとよいでしょう。
とはいえ、こうした機械化を一度に導入するのは難しく、資金繰りも大変です。そのため、機械を他者に貸し出したり、地域で共同所有したりするなど、導入にかかる費用を軽減する工夫をしている農家もあります。
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3. スマート農業を始める
機械化に加えてスマート農業を導入することで、労働生産性が向上するだけでなく、作物の品質や収量の向上も期待できます。
スマート農業とは、農業にロボットやICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用することで、農作業の効率化や省力化、精密化、作物の品質向上を実現する新たな技術のことです。
水稲や野菜栽培では導入が進んでおり、ICTやIoT(Internet of Things)、AI(人工知能)を活用して、大型農機の自動操舵や、ドローンによる散布作業、ほ場から得たデータの分析による精密農業、施設園芸の環境制御システム、ロボットによる収穫などがすでに成果を上げています。
りんごをはじめとした果樹でも、すでに自動選果機では、果実の大きさ・着色の選別はもちろん、光センサーを使って蜜の入り具合や糖度、褐変の有無なども果実を破壊することなく識別し、データ化する技術が取り入れられています。
りんご農家に参入するなら、機械化とあわせて、スマート農業の導入も視野に入れましょう。
▼スマート農業については、こちらの記事も参照してください。
4. 経営管理・生産管理に取り組む
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優れた機械やスマート農業の技術を効果的に活かすためにも、これから新たにりんご作経営に参入する場合は、初めにできるだけ具体的な経営管理・生産管理体制を構築しましょう。
また、家業のりんご園を引き継ぐという場合にも、まずは経営管理・生産管理の見直し・改善をすることが大切です。
経営管理を構築するに当たって、初めに行うべきは「経営のビジョン・目標を明確にする」ことです。目標が定まれば、適切な規模、販路、導入品種なども絞れます。そこからさらに、具体的な目標所得や労働時間、想定される作業、必要な農機なども検討しておきましょう。
実際に経営を始めてからは、経営実態を把握するため帳簿付けが必須です。青色申告をする場合にも必要になるので、初めから帳簿付けを習慣化するとよいでしょう。
そのほか、作業ごとに要した人員や労働時間など、労働管理も記録し、そこから生産性・収益性を分析することも大切です。同時に、労働の安全性についても確認しましょう。
生産性や収益性を分析できたら、それをもとに翌年の改善計画を作ります。前年で課題となった点を計画的に改善しましょう。さらに、翌年以降の収支計画や資金繰り計画などの発展計画を作成します。
▼農業経営に役立つアプリを紹介している記事もご覧ください。
5. ブランド化する
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りんごはすでに青森りんごや秋田ふじ、津軽りんご、弘前りんご、江刺りんごなど、産地や銘柄でブランドを確立している地域もあります。
地域に需要の安定した人気のブランドがあれば、その品種を選んでもよいですし、需要を分析し、新しい品種を導入して新ブランドを確立するのもよいでしょう。
ブランド化するには、地域や銘柄のほか、「蜜が多い」「色が珍しい」「花のような香りがする」「潮風を受けて育った」「雪の中で甘味を増した」など、品種や産地、栽培方法の特性をアピールポイントとし、それをイメージしたパッケージや広告を作成します。
ブランドのコンセプトが固まったら、人目を引くようなブランド名やキャッチコピーも考え、統一したデザインを用いてSNSやブログで発信します。
インターネットが発達した現代では、個人経営農家でもこのような方法でブランド化の確立が可能ですが、うまくいかないケースも多くあります。
ブランド化戦略には、マーケティングについての知識があるほど成功につながりやすいので、インターネットや書籍で成功事例を多く学びましょう。以下の記事も参考にしてください。
6. 6次産業化に取り組む
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りんごは生食だけでなく、加工もしやすい果樹です。加工用のりんごは見た目などを気にする必要がないため作業の省力化はしやすいものの、単価が低いのが難点です。
そこで、自身で加工・販売まで一貫して行う「6次産業化」という選択肢もあります。農業の6次産業化は国でも推進しており、補助金などのサポートもあるので、まずは地域の農業センターに問い合わせてみましょう。
6次産業化にも、やはりマーケティングが重要です。すでに多く出回っているりんごの加工品について調べ、消費者のニーズを掴み、それにマッチする商品を開発することが成功のカギです。
▼6次産業化のマーケティングについては、以下の記事も参照してください。
7. 消費者に直接届ける
誰でも気軽にECサイトを立ち上げられるようになった現在、農業においても、市場を通さずに生産者が直接、消費者や実需者に生産物を販売する「D2C」(Direct to Consumer)が広まってきました。
ECサイトを利用すれば、生産者自身が価格を決められるだけでなく、生産物のアピールしたいポイントを直接かつ的確に伝えられます。また、畑の様子やスタッフの気持ちなども伝えられるため、消費者・実需者との交流やファンの獲得も期待できます。
先述のようなブランド化戦略においても、これからの販売戦略には欠かせないツールです。
りんご農家の将来性
りんごの消費動向は、近年、国産需要の高さから見て不足感が常態化した状況といわれています。2021年産のりんごの出荷量は、雪害・霜害の影響もあり、前年比で13%も減少し、さらに不足感が増した状況でした。
出典:農林水産省「作物統計|作況調査(果樹)|果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
出荷量が減少傾向にあるのに対し、りんごやみかんなど、主な国産果実の卸売価格は、上昇傾向にあります。農林水産省は、消費者ニーズにあわせて高品質の果実が生産されるようになったことや、人口減少以上に生産量が減少していることが背景にあるとしています。
出典:農林水産省「果樹のページ」所収「果樹をめぐる情勢(令和4年8月)」(7ページ)
出典:農林水産省「青果物卸売市場調査報告」よりminorasu編集部作成
総務省の家計調査から、りんごの1世帯当たり年間の支出金額と購入数量の推移を見ても、多少の増減はあるものの、5,000円前後(10個余り)で堅調に推移しています。
出典:総務省「家計調査 家計収支編 二人以上の世帯」よりminorasu編集部作成
また、自由貿易によって輸入品が増加し価格が低迷することが懸念されていますが、日本のりんごは品質が海外でも高く評価されており、自由貿易はむしろ海外にも日本のりんごファンを作る大きなチャンスと捉えられます。
生産現場では人手不足の加速を止めるのは難しいものの、後継者や新規参入者が大規模化・省力化に取り組んだり、付加価値を付けてブランドを確立したり、積極的に海外に販路を開拓したりして、りんご農家を「稼げる」魅力のある仕事にすることができます。
それにより、地域の活性化や国産りんごのさらなる需要増が期待できるでしょう。
▼りんごの輸出戦略については、こちらのインタビュー記事もご覧ください。
りんご栽培は、これまで人手による作業が多く、永年性作物という特性から生産形態も変更しづらいため、ほかの作物に比べて省力化や機械化が大きく遅れていました。
しかし、機械化を可能とする生産技術やスマート農業技術も開発され、今後は省力化が大きく進むと考えられます。
一方で、先人の努力による高い品質は、国内はもちろん世界的にも評価され、今後の需要も堅調に推移すると予想できます。適切なマーケティング戦略で需要を捉えれば、新たなブランドを立ち上げ、適正価格で販路を自ら開拓することも可能です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。